八話 クラマの戦い 後編
クラマ領 カツラギ・イエアキ
正確な死者数が報告される。私の軍でまともに動ける人間は1300ということであった。もとは2000だったことを考えるとかなり減らしてしまった。だが幸いなことに敵の死者数は大まかに見て2000を超えるとのことだった。ギリギリのところで当初の目的であった足止めのクラマ軍の撃破には成功したことになる。
この戦いで長男や付き従ってくれた多くの家臣をなくしてしまった以上絶対に勝たなければならない。私は動ける兵を纏めてマツシマへ救援物資を運ぶ決死隊に合流しようと兵を進めるのであった。戦いの前までは元仲間だと思っていたが今は本当にクラマ家が憎い。
マツシマ近辺でようやく決死隊と合流出来たが彼らの損耗も酷いものであった。当初2000人で結成された決死隊であったが初手で大部分が喪失したうえ、度重なる強行輸送の失敗によって残りの数は200名少しまで数を減らしていた。これ以上の減少は輸送不可だろう。そこで私は一計を案じることにした。
私と私の兵1000はマツシマ南門側に布陣していた。といっても各自森の中に潜伏、合図があれば一斉に突撃するというだけの陣営もなへったくれもあったものではないが・・・
それに少し遅れて北門に決死隊200に私の兵300を加えた部隊が強行突撃、これを以て輸送を完了するという作戦である。はっきりと言っていい作戦だとは微塵も思わないが疲れ切った私の脳ではこれ以上の作戦を思いつかなかったのだ。
「死ぬつもりですか?カツラギ様」
私の直轄兵に問われる。名も知らない彼だが何度か見かける顔であったのでなんとなく分かった。彼のように直接話したこともない者にバレるなどまだまだ未熟である。
「そうだな・・・私が居なくても兄がシキシマ殿がなんとかしてくれるだろう。・・・私と死んでくれるか?」
私の直轄兵から、借り受けた兵、突如徴兵した兵までも熱気が伝播していくのを感じた。もし私がここで倒れることになっても帝国はきっと安泰であろう。
夜明け前空が少し明かりを帯びたと同時に合図を出す。
「今だ!突撃しろ!!」
私の号令で1000名もの兵士が南を包囲していた敵の兵士に突撃する。守っていたのはアサマ家の軍勢であった。アサマ家は武力に頼ってきたとは言ってもそれはせいぜい連邦との国境警備である、実戦経験豊富な私たちの敵ではなかった。
外周を囲んでいたアサマ家を突破すると内側を囲んでいたアズマ家の軍が見えてくる、さすがに南将軍と呼ばれるだけあって私達より練度も高いように感じる。
「イエアキ様・・・お先に失礼いたします」
初めに私に声をかけた直轄兵もついに息絶えたようだ。私の周りの兵が少しずつ減っていくのが分かる。喧騒が、敵の叫びが少しづつ私に近寄ってくるのだ。それでも門を目指して突撃する。この動きにまずいと思ったのか北を守っていたヒデキヨ様の軍勢がこちらへ向かってくる
・・・どうやら北の輸送隊の指揮官は有能だったらしいその隙をついて輸送隊が包囲網へ殴り込む。彼らが都市内に入りきるまでの辛抱だと力がみなぎる。
それから無我夢中に剣をふるっているとついに遠くで大歓声が上がる。きっと輸送が成功したのだろう。私と残った数少ない兵は森の中へと退却する・・・
「あそこだ、カツラギの当主だ!殺せば大手柄だぞ、逃がすな!」
敵の雑兵が私に寄ってたかる。北の指揮官が私の援護に来る・・・行方知らずの息子によく似ていた。
が、私は限界だったらしい。気が付けば私の視界には敵が振るった槍の穂先で埋め尽くされていたのだった。
「申し上げます!敵カツラギの当主を捕らえたようです」
「そうか!よくやった!直ぐに引っ立ててこい俺自らぶっ殺してやる」
自らが生み出した隙のせいで輸送を許したヒデキヨ様はブチギレていた。兵に縄を巻かれ連れてこられたカツラギ殿は血だらけでもはや意識はないようだった。かつては仲間として魔王軍とたたかった男にそのような仕打ちはあんまりであろう・・・
「お待ちくだされ、この男生かしてイエキヨ様への交渉としましょう」
アズマ殿が止めに入るがヒデキヨ様は聞く耳を持たない我がクラマ家の兵も数多くとらわれたのだ、それに次男はまだ見つかっていない。たとえ死んだとしてもその遺体を取り戻せるかもしれないのに・・・これではあやつも報われない
最終的にはアズマ殿、アサマ殿、儂の連名で一旦処分保留ということになったが儂とアサマ殿はカツラギ殿の突破を許したことで大いに私刑にされ、アサマ殿の目には憎悪が写っているように見えた。額から血を流すアサマ殿が治療のために退出する。
この様子ではヒデキヨ様も長くはないのかもしれない。そう思い儂は密かにシキシマ殿に書状を送るのであった。
もはやここまでやもしれぬな・・・三男はヒデキヨ様の側近。酷なことになるやもしれぬ。
感傷に耽け空を見上げるとそこには狐のような雲が浮かんでいた。




