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暗殺者、チートする

「ま、まさかそんな! 一体どうやって!」


 草原の向こうでは、メフィレスが目を見開き、頭をつかんで声を挙げている。

 向こうからしたらとんでもないことに見えるのだろうが、俺からしたらそう複雑なものでもない。

 単に空間を『流れた』のだ。


 俺は、自分の限界を決めていた。

 ギフトの使い方も決めていた。

 暗殺の時には、特にギフトを行使しようと思わなくても支障はなかった。だが、レイと出会ってからは話が違ったのだ。

 

 今までは当然のようにこの世にいないようなものだったが、レイと出会ってギフトを行使する、という能動的な行動をしないと俺はギフトの力を発揮できなかった。それでも不十分だったのだ。

 だからだろうか。

 いままではしてこなかったギフトの使い方で、今までと同じ力を使っているとどこか不思議だったのだ。

 まだ、ギフトのすべてを使っていないような、一部分しか力を込めていないような、そんな不思議な感覚があった。


 思い込みを捨て、そして力をすべてに込めたら、俺はどんなものでも渡れるのだろう。

 もちろん、人よりも上がっているらしい位階も理由の一つかもしれない。

 レイや位階、今までの経験など考慮するところはあるかもしれないが、もろもろのお陰で俺は今レイを助けることができた。


 空間を流れ、そしてレイのもとにたどり着き連れてきた。

 たったそれだけのこと。


「これで、俺を縛るものはなくなったな。じゃあ、リブ。レイを頼めるか? さすがに一人で置いておけないからな」

「あ、ああ。わかったが……後でしっかりと説明してくれるな?」


 困惑顔のリブに、俺は小さく微笑んだ。


「気が向いたらな。じゃあ、レイ。すぐ終わるからまっててくれるな? 帰ったら、またみんなでご飯をたべよう」

「うん! 怪我、しないでね」

「大丈夫さ」


 そういって俺は駆ける。

 取り囲んでいる二百人に向かって、飛び出した。


 すると、俺がまだ何もしていないにもかかわらず、暗殺者の中から悲鳴があがった。

 そこをみると、燕尾服の男とメイド服の女がなにやら周りの人に襲いかかっているのが見えた。


「ははっ、なんでいるんだよ」


 俺の視線の先にいるメイド服の女。ヤーナは、両手から自分の身の丈もある炎を出しながら数人を火だるまにしていた。

 もちろん、火だるまにされた暗殺者はたまったものじゃないだろう。

 炎から逃れようと必死で地面を転げまわっている。


「ご主人様。いい加減、ことを起こすのが遅すぎてふらふらなんですがどうしてくれましょうか。さっさと、殺りやがれ、です」

「馬鹿言うな! レイがいるんだ! 人を殺すところを見せたくない! 殺すなよ!」

「そんなこと言われなくても分かっています。全く、余計なことを言うくらいなら、殺りやがれ、です」

「だから殺すなっていってんじゃん」


 俺は走りながら突っ込んだ。

 その突っ込みに反応してくれたのはアンドレイだ。

 アンドレイは、なにやら細長い針のようなものを使って周囲の暗殺者へ攻撃を繰り出している。


「ヤーナの炎は温度も大きさも消えやすさも自由自在でございます。おそらくは、命の危険がないように温度の調節をおこなっているのでしょう。ですから、安心なさっていただいて結構かと思います」

「そうか! だが、どうして二人が? 俺の敵じゃないとは言っていたが、もうこれじゃあ、ギルドの所属に戻れないじゃないか」

「ご安心を! もとより、私もヤーナも最強の暗殺者であるシン様にあこがれを抱いていたのです! ですから――こうしてお役に立てることに歓喜しているくらいです」

「あこがれ? アンドレイとヤーナが?」

「そうでございます。あのヤーナの言葉遣いなどは、単なる照れ隠しでしょう。影ではついつい毒舌になってしまうのを後悔しておりましたからな」

「アンドレイ! 余計なことをいうな! です」


 ヤーナのほうをみると、なにやら顔を真っ赤にしてわめいている。

 っていうか、照れ隠しがあの毒舌とか、どんだけツンが強めなんだ?


 そう思いながら、アンドレイの戦い方を見ると、心底えげつない。

 細長い針を何本を刺していくのだが、その刺し方が計算されつくしていた。最初は痛みを感じない部分から、徐々に痛みが強いほうへとより中枢へ近づいていく。あんなやられ方をしたら、早く殺してくれと心が折れるほうが早いのかもしれない。


「さぁ、ご主人様にあだなすものたちよ。生きていることを後悔する日が来ましたよ」


 そう言って針を刺していくアンドレイは、今までに見たことないような笑みを浮かべていた。

 こんなに楽しそうなアンドレイは初めてだ。

 その純粋な笑顔に、背筋に悪寒が走る。


「これが理由で執事を首になった。あまりみたくない、です」


 ヤーナが顔をゆがめながらそう叫んで教えてくれる。

 ああ、これがアンドレイの言ってた趣味か。

 ぞくりとしつつも、そんなことにかまけている暇はない。こんなやり取りをしている間にも、アンドレイとヤーナは数人の暗殺者を戦闘不能にしていた。


「じゃあ、俺もそろそろ行きますか。あいにく、俺は仕事を失敗したことがないんでな。覚悟するんだな」


 暗殺者達にそう告げて、俺は流れていく。

 人の間を。

 ゆったり、のんびり。

 短剣で、暗殺者達を撫でていった。

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