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娘、屋敷で一人で過ごした日


 お父さんが仕事に行く。

 

 それを聞いたとき、わたしは目の前が真っ白になった。



 

 わたしはレイ。

 昔は高遠麗だったけど、いまはただのレイ。

 本当のお父さんとお母さんだっているけど、いまいっしょにいてくれるのは、シンお父さん。


 森で迷って、何もわからないわたしを助けてくれたお父さん。


 ずっと一緒にいてくれて。

 優しくて。

 ご飯を食べさせてくれて。

 一緒に寝てくれた。


 昔は、本当のお父さんもお母さんも優しかったけど、もうわすれちゃった。

 いっぱいぶたれて、どなられて、かなしかったから。


 だからいまは幸せ。

 シンお父さんと一緒にいれて幸せ。


 けど、ずっとそばにいたお父さんが仕事に行くっていった。わたしのこと、どうでもよくなったのかな? また、ほっとかれるのかな?

 そうおもったけど、ちがかった。

 お父さんは、こういってくれた。


「俺は絶対に戻ってくる。必ずレイの元に戻ってくる。それだけは約束だ。俺は、レイを一人にしない」

「だから、待っていてくれるか? 帰ってきたら、一緒に晩御飯を食べよう……な?」


 お父さんはわたしに嘘をついたことがない。

 

 だから信じようって思った。

 がんばってお留守番して、そしたらきっとお父さんも褒めてくれる!




 

 おうちには、アンドレイとヤーナがいる。

 

 さん、ってつけたらわたしはつけちゃいけないんだって。そう言われた。

 おとななのに、さんつけないなんて、不思議。


 でも、それももう慣れた。

 ふたりはいっつも忙しそうだけど、わたしが話しかけると聞いてくれる。


「ねー、アンドレイ」


 歩いてるはずなのにすごい速さのアンドレイに話しかけると、にこってわらってくれた。


「どうしましたか? お嬢様」

「あのね。お父さん仕事にいっちゃったから。わたし、何してればいい?」

「何もせずともいいのです。何かあれば私かヤーナにお申し付けください」


 何もしなくていい。


 その言葉をきくと泣きそうになる。


 ずっとお母さんから言われてきた言葉。何かすると怒られる。わたしがダメな子だからだ。

 じっと床をみて泣くのを堪えていたら、アンドレイはそっとわたしの頭に手をのせてくれた。


「では、こういうのはどうですか? 私は今から屋敷の掃除をいたします。お嬢様には、ぜひそのお手伝いをお願いしたい。ご主人様のお部屋を綺麗にしてあげたら、きっと喜ぶのではないでしょうか?」

「ほんと!? おとうさんうれしいかな!?」

「はい。それはもう」

「ならやりたい! いいの!? アンドレイ、怒らない?」

「もちろんです。さぁ、行きましょう」


 アンドレイといっしょに、お父さんのお部屋に行く。


 お父さんのお部屋は二階。

 お父さんのお部屋っていうけど、夜はいっつも一緒にねるんだ。お父さんはいっつも、不思議な笑い方をしていいよって言ってくれる。

 あの不思議な笑い方が、わたしはすっごく好きなんだ。

 

 そんなお父さんの部屋を、アンドレイと一緒に掃除をした。


 窓を拭いて。

 

 床を拭いて。


 ベッドのシーツも一緒にとりかえた。

 アンドレイはすごい! シーツがぴしっとしてて。しわなんて一つもないんだから!

 私が触るとすぐにくしゃくしゃになっちゃうから。

 ちょっと、悔しかった。


「そういえばアンドレイ」

「なんですか? お嬢様」

「おとうさんが無くしたっていってたやつ見つかったの?」

「ああ、魔石ですね」


 なんだか、この前、お父さんが何かをなくしたって言ってアンドレイとヤーナと一緒に探してた。

 すっごいちっちゃな石みたいなんだけど、おとうさんのお仕事の道具に使うんだって。

 それがなくても大丈夫だけど、あったほうがいい、みたいないことを言ってた。


「それが見つかりません。まだ、魔力を込めていない石というのもあるのですが、大きさが、本当に小さいものでしたので」

「んっとね……それって、これかな?」


 わたしは、なんだかよくわからないけど、何かが気になった。

 床を拭いてるとき、つい見ちゃう場所があったんだ。

 掃除が終わってみてみると、小さな石が床の木の隙間に入り込んでたんだ。だから、これかなって思ったの。


「これは――たしかに魔石です。ご主人様が探していたのと特徴は一緒ですね」

「ほんと!? よかった! これでお父さん、よろこんでくれるかな!?」

「……それは、もう。きっと大喜びですよ」

「うん、よかった!」


 でも、本当に小さな石だなぁ。

 ありんこよりちっちゃい石だけど、何に使うんだろう?




 その後はお昼ごはん。


 ヤーナが作ってくれるご飯はいっつもおいしいんだ!

