28話 音楽室でティータイム
「命を狙われるって、どういうことですか」
グレンデルは慌てて聞き返す。
「あなた、自分の力には気がついているかしら」
心当たりがあった。サリスから聞いたドライバーのこと。
「あ、あります、心当たり」
レイモンドは頷く。
「心配することないわ。私が守るから。親御さんは来ているわね?会わせて下さる?」
「はい。ドクターと一緒です。呼んできます」
グレンデルは部屋から出ようとする。
「待ってください。私も行きます。セリック。立ち合いありがとうございました。この件は私が預かります。内密に」
部屋の扉に向かいながらグレンデルを引き止める。
「了解です。通常通りの手続きをしておきます」
レイモンドとグレンデルは並んで部屋から出た。
「さて、業務に戻りましょうか」
少し遅れてセリックも演習室を後にした。
「さて、ここで待っています。お連れの方を呼んで来てください」
円形のロビーに入ってすぐの壁にもたれる様にしてレイモンドは待つ。
「わかりました」
グレンデルは先程まで座っていた椅子に向かいサリスを見つける。どうやらまだ寝ている様だ。
「ドクター、起きて。先生が呼んでる」
サリスの肩を揺するとすんなり目を覚ます。
「ん、もう終わったのか。余裕だったか」
大あくびをするサリスに向かい少し大きめの声を出す。
「先生が、呼んでるの。お話があるって」
「なんかやらかしたか?」
立ち上がり、ニヤニヤとグレンデルを眺める。
「テストはバッチリだったもん。この前出した魔法出せたもん」
手応えがあったのに茶化されると、少しご機嫌斜めになる。私は頑張ったと訴える様にサリスを見上げる。
「あ、あの先生。レイモンド先生っていう先生」
グレンデルが指差す先には壁に寄りかかり腕を組み当たりを見回しているレイモンドが居る。
「え?レイモンド?あいつか?」
レイモンドの名前を聞いた途端サリスの様子が変わる。そして姿を確認するなりみるみる顔色が変わる。
「やべ、レイモンドってやっぱりか」
「先生、連れてきました」
グレンデルの声を聞き、顔をこちらに向けたレイモンドは目を見開く。
「まさかこんな所で会うとは思いもしませんでした。」
「俺もだよ。こんなところで先生になっているなんてな。お前が一番嫌いそうなあ場所じゃないか」
「あら、あなたこそ保護者ごっこですか。こんな可愛い子を連れまわすなんてあなたの趣味も変わりましたね」
嫌味っぽく言うサリスを見てレイモンドも言い返す。
話についていけないグレンデルは二人を交互に見て首をかしげる。
「レイモンド先生もドクターの知り合い?」
「あぁ、この前話した討伐隊のメンバーだよ。氷雨。なんて呼ばれていたな」
「あら、討伐隊の話はしているのですね。魔術師さんなら私が何を話したいか、分かりますよね」
サリスは無言で頷く。
「こちらへ」
レイモンドについて行くように三人は歩き始める。長い廊下を歩き階段を上り三階へ。三階の突き当りの部屋に招かれる。
「すごい。楽器がたくさん」
「趣味だけは上品だよなお前は」
スペースのほとんどを楽器で埋め尽くされた部屋は音楽家の自室といった印象を受ける。無造作に置かれている様にだが雑には見えない。手入れの行き届いた楽器たちは演奏されるのを今か今かと待ち構えている。
「私の研究室です。人を招くようにはできていないのでくつろげないですがお掛け下さい」
部屋の真ん中に置かれたテーブルと椅子。四人が座れるようになっているが少し小さい。音楽と向き合う為だけの部屋だと認識させられる。
「リューシュの部屋のナイフみたいだね。すごく綺麗」
「楽器は全くわからんな。リューシュの部屋は悪趣味だろ」
レイモンドから出された紅茶を飲み、それぞれくつろぐ。
「さて。単刀直入に聞きます」
自分の紅茶も用意して椅子に座ったレイモンドはグレンデルを見つめる。
「グレンデルさん。あなた他の子とは違うわよね」
グレンデルは少しドキッとした。自分でも分かっているつもりだったが改めて言われると身が強張る。意味もないのに背筋が伸びる感覚。
「根拠は」
グレンデルの隣に座るサリスが鋭く切り返す。
「魔法を見させてもらいました。それも普通の人ではできない魔法を」
確かにグレンデルが使う魔法は通常の魔法使いでは出来ない魔法だ。魔石に魔素を注ぎ込んで発動するなんて、やろうとも思わないだろう。
「まぁ、気付くよな。で、なんでグレンデルが狙われると言い切れる」
「それはもう少し私の質問に答えて頂いてからお答えします」
「まだなんかあんのか」
