暗殺者、騎士団に招待される
「っ――!? ミスリル級ですか?」
俺は家に帰ってギルドでのことを皆に報告した。
すると、普段は冷静沈着なアンドレイがみるからに驚いている。となりにいるヤーナも毒舌を出せずに押し黙っていた。
そんなすごいものなのかね、と不思議に思いながら俺は冒険者証を眺めていた。
「そんななのか? 俺は疎いからわからなくてな」
「ミスリル級……現在それを保有しているのはご主人様を含めて十人に満たないと思います」
「王都でか?」
「世界中でございます」
まさかそんなに少ないのか。
俺は、改めてミスリルで作られた冒険者証を見ていると、よこからひょこっとレイが顔をだした。
「これ、きれいだね」
「ああ。お父さん、ちゃんとした冒険者になれたんだ。全部で十人しかいないらしい」
「十人しかいないの!? すごいね、お父さん!」
「ああ。もっとレイが自慢できるようなお父さんになれるように頑張るからな?」
「えっと、もうお父さんは自慢のお父さんだよ?」
あぁ、今日もレイはなんて可愛いことを言ってくれるんだ。
「レイもお父さんの自慢の娘だ!」
「へへ」
うん。はにかんだ顔が可愛い。
「それでアンドレイ。別にこれを持ってるからって何か弊害があるわけじゃないだろ?」
「そうでございます。が、これからご主人様の名は王都中に広がっていくことでしょう。どこでも引く手あまたですので大変かもしれません」
「あんまり忙しいのは嫌なんだがな。レイと会えないし」
「あいかわらず事の重大さをわかっていない低能なご主人様、です」
報酬はすべてアンドレイに託した。
その量に驚いていたが、すべて渡すことにも驚いていたようだ。まあ、俺が持っててもしまっておくだけ。なら、アンドレイに任せたほうが有効に使ってくれそうだ。
「そういえば、アンドレイの考えてくれた予定を崩して悪かったな」
「いえ。私がご主人様のお力を把握できていなかったせいでございます。ドラゴンを討伐する力があるのなら、ミスリル級も納得でしょう」
俺とレイは、少し遅めの朝食を食べながら話をしていた。
相変わらず、ヤーナの作る食事はおいしい。
今日も、シンプルに焼いたパンとスープとサラダくらいしかないのだが、なんだこのうまさは。わけがわからない。
「まあ、今日はとくにやることはないし。レイ、どこかに遊びにでも……どうした? 外に何かあるのか?」
「うん。誰かおうちにくるみたい」
「こんな朝早くにか?」
レイの言葉に促されるように俺は窓の外をそっと見た。
すると、確かに屋敷の前に馬が横付けされており、誰かがきたようだ。っていうか、よく気付いたな、レイ。
俺が室内を振り返ると、屋敷の呼び鈴が鳴る。
それに対応するべく、アンドレイがすぐさま動き出す。
「シン! やっぱりお前はすごい奴だったんだな! まさかドラゴンを討伐してミスリル級冒険者になるなんて!」
アンドレイが通してきた人物。
それは、先日からまれた女騎士であるリブだった。リブはなぜだかうれしそうに笑みを浮かべながら俺の肩をばんばんとたたいている。
いや、痛いんだが。
「リブお姉ちゃん! 遊びに来てくれたの?」
「ああ、レイちゃん。元気にしてたか?」
「うん!」
リブは来て早々、愛しのレイと楽しそうに話している。
確かに、レイに夢中になるのはわかるが、レイもうれしそうなのは少しだけ気に入らない。だが、ここで苛立っては器の小ささを露呈するようなもの。断じて、俺は心の狭い父親ではない。これくらい、飲み下せる。
「レイと遊ぶのはいいんだが、何の用だ? 雑談するために来るほど、お前も暇じゃないんだろう?」
俺が声をかけると、リブは何かを思い出したように手を打つと、背筋を正して俺の前に立った。
「そうだったな、すっかり忘れていた。今日は団長から言伝があって来たんだよ」
「団長って……クロイツか?」
「ああ。一応書簡もあるが口のほうが早いだろう……内容は簡単なことだ。シン、お前を正式な客として騎士団に招きたいそうだ」
「騎士団の招待?」
俺は、それを聞いてめんどうなことになりそうだな、と思わず大きなため息を吐いてしまったのだった。




