第九十一話
速度を試すダンジョン。最高難易度のクエスト。それらは所詮、タキオンへの挑戦者であった。
「フン。【加速】【超加速】【亜音速】【音速】【光速】……【仮想粒子】」
その刹那―――いや、刹那よりも尚短い時間。瞬間移動すらも超越した速さでタキオンは駆け抜けた。衝撃波が洞穴の壁を揺らし、破壊せんと牙を向く。
「【仮想粒子】……いや、【光速】も要らんかったな。いつか、正確な速さを計ってみてもええかもしれん」
先ほどの道を見てみると、速度が???/1000となっていた。つまり、1000m/sは余裕でクリアし、それでも尚測定ができなかったということだ。これだけで異質さが分かる。
ちなみに、タキオンには【神速】という最終奥義が残っている。これはまあ要らんか、と判断したタキオンは正しかった。もう少し要らなかったが。
「ほ~、これでええんか。なんか難易度低めやったな」
歴代の挑戦者を馬鹿にするような発言だったが、今回ばかりは仕方ない。あまりに圧倒的だった。
「さて、報酬は……っと」
まず、このダンジョンの報酬がナイフ、『刻』。スキルに特殊な能力を持つユニーク装備だ。
そして、一番の目玉。クエスト『韋駄天への道』の報酬、【韋駄天】解放。
「ついにこれが使えるようになるんか。ほな、カナデに自慢しにでも行こか」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「お、意外とあっさり帰って来たな。どうだった?」
「どうもなにも、あんなに簡単なクエストなんやったら緊張せんでもよかったわ。気張りすぎた」
「それはそれは。で、報酬はなんだ?」
「ああ。このナイフと……スキルの解放や」
やけに自慢げだな。ちと羨ましい。それで、どういった能力なのだろうか?
「スキル【韋駄天】。能力自体は単純明快や。AGIとSTRの大幅な強化。それと、付属のスキルがいくつか使える、みたいな感じや」
「ほー、付属のスキルねえ。どんなのがある?」
「んー見た感じ簡単に分かりそうなんは……これとかやないか?」
【無限の体力】
スタミナが失われることが無くなり、全スキルの発動時間が三分延長する。
「確かにわかりやすくて結構。だが、全スキルの発動時間延長ってのはいいな。ギリギリで足りない! ってのが無くなるし」
「せやな。ほんの一瞬しか力を発揮できん【仮想粒子】、【神速】とかも三分使えるんなら、とんでもないことになるやろうな」
「ああ、元のを長くよりも、今一瞬しか発動しないのを伸ばせるって方がでかいのか。確かに確かに。ちょっと見せてくれないか」
「ええぞ。ちょっと来てみ」
それからタキオンに連れられ、少し広い草原に来た。遺跡とは別方向だ。
「ナイフをゲットしたんやからナイフ使うか……」
「何をするつもりなんだ? いや、スキルを見せてくれるんだろうが……」
「モンスター消失マジックや」
「……は?」
「これから、一瞬でこの草原にいるモンスターをすべて消す。しっかり見とけよ」
「……???」
「ふう…………【韋駄天】【平行世界】【無限の体力】―――――【神速】」
ブンッ
「……ん?」
俺は、瞬きもしていなかった。だというのに、目の前でモンスターが消えた。いや、パッと消えたんじゃなくて、倒された後のダメージエフェクトは上がってるんだけど……。
「すごいやろ、これ。まだ全速力でないのにこれや。ただ、ちっとばっかし頭が痛くなるんやが……」
「……? ちょ、ちょっと待て。今本当に何があったんだ? マッジで何も見えなかったんだが。
「あー、一つずつ解説するとやな……」
それからタキオンは先程発動したスキルについて細かく説明してくれた。
まず、【韋駄天】。これにより、大幅にAGIとSTRが上昇。そして、いくつかのスキルが解放される。
それが【無限の体力】と【平行世界】。半無制限の体力によって、どれだけ走っても息が上がるどころか疲れることも無く、数多の平行世界を現世に反映させることで、【神速】の分身を何人か生み出す。全て実体があるが、ダメージの反映は無し。えぐい。えぐすぎる。
「ちょっと待て……その【平行世界】って何なんだ? さすがに、チート過ぎる気がするんだが……いや、【韋駄天】×【神速】の時点でバグなんだが……」
「最初使用不可なスキルは基本的にアホみたいな性能しとんちゃう? でも、肉体的な負荷も大きいけどな。あったまいたい」
「俺の【魔王降臨】もそうなってくれることを願う。ほんとに。マジで。いつになったら解放クエストが来るんだ……」
「あっはっは。っと、そういえば、カナデは用があるんちゃうん?」
「ん? いや、まだメッセージが来てないからあいつらがログインしてないんじゃないんかな。それまでは自由だ」
ピロンッ!
「自由終わった。じゃ、行ってくる」
「おう。これから森中を荒らしまわって来るわ」
「頼むから他のプレイヤーの邪魔はすんなよ」
「任せんかい」
ハッハッハー! と言いながら爆速で消えていくタキオン。想像以上に速かった。あいつ、全スキル解放したらどれくらいになるんだろ?
