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魔王国と日本  作者: ヒマジン
第1章オーテシア王国編
3/7

国交締結

 グザノフが死んだ次の日の夜。

 ラニアは日の丸を布団の上から被せて寝た。これと言って意味はないが、もしかしたら自分の魔力で布切れが救世主にならないかと期待しての事だった。

 このままではグザノフの死は無駄死にだ。


 彼女が夢の世界に入った時

 どこから父グザノフの声が聞こえる。

 「東に・・・行け・・・東だ」

 「父上!」

 「いいか・・・東にある島国に向かえ・・・そして助けを乞うのだ・・・」


 起きた時には既に太陽が空へと昇っており、自分が寝坊したことに気づいた。

 慌てて支度を済ませると、直ぐに部下に東へ向かうように命じた。

 

 「ひ、東ですか?」

 海軍は海に面している第三軍の管轄であり、その第三軍のトップはエリウムである。

 彼女は長髪のラニアとは違い、髪を短く整え、角を生やした所謂鬼族である。

 鬼族は戦闘に強いがエリウムはどちらかと言うと頭脳派で、そのためエリウムは国内政治の補佐である国務大臣に任命されている。


 彼女が率いる第三軍の海軍は魔王水軍と言われ、その力は水上戦闘能力だけでなく、地上戦においても第一軍や第二軍の精鋭部隊に匹敵すると言われている。

 

 「もし未知の国に到達すれば、絶対に攻撃しないようにしてほしい」


 その指示の元、魔王水軍は動き出した。

 魔王水軍は精鋭と言っても魔王国に守るような貿易ルートなどないため沿岸護衛が出来る最低限の船しかいない。あるのは5隻の中型帆船と魔力を動力とする2隻の魔力船からなる。

 しかし魔力船は一度失えば作るのに長い時間と費用を費やすため、今回のような外洋にはうってつけであったが、財政が苦しい中での損失はやはり痛い。そのため3隻の帆船を編成して東へと出発した。



 出発してから4日が経った。

 次期魔王ラニアは本当に国があるのか心配になって仕方が無かった。現在は人族の攻勢はないものの、人を設置しているのは確認されており、消耗した部隊の装備品や人員補充を今のうちに行いたいところであった。更には大魔王グザノフの死をまだ公表しておらず、早めに成果を上げて後ろ盾を得たうえでグザノフの死を公表すれば、国内の混乱も比較的少なめになると考えていた。

 

 「魔王様、派遣した水軍が戻ってきました」

 その知らせに食べていたパンそっちのけで報告を求める。

 「後日詳しい内容をお知らせしますが、どうやら国を発見したようでその国の外交官が訪問されております」

 「分かった。直ぐに行く」


 彼女の心は希望に満ちていた。これまで不安が嘘だったかのようだった。


 これで少しは楽になれるかも!


 駆け足で向かった先は応接室。

 魔王国は全ての国と国交がないため、国の使者を迎え入れる専用の部屋が無く、国内の商人との商談を行う応接室が使用された。

 

 「クルート、クルート!」

 「はいはい、私はここにいます」


 コウモリ族のクルートが何処からか飛んでくる。

 

 「彼らにとびっきりの接待を」

 「というと?」

 「そうね、紅茶とケーキよ。紅茶はマストね。ケーキが無いなら何か甘いお菓子を」

 「かしこまりました」

 クルートが一礼すると、彼女は何かを思い出したかのように付け加える

 「私の分、忘れないでね!」

 「はいはい」


 クルートが調理場へ飛んでいくのを見送った後、エリウムと打ち合わせをする。

 彼らの国家と彼らの要求。ラニア自身、国内の有力商人との商談などを何度か任されたことがあるため、その度にこのような事前打ち合わせを欠かさなかった。


 「現状分かっているのが彼らは人族であり、この世界に転移してきたという事。我々を恐れておらず友好的である事。そして彼らは”魔法”が使えない事」

 「魔法が使えない?そんなのあり得るの?」

 「この世界に転移してきたと言っているので・・・それにかなり技術力が高く、ご飯が美味しかったと話しておりましたね」

 「それで彼らの要求はなんなの?」

 「貿易と国交の樹立だそうです」



 日本政府は直ちに外務省の外交官を浜田へと派遣し、現地の正体不明国家の使者を名乗るものと口頭で話を進めていた。

 彼らの国の事や、彼らのここへ来た目的、そしてこの世界の事だった・・・



 「懸念点があるとすれば、彼らは魔族と呼ばれる人類と敵対する種族という事。そして彼らが戦争中であるという事です」

 「となると、我々が魔族と国交を結べば他の人類の国家と国交を結べなくなる可能性はあるのか?」

 「分かりませんね。むしろ取り込んでくるかもしれません」

 「彼らの文化及び技術水準は高くはありません。国交を締結し食料の輸入、そして段階的に鉱石などの天然資源の輸入を進めましょう」 

 「輸出もだな」


 閣議では既に魔王国と呼ばれる如何にも物騒な国と国交を結ぶ前提で話を進めていた。

 

 日本は少しずつであるが落ち着きを取り戻してきていた。

 それは未知の国家と接触し、彼らが友好的である事。そして経済が一時的に復活したこと。

 そして新潟県とその周辺海域に【石油が産出した】ことであった。


 転移の影響からか石油資源がちょうど新潟県辺りにあったのだろう。石油の質は良質で量も商用利用が可能であると判断された。政府は特別予算として1000億円を投入して石油開発を進めることを決定し、1年以内にポンプジャック設置を目標とした。


