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第33話:部隊の奮起

 


「……敵のお掃除は終わりました。ここからは、私たちを見捨てた王都の『ゴミ掃除』の時間ですよ」


 私が通信回線にそう告げた直後だった。

 ゼフィール基地の雪原に、再び鼓膜を劈くような警報アラートが鳴り響いたのだ。


『な……レイ管理官! レーダーに多数の機影! 北西の尾根から、敵の増援部隊が接近してきます! その数、およそ五十機以上!!』

 司令室の部隊長が、血を吐くような声で絶叫した。

 先ほどの敵指揮官が、私の圧倒的な物理の暴力に恐れをなして死の直前に応援要請を出していたのだろう。

 通信が完全に遮断される前の最後の置き土産。それは、半壊した基地を確実に更地にするための、絶望的な物量だった。


 だが、問題はそれだけではなかった。


 ギュオォォォォォォォンッ……!!

 私のすぐ背後から、不快な金属の摩擦音と、限界を超えたジェネレーターの唸り声が響いた。

 振り返ると、私の右フックによって頭部を完全に叩き潰され、機能停止したはずの『亡霊ゴースト』が、黒煙を吹き上げながらゆっくりと立ち上がろうとしていたのだ。


「……ほう。メインカメラを潰されてシャットダウンしたはずなのに、無理やり予備電源で再起動しましたか」

 私はコックピットの中で、忌々しそうに目を細めた。


 亡霊のAIは、破壊されたメインカメラの代わりに、機体の各所に付随しているサブセンサーを総動員して私の位置を割り出そうとしている。

 機体の胸部装甲は大きく陥没し、右腕は失われているが、左腕のパイルバンカーは健在だ。

 何より厄介なのは、機体の駆動系にかかっていた安全装置リミッターをAIが自ら解除し、機体が自壊するのも構わずに暴走状態オーバーロードに突入していることだった。


(機体の耐久性を無視した、完全な特攻モード。……機械ってのは、これだからタチが悪い)

(俺の機体は左腕を失い、ガトリングの弾薬も残りわずか。ここで五十機の増援に邪魔されながら、あの暴走したコピー人形の相手をするのは……いくらなんでも分が悪いぜ)


 心の中の老兵は、最悪の盤面に舌打ちをした。

 私がガトリングの銃口を増援部隊に向ければ、その隙を突いて亡霊のパイルバンカーが飛んでくる。

 亡霊を殴り倒そうとすれば、増援の五十機による魔法の一斉射撃の的になる。

 万事休す。

 冷徹な傭兵の物理演算ロジックは、この状況の生存確率が著しく低いことを弾き出していた。


 だが、私が次の最善手を思考しようとした、まさにその時だ。


『レイ管理官! 後ろに下がっててくれ!!』

 通信回線に響いたのは、枯れ果てる寸前まで声を張り上げた金髪の青年の絶叫だった。


 ガシャァァァンッ!!

 片腕を失い、装甲もボロボロになった第十三小隊の『高機動機』が、よろめきながらも立ち上がり、私の機体と敵の増援部隊との間に割って入ったのだ。

 それだけではない。

 肩のシリンダーを完全に破壊された『重装甲機』に乗る気弱な青年も、残された魔力をすべてスラスターに回し、足を引きずりながら私の盾となるように前に出た。


「……あなた方、機体の損傷率を見ていないのですか。動けばジェネレーターが自爆しますよ」

 私は静かに制止の声をかけた。


『知るかよ! 俺たちはもう、とっくに死んでたはずの命だ!』

 金髪の青年が、吐血で咽せながらも獰猛に笑う声が聞こえた。

『管理官、あんたが教えてくれたんだろ! 泥水すすってでも、自分の手足を犠牲にしてでも、生き残るのが本物の戦いだってな!』


『ぼ、僕の機体はまだ動けます! 装甲を四十五度に傾ければ……まだ、魔法を弾けるッ!』

 気弱な青年も、恐怖に歯を鳴らしながら、必死に操縦桿を握りしめているのが伝わってきた。


『ここは俺たちが命に代えても食い止める! だから……あんたは、あの亡霊ポンコツに本物の戦い方を教えてやってくれ!!』


 彼らは左遷されたゴミ部隊だった。

 だが今、彼らは私という『傭兵』の論理に触れ、本当の誇りを取り戻した一騎当千の兵士の顔をしていた。

 たった数機の半壊した機体で、五十機の無傷の増援に挑む。それは論理的には愚行極まりない。だが、その狂気こそが、奇跡を呼び込む唯一のトリガーとなることを、彼らは本能で理解していた。


(……やれやれ。教え子が優秀すぎると、教官としては立つ瀬がねえな)

 私はフッと息を吐き、可憐な唇の端を吊り上げた。


 だが、半壊した数機で五十機を抑えるのは、いくらなんでも不可能だ。

 増援部隊が基地の防壁跡になだれ込み、第十三小隊に一斉に魔法陣を向けた。


『死に損ないのゴミ共が! まとめて消し飛べェェッ!!』

 敵の指揮官が勝ち誇ったように叫び、無数の魔法が放たれようとした、その刹那。


 キュイィィィィィィィィンッ!!!!

