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滲む境界  作者: キシ
第四章

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4

「こちらから校舎にお入りください。事態が収まり次第、清掃いたしますので靴のままで結構です」

 建物の外と内を同じ履物で歩くなど、避難訓練でしかしない。今はある意味で訓練でない緊急事態であっているのだが。

「はーい。おじゃまします……?」

 慣れたとはまだ言えないが、毎日通っている学校の校舎。普段との違いからか、妙な挨拶をしながら入る。

 靴の厚みの違いで少し高くなった視点で見る学校は違和感が大きい。電気がついているのに薄暗く、廊下の果てがないように錯覚した。


「まひる、どうした?」

 後を続いていたまひるが校舎に入るための階段で立ち止まり、足元を見ている。

「水のモドキだっけ。それが少なくなっている気がするんだけど……。ボクの気のせいかな」

 言われて水面に目を向ければ、水位が下がっているかもしれない。水が増える様子を見たのだ。水かさの変動、つまりは減ることがあってもおかしくない。おかしくないが気がするで止まってしまう。

 壁に水の跡は残らないため、比べる対象がないのだ。

「どうかなさいましたか」

 少し離れて誰かと連絡を取っていた幽和氏だが、立ち止まった俺達を気にかけ声をかけてくれた。

「水位が下がった気がする―って話してたんですよ」

 幽和氏は顎に手をやり考え込むという人間臭い動作をしながら水面を見つめる。

「申し訳ありません。私に計量機能はついておりませんゆえ、断言いたしかねます」

「わわっ、謝らないでください」

 まひるの言う通り、気になることではあるが緊張を和らげるための世間話のようなものである。


「それより俺達はこれから何をすればいいんだ?」

 安全地帯であると教えられていた第二校舎に到着した。体育館と同じく建物内は異変とは無縁である。だからと言って安全が確保されたから解散、などとはならないだろう。

「私の所有者、天門志乃に会っていただきたいのですが。それよりも先にここで他の保護下にある方々の様子を確認されるのはいかがでしょうか。前にお伝えした通り、睡眠状態でありますが」

 無事であると伝えられていたが、やはり自分の目で確認したい気持ちはある。

 向こうとしても、こちらの信頼を確実にしておきたいところもあるだろう。なんら突拍子のないことではない。

 一応まひるの方を見ると、ちょうどこちらの視線に気が付き笑顔でうなずいた。肯定という意味で良いだろう。

「ありがたく、そうさせてもらう。教室にいるのか」

 一番近くにあった教室を指さして尋ねる。

「さようでございます。こちらからの要請としましては糸に触れぬよう願います。双方に害はありませんが、天門志乃に負担が生じることを懸念しております」

「い、糸?」

「色は白です」

 要領を得ないが触れられる物なのだ。見れば多少はわかるだろう。


 取っ手に伸ばした手に、小さく華奢な手が重ねられた。

「今さっきはおいて行かれたけど、今度のは一緒に、だよ」

「OK。対等な……相棒ってことだな」

「ん……まぁそれでお願い」

 行きずりの関係に新たな名前を付けたところで、教室のドアを開ける。

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