暗殺者、昇級する
ドラゴンを討伐して、レイと楽しい夜を過ごした次の日。
俺は約束通り、冒険者ギルドに行った。
昨日はかなりイラついていたから細かいところは覚えていないが、結構失礼なことをしてきた気がする。とりあえず、あの門兵には謝らないといけないな。かなりの無茶ぶりをした気がする。
まあ、レイを優先させたのは後悔はない。
一応申し訳なく思ったから門によったが、昨日の男はいなかった。
しょうがないから、その足でギルドへと向かった。
ちなみに、レイはいまだに眠っている。
昨日遅かったから仕方ないだろう。
俺が冒険者ギルドに入ると、いつもの受付嬢がいた。そして、俺の顔をみてやはり慌てて奥に引っ込む。
昨日も見た気がする。
デジャブだ。
だが、昨日と違うのは、ギルド長と思われる人物があっという間に現れたこと。
これには少し驚いた。
「待たせたな」
「いや、それほど待っていない。それより、昨日は悪かったな。少し腹の虫の居所が悪かったんだ。申し訳ない」
俺が男にそういうと、彼は目を見開いて俺の全身を見回した。
なんだ、その反応は。
「なんだ? ジロジロみて」
「いや、まさか謝罪を受けるとは思っていなかったからな」
「昨日はいろいろと無茶をいったから。とりあえず、やるべきことがあればやるさ。なんでも言ってくれ」
「そうか。そう言ってくれるとありがたい。まあ、とりあえず奥へ行こうか」
俺は、小さく会釈をするとそのまま男についていった。
奥の部屋。
そこは、それなりの装飾が施されており調度品も置いてある。
来客者用の部屋なのだろう。
柔らかい革のソファに向かい合わせに座ると、男はおもむろに口を開く。
「昨日は挨拶もできなかったからな。まずは自己紹介といこう。俺は冒険者ギルドの長だ。エリセオという」
「俺はシン。銅級冒険者だ」
そういって互いに握手を交わすと、エリセオは噴き出すように苦笑いを浮かべた。
「ははっ、ドラゴン討伐する銅級がいるか! しかも、あんだけの殺気を出せるんだ。普通じゃないだろ?」
「昨日は娘が待ってたんでな。ちょっとイライラしてたんだ」
「娘? 結婚してるのか?」
「いや、保護してるんだ。ただの保護者だよ」
そんな雑談を交わしていると、入り口から受付嬢が現れる。
彼女は、何も言わずにお茶を出してくれた。
それを飲んだが、普通にうまい。毒も入っていなかった。
「そういえば、昨日のドラゴンのことなんだがいろいろ聞いていいか? 一緒にいた男に聞いたのだが、細かいところはよくわからなくてな」
「ああ、たまたま立ち話しただけだから。あいつにも謝っておかないと」
「まあ、不足分だけ聞かせてくれ。まずはだな――」
そうして聞かれたのは、ドラゴン討伐についてのいろいろだ。
どこで遭遇したのか。
首から下はどこにあるのか。
どうやって討伐したのか。
などなど。
当然、話せないこともある。
言えないことは当然言えないと伝えると、エリセオは頷いてくれた。
「まさか、王都近くの森にこんな化け物がいるとはなぁ。シンが討伐してくれて助かった。ありがとな」
「まあ、こいつは悪さをするような奴じゃなかったかもしれない。俺が功を焦って巻き込んだかわいそうな奴だ」
「さすが、いうことが違うな。そうしたら、聞き取りはここまでだ。まずは、報酬についてだが」
エリセオは受付嬢に目配せをすると、彼女はそのまま出て行った。
そして、しばらくすると、数人の職員とともに戻ってくる。その両腕には大きな袋が抱かれていた。
机に置かれたそれは、どしゃりとすさまじい音をたてた。
「これは?」
「あのドラゴンを譲ってくれたら払える金だ。全部で三万枚ある。こっちに保管してある顔と森の奥にある胴体とともに譲ってくれたらこの金貨を即金で支払おう」
「ふぅん」
俺が、机におかれた三つの大きな金貨袋を見ていると、エリセオはやや顔をしかめて俺の顔を覗き込んだ。
「足りないか?」
「いや。金が問題ってわけじゃない。胴体が無事だとは限らないがいいのか? その辺の魔物に荒らされている可能性もある」
「それでもかまわない。というか、これだけのドラゴンだ。死体といえども近づける魔物はそういない。この身に宿っている魔力は相当なものだからな」
その言葉に俺は肩をすくめると、交渉も面倒だとおもい首を縦に振った。
「報酬はそれでかまわない。別に金が欲しいわけじゃない」
「ほぅ。なら何が欲しい?」
「決まってるだろう? ランクだ」
「そうか……名誉を求める、か」
エリセオは訳知り顔で頷くが、正直名誉なども俺にはいらない。
金は生きる分さえあればいい。
名誉など、役に立たないものも必要ない。
必要なのは一つだけだ。
何かって?
そんなのきまってるだろう。
「名誉もいらない。俺が欲しいのは、かっこいい父親としての立場だけだ。レイがかっこいいっていってくれるような、そんな胸を張れるような仕事ができればいい」
俺がそういうと、ようやく納得したのだろう。
エリセオは大きな口を開けてぽかんとしていた。
いや、納得してるよな? わかってんだよな?
「おい、エリセオ? 聞いてるか?」
「え? ああ。そうだな。聞いている。その……レイっていうのが娘の名前か?」
「ああ。レイについて聞きたいなら話してやろう。そうだな、まず、レイの一番かわいいところは――」
「いや! 今日は時間がないからな! いい! 今度でいい!」
む?
あんなに可愛いレイのことを聞かないなんて、人生のほとんどを損しているようなものなのだが……。
まあ、時間がないならいい。
時間があるときに聞かせてやろう。
「報酬と、あと伝えたいことがある。ランクについてだ」
「お。そうだ。かっこいい父親にふさわしいランクに早くならなきゃならないんだ。それで、銀級にはあがるのか?」
「それだがな……」
そういうと、冒険者ギルド長であるエリセオは上着のポケットから何かを取り出す。
よくよく見ると、それは冒険者証であった。
だが、俺の持っているのとは色が違う。何やら、白く輝いていた。
「お前のランクは銀じゃない。その上の金でもない」
「それじゃあ一体――」
「ああ……冒険者ランクの最高峰。金級のさらに上……――ミスリル級だ」
やけにまじめな顔のエリセオが、俺に冒険者証を突き出してくる。
冒険者証は、不敵な輝きをはなちながら、俺の目の前で鎮座していた。




