1話 魔王
俺がペルと別れ各地に散らばっていた配下を回収し終えたころ、ようやく帝国の内乱が収まったという報告があげられた。魔王軍の幹部は前面に出て戦うものは全滅したが水面下で暗躍していたものは生きていたのだ。
「しかし、あそこからよく生き延びたなタマモ」
「危ないところでしたわ」
帝国を引っ掻き回すだけ引っ掻き回した狐人の少女、その正体は魔族狐人の頭領だった。
「お前も・・・よくこれまでマグナで幻術をかけてくれたなロイン」
バーンズ家の門番ロイン。彼の正体もまた、魔王軍の幹部であり化け猫の魔獣であった。二人が協力して私が仕事をしない、正確には当主になれないので仕事がない現状を正当なものであるとだまし続けてくれたおかげで私はマグナの貴族という立場をこれまで維持できたのだ。
「それにしても・・・あの書状は揉めませんか?」
「書状・・・クレント族の国を作るやつか?」
ロインがそうだと頷く、教国の許可なんて勿論貰っていない書類だが私たちの偽造にかかればほぼ本物なのだ、実際に連邦も帝国も法国も本物として土地を割譲してくれた。まぁ俺たちがそうするように仕向けただけなのだが・・・
「しかしこれまでクレント族から得ていた負の感情、代わりにどこから補充するので?」
「暫くの間は減ることになるだろうけど、問題ないよ。これまで自分たちより下がいると思って溜飲の飲んできた民衆たちはこれからもっと強い不満を抱くだろうさ、それまで待てばいい」
魔王の力は人間の負の感情を吸い取って増幅するのだ、すでにヒデキヨの勇者の血族の絶望は私に急速な魔力の回復を施した。おかげでもう少しペルと一緒にいる予定だったのだが、魔王の特徴が表れてしまったため、急遽逃げ出してきたのだ。
「二人はこれから、ペルを、聖女の馬がなんとか教国にたどり着くようにサポートしてほしい。聖女の杖と教皇二つまとめて処理すれば私の復活を阻むものはなくなるからな。」
「「御意」」
二人はそう言って連邦の方へと姿を消した。魔王でいるのは気が滅入る。少しめをつぶれば楽しかった日々が去来する。
俺とシルヴィアは教国の貧しい家の出身だったが俺には魔法の才能が、シルヴィアには聖女の才能が有り二人とも国で育てられることになったのだ。そうして暫くは平穏な日々を過ごしていたのだが、母が病となり治療費が必要になったのと同タイミングで優れた魔法使いである俺を婿養子にしたいという要請がマグナから届いたのだ。
俺はその貴族家に頼み込み、母親の治療費を出してもらう代わりに婿入りを了承した。俺は15歳、シルヴィアはまだ5歳の時であった。しかし間もなく母は帰らぬ人となってしまったのだ。
マグナへ行っても優れた魔法使いであった私は重宝され、学園でも出世し順調に人生のレールを歩んでいた。しかし、ある日の夜私は水を飲みに自室を出たところで義父上が教国の使者と話しているところを目撃した。
「しかし、あれは上手くいきましたな」
「左様ですな。聖女の兄をいただげたことまことに感謝していますぞ枢機卿殿。」
話していた相手は教国で上位の権力者であった。彼らの話によれば私の母を病に見せかけた毒で床に伏せさせて治療費の必要になった私を優秀な魔法使いの実績が欲しいマグナが見受けする。代わりに枢機卿には莫大な謝礼が贈られるというものであった。
俺は急いで自室に戻り自分の浅慮に泣いた。私が弱く、力がないからこのような権力者達の道具にされたのだ。まだ若い俺は慟哭した。その時目の前に現れたのが先代魔王の残滓であった。力をくれるという一言に私は飛びついた。
はじめのうちは力を制御出来ていたがいつしか制御はままならなくなっていきだんだんと自我を保てる時間は減っていった。
そして、次に目を覚ました時、私は妹と勇者を殺していた。
私の記憶に覚えのない記録が流れ込む。魔族を使い人々を惨殺し、恐怖の底に陥れた魔王としての所業が次々に襲い掛かる。私はふらつく足を動かして何かの夢に違いないとその場を後にするが、夢でないと分かったのはそんなに日も経たないころであった。
その時聖女の魔力をまとった馬が聖女の杖を運んでいるのを目にした、弱っている私ならちゃんと聖の魔法を使えるようになったあの馬であれば私を消し去ってくれるかもしれない。そう思っていた、クレント族の少年、レインと皆で過ごした日々は楽しかった。持てる力すべてを使って公式に差別を消した時、本当はこうゆう風に力を使いたかったという思いと、自分を責める声に押しつぶされそうであった。
本当なら力を得たぺルにとどめを刺してもらうつもりだったが、魔王だったころの自分が撒いていた種が帝国で花を咲かせてしまった。ヒデキヨの憎悪によって想定以上に力を取り戻してしまったのだ。
こうなってしまった以上、教国でもっとも優れた聖魔法の使い手である教皇と聖女の杖と聖女の魔力それらが揃って初めて私を消滅させることが出来るだろう。
俺の意識があるうちにペルが教国まで来てくれる。それが叶わなかった時世界は再び魔王が支配することになるだろう。




