十二話 父と娘
真っ暗な空間で一人佇んでいた彼女。
【どうして一緒に頑張ってきた兄が魔王などになっていたのか】
【どうして母親は殺されてしまったのか】
【自分が最後に下手を打ったせいで勇者は】
絶望が絶望を増幅させ聖女をさらなる悲しみへと沈める。
『外が大変なんだ!目を覚ましてよ主人』
そう私が語り掛けるも言葉はシルヴィアには届かない。彼女はただあの日の魔王城の光景。兄が勇者を殺すその瞬間を何度も何度も見続けていた。
『いつまでしょげてるんだ・・・シルヴィア』
「勇者・・・様?」
真っ暗な空間に突如として人影が現れる。帝国でイエキヨにすべてを託し消えたはずの勇者であったがその魂は最後の仕事をするためにこの空間へと現れたのだ。
『そうよ・・・別にあなたが悪いわけではないのに』
『考えすぎってやつだ』
魔法使いと戦士も会話に加わる。
「それでも兄は・・・許されないことをした」
『それも違うぞ・・・娘よ』
「娘?ということはあなたが私と兄の父親?」
『はじめまして・・・だな』
そういうと教皇はヒイラが乗っ取られていたこと。母親の死の真相。ヒイラのこれまでの努力を説明する。
「では・・・貴方が父さんがすべて悪いではないですか」
『そうだ俺がすべて悪い』
そう教皇が言い切ると聖女は鬼の形相で暗闇で父親を塗りつぶそうとする。闇が彼を飲み込もうとしたとき彼の記憶がシルヴィアへと流れ込む。
私は教国の教皇を選出する七つの貴族家の一家に生まれた。
聖の魔法に強い適正があった私はあれよあれよという間に当主となり気が付けば次の教皇候補まで上り詰めていた。
そんな時縁談が三つ私のもとへと舞い込んできたのだ。一つは同じ貴族家格の家から、一つは大きな教会の主から、そしてもう一つは学院の同級生からだった。私は貴族格の家の娘を正妻としたが残り二つの縁談も受け一気に三人の妻を得る事となった。
まず最初に子供が出来たのは貴族格の家の娘だった。これで跡継ぎ問題は大丈夫だろう。私も胸をなでおろした。生まれてきた子供は実に聖の魔法に適正のある子どもでしっかりと魔法まで継承できたのだ。
しかし、次に子をはらんだ同級生の娘。彼女の子が問題であった。どう見ても私の子といえるほど目の色も髪の色もそっくりだが聖の魔法への適正が少しもなかったのだ。貴族の子供はみな適正がある。適正がなければそれは親が紛い物ということになるのだ。
七大貴族はもともと八大貴族であった。消えた貴族家の当主は適正の無い子供を自分の子供であると言い切りそれによって貴族不適格の印を押され貴族からは格下げ、そこまでして守った子供も親族からの恨みを買い最終的には殺されてしまったそうだ。
私は選択せねばならなかった、教会の娘も今は妊娠中で今度子供が生まれてくるし、なにより長男もいる。私は家族を守らねばならないのだ。
私が彼女の元に顔を出した時、彼女はすべてを悟ったような顔をしていた。
「すまない・・・あの子が私の子であることは間違いないのに・・・すまない・・・すまない」
私はただ謝ることしかできなかった。
しかし、彼女は共に泣いてくれ受けれ入れてくれた。
私は翌日、公式に彼女を不貞の輩として都から追放した。
しかし、その後も折を見ては彼女のもとを訪れた。罪滅ぼしのつもりだったのかは良くわからないが大きくなったヒイラに魔法を教えたりもした。彼は聖の魔法の適正がない分ほかの魔法の適正がずば抜けて高く私も教えることに夢中になっていった。
そんななか私はついに教皇に選ばれた。
そこからの日は忙しさに忙殺された。
そして彼女が私の二人目の子供、娘を産んだことを知った時。彼女はすでに病に見せかけた毒に侵され、ヒイラは治療費のためにマグナに売られた後であった。
私は無理やりマグナとの会談を取り付け、急ぎマグナへと向かい遂に、とある貴族家の一室で息子ともう一度再開を果たした。
しかし、彼はその時にはすでに魔王の残滓に蝕まれていた。
あの日あった彼は一言「ごめん」としか口をきいてはくれなかった。
私は教皇として出来る権力はすべて使い息子を救い出そうとした。その努力は息子にも伝わったのだろう。少しずつ私たちの関係性は昔へと戻っていった。
「これであとはシルヴィアの・・・聖女の魔力があれば封印出来るはずだ」
「あぁ・・・なんとか間に合ったな」
私達はついに魔王の残滓の封印まであと一歩のところまで計画を遂行していた。そしてシルヴィアを連れてマグナへ戻り封印してすべて解決。その目前だった。
彼の母の死亡が彼の耳に届いたのだ。
そして、その絶望はかれの心を蝕み、私が教国に戻った時にはすでに
世界に魔王が誕生したことが報告された後であった。