 魔王国との国交締結と協定については緊急事態の為に防衛・資金投資等条約を除いて策定された。

 これは国会を挟まずスピーディーに食料と資源輸入を行いそれらを確保して一時的に生活を安定化することを目的としたからだ。この方針に野党から反対があったものの、防衛・資金投資等条約を除いていることから厳しい反対は無かった。


 2人の外交官を派遣し、国交締結と大使館設置。そして現地視察と調査を進めてもらう事にした。

 期間は1週間。早くても1週間後には貿易が開始される予定だった。


 魔王国特別外交官として派遣されたのは佐藤と言う男と徳岡と言う男の2人である。佐藤は40代になるベテランで、徳岡はまだ20代である。

 2人はヨーロッパのような光景に驚きながらも、案内された通り馬車に乗って首都へと向かった。

 

 首都の名前はソシエドと言う。

 魔王国を建国した男、ソシエド・コルゴンより持ってきているようだった。

 首都は統一された石レンガや木造の建物が立ち並び、市場もあったものの、人通りは多くなかった。2人の案内をしていたカバルと言う魔族が説明する。


 「数年前から人族の攻勢が激しくなりましてね。嗜好品は高くなり生活必需品も軍隊優先で・・・結局負けちゃうんですけど」

 そう言いながら窓の外を見る。その瞳にはかつての首都ソシエドを投影しているようだった。

 街の道もかなり広いのでかつてはかなりの人通りがあったと見れる。


 馬車が止まったのは威圧感のある城壁に囲まれた城である。コルゴン城と名付けられたこの城は、首都の名前と同じくソシエド・コルゴンより取ってきている。

 現在見える城と言う雰囲気を醸し出してる建物はコルゴン城ではなく、その横にある小さな2階建ての味気の無い建物が本来のコルゴン城である。ソシエド・コルゴンは、城を建てる際に最低限の部屋と設備を整えて建てた。流石に途中から城壁を追加した構造になった。今ある大きな建物はタペスティー城と呼ばれ、建築士であるタペスティーが設計したためそう名付けられた。

 こちらの建物は魔王とその家族から部下や官僚が住めるような構造に加え、防御に特化しており、そこら辺の魔法使いが使う魔法ではビクともしない頑丈な造りである。


 2人は外の無機質さとは違い、豪華な城内に感嘆の声を漏らす。

 「素晴らしい。まるでベルサイユ宮殿のような豪華さがある・・・」

 城は防衛拠点として使用され、宮殿のような豪華な造りは普通無いのである。しかしタペスティー城は例外であった。


 しかしその豪華さもエントランスを過ぎれば石レンガが剝き出しとなったこれぞまさに城と言った内装へと変化していった。

 応接室に案内され、暫く待たされる。

 

 数分ほど経ったのち、扉が開く。1人は黒い髪を伸ばした女性、もう一人は短髪でこげ茶色の髪の女性。何より特徴的なのは彼女には角が生えていたという事だろう。


 「お待たせして申し訳ありません」

 そう言って黒い髪の女性は言う。


 そして後から来た背中に翼を持つ男が入って来る。その顔は無表情で我々を見て愛想笑いの一つもしない。手にはお盆を持っており、そこには紅茶とクッキーが入っていた。

 4人分の紅茶と、1つの大きなお皿に綺麗に並べられたクッキーが真ん中に置かれる。


 「あまり豪華ではありませんが・・・」

 黒い髪の女性が申し訳なさそうに言う。

 「いいえ、気にしないでください」佐藤が笑いながら言う。

 「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は次期魔王のラニア・ダールと申します」

 「私は内務大臣のエリウムです」


 2人の自己紹介を終えると、こちら側も順に自己紹介を終える。最初は軽い雑談から始まる。

 用意された紅茶には全く砂糖が入っておらず、ミルクや角砂糖の備え付けがない事からこの世界では紅茶そのままの味を楽しむのだろうかと佐藤と徳岡は考えた。

 しかし彼女らの様子を見るに、砂糖が入っているのがノーマルらしい。先ほど我々を案内してくれたカバルと言う男が言っていたように、この国では現在嗜好品は高価なものとして取り扱われるらしい。その影響からかクッキーもただ小麦粉を焼いただけの「優しい味」がした。

 ただ喉が渇くだけだと徳岡は食べるのをやめる。


 暫くして佐藤が本題に切り込む。


 日本の簡単な説明を終えた後、国交締結と資源の輸入に関するものだった。

 「し、しかし現在戦争状態でしてそこまで多くの船を用意できない上に食料品も・・・」

 ラニアは焦る。こんな機会逃したくないが、提示された量を輸出するには軍へ向かう食糧の一部を回す必要があった。

 「困りましたね・・・船はこちらで手配できるのですが・・・」

 

 まさかの輸出するものが無いという衝撃的な結果で交渉は次に持ち越しとなった。

 その間に佐藤と徳岡が行うのは現地の調査であった。

 市場に出向き、パンの価格などを分析する。 


 「昔は銅貨5枚で買えたんですけど、今じゃ銀貨1枚ですよ」

 銅貨15枚で銀貨1枚分と言う計算らしい。3倍も値段が上がったのかと衝撃を受ける。

 銅貨の厚さは10円玉を2枚重ねたほどで500円玉ぐらいの大きさがある。

 

 彼らに100円玉や3Dホログラムが付けられた紙幣を見せたらどんな反応するのだろうかなどを考えていると、山積みになったジャガイモが売られていた。

 価格は銅貨9枚。パンより安く、市民向けに食べられているようだった。


 「あれはイモってやつです。パンが不足してから私たちはあれを食べているんですよね」

 「へぇー、主食じゃないんだ」

 「はい。硬いし不味いんで。ただ安いから食べてる感じです」


 これだ!

 そう2人は思うのだった・・・


 


 

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