暗殺者、罠にかかって目覚める
「くっはめられたか!」
リブは険しい顔を浮かべながら周囲を睨みつけていた。
俺も、周囲を眺めながら探していた。
だが、見つからない。それがないと、俺はここに来た意味などない。
「メフィレス、一つ聞きたいんだが」
「ほぅ、なんだい? 最後に聞いてあげよう」
「レイはどこだ?」
俺の問いかけにメフィレスは視線を右上にうつして考えこむ。そして、なんどか頷いた後、再び視線を戻して俺をみた。
「誰かと思ったら君と一緒に住んでいた子供だな? 安心していいよ。今はロンド伯爵のところで元気に過ごしているそうだ。だが、君がしる必要のないことだ。これから彼らに殺される君には」
「そうか、よかった」
俺は、レイが無事という話を聞いて安堵した。
もちろん、メフィレスの言っていることが本当かどうかなんてわからない。しかし、望みがあるというだけで俺にとっては本当にありがたい。
「よかった? 死んでいくのによかったなんて、君は自殺願望でもあったのかな?」
「自殺願望? それはお前たちだろう?」
ここにいるのはおそらくは暗殺者達だろう。
それが二百人もいる。
どの人物も、一定以上の力を持っており、手ごわい相手だ。
そもそも、暗殺者ギルドに所属している暗殺者は三百人に満たないらしい。だとすると、ここには、少なくとも三分の二以上の暗殺者がいるということになる。
ならば。
それをすべて殺せば、ほぼ壊滅状態ってことだ。
とてもありがたい。
「せっかく集まってくれたんだ。手間が省けたというものだ」
俺は、ギフト『流れるもの』を全開で行使する。
それはつまり、今から俺は人から人と認識されなくなることを意味している。
だが、そのギフトにやや違和感を感じていた。
いままでにない感覚。
俺は、それを感じて思わずギフトを解除した。
俺がその違和感に戸惑っていると、メフィレスはどこか勝ち誇ったように告げる。
「何をいってるんだい? 私が何のためにあの娘をさらったと? お前が動いたら、あの娘も殺すよ。大層可愛がっているようだからね。せいぜい、あの娘を守って死んでいくといい」
「なにを! 卑怯な!」
リブが叫ぶ。
だが、メフィレスはどこか楽しそうにほほ笑んでそれにこたえた。
「卑怯? 何を言ってるんだ? お前は。ここは暗殺者ギルド。ただの命のやり取りが行われる場所。そんな場所に卑怯もなにもあるわけがない。あるのは目的と手段と命のやり取り。それだけだ」
「くっ! シン! どうする!? このままではレイが!」
焦った様子のリブとは裏腹に、俺はなぜだか落ち着いていた。
暗殺者二百人に囲まれて、レイも人質に取られて、そんな状況なのに俺はなぜだか危機感を感じていない。
あまりの恐怖にどこか狂ってしまったのか? それとも、単に麻痺しているだけかのか。
そう思惑するも、それは違うと俺の心は叫んでいた。
なぜだか確信しているんだ。
俺も、レイも大丈夫だということを。
その理由は俺にもわからない。しかし、俺ならばなんとかできる。そんな自信に今の俺は満ち溢れていた。
「大丈夫だよ、リブ。レイは助ける。俺もリブも殺されない。今の俺なら、それができると思うんだ」
「何を――」
リブは驚いていたようだが、俺はもう一度ギフトを行使する。
『流れるもの』。
ずっと一緒にやってきた相棒は、さっきから俺をせっついているような気がするんだ。
思えば、このギフトに気づいたのは、こっちの世界にやってきてすぐだった。
誰も俺のことを覚えていない。
俺が何をしようと当然のように受け入れる。
わけがわからなかった。
けど、それもこれもこのギフトのせいだった。この力に気づいて、俺は最初に恨んだ。なぜこんな力を授かったのか。
前の世界で神の力を信じてこなかった俺だったが、神をも恨んだ。
だが、このギフトのお陰で生きてこれた部分もある。
レイに出会えた今となっては、かつての恨みも薄れている。
そんなギフトが俺に呼び掛けている。
応えてくれと暴れている。
ギフトを行使しようとすると、何かが吸い取られるような感覚がひどい。さっきは驚いておもわず引いてしまったが、今ではわかる。踏み込まなきゃならないと。
「思い込んでいたんだよな。ギフトで使える力は一つだって。そして、位階が上がって向上するのは身体能力だけじゃない。それがわかったんだ。誰に教えられるでもなく、自然と」
「シン……」
「決めつけていた。俺が流れることができるのは人の中だけだど。けど違ったんだ。もっとギフトは自由なんだろうな……だから、俺は流れるよ。そしてレイを助けてくる」
俺はそうリブに告げた。
メフィレスを一瞥すると、心底楽しそうに顔をゆがめて笑っている。
「はは! たすけるだって? こっからどうやって逃げていくのか見ものだね。せいぜいあがいて――あ、ああ!」
「な、シン、まさか! そんなことが!」
二人が驚いているのも無理はない。
俺だって、第三者の立場なら驚いただろう。
けど、今の俺には不思議じゃない。驚くことでもない。
正直、とんでもなく疲れたし体もぐったりしているけど、俺はやれるとわかっていた。今、この腕の中にあるものが現実だ。
「お……父さん?」
「ああ。レイ。怖かったな。もう大丈夫だ。助けに来たぞ」
俺の腕の中にはレイがいて、ようやく状況が呑み込めたのだろう。
途端に涙を浮かべながら泣き声をあげる。
俺は、そんなレイを強く抱きしめながら、そっと頭を撫でていた。