そして、今度はアスカとクリスだ。あいつらの耳飾りのスキルは、アスカが【月読】、クリスが【治癒神】と【全能神】のはず。いや待て。なんか片方二つ持っている奴いるぞ。化物め。
呼び出された丘に行ってみると、二人は既に待っていた。フル装備というのを見ると、もう見せる準備は出来ているようだ。
「悪い。遅くなったな」
「全然だよー。それよりも、時間大丈夫? 後に差し支えない?」
「無問題だ。今日は完全フリーだし。それよりも、二人のスキルに興味があるし」
「いやぁ……私のは地味だから……ちょっと……」
遠慮がちのクリスを、「え?」と見つめるアスカ。何の話だ。
「私が解放されたのは【治癒神】の方だけだから、明確な殲滅能力は無いの……」
「えっと~、クリス。それ本気で言ってる? うーん……いや、まあ、見てもらったらカナデから講評貰えるんじゃない?」
「まあとりあえずどんなのか見せてくれれば反応は出来るし。見せてほしい」
「じゃ、じゃあ……ちょっとダンジョンに潜らないと……」
一瞬首を捻りかけたが、すぐに理解した。それクラスではないと、効果を発揮すらできないのだ。ならば分かりやすい場所がいい、と近場のボスを確認すると、STRが意味分からんほど高いボスが要るダンジョンを発見する。治癒神の力を発揮するには絶好の場所だろう。
♢ジ・オールド
「こ、ここなのね? どういう場所?」
「曰く、古より存在する守護神のゴリラがボスのダンジョン。ボスまでの道のりが短いってよ。楽だな」
「ここって直線だけど、敵のHPが多いからエンカウントしてからじゃ殺し切れない、って人が多いみたいだねー。やっとこうか?」
「出来るんなら頼む」
対戦車スナイパーライフル『朧』を構えるアスカ。対戦車ライフルであるヘカートを大幅に改良されたような見た目のこれは、単純破壊力だけならば〈魔王軍〉随一である。
「スキルは要らないかな……? 一応発動しとこっか。【オーバードライブ】【渾身の一撃】」
引き金を引いた瞬間、紅い閃光が翔ける。ドッパァンッ! と炸裂した一撃は、遥か遠く、視認すらできていない敵をも吹き飛ばした。
「……惨いな。一方的な殲滅すぎる」
「でもでも、アスカちゃんは対大軍が一番強いから!」
「それはクリスがいた時だけだよーっ」
よく考えたらスナイパーライフルを持ち歩けるゲームってヤバいよな、と考えながら奥へ行くと、突き当りにクソデカい空間が見えた。絶対、ってかどう見てもボス部屋。
「さあ、出番だぞクリス。準備はいいか?」
「も、もちろん! 何もしてないし……あ、アスカが能力を見せるためのボスも探しといていいぞ。どうせすぐ終わる」
その時、カナデは気付く。クリスが演技状態に移ろうとしていることに。
「んじゃ、行こうぜ。【記憶連想】“黒龍”“白龍”」
うわ、俺と話してる……というすごく奇特な気分になるが、かっこいいクリスを見るのは楽しいので、そのまま続けさせる。おもくっそ美少女が俺の真似事をしているという状況がいいよね。
クリス「さてさて……どんな感じなんだ? ゴリラって言っても、普通のゴリラなら距離をとれば―――」
『ウオオオオオオオッ!!!』
クリス「……化け物じゃねえか」
奏「ああ。化物だな。ところで、口調が同じだったらすごい分かり辛いと思うんだけど。筆者が困ってるぞ」
クリス「? は?」
そう首を傾げながらもクリスは駆け出した。
さて、先程化け物と言ったゴリラだが、実際のところ化物だ。映画に出てきそうなキングコングが、周囲に銃を浮かせながら突撃してくるのだ。いやいや。化物以外の形容が思い浮かばない。
それに正面から突撃するクリスの初手は、いきなりの全力であった。
「【治癒神】。からの~ッ」
クリスの全身から緑の光が溢れ出す。それにより、【治癒神】に内包されたスキルもまた解放される。
「【孤高の聖女】【不死の女神】ッ!」
【孤高の聖女】
敵味方問わず、半径五メートル以内の侵入を禁ずる。
【不死の女神】
圧倒的な再生速度により、ダメージを負わない。一時的にHPが十倍になる。
クリス「ゴリラには相性が悪いだろ! 近接無効はァ!」
ゴリラはクリスに指を指し、機関銃の先を全てクリスに向けた。そして、一斉掃射を開始する。全弾着弾するも、全て【不死の女神】にて無効化される。
奏「すげえな。俺は【権能:迎撃】でどうにかするしかないわ。まさか回復で乗り切れるとは」
「凄いでしょー! あれ、今は自分だけにしてるから分かりにくいけど、もう一つのスキルを使えば大軍にも使えるんだよねー!」
奏「バケモンかよ」
クリス「ようやく接近したぞ。クソゴリラが。【連奏】!」
白龍の【連奏】にて撃ち抜くも、やはり火力が足りない。
