第2章『ライド・オン・タイム』02
昼食会では、歓談しながら料理を楽しむはずだったのが、急きょ商工会議所のメンバー限定の個別相談会となった。
現在、エレクトゥスとして認められている平民の特権富裕層は王国内では5大商家のみだが、今日集まった商工会議所の連中は6番目の地位を狙う若く野心的な連中ばかり。どいつもこいつも『選択ノ書』を使ってその座を手に入れたいと躍起になっているやつばかりだから、この個別相談会は異様な盛り上がりとなった。これもメラニーの発案だ。まったくもって抜け目がない。
盛り上がりはしたが……その後に予定通り開催された一般市民向けの講演会で話した内容と、実は本質的な違いはない。商工会議所の連中は鼻息こそ荒いが、そこそこ財産を持っているせいで根本的に「失うことの不安」を抱えている。
そのての不安は真っ先に棄てなくてはならないってのが『選択ノ書』の基本中の基本。にもかかわらずいまだにそんなものを握りしめている連中に、どれほど個別に語ったところで手応えなどあるはずがない。
一方で一般市民たち、つまり庶民たちは「持たざる者」だ。失うものなど、ほとんどない。同じ話をしても彼らの方が『選択ノ書』の本質を確実に掴むだろう。それは、例の「成果率」がジワジワと上がる一方で下がっていないことからも、確かだと思う。
そのあたりのことを、メラニーもぜんぜん理解してはいない。
彼女はただ商工会議所の連中や貴族たちが金払いのよい「上客」であり、しばらくはビジネスのよき後援者になってくれるということを知っているから巻き込んでいるにすぎない。
だが、彼女は、それでよいのだ。こいつは不思議なぐらい先行きの不安だの過去への後悔だのがなく、常にいまそのときできることに没入する。だから、軽々と結果がついてくる。まったく見上げたもんだが、つくづく敵にはしたくないやつ。
メラニーが組み立ててくれたこの日のすべての予定が済んだ頃には、もう夕方に差し掛かっていた。
仕事部屋の椅子で一息ついていると、玄関の呼び鈴が鳴った。あ、そうだメラニーにまだ今日の礼を言ってなかった。フツーにじゃあなって感じで自宅に駆け込んでしまった。これからも世話になるビジネスパートナーなんだから、こういうことはちゃんとしないと。それに彼女のことだ、今日の売り上げ報告なんかもしてくれるはずだ。
「悪ィ悪ィ! 本来ならこっちから挨拶に行かねぇと……」
目を、疑った。そこに立っていたのは……
「え、エル……?」
初めて逢ったときのような軽装で、あの美しいプラチナ色の髪を靡かせて、彼女が微笑んでいた。
***
いやぁ、助かった。俺ん家、ろくに人に出せるお茶もないからな。いやホント助かったぜ、メラニーさん。
「先生、これからはここでお客様をもてなすことだってあり得るんだからねっ。いま持ってきたお茶と食器、ちゃんと保管しといてよ!」
「メンボクない。そうさせてもらいます」
「フフフ……」
エルがティーカップを傾けながら笑った。改めて見ると、ホントにこの子、半端なく品がある。メラニーも相当なお嬢様だが、ちょっと格が違うというのか……。
「まるで……母子みたいね」
「そうなんだよ……もう叱られっぱなしでさぁ」
「ちょっとやめてくれる? この先生、私のパパとそんなに歳変わらないんだから!」
「そーなんだよなぁ。ホント、メンボクありません」
「あははは!」
エルの隣にちょこんと座る、いかにも坊ちゃんって感じのガキが無遠慮に笑った。エルにくっついて来たガキだ。
「こらっ、失礼でしょ、ジョシュア!」
「だって面白いんだもの、このオジサンとオバサンの掛け合い」
「ああっ? オジサンってお前……」
「くぉらあぁぁぁっ! 誰がオバサンだ!」
