一話 炎
アカギと別れてトキワの町を後にする。この国の情勢は厳しく、早く勇者の装備を渡してこの国をあとにしよう。次の目的地に選んだ町は帝国北部を管轄する貴族であるシキシマ家の本拠地である【シキシマ】を目指すことにする。
旅路は順調に進み【シキシマ】近辺まで問題なくたどり着いた。何を隠そうシキシマ領の名産品は高性能な軍馬であり、私もシキシマで育てられた軍馬であるのだ。言ってしまえばこの辺の土地など庭のようなものである。【シキシマ】に到着する前に夜になってしまったので近場にあった小さな町を今晩の寝床とした。
「ようこそ法国からおいでくださいました、お話は伝令より聞いております。私シキシマ家よりこの村を預かる村長のサンタユウで申します。何もない小さな町ですが今宵一晩ごゆるりとお寛ぎください」
出迎えてくれた村長の好意で今晩は村長の屋敷に泊めてもらえることになった。私は馬でいると何かと不便であるので人間の姿で村長の一家と対面を果たす。村長には二人の子供がいたらしくそれぞれイチマル、ニヘエと言うらしい。村長の奥方含めて五人で食卓を囲み風呂まで借りた後、人間でいる限界が来たため一度外へ抜け出した。
「このようなところに、馬が迷い込むなど一体どこの牧場の馬でしょうか?」
隠れているつもりだったのだが村長の家の納屋から少女が出てきて見つかってしまう。少女は暗闇でよく見えなかったものの明らかに人間とはかけ離れた見た目・・・魔族一の狡猾さを持つ狐人の特徴を有していた。敵襲か!私は急いで念話でヒイラを呼ぶと迎撃態勢に入ったがどうやらおかしい
「どうした?ペル・・・狐人か!?」
ヒイラも得物を構え魔法の準備をするが、その間を村長が割り込み頭を地にこすりつけながら少女の助命を嘆願する。
「この娘、貴方様方を害するものではありませぬ!どうか、お待ちください!」
ヒイラもこの違和感に気づいたようで魔法の発動を辞める。本来であれば村長が狐人に騙されていると判断して即座に戦うべきであるのだが、この魔人一切の敵意がないのだ。
私達が攻撃を中止したとみるや村長が語りだす。
「この娘は私の孫にあたるです・・・」
村長から聞いた話はよくある話だが、胸糞の悪い話であった。少女の母親、村長の娘はある日シキシマまで遊びに行った帰り狐人に襲われたそうだ。すぐに救援に向かったが村長の娘は助け出されたときには生気を失った目をしていた。さらに運の悪いことに狐人の子を妊娠していたのだ。
すぐに一族皆で話し合った結果おなかの子供を殺すということになったがほとんど感情の無くなった村長の娘が大いに抵抗したため村長は娘を哀れに思って産むことを許可したのだ。その後村長の娘は狐族の少女を産んだが魔族の母として迫害されることになり結果として自害してしまったという話であった。
村長は娘が残した唯一の宝として少女を匿って育てていたらしく、それが件の狐人の娘であるということであった。私もヒイラもレインのことを思い出していた。
私もヒイラも彼女のことはシキシマ家には内密にする。そう村長に伝え彼女もつれて村長の本邸に戻る。ニヘエさんは自宅に戻ってしまったが代わりにイチマルさんの子供も遊びに来ており、皆で遊んで日も完全に落ちたころだった。
「大変だ!村長さん!都の兵隊さんがこの村に来てるってよ!」
村人が兵の来襲を告げる。ヒイラの護衛かと思ったがそのようなことは伝えられていないとのことだった
。訝しみながらも待っていると兵の隊長らしい男が村長宅へ入ってくる
「私は第三皇子殿下の旗下親衛隊の隊長、ランマルと申す。そちらがこの村の村長だな?・・・こちらの方は」
「私はマグナ貴族インペウロ家のヒイラだ。聞いていないか?」
「これはこれは法国からのお客人!ご無礼いたしました。・・・しかしこの村は危険でございます。私の部下を護衛につけます故シキシマまで避難なされませ」
そう言うとランマルは私たちを横目に村長に刀を突きだす。
「この村で魔族を匿っているという通報があった。隠し事をすれば皆助からぬぞ!」
「そのようなことはありえませぬ・・・一体だれがそのようなことを」
「俺だよ・・・」
そう言ってランマルの後ろから出てきたのは家に帰ったはずのニヘエであった。身内からの密告に村長はショックを受けたようだが、兵が来ると聞いて戸棚に隠れていた狐人の少女が姿を現す。
「やはり、魔族がいたか!お客人早く離れられよ!狐であるなら村長は洗脳されているのだろう、抵抗するようなら殺せ!」
ランマルの号令で兵が一斉に少女へ襲い掛かる村長が何か言おうとした瞬間少女がそれを止め兵たちへ対面する。が、その時屋敷の裏から火の手があがるランマルはまずは私たちを次いで村長一家を避難させようとしたがさらに屋敷の奥で何かが爆発し、屋敷が崩壊する。
私達やランマルなど屋敷の入り口の近くにいたものは助かったが、村長や狐人の少女は燃え盛る火の手に行方を遮られ逃れられなかったようで村長一家で生き残ったのはイチマルさんとニヘエさんだけであった。のちに捜索したが彼らの遺体すら発見することはかなわなかった。
燃え広がる火災に村人も避難するなか泣き崩れるイチマルの横で佇むニヘエの手には冷たく光る火打ち石が握られていた。




