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クレムリン制圧

 赤の広場に面するクレムリンへの入り口の1つ、スパスカヤ門はライトアップされ、その赤さが際立っていた。門の横には歩哨所があり、そこでは5人のFSOの兵士たちがフル装備で警戒していた。ボロディンはBTR-82を制止バーぎりぎりまで進ませると、上部ハッチから身を乗り出した。

「君たちはヘリを見たか?」

歩哨たちの中では1番階級が高いのであろう、少尉が軽く敬礼をしてから答えた。

「はい、少佐。宮殿の上に何機ものヘリが降りていたのを見ました。あれはなんなんですか?」

深刻そうな顔をしながらボロディンは答えた。

「実はあれは反乱軍の一部だ。彼らは大統領を拘束しようとしている。我々は彼らを鎮圧するためにGRUから派遣された。中に入れてくれるか?大統領の命が危ない。」

「中央警備室に確認します。少し待ってください。」

そういうと少尉は歩哨所の奥に引っ込んでいった。彼が帰ってくるのを待つ間、歩哨たちは臨戦態勢を整えて、クレムリンの方を警戒していた。ボロディンは、今のところ一切疑われていないことを確信した。

「入っていいそうです。反乱軍は屋上から侵入して現在、最上階にいるらしいです。我々の仲間がそこで食い止めています。そちらまで案内します。」

「ありがとう、少尉。」

ボロディンたちはスパスカヤ門を抜けて、クレムリンの正面玄関に堂々と車両を横付けした。歩哨所から着いてきて案内をしている少尉を先頭に、ボロディンたちは中央警備室を目指した。


 ロシア連邦大統領ウラジミール・コージンは宮殿の外から聞こえてくる大きな音で目を覚ました。最初は虫が部屋の中を飛んでいるのかと思ったが、その音は規則正しく着実に大きくなっていた。続いて、上階から爆発音と共に、けたたましいカラシニコフの乾いた連射音が響いてきた。コージンが呆然と天井を見つめていると、警護班長が勢いよく扉を開けて部屋に飛び込んできた。

「大統領、ここは攻撃されています。地下シェルターに逃げます。さあ急いで。」

コージンは慌てて立ち上がると、持って行けるものはないかと辺りを見渡した。彼は護身用の銃を執務室に置いたままにしていたことを思い出し、スマートフォンだけをポケットにつっこむと班長と共に部屋の戸口から外へ出た。


 少尉の案内で中央警備室に到着したボロディンたちは、FSOの中佐と顔を合わせた。中佐はクレムリンがヘリボーンに遭うとは思ってもいなかったらしく随分と慌てた様子で、落ち着きはまるでなかった。

「大丈夫です、中佐。ここは我々に任せてあなた方は情報をくれるだけで結構です。彼らの状態がわかる防犯カメラ映像を画面に出してもらえますか?」

そう言いながら、ボロディンは腰の戦術ベルトの装備を直すふりをした。中佐が担当の兵士に画面に出すように命じてからボロディンの方に向き直った。その刹那、ボロディンは素早い動きでホルスターからMP-443制式拳銃を抜くと、中佐の胸に3発速射した。至近距離で撃たれた。ボロディンの銃声を合図に、ボロディンの部下たちは警備室にいたFSOの兵士たちを武装解除し、拘束した。対抗しようとした数人は、躊躇なく撃ち殺された。まもなく中央警備室には死体が6つ壁際に寄せられ、床には12人の拘束された兵士が座らされていた。スペツナズ大隊付きの衛生兵が透明な液体の入った注射器を、手際よく交換しながら床に座っている12人のFSO士官に注射していった。注射された士官は強い眠気に襲われ、無限に続く深い暗闇へと落ちていった。ボロディンたちは僅か3分で中央警備室を確保した。