「ご、ごめんなさい。失礼な弟で……謝りなさい、ジョシュア!」
「てへっ、ごめんなさぁい」
てへって、初めてリアルに聞いたぞ。こいつ、中1とか中2ぐらいか? フツウこんなブリッコ許されねぇんだろうが、こいつ、悔しいが育ちのいい可愛い坊ちゃんって感じで、許される感じになってる。
「この子は弟のジョシュアです。どうしてもついて来たいってきかなくて。大人しくしてるならって許したのだけど」
「大丈夫ですよ、姉さま。ボクももう13だもの。以後、わきまえます」
なんかキラッて光ったぞ。悔しいけど……違う世界の坊ちゃんだ、こいつ。
「それにしても、今や王国屈指の大作家先生だもの。本当によかった……」
エルは、椅子から立って、美しいお辞儀をした。
「先生、あらためてお祝い申し上げます」
「おいおいエル、やめてくれよ……そういう畏まった言い方」
「あ、あのね先生……違うんですよぉ」
「ん? 違うってメラニー……何がだよ」
メラニーが、エルに目で何事かを合図し、エルがそれに目で応えた。
「先生、実はね……」
メラニーは、大きく息を吸ってから言った。
「この子ね……エルじゃないのよ……レベッカ=エリーナ・フォン・フェルゼン……王国の第4王女さま……でして」
「……は?」
えーと、エルじゃなくて……エルじゃないんだよな。うん、そっかそっかなるほど。そりゃそーだ、初めて逢ったときは素性もわからねぇ俺なんかに……うん、迂闊に本名なんか言えないさ……どっかのいいとこの娘……どころじゃねぇよおい、王女様って……
「お、お、王女様って言ったか?」
「ごめんなさい」
エル……じゃなかった、レベッカはペコリと頭を下げた。
「……」
あんぐりと口を開けた俺の表情は、途方もなく間の抜けた顔だったに違いない。
「あ、ボク、第三王子ね、一応」
ジョシュアが、茶菓子を頬張りながら言った。
「め、メラニーさん……そういうこと、どうして教えてくれなかったのかな?」
「だって先生、訊かなかったじゃん」
至っていつもと変わらない感じのメラニー。
「けど先生、彼女は彼女だし。なーんにも変わらないじゃん」
「変わっ……らない……だろうけどお前……」
「あの……先生のこと騙しておいて虫がいいとは思うのですが……前みたいに接していただけると……」
いよいよ申し訳なさそうに項垂れるレベッカ。もうこれ以上、この子にこんな姿をさせるわけにもいかない、よな。
「ふぅ〜っ……わかった、わかったよ……じゃあ俺もさ、先生っての無しにしてもらっていいか……前みたいに、フツーにタメ口で頼むよ」
「あたしは先生で通させてもらいます。秘書、なんで」
「有能な秘書兼お母さんだものね」
「こらっ! 誰がお母さんだっての!」
「フフフ」
レベッカが、やっと笑顔を取り戻した。
「あのさ……メラニーってさ、いつもそんな感じなのか?」
「そんな感じってどんな感じよ、先生」
「いやほら、曲がりなりにも王族相手にさ……リンド商会のお得意様でもあるんだろ?」
「あぁ、そういうことか……あたしはさ、小さい頃からパパにくっついて王宮に出入りしてたからね。パパと王族の皆様が商談中は、よくレベッカと二人で遊んでたのよ。歳もあまり変わらないし。ジョシュア様は、お初ですけどね」
ジョシュアが、レベッカの分の茶菓子を頬張りながらVサインを出す。
「だからプライベートの時は、いつもこんな風なの」
「なるほどね……けど、もっと早く教えてもらいたかったなぁ」
「ほんっとに、ごめんなさい先生……じゃなかったわね、えと、イサク……さん」
「イサクでいいって。しかし……アハハ」
「えっ、な、なに?」
「いや悪ィ……あんときのキミを思い出しちまった」
「……あっ、ちょっと、やめてよ!」
「ハハハハハ!」
