23話 目玉焼きの朝食
大変お待たせして申し訳ありません。
少し私事で更新が止まっておりました。
これからも是非楽しんでいただけると嬉しいです。
「あなた達って緊張感とか無いのかしら」
和やかな雰囲気で会話をするサリス一行の話し声とカチャカチャと食器の音が聞こえる中、私は耐えかね声を上げた。
「まぁ、そう言わないんだよ~!ほら、目玉焼き冷めちゃうよ??あぁグレンデルちゃん、口の周りいっぱい付いてるよ~」
相変わらず朝からニコニコと笑顔なリューシュがグレンデルの口を拭きながらこちらに顔を向ける。
彼女の顔を見るとふと昨日のことを思い出してしまう。
私は昨日目の前の3人と戦い敗れた。更には説き伏せられ、今こうして食事を共にしている。疑問が出ない方がおかしいだろう。
「どうして昨日まで刃を交えた人と食事をとらないといけないのかって言ってるのよ」
リューシュに向けた私の目線は恐らく冷たいものだ。昨夜の様に。
「どうしてって、ベルコちゃんもなかなか寂しいこと言うなぁ、友達にこんなにいい宿に泊めらせて貰っているんだからご飯くらい一緒に食べようよ~!!」
そんな目線もなんのその。帰ってきた返事はは駄々をこねるという予想外の答えだった。
「まぁまぁ、ベルコ様。そんなに気を荒らげては体に毒ですよ」
私の食事の給仕を終え、手が空いたのだろう。奥の扉から入ったアベンチュリンが笑いながら言う。
「あなたもなんとