四話 葛藤
ヒイラが言い出した案は決して第二皇子陣営にしてみれば悪くないものであったように思えたが、第二皇子のイエキヨは決断を出せずにいた。彼からすれば自分の家のもめ事に外国の手を借り、その末国民の血税を外国への援助へ使うという行為に躊躇いを感じたからである。
粗暴が過ぎる第三皇子。本来であれば人が彼に集まることはなくイエキヨが帝位を継げたであろう。しかし、彼が妾の出であったことさらに彼の欠点として「優しすぎる」彼の一番の臣下であるアキタダまでもそう苦言を呈するほどであった。
会議を中断し自室に戻ったイエキヨは昔の事を思い出していた。
「刀は怖うございます!私は持ちたくなどありませぬ!」
イエキヨは幼いながらに父に逆らって処刑されるものを見て刀に、争いに言いようのない恐怖を感じていた。毎日の稽古も逃げ出しいよいよ彼の父から説教されている最中であった。
「馬鹿者!勇者の末裔である儂らが刀を持たずして誰が民衆を守るのだ!」
「嫌でございます!嫌でございます!」
「この・・・大馬鹿者!アキタダ貴様どうゆう教育をしておるのだ!」
皇帝はそう言ってイエキヨとアキタダを殴って部屋を後にする。殴られたイエキヨは涙が止まらなかった。それを見てヒデキヨは何も言わず困ったような笑みを浮かべて部屋から退出する。残ったのは長男の勇者とイエキヨだけであった。
「刀が怖いか・・・」
「はい・・・」
長い沈黙が二人の間に流れる。元来勇者はあまり饒舌ではなくイエキヨも正妻の子供であり、長男で次世代の皇帝である兄に畏敬の念を抱いて上手く話せずにいた。
「よし、ならば分かった。お前は頭を磨け!」
そう言って勇者がイエキヨの肩に手を置き頭を指さす。
「頭・・・でございますか?」
「そうだ。ヒデキヨはあれでいて武術の才能が豊かだからな武術を以て俺が皇帝になった時に支えてもらう。お前は知能で僕を支えてくれ。」
「よろしいのですか・・・?刀を持たずそれでも勇者の血統皇帝の一族と言えましょうか?」
アキタダの疑問に勇者は頷く。母親の身分が低かったイエキヨにとって勇者の血統らしくないと言われることはなによりも許しがたいことであることを勇者は知っていた。
「僕がそれでいいって言ったんだ、誰にも文句は言わせない。それに魔王は僕が倒す。そしたらきっと平和な世の中になるよ。その時にお前が役に立てばいい、勇者の血統らしさは自ずと付いてくるよ」
それからと言うものイエキヨは各地の知者を訪ねその知能を大いに磨いた。父である皇帝も最初は難色を示していたが勇者が必死にとりなしたのと彼の努力を見て責めることをやめた。
しかし、勇者の死で統治者には武力も知力も必要となってしまった。武力のみの弟と知力のみの自分。果たしてどちらが皇帝にふさわしいのだろうか・・・現在に意識を戻し三度考えに耽る。
ドタドタと足音を立てて人が近づく。
「失礼いたします、アキタダです。」
「入ってくれ」
悩んでしょぼくれたイエキヨを見てアキタダが息を大きく吸い込む。生まれた時からイエキヨのことを護ってきたアキタダにとってイエキヨは子供のようなものであり、彼の悩みも理解しているうえこの先優しい彼が苦悩することも理解している。それでもあえて厳しさを見せなければならないのだ。
「喝ぅぅぅぅ!!」
城一体に響いたのではないかといような音量でアキタダが叫ぶ。驚いたイエキヨに向かってアキタダは姿勢を正す。
「貴方様がお優しいからお悩みになられていること、昔から付き従っている拙者が一番よく分かっているつもりです。それでもあえて申しますぞ!鬼になられよイエキヨ様」
黙っているイエキヨにアキタダは続ける
「もしヒデキヨ様が帝位に就かれたらどうなるか、貴方様もお判りでしょう。ヒデキヨ様の下に従っているのはこれまで兵役で国に貢献してきた大名達です。彼らに思うがままにさせれば初めは国内終いには大陸中に戦を仕掛ける事にもなりかねませんぞ!!」
それでもまだ、決意の定まらないイエキヨに対し、アキタダは更に声を大きくして続ける。
「そうなれば貴方様が守ろうとしている国民も多く死ぬことになる。民を守るために知を取ったのならば、今発揮されよ!イエキヨ様!!」
「分かっている!!分かっているのだ・・・」
「それでも、兄上、勇者様を私とヒデキヨで支える。そんな未来があったと思うと弟を殺すなど・・・」
そういって涙を流すイエキヨであったが、涙をぬぐう。もともと勇者が間を取り持っていたこともあり三兄弟の仲は悪くなかったのだ。ヒデキヨがどれだけ覚えているかイエキヨには知る由もないが、彼の中には三人の思い出がこびりついているのだ。
再び前を向いたイエキヨの目には覚悟が宿っていた。
「マグナの・・・ヒイラ殿の申し出を受けるとしよう、付いてきてくれるなアキタダ」
「御意」
あの日、勇者に武力を持たなくていいと言われてから手放していた刀を握り腰に差す。これまで自分が逃げていた責任の重みを感じたような気がした。