「もうっ、やめてったら!」
「なんだなんだ? 何なのよ、二人だけの世界? 感じ悪いなぁ」
「そっ、そんなんじゃないから! メラニーったら、もうっ!」
「悪かったな、メラニーさんよ。俺は、喜んでるんだよ。あのときからレベッカ、なんか変わったように見えるから」
「変わった? 私が?」
「お前さん、もう、あぶれ者って自己卑下して泣いてる感じじゃないよ」
「あ、そっか、先生はまだ知らなかったんですね? レベッカの今の状況」
「っていうと?」
メラニーの代わりに、ジョシュアが口を挟む。
「姉さまはね、しっかり王宮内で発言権も持ってて、父上にも進言するぐらいなんだよ」
クリッと、胸を反らしてジョシュアは得意げだ。
「そ、そこまでの変わりようなのか! メラニーよ、ほんと教えてくれよなぁ、そういうことは」
「だって先生、何も訊かなかったじゃん」
「またか……はいはい。訊かない俺が悪うございました。まさか二人がそんなに親しい仲とは思わなくてね」
「先生!」
「おいおいレベッカさんよぉ、また……」
「ううん、今だけはあえて先生って言わせて」
レベッカが、居ずまいを正して、真っ直ぐに俺を見た。あのときのような、威厳のある眼だ。
「あれから私、先生に教えてもらったこと、できるところからだけれど、やってたみていたの。少しずつだけれど、ずっと続けていたの」
「俺が教えたことって……」
「あのとき教わったように、私が望む世界を、アウスヴァールしたの」
「ま、レベッカも『選択ノ書』で結果を出した一人ってことですよ」
今度は、メラニーが胸を張って満足そうな声を発した。
「そう……なのか」
「はい。先生のおかげだわ」
「そりゃ光栄な話だけど……やっぱりキミだったんだね、『選択ノ書』を出版するようメラニーに促してくれたのは」
答える代わりに、レベッカは柔らかく微笑んだ。
「まぁ今だから言いますけどね、そりゃあ大変な推しっぷりだったんですよぉ、このお姫さまったら。もう毎日のように……」
「ちょっ! こらっ、メラニー?」
「いいじゃんもうバレても。レベッカが陰ながらお祈りしてたような結果になったんだから」
「お、お祈りなんかしてないもんっ」
「してましたね〜。こうやって手と手を組んで、先生はきっとこの国の人々を救える人だから世に出られますように……とか言っちゃって」
「ハハハ。そりゃずいぶん買ってくれたもんだなぁ。けど……ありがとうな」
見ると、レベッカが耳まで真っ赤になって口ごもっている。メラニーは、ずっと溜め込んできたことを吐き出してスッキリしたのか、動揺するレベッカをそっちのけで、話題を変えた。
「レベッカはね、このところいいことずくめなんですよぉ先生! 」
「あっ! だめ、メラニー、その話は……」
「なに照れちゃってるのよぉ、もう可愛いんだからぁ」
「……なんか楽しい女子同士の恋バナって感じだな。俺、席外そうか」
「あ、先生、鋭いかも! レベッカったら、いよいよ婚約が決まりそうなんですよぉ」
「……え?」
「相手はなぁんと、ダリアン王国の第二王子さま! きゃあ〜っ、王子さまですよ、先生〜」
「ちょっとメラニー、そんなことまで……」
部屋の空気が、一気に複雑な色に染まる。俺は、必死に言葉を探す。
「あ、とりあえず……おめでとう……っていうべきだよな」
探した挙句の言葉がこれか。なんか、含みを持った感じになっちまったかも。
「あの……なんて言ったらいいか……あ、ありがとう……」
「……その言い方じゃ、あんまり納得いってねぇって感じに聞こえるけど……」
「そんなこと……ない」
なんだろう……なんで腹が立ってるんだ、俺。
「うん、まぁいいんじゃねぇの、おめでたい話だよ。レベッカが選んだことなんだから……な、うん。いいんだよ、それでいいなら」
