十話 前哨戦 帝国
ランマルが帝国に思いを寄せている時帝国では
「勇者・・・兄上?」
「久しぶりだな、イエキヨ」
イエキヨの政務室に勇者の死体が魔法陣を通して現れていた。レミーが最後に少しだけ意識を取り戻したように、彼らはこの死霊魔術とでも呼ぶべき魔法に対して耐性を持っていたのだ。もっとも戦士は耐性が足りなかったし、レミーも一瞬意識を取り戻した程度であったが、勇者はその意識を保っていた。
「生きていた・・・わけないですよね」
基になったのは勇者の死体である。足を失いながらも魔法で浮いている勇者、顔には生気がなく生きているとするにはあまりに無機質であった。
「そうだな、僕は死んだ。」
二人の間に少しの沈黙が流れる。そののち勇者がぽつりぽつりと話始める。
「僕にかけられた魔法は絶望をエネルギーにしている。この国の先の内戦のな・・・」
「僕は多くのモノを絶望の中に見たよ、家族に裏切られた村人の記憶や・・・それにヒデキヨの記憶もね」
イエキヨは黙って話を促す。
「俺はヒデキヨの・・・後継者を決めれなかった父の、ヒデキヨを支えようとした者たちの気持ちが分かるんだ。」
いつの間にか昔の勇者の一人称である俺に戻っており、姿もイエキヨがよく知る旅に出る前の昔の勇者へと戻っていった。
「これは俺があいつらの絶望から作り出されたかもしれない、それでも本当の俺でもやっぱりわかると思うんだ」
「武力がないとなにも守れない」
政務室であったはずの風景が魔王軍に襲われる村や差別を受け餓死するクレント族の一家、先代魔王のころであろうか、今は絶滅した獣の人間たちの狩りの様子などが流れていく。
「力は正しく使わないといけない、それをヒデキヨは誤った。いや狐に誤った方向に誘導された」
「武力がすべてを解決するとは言わない、それでもあの日もしヒデキヨが狐を撃退できるほどの力があれば・・・俺が魔王を倒せるだけの力があれば、この内戦は起きなかった」
「そんなことは・・・」
勇者が手振りで否定する。イエキヨは再び黙って話を聞く。
「俺は、帝国が好きだ。カツラギ、シキシマ、アズマ、アサマ、クラマ、ハシダテ、アマギ、マツシマ・・・今はアカギか。大名の領地にはすべて行ったしそれぞれに持ち味のあるいい土地だった。」
「お前は優しい。それに頭もいい。」
執務室の光景はいつかの日、イエキヨに刀を放棄させた訓練場へと移り変わる。
「俺が、お前に刀を捨てさせてしまった・・・そんな俺がこんなことをいうのは可笑しいかもしれない」
「それでもこの国の次期皇帝、勇者だった男から次の皇帝へ問わねばならない」
「・・・お前は帝国を守れるか」
勇者が勇者の剣に瓜二つの剣を握る。どのような言葉で肯定してもきっと勇者の納得は得られないだろう。イエキヨも勇者の剣を握って対峙する。
「参ります兄上ぇぇぇ」
型も何もない素人同然の大振り。それでも確かに気持ちがこもっていた。
何も言わずに勇者はその剣を体に受ける。
「兄上・・・なぜ」
「私に剣を振れたのだ、もう甘さはないな。」
「なにも実践で強くなくてもいいんだ、お前には家臣がいる。それでもその力を使う最終判断はお前だ。お前が甘いと皆が危険にさらされる。」
「だが、大丈夫そうだな」
ゆっくりと勇者が崩れ落ちる。執務室はいつのまにか本来の姿に戻っており、勇者も元の勇者へと戻っていた。
「知っているだろうが、皇帝の第一子には勇者という称号のみ与えられて名を与えられない。」
「はい、ですのでいつも兄上と」
「だが、本来つけられるはずだった名前を皇帝となった後名乗ることになる」
「・・・おれは本来タケキヨ、初代勇者様の国の言葉で武を清く使うと書いてタケキヨと名付けられたようでな・・・その父上の願い、お前が引き継いでくれるか?」
「兄上それは・・・いえ、分かりました。」
「私はこの武力を家臣を正しく使って見せましょう」
「それでいい・・・立派になったなイエキヨ」
そういうと勇者はゆっくりと目を閉じた。彼の遺体は勇者をかたどった像ではなく、初代勇者が眠る帝国城内にある小さな墓地に埋葬されることとなった。
そののちイエキヨはヒイラと締結した条約を守り、マグナと友好条約を締結。クレント族の国も約束通り承認し温和な外交政策を見せたものの、刑法をより厳格なものとし国内の治安は大陸トップまで押し上げるなど厳格な政策も多く見られた。
帝国中興の祖、ムサシ・イエキヨの墓石にはタケキヨと刻まれていた。