サリスは溜息をレイモンドに見せつける様に大げさに吐いた。
「私に、質問なんでしょ?どうしてドクターが溜息するの」
サリスの顔を覗き込んだグレンデルはレイモンドに向き直る。
「私に質問あるなら、聞いてください。答えれると、思います」
記憶がないことで、ちゃんと答えることが出来るか不安なのか、言葉は尻下がりになっていく。
「分からなかったら俺が助けるよ」
グレンデルなりに出来る事を頑張っていることを察したサリスは、苦笑いしながらグレンデルの頭をポンポンと叩く。
「仲がよろしいことですね。ではグレンデルさん」
「はい」
背筋を伸ばし、次の言葉を聞き逃すまいとレイモンドの顔をまっすぐ見つめる。
「あなたは何色の魔法が使えますか?いえ、使えない色はありますかと聞きましょう」
足を組みなおし上になった右ひざの上に組んだ両手を置く。グレンデルの目線に合わせ前かがみになる。
「えっと、いままで、攻撃色と創造色、それから治癒色も使いました。強化色は…えっと、使ってないです」
「ありがとうございます。サリス。こんな重要な子を知っていたなら、私に連絡くらいくれても良いではないですか」
ジトっとサリスを睨む。
「怖いって。仕方ないだろレイモンドが何処に居るかなんて分からないだろ」
サリスはどうどうとレイモンドを両手でなだめるジェスチャーをする。
「まぁ、それはいいとして。わかりました。今から話す内容を覚えておいてくださいねドライバーさん」
グレンデルは目を見開く。
「い、今のお話だけでわかっちゃうんだ」
「これでも世界最高の魔法学校で先生をしていますからね。グレンデルさん。この学校には今現在終焉徒所属の裏切り者が居ます。内部の者ですらその事に気付いている者は少ないでしょう」
神妙な面持ちで淡々と語るレイモンド。こんなところにも終焉徒の手が伸びているようだ。
「終焉徒か…邪神の介入も考えられるな」
独り言をぶつぶつと言い、顎に手を当て「ふむ」っと考え込むサリス。
「裏切り者が誰かと、それに付く邪神が何なのかはまだわかりません。ですが確実にこの学校を蝕んでいます。確証もありますが今はいいでしょう」
グレンデルは心の中に少し引っかかっている事があった。
「ご、ごめんなさい。すこし失礼なこと…聞いちゃうんですけどいいですか」
再びグレンデルの視線に腰を落としたレイモンドに疑問をぶつける。
「さっきの先生の話、ドクターは全部信じてる。あんなに考えれるドクターが、なんでだろうって思って」
「まぁ、そうなるよな」
真顔でグレンデルの話を頷きながら聞いていたレイモンドは聞き終え、噴き出した。サリスもフッと笑う。
「っぷ!あはは!そうね。そうだよね!初対面の相手の話を信じろだなんて無理よね!」
今までの雰囲気とは違い楽しそうにコロコロ笑うレイモンド。グレンデルにとって最初の印象はカッコよかったが、今は可愛らしい女の人といった感じ。
「びっくりした…レイモンド先生って、実はこんな人?」
グレンデルの脳内の困惑が止まらないが、レイモンドは更に続ける。
「安心して頂戴。私は裏切ったりしないわ。少し怪しいかもしれないけれど、この街の守護神と契約を結んだ身だからそんな事出来ないのよ」
椅子から立ち上がり、ほらっと上着のポケットから一つの魔石を取り出してグレンデルに見せる。グレンデルも立ち上がり、おぉ…と声を上げる。
「青い魔石…でも奥の方で白いモヤモヤが出てる。綺麗…」
「これはアリスデリカの守護神“氷神ユミル”の魔石です。とても綺麗でしょ。私はこのユミル様との契約でこの街を、ユミル様を裏切ることは出来ないの」
これで証明になったかしら。とレイモンドは言い魔石をポケットにしまう。
「疑っちゃってごめんなさい。でもすごく綺麗だった。私もユミル様に会いたい」
「いつもの魔法大好きが出てきたなグレンデル。今度案内するよ」
サリスも立ち上がりグレンデルの頭に手をポンと乗せる。サリスの方を向いたグレンデルは小さく「やった」と微笑んだ。
「で、これからが本題だろ?なんでグレンデルを保護する必要があるんだ」
椅子に腰かけ話を戻す。
「そうですね。話しましょう」
サリスが椅子に座ったのを見てグレンデルとレイモンドも座る。
「まずはドライバーのことからでしょうか。グレンデルさんは詳しく知っていますか?」
あまり詳しく説明を聞いていなかったグレンデルはよくわかっていない。
「分からないです。教えて欲しいです」
「ではそこから話しましょうか」
そう言ってレイモンドは紅茶を飲んだ。