「……どうして……そういう言い方をするの」
「そういうもこういうも、おめでとうって言ってるのさ。それでいいだろ?」
「……よくない。あなた、いいと思っていないもの」
「そんなことないよ」
「なぜ、誤魔化すの? 」
「誤魔化してなんかねぇって。っていうか、誤魔化してんのは、そっちじゃねぇの?」
「ちょっとちょっと! なに? どうしたのよ、二人とも!」
メラニーが見かねて間に入る。
「レベッカさぁ、お前さん、ホントに納得してんのか? その婚約相手って、前に言ってたヤツじゃねぇの? あんとき、あんなにイヤがってた相手なんじゃねぇのか? 」
「だったら、何?」
「だったら、何でそんなもん選ぶんだ? いや、それでも選んだってことなんだろ? それがお前さんの選択ってことなんだろ? じゃあいいじゃねぇか、それで。胸張って堂々としてろよ。何で、そんな申し訳なさそうな顔してんだよ」
レベッカの眼に光が刺した。あのとき、俺を怒鳴りつけたときの光だ。
「あなたっ、何を……何をいろいろと決めつけてるの! 何も知らないくせに!」
背筋をピンと伸ばして……まったく相変わらず威厳っていうのか威圧感っていうのか、この子は……。
「俺がお前さんの細かい事情を知ってるか知らねぇかって話じゃねぇ。お前さんが選択したことなら、選んだことなら……」
くそっ、何でそんなヤツを選んだんだよ……。
「それでいいんじゃねぇのって話だ!」
「選んでなんかいないもんっ!」
まただ。こうやって、一転してフツウの女の子って感じになるんだ。
「私っ、選んでなんかないから!」
「実際に選んだんだろうが、その男を……」
「私は、王女なの!」
今度はまた、威厳ある王女様モードだ。
「王女には、選べないことだってあるの」
「そんな……詭弁だろ……」
「国家のことなの、これは。私は、王女なの」
「……なるほどね、そういうことか」
俺の頭が、一気に冷静さを取り戻した。いまはもう、この世界に来たばかりのあのときとは違う。そうだ。あのときの俺には何も無かった。けどいまは……曲がりなりにも、いっぱしの作家なんだ。レベッカのおかげなんだ。……まだ自分を信じきれていねぇけど。だからこそ、レベッカが岐路に立ってるいま、冷静にならなきゃいけねぇんだ。
「……レベッカ、悪ィな、つい頭に血が上っちまった。謝る。冷静になる。だから、お前さんも冷静に聞いてくれねぇか」
レベッカは小鼻を膨らませて、スゥ〜ッと息を吐いた。
「……私も……つい大きな声を出して……ごめんなさい」
「よし、頭を冷やして仕切り直そう。そうだ、一緒に来てくれるか」
俺は小さなタオルを2枚持って、中庭に出た。空気を読まないジョシュアが一緒に来ようとしたのをメラニーが止めてくれたのは、助かった。
中庭に出ると、レベッカがすぐに気づいた。
「……井戸?」
「ああ、ここの前の住人が何代もつかってたらしいんだが、まだしっかり水が湧くんだ。冷たくて綺麗で、いい水だよ」
桶で汲み上げ、タオルを浸す。レベッカが桶に手を入れる。
「冷たい! 本当に綺麗な水……」
タオルを搾ってレベッカに手渡す。俺は自分の分で顔を拭き、頭に当てる。
「ふぃぃ〜っ、気持ちいい〜」
「イサク……オジサンみたい」
クスッと笑う。
「オジサンだからな。年相応って言ってくれよ」
レベッカは、白い首筋を伸ばして、ポンポンとタオルを当てている。まったく、お嬢様ってのは、何をやってもいちいち絵になる。
「まぁ座ろうぜ」
井戸を囲んで小さな椅子があり、俺たちはそれぞれ腰を下ろした。
「なぁレベッカ、キミはいろいろとアウスヴァールを試みて、王宮での在り方も変わってきたって、さっきメラニーが言ってたよね」