 気絶させられずに残された技術者たちはボディーチェックを受けた上で、元の持ち場にそのまま座らされていた。

「こちらGRUスペツナズ第1大隊、VDV第1大隊長、応答願います。」

「―こちら、第1大隊大隊長のコバン・エリツィン中佐だ。こちらは目下、3個中隊規模のFSOと戦闘中。死傷者3名だ。」

「了解しました。応援はいりますか?」

「いや、結構。我々だけで解決する。」

「メインの警備システムは停止させました。援軍はもう来ないでしょう。」

「分かった。急いで大統領を見つけて確保する。通信終わり。」

ボロディンの第一フェーズはここまでだった。あとは大統領を見つけるのに手を貸し、中央警備室を死守するだけでこの段階は終了する。安堵のため息を漏らしかけたが、軍人たるもの完遂するまで油断は大敵だと自分を戒めた。そうこうしていると、突然東側の廊下から怒鳴り声と銃声が響いてきた。何事かと入り口を見ると、FSOの兵士たちが突撃してきていた。廊下に置いておいた歩哨は全て殺されたに違いない。

「入り口!接敵!」

叫びながら、ボロディンはAK-12を軽く構えて戸口に向かって短く連射した。ボロディンの銃撃で先頭のFSOの兵士2人が即死したが、突撃の勢いが落ちることはなかった。直後、警備室に黒い筒が投げ込まれた。ボロディンは反射的に地面に伏せた。その筒は凄まじい轟音と光を発した。特殊音響閃光手榴弾の一撃でスペツナズたちは一瞬、反応が遅れた。反撃が止んだ途端、FSOの兵士が突入してきた。最初は散発的なカラシニコフの音が聞こえていたが、しばらくするとRPK-16機関銃の銃声が加わった。ボロディンたちは遮蔽物から身を乗り出すことができず、反撃の機会をなかなか得ることができなかった。ボロディンは反撃しなければ部隊が全滅し、作戦が失敗することを瞬時に悟った。そんなことは許されない。腰の戦術ベルトから破片手榴弾を2つ外すと、1秒の差をつけて2つとも戸口に投げ込んだ。

手榴弾!(グラナータ)

という叫び声が聞こえて、束の間銃撃が止んだ。そして、爆風が室内を吹き抜けて大きな音と共に世界が揺れた。今だ!ボロディンは隠れていた机から身をさらけ出すと、戸口に構えていた機関銃手に5発撃ち込んだ。FSOの機関銃は永遠に沈黙した。ボロディンが出たのを見たスペツナズたちは瞬時に、大隊長が何をやろうとしているかを悟り、同じように身を乗り出して戸口に制圧射撃を加え始めた。身を晒したFSO士官がAKの連射に捉えられて、その場に崩れ落ちた。入り口に向かって制圧射撃が行われている間に、スペツナズたちは準備した。射撃が止むとすぐさま廊下に手榴弾が2発投げ込まれた。それが爆発すると、廊下に向かって機関銃手が廊下に熾烈な射撃を加えた。応射が止んだので確認に行かせると、廊下でFSOの兵士10人弱が血溜まりの中で倒れている、と報告があった。ボロディンは再び中央警備室の秩序を取り戻した。

 エリツィン中佐率いる第116親衛空挺師団の第1大隊は、5階で頑固に抵抗を続けるFSOに手こずっていた。

「大隊長!なんとか階段を確保できました。下に降りるのを許可しますか?」

「許可する。第2中隊に下階を確保させろ。」

分かりました、と返事をして副官が命令を伝えるために通信士官の方へと這って行った。エリツィンは階下からの銃撃が激しくなったのを感じた。しかし、その銃撃は自分たちを狙っているのではなくFSOを狙っているようであった。

「中佐、階下のFSOを排除しました。残る敵は地下シェルターのみです。」

そこに、スペツナズの徽章をつけた大尉の男が階段を登って近づいてきた。

「エリツィン中佐、支援はいらないと仰いましたが手が空いていたのできてしまいました。」

エリツィンは不満ありげな様子で「ボロディンには後でしっかりと言わねばならんな。」とだけ答えるとスタスタと階段を降りて、1階の地下シェルターの入り口へと向かった。

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