第7章『さよならの向こう側』07
このところ王都では、ちょっとしたイザコザが起きていた。
それはなんていうのか、「事件」というにはあまりに些細な、ほとんどの場合は少しだけ首をかしげて捨て置かれる程度のことなんだが……。
ある者は、なんとなく言動が変わった。
以前は使ったこともないような言葉を使い始め、思考の仕方も豹変した。
誰かの影響を受けたり精神的に成長したりするってことは、まぁ誰しもあることだとは思うんだが……ただ、一夜にして変わったってことが周囲を戸惑わせてる。
露骨に行動パターンが変わったヤツもいる。
繊細で心優しかったヤツが荒くれ者みてぇになったり、大ざっぱだったヤツが緻密になったり、情に熱かったヤツが冷酷になったり……妙なのは、すべて一昼夜のうちに変わっちまうってことなんだ。
知人や家族なんかはこぞって「人が変わったように……」なんて言って首をかしげるんだが、話が通じないわけじゃないから、まぁ人間、生きていりゃそういう転期もあるんだろう、とか自分に言い聞かせて、たいていは落ち着くと。
ただ稀に、婚約中のどっちか一方が、あまりに価値観が変わった相手に不安を感じて疎遠になったり、尊敬していた師匠の変貌ぶりについていけなくなっちまって弟子が離れて行ったり……みたいな人生に影響を及ぼすような事態も無くはないと。
けど、これだって少なからずあるっていやぁ、あるよな。
そう、つまり、前に俺が兵達へのレクチャーのときに体験した「豹変現象」に酷似してるんだ。
それがいま、軍だけじゃなく王都の一般市民の間で、一時期に同時に起きているってことだ。
この地味に奇妙な出来事は、「事件」ではないから、警察が動くことも学者が乗り出すこともない……けど、俺はどうも気になる。気になってしょうがねぇから、メラニーに頼んで、その人脈や交友関係を総動員して事例を集めてもらってる。
毎日のように集まってくる情報の中には、俺が個人的に知ってるヤツのケースもある。俺自身がその違和感を目の当たりにしてたケースもある。
それらの情報を分析しながら、俺は、この「豹変現象」について一つの「仮説」を立て、確信を持ち始めていた。
ホントのことを言えば、こんな微妙な現象になんか時間を使ってる場合じゃねぇんだが……。
クロンへイムのオッサンの口利きでメルケルのジジイからに任命され、特任参謀として陣中への出入りをすることが決まった以上、たとえ付け焼き刃でも、軍組織やら兵の采配やらについて1分でも多くの時間を割くべきだったのかもしれねぇ。いや、多分そうすべきたっだんだ。
メラニーから入ってくる情報とはまた別に、参謀本部ってとこからも日々刻々と状況報告が入ってくる。今日も入ってきた。
いよいよだ。
まもなく、第三次侵攻が、開始される。
はぁ、やっぱ、こんな些少事にかかずらわってる場合じゃなかったなぁ……。