「少しずつ、ね。小さいことから実践してるの」
「とてもいいと思うよ。何もしないことに比べたら、雲泥の差だ」
「……なのに、なぜ婚約の話にアウスヴァールを応用しないのか……そう言いたいの?」
「ははは、相変わらず賢い子だな。その通り! あ、でも責めてるわけじゃないよ。単純に、何でなんだろうって思ったのさ」
「それは……身の回りのことや、家族への態度とは、ぜんぜん性質が違うもの……選べないことだもの」
「日常的なことと、国家のことは違うってか?」
「私は、王女だから」
「王女は選択肢ちゃいけねぇって法でもあるのか?」
「そんな法はない……けど」
「うん、話を少し変えようか。ぶっちゃけたことを訊いて悪いが、その婚約相手っヤツを、お前さんは……その……好きなのか?」
レベッカは、一瞬目を見開いてから、すぐ素に戻った。
「わからないわ。会ったことないから。でも……」
「何も情報はないのか?」
「第二王子ということと、出身の学校とか、現在の役職とか……そのぐらいかしら……」
「公開情報ぐらいしか知らない、と?」
「ええ」
「なるほど。いかにも政略結婚って感じだけど、どう思う?」
「そうかもしれないわ」
「言葉を選ばなくっていいよ。お前さんも、政略結婚だなって思ってんだろ?」
コクリ、とうなずく。
「もう一度訊く。今度は、一個人のレベッカに。お前さんは、その王子と結婚したいのか?」
はっきりと、首を横に振る。
「まずは、それがキミの選択だ。わかるかい?」
「……イサク、あなたの言おうとしていること、わかってる。でも……」
「さすがだな、じゃあその先の俺が伝えたいことも……」
「でもね……選べないの! 私は、一個人である前に、王女だから」
「そうじゃない、俺が言いたいのは……」
「もういいっ! もうやめて!」
「レベッカ……待ってくれ……」
「怖いのっ! 」
「……何?」
「怖いんだもんっ! 怖いのっ!」
「怖いって……何がだよ」
「断れないの……そんなことしたら……私……」
「何だよ……」
「私……幽閉されてしまう……」
「何っ?」
「言われたの……お父様に……これは国家の利権がかかってるから……逆らえば反逆罪だって……」
ちくしょう、そんな事情が……とんでもねぇ話だ。けどこれは……ダメだ、俺の手に負える話じゃねぇ……。
「わかった。ごめんな、何度もツラい確認をさせちまったな」
俺は、レベッカの手からタオルを取り、彼女の顔に当ててやる。
「一つだけ、わかっててくれるか」
とんでもねぇ事情だってわかっても、こんな顔のレベッカを見てられない。
レベッカが、俺の手の上からタオルで顔を覆っている。小刻みに肩が揺れている。思わず抱きしめたくなる。いや、マジで下心とかじゃなく。
「あえて酷なことを言うぞ。王女だから、国家利権のために選べない……それも、いまキミがしている選択だってことだ。そして、その選択は、変えることができるってこと。変えろって言ってるんじゃない。変えられるんだよ、って言ってる。わかるかい?」
コク、コク、とうなずく。
「いまは、それでいい。それで十分だよ、レベッカ」
俺は、自分のタオルを桶でよく洗ってから、搾って彼女に手渡した。
「俺、先に戻ってるからさ。瞼……よく冷やしてから、おいで」
俺もアタマ冷やさなきゃなぁ。あいつが好きでもねぇ男の妻になる……もう手の届かねぇとこに行っちまう……結局はそれが耐えられねぇってことだもんなぁ。俺は俺で、まずこの執着を手放さななきゃってことだよ。『選択ノ書』を、ちゃんと俺自身も実践しねぇとダメだろ。俺がまず信じなきゃ……。
メラニーとジョシュアの待つ仕事部屋へと続く階段を昇る足取りは、決して軽くはなかった。