 ゼフィール基地の上空の分厚い雲を切り裂いて、一機の巨大な『輸送機』が猛スピードで降下してきた。

 それは軍の正規の輸送機ではない。機体に紋章のない、監査部の裏ルートで手配された特殊輸送機だ。


「……随分と遅い到着ですね。残業代は差し引かせてもらいますよ」

 私は上空を見上げ、薄く微笑んだ。


 輸送機の後部ハッチが空中で大きく開き、そこから何機もの魔導機が、パラシュートすら使わずに自由落下で雪原へと飛び降りてきた。

 純白の装甲に、王都の中央騎士団のエンブレム。

 それは、私のアーカイブ室に毎日のように入り浸り、私の「泥臭い物理戦術」を喜々として学んでいた、あの『エリート騎士』たちだった。


 ズガァァァァァァンッ!!

 彼らは敵の増援部隊の真正面に、隕石のように着地した。

 その着地の衝撃で生じた凄まじい雪煙が、敵の魔法陣の照準を完全に狂わせる。


『お待たせいたしました、レイ管理官!!』

 エリート騎士の隊長が、オープン回線に歓喜の声を響かせた。

『ルーク監査官から、貴女が最高司令部の罠に嵌められたと聞き、上官の命令を無視して馳せ参じました! 後で首が飛ぶでしょうが、貴女の授業を受けられない日々など退屈で死んでしまいますからな!』


「……軍法会議行きですね、あなた方」

 私は呆れたように呟きながらも、頼もしい援軍の到着に目を細めた。


『さあ、第十三小隊の諸君! レイ管理官の一番弟子は我々だ! 貴様らのような泥にまみれた部隊に、良いところを持っていかれるわけにはいかないのでな!』

 エリート騎士たちは、純白の優雅な機体を泥だらけにすることも厭わず、教範を完全に無視した「野蛮なインファイト」の構えをとった。


『へっ、中央のエリート様が、泥遊びのお出ましとはな! 足引っ張るんじゃねえぞ!』

 金髪の青年が、かつての犬猿の仲であるエリート騎士たちに向けて、初めて戦友としての獰猛な笑みを向けた。


『敵増援、五十機! 我々の目標は敵の殲滅ではない! レイ管理官が、あの亡霊を粉砕するまでの『完全なる時間稼ぎ(ホールド)』だ!』

『応ォォォォォォッ!!』


 第十三小隊の生き残りと、王都のエリート騎士たち。

 出自も階級も全く違う彼らが、ただ一人の十三歳の少女の『論理』の下に団結し、五十機の敵部隊へ向かって一斉に突撃を開始した。


 重装甲機が盾となり、エリート騎士が高機動で敵の魔法陣を体当たりで潰し、後衛が泥臭く敵の脚部を狙撃する。

 魔法の美しさなど微塵もない。相手の魔力を物理で弾き、関節を叩き割る、徹底的な『物理のロジック』による大乱戦。

 五十機の増援部隊は、この「狂った混成部隊」の捨て身の戦術の前に、完全に足止めを食らってしまった。


『レイ管理官! ここは俺たちに任せろ!』

『貴女は、その忌まわしい過去の亡霊との決着を!!』


 通信回線に飛び交う、彼らの熱い声援。

 私はコックピットの中で、深く、ゆっくりと息を吸い込んだ。


(……やれやれ。これじゃあ、不格好な無様な姿は見せられねえな)

(俺のコピーなんぞに手こずっていては、教官としての示しがつかない)


 私は視線を前に戻した。

 そこには、暴走状態で蒸気を吹き出し、パイルバンカーを構えて私に向かってこようとしている『亡霊』の姿があった。

 邪魔者はもういない。

 私の最高の私兵チームたちが、私と亡霊の『完全な一騎打ち(タイマン)の舞台』を作り上げてくれたのだ。


「……感謝しますよ、あなた方」

 私は誰にも聞こえない声で小さく呟き、残弾がゼロになった右腕のガトリングガンを、機体から物理的にパージ(切り離し)した。


 ガコンッ、という重い音を立てて、巨大な銃身が雪原に落ちる。

 私の機体は左腕をシールドごと失い、右腕は素手。完全に弾薬を持たない、純粋な『格闘戦』の仕様だ。

 対する亡霊は、暴走するジェネレーターの出力をパイルバンカーに集中させ、一撃必殺の特攻を仕掛けてこようとしている。


「さあ、来なさい。前世のコピー

 私は操縦桿を両手で握りしめ、アナログメーターの針を限界まで振り切らせた。


「私の弟子たちが命懸けで作ってくれたこの舞台で……お前の中途半端な論理データを、完全にへし折って差し上げます」


 十三歳の美少女が乗る、満身創痍のアナログ機体。

 過去のデータを完全にコピーした、暴走する亡霊。

 第三幕の真のクライマックス、己の過去との最終決戦が、今、激突の時を迎えた。


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