晩餐会③
「まず、寅はここ30年で国力が大幅に低下してる」
春がそう話始めると、皆が一気に「王」の顔つきになった。
「午は光さんが来てから安定し始めている。その理由はまず民から王への信頼が絶大なんだ。光さんは外界でのお米を作っていた経験を活かして、国で作物が育つようにありとあらゆる工夫をしたんだ。その結果、民に仕事も生まれ、食事にも困らなくなった」
(やっぱりそうよね、まずは民の生活を知って、衣食住がしっかり出来ているのかを確認しないと)
「戌の国は、藍が来て間もないが、前王はこの世界で老衰でなくなった。約500年程続いたからかなり安定しているんだ。僕の50年でも長いと言われるこの世界で、500年だからとても凄いことだ。しかも荒れたことはほとんどないと聞く。」
(500年!?)
「まずは民の様子を見に行くと良い」
春はそういうと、お茶を一口飲んだ。
「分かりましたわ、明日早速見に行きます」
「偵察に行くときはしっかり護衛を付けろよ、新しい王に対して不満を持つ奴は何をやらかすか分からんからな」
光は自分が王になった当初を思い出したのか、険しい顔つきになっていた。
「昨日こちらに来たばかりだろうけど、何か国の情報は聞いてる?」
春が紗蘭に尋ねる。
「荒れてきているというのは少し聞きました。王が短期間で変わりすぎて民の不安が募っていると。それ以外はまだ聞いていません。」
「……そう、何故か寅は王が長続きしないんだよ。宰相は優秀なんだけどね。」
春は悲しそうな表情をすると、藍も下を向いた。
「……前の王は、僕より小さかったんです。」
藍は震える声で小さくそう言った。
「王の問題もだけど、国力が下がってきていることもあって、昨日みたいに巳の国が攻めてきたりするんだ。そういうのが続くと……民の不満が爆発する」
「あいつらは根性が腐ってんだよ」
光は拳を机に叩きつけた。
「僕は情報を司る国として、中立という立場にいるから巳の国も悪くは言えない。けど……気をつけたほうが良い。王も宰相も頭が切れるし、とても計算高いからね」
「巳の国は現在、卯の国も鎮圧するまで追いやっています。」
それまで黙っていた、子の国の宰相・氷雨が口を開いた。
「寅の国も、対策をなにかしらしたほうが良いかと。」
氷雨はそういうと白蓮を見た。
「常に戦士は万全の態勢で待機させております」
白蓮の眉毛がピクリと動く。
「でも以前、侵入者に気付かなかった。前の王はまだ小さかったから自分自身で戦うのは無理だったのに。午の部隊が来てくれていなかったら、そこでお命を落とされていたと言っても過言ではない。」
氷雨は表情を変えずに、鋭い口調になっていた。
氷のように冷たい、という噂は嘘でもないのかもしれない。
「氷雨、落ち着いて」
春がそういうと、氷雨の耳が少ししゅんとした。
「紗蘭さん、この世界は外界と違ってまだ戦国時代みたいな感じなんだ。極楽浄土ではない。相当な覚悟が必要だよ」
春が紗蘭の目を見て話すと、紗蘭は既に覚悟を決めた目つきだった。
「肝に銘じておきます。あと、私は武術も少しは心得ています。女だからと言って守られようとは思っていません。」
紗蘭がそう言うと、光が声を上げて笑った。
「初めは悪かったな、女ってだけで決めつけてた。お前ほど頼りになりそうな奴は今までいなかったぜ」
光は笑いが落ち着くと、真剣な表情で紗蘭に向き合った。
「作物や武術に困ったら俺を頼れ、力になるぜ」
光はニカッと笑った。
「よろしくお願いします」
(本当に良い人なのね)
「……僕は得意なことは計算ぐらいしかありませんが、何かあれば言ってください。磊も長年様々な国を見てきているので、アドバイスできるはずです。」
「私は生まれてから685歳になりますからね」
磊が笑いながらそう言うと、藍もつられて笑う。
「明日から国の財務把握を行う予定ですので、財務の計算で躓いたら連絡するわ。それと……春さん、同盟国とはどういう場合に協力し合うのですか?」
「もし他国と戦うとなったときや、日々の暮らしでも食糧品や特産物も交換し合ったりしている。あとは…なんだろう」
春はうーんと悩むが出てこない。
「定期的な意見交換と称しての食事会じゃねぇか?」
見かねた光が意見を言った。
「そうだね、まぁまた連絡してよ。困ったときは。僕はまぁ……中立国なんだけどね」
春はそういうと、少し眉毛を下げて笑った。
「分かりましたわ。皆様、今後ともよろしくお願いします。まずは明日から、国を知ることをがんばります。」
紗蘭が立ってお辞儀をすると、皆が彼女を微笑ましく見ていた。
「申し訳ありません、少しよろしいでしょうか」
声のする方に視線を移す。
「どうしたの白蓮」
春はキョトンとした顔をした。
「王たちが甘味を食べている間、宰相のみで少しお話してもよろしいでしょうか。」
「うん、良いよ」
春は二つ返事で応える。
「感謝致します。」
そう言うと宰相たちは部屋を後にした。
「じゃ、俺たちはまだまだ語らい合うか!」
光の元気な声につられて、皆笑い合う。
宰相たちの部屋が、既に重たい雰囲気なことには誰も気づいていなかった。




