29話 狙われるグレンデル
「何から話しましょうか。まずはドライバーとは何かを教える必要がありますね」
テーブルに紅茶を置いたレイモンドはグレンデルを見る。
「この世界の魔法には四つ色があることは知っていますね」
「攻撃色、創造色、強化色、治癒色の四つです」
頷きながら食い入るように話を聞くグレンデルは間髪入れずに答える。
「そう。その通り。でもあなたは違う。無属性魔石は握ったことがあるかしら」
「無属性魔石?」
首をかしげるグレンデルにサリスが助け舟を出す。
「俺の家で握ったやつだよ。色が変わるってやつ」
「あ、私は白に光りました」
目が覚めた手術室を思い出し「あ~」と懐かしむ。思えば最近だった気もするが、いろんなことが起こっているので遠い記憶にも感じる。
「白に光った人はスキャナーかドライバーってことも知っていますよね」
順調に話が進む。レイモンドはさながら授業の様な口調で続ける。
「はい。ドクターがスキャナーで、わたしがドライバーってことだけ」
一つ一つ記憶をたどりながら思い起こす。思えば、自分の事は何もわからないまま進んできた。このアリスデリカで自分が一体何者か分かるかもしれない。そんな期待がグレンデルの心に湧いてくる。
「そう。サリスはスキャナー。重ねての説明になってしまうかもしれないけれど、本来人間は決まった一つの色の魔法しか使えません。でもスキャナーは違う。全ての色の魔法が使えます。しかも高出力で」
レイモンドは、サリスを指さしながら少し早口で説明をする。そして、グレンデルの方を向く。
「で、ここからが本題です。グレンデルさん、あなたはドライバー。ドライバーとは全ての色の魔法が使えるだけでなく、同時に幾つもの魔法を属性主に関わらず、詠唱できます。つまりどんな魔法でも、同時に詠唱できます。ただし、スキャナーと比べて出力は低いです」
説明しながらグレンデルを向くレイモンドはなぜか物悲しそうに教えてくれる。
「わたし、そんなことできるの……?」
あまり実感が沸いてこないグレンデルはサリスとレイモンドの顔色を見ながら話を聞いている。
「あぁ。グレンデルの事だから、早くに話すと試したくなるだろ?そんなことして制御できなかったら危険だから話していなかったんだ。そろそろ話しても良い頃合いだと思っていたしちょうどよかったよ」
椅子の背もたれに全体重をかけるサリスは腕を組みながらグレンデルの方を見る。
「同時詠唱は、もう経験しているはずです。あの試験で見せた魔法。魔石の力を借りているとはいえ立派なドライバーの力です」
ひとまずドライバーの説明が終わった。部屋に少しの静寂が訪れ、レイモンドは紅茶を淹れなおし、グレンデルは自分の両手を見て「知らなかったなぁ……」と独り言をつぶやいている。
「それで、グレンデルさんを保護する理由と私の考えを聞いてもらいたいのですが良いでしょうか」
「あぁ。それが聞きたかったんだ。話してくれ」
サリスは淹れなおした紅茶に息を吹きかけ、啜る。
「あっつ!飲めねぇ。氷入れてくれ」
「はぁ……猫舌は相変わらずですか。『ユミル・フロスト』。さぁ続きを話しますよ」
レイモンドがティーカップに手をかざすと小さな氷がカップに落ちる。熱い紅茶に入った氷はゆっくりと解けていき紅茶から昇る湯気を消す。
「氷が出た……ユミル様の魔法も綺麗……」
氷が解けていく様をジーっと見ているグレンデルを見てほほ笑むレイモンド。その視線に気づいたグレンデルと目が合う。首をかしげるグレンデルを見ながら話を始める。
「終焉徒はグレンデルさんの力を欲しています。フナリスやフレイグスでのグレンデルさん達の活躍をいち早く耳にした終焉徒がここの裏切り者にそれを伝えた。そう考えるのが自然ですかね。もっとも、これといった確証も無ければ、グレンデルさんを狙う理由もわからないですが」
「私たちそんなに有名になってるの?」
レイモンドから目を離せないでいるグレンデル。レイモンドは微笑んだまま答える。
「あの有名な魔術師サリスとリューシュが何やら女の子を連れて旅をしている。話題性はバッチリですよ?それに『一緒にいる女の子は誰だ』となるのも想像に難くないですね」
「つまりドクターが有名すぎるせい?」
振り返りサリスを見るグレンデル。サリスは大きくため息を吐いた。
「はぁ。結局俺か……なんとなく分かっちゃいたが、そこまで人が話題にするものかね」
「あら。サリスが世間を気にするようになりましたか。驚きですね。心配しなくても魔法に携わっている者だけの話ですよ」
心底驚いたようにレイモンドは目を見開く。どうやら町中とは言わないものの知っている人は知っている程度には有名になってしまっているらしい。
レイモンドは「それから」と話し続ける。
「私の考えですが、教師陣や管理係など、それなりに地位の高い者が裏切り者だと睨んでいます。でないとすぐに尻尾を出しているでしょう。私がグレンデルさんを預かろうというわけはそういう事です。もちろん授業は普通に受けてもらいますが、課外授業や放課後の研究室授業は私の教室に来てください。あなたを守るために」
サリスとグレンデルを交互に見て、訴える。そこに悪意は無いだろう。アリスデリカとグレンデルを守りたい。その思いが伝わって来るようだった。
「俺はグレンデルが良いなら構わない。レイモンドは信頼できる」
サリスはグレンデルの肩をポンとたたく。
「わたしは、レイモンド先生にいろいろ教わりたいです。だから、先生のところでお世話になります」
サリスに押され一歩前に歩み出たグレンデルはレイモンドの前で頭を下げた。
「こちらこそ今日会ったばかりの私を信じて下さってありがとうございます。では明日の入学手続きで詳しい話をしましょう。今日は休んでください」
「わたしこそよろしくお願いします。レイモンド先生」
この日はレイモンドと約束をして終わった。リューシュ達と待ち合わせしている学校前の広場までサリスとグレンデルは話しながら歩く。
「レイモンド先生、良い人だったね。私のこと守ってくれるって」
少し声色が高くご機嫌といった様子のグレンデルはサリスの隣を少し速足で歩く。
「あいつも丸くなったなぁ。あれでも昔は性格に難ありだったんだぜ?部下に厳しい奴だったよ」
「ドクターたちの昔話また聞きたい。リューシュもアベンチュリンさんもレイモンド先生もどんな人だったかすごく気になる」
「んー。それはまた今度だな」
視界の先に見えた広場ではリューシュ、ベルコ、ロアとロコがそれぞれくつろぎながら待っていた。