クリス「っぱハンドガンじゃ火力が足りねえんだよなァ! 【記憶連想】“終ノ刃”“滅城の銀刃”ッ!」
奏&アスカ「「わぁ」」
片手に【極刑】、片手に【瓦解】。なんて恐ろしい構成なんだ。どう足掻いても即死じゃないか。
だが、クリスはさらに豪勢な使い方をした。
クリス「おらッ!」
【終ノ刃】をゴリラへ投擲したのだ。首を振って慌てて回避するゴリラ。あぶねえ~、と言わんばかりにクリスと相対すると、クリスは別の装備を用意していた。
「『雷霆』ッ! 【壊滅の雷撃】ィ!」
途端に降りしきる即死の雷。そりゃオーバーキルだ馬鹿野郎。
【壊滅の雷撃】は確か一定の範囲内に即死の雷を振らせ続けるクソチートスキルだったはず。対大軍専用のはずなのに、ボス一匹に使いやがった。
クリス「どうだった? 強かったろ。かなり」
奏「……ああ。強いってレベルを超えてた。あれを突破するには即死くらいしかないんじゃないのか?」
クリス「一応、ユニークのミニガンクラスだったら、体力が減っているのは分かるけどな」
「魔法とかはどうなの? もう実験した?」
クリス「いや、してないな。っつーより、まともにダメージを与えられるような魔法使いがフレンドにいないって感じか」
奏「ならリエで試してみよう。あと、演技をそろそろ終わってくれ。頭おかしくなりそうだ」
クリス「終わったら終わったで、俺が木偶になるぞ? ひとまずはダンジョンの外に出ないと、クソの役にも立たん」
奏「はあ。分かった分かった」
ダンジョン、ジ・オールドから出た後、次はアスカの番ということになった。ちなみに、クリスは演技が切れてめちゃくちゃ恥ずかしがっている。放っといたらこのまま死にそう。
「ああああ……恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……なんで本人の前で本人の演技をしちゃうのかしら……ああぁぁ……」
「……アスカ。こっちは俺に任せて、お前のを披露してくれていいぞ」
「うえぇ……って言われてもなぁ……。まあ、いいかぁ……よろしくね?」
って言っても、ちょっと分かりにくいんだけどね……、と呟くアスカ。それに疑問を抱くカナデだったが、その理由はすぐに分かった。
「【月読】!」
アスカの『夜空シリーズ』の星が、一瞬瞬いた。そして、その光はアスカに莫大な強化を与えることになる。
「【次元間狙撃】」
ドパァァンッ! と放たれた弾丸は、俺の真横にいた岩型のモンスターを破壊した。
……だがおかしい。こいつは俺たちの正面に撃ったはず。だが、来たのは真横のモンスター。まさか……
「空間を超えた狙撃が出来るのか?」
「そうなの! だから最大狙撃射程も伸びたし、自在に曲げることも出来るようになった!」
「凄いな……その破壊力が自由に襲ってくるのはちょっと……」
「あとね、こんなこともできるよ! 【銀河充填】!」
今度は『朧』に光が集まっていく。幼い頃見た流星群を思い出した。だが、そのスナイパーライフルは、あらゆるものを破壊する一撃を示す。
「そろそろかな? よし、【銀河の一撃】!」
―――――――
カナデは思った。あれ? 音が消えた? と。だが、次の瞬間には全てを理解することになった。
ゴオオオオオオオッッッ!!!
薙ぎ倒された森林、抉られる大地、大量に入る経験値。それら全てがその破壊力を物語る。音が聞こえなかったのかと勘違いした理由は、一瞬で空間が圧縮され、真空空間が生まれたからだ。
「うーん! やっぱり気持ちいなぁ! どう? 凄い? 凄いでしょ!」
「凄いってか凄すぎるな……え、ヤバ……。対戦車ライフルが一時的に超超高火力のエネルギー銃になったわけか……」
「そうなの! しかもこれ、クリスの【治癒神】を貫通する威力があるんだよ! 本当に凄いでしょ!」
「更に破壊性能に磨きがかかる……」
これを先ほどの【次元間狙撃】と組み合わせれば、相手の拠点を一瞬で破壊するチートオブチートが生まれるのでは? と考えた奏だったが、今度はアスカ直々に否定された。曰く、この二つのスキルは併用できないとのこと。メテオバーストの方が強すぎたかも、だそう。
「いやー……なんか今日だけで〈魔王軍〉がクソチートクラスにまでなった気がするな……読者から何か詰められそうだ」
「「読者??」」
それから数日、奏は色々な準備をした。レヴィアタンから最後のアイテムの購入、【創造】の強化や、スキルの新たな使い方等。
なぜかって? そりゃ―――
『さあー! 今回も始まりました! 第三回イベント! 司会は私、ソフィアが務めさせていただきます!』
「「「「「「「オオオオオオオオッ!!!!」」」」」」」」
イベントが始まったからだ。
展開が急で本当に申し訳ない……。悪いとは思っているんです。本当です。