 今日もなんだかすっごいいいにおいがする。


「ヤーナ! 手、洗ってきたよ!」

「さすがはお嬢様。ご主人様のような薄汚い存在とは違いますね」

「お父さん、汚くないよ?」


 そういうと、ヤーナはとってもきれいに笑って、料理を運んでくれる。

 

「いただきます!」


 今日も、あっという間に食べ終わってしまった。

 もっと食べたいなって思うけど、すぐにお腹いっぱいになっちゃう。お父さんはいっぱいたべられるからうらやましいな。


「ねぇ、ヤーナ。ヤーナは私が何してればいいと思う?」

「それは、今日の話ですか?」

「うん。お父さんいないから。何やってればいいかわからないの」


 ヤーナをじっと見ていると、なんだか考えてくれてるみたいだ。

 しばらく待ってたけど、突然なんか変な感じがした。

 変な感じがするほうをみても、何もない。なんだろう。


「……お嬢様。何かありましたか?」

「なんか、変な感じがするの。知らない人が、おうちにくるみたい」

「誰かが来る?」


 その知らない人はなんだかとっても嫌な感じ。

 しばらく待ってると、やっぱりおうちに誰か来た。アンドレイがでてくれたけど、すっごい嫌な感じ。


 わたしは思わずおとうさんの部屋のベッドに飛び込んだ。


 しばらくすると、知らない人が外にでたのかドアの音が聞こえた。

 まどから覗くと、アンドレイと知らない人が話しているのが見えた。

 知らない人もアンドレイも怖い顔をしてて、ふたりは手紙を交換してた。

 なんだかよくわからないけど、アンドレイのお友達なのかな?


 ようやく、怖くなくなったけど、なんだかお父さんのベッドは気持ちいい。

 お父さんの匂いがする気がする。


 しばらくごろごろしてたら、いつのまにか寝てしまったみたい。


 

 

 目を覚ます。

 外をみると、もう真っ暗だ。

 同時に、なぜだかお父さんが帰ってきてるような気がした。


 あわてて食堂にいったけど、お父さんはいない。アンドレイとヤーナが晩御飯の準備をして待っていた。


「アンドレイ、ヤーナ。お父さん、帰ってきた? なんか、帰ってきた気がしたんだけど」


 わたしがそういうと、アンドレイは首を横に振った。


「いえ、まだでございます。本来の予定であればもっと早く帰ってくるはずなのですが」

「どうせどこかで寄り道でもしてるのでしょう。お嬢様を悲しませるなんて、とんだ腐れ外道、です。帰ってきたら残飯でも食いやがれ、です」

 

 二人はいないっていうけど、わたしは不思議とお父さんはもう街にいるって感じた。

 けど、お父さんをみないと安心できない。

 

 もう街にいるのに帰ってこないってことは、レイに会いたくないのかな?

 それか、もう帰ってきてくれないのかな?

 だとしたら悲しいな。

 けど、泣いたら嫌われちゃうから、我慢しなきゃ。

 大丈夫。

 るすばんできるよ、わたし。


 じっと待つ。

 きっと帰ってきてくれる。そうおもって待ってたら、屋敷のドアが開いた。

 あわてて食堂を出ると、そこにはお父さんがいた。

 いつもの、不思議な笑い方をしてるお父さんがいた。


「お父さん!」

「レイ!?」


 お父さん、お父さん、お父さん、お父さん!

 帰ってきてくれた! よかった! 捨てられてなかった! よかった、よかった!


 何をいったか覚えてないけど、わたしはそのまま泣いてしまった。

 泣かないって決めたのに。

 お父さんをみたら、こらえられなかった。


「ごめんな? 遅くなって。ごめんな」


 そのお父さんの声がとっても優しくて。

 私は、とっても安心したんだ。





 

「それで、今日はどう過ごしてたんだ? 遅くなっちまったしな。長かったろ?」

「うん! アンドレイとお部屋を掃除したんだよ! それでね! お父さんがなくしたやつもみつけたの!」

「無くしたやつ?」


 私がそういうとアンドレイが石を持ってきてくれた。


「掃除をしておりましたら、お嬢様が気の隙間にあるこれに気づいたのです。お嬢様はそちらをお掃除しておらず突然だったのでとても驚きました」

「こんな小さいのが見えたのか?」

「ん? ううん! なんか、変な感じがするなって思ったの」

「変な感じ、ね」


 お父さんは、そのまま黙り込んでしまった。

 あれ?

 だめだったかな?

 みつけたらいけないやつだった? そしたら、どうしよう!

 お父さん、怒ったかな。

 えと、その――。


「レイ、ありがとな! こんなちっちゃいの見つけられるなんて、すごいなぁ!」


 ぱっと笑ってくれてそういってくれた。

 よかった!

 喜んでくれた!

 そう思うと、私もすっごくうれしくなる。


「ほかには何をしてたんだ?」

「ほかにはねぇ……お昼ごはんたべてね……あとね、変な――」

「ご主人様。こちら、メインの料理でございます。あたたかいうちにお食べください」

「お! うまそうだな。そういれば、レイはおひるごはん、何食べたんだ?」


 変な人が来てたんだけど……。

 まあ、いっか!

 お父さんが聞いてくれてるならちゃんと答えないと!


「お昼ごはんはね――」


 いろんなことを話してると、あっという間に時間がすぎた。


 そのまま、いっしょにベッドにはいって、お父さんにぎゅっとして寝た。


 お父さんはあったかい。

 

 今日はお父さんがいなかったけど、ちゃんとがんばれたんだよ?

 だから、いっぱいぎゅってしてね、お父さん。


 大好き、お父さん。


 おやすみなさい。

 

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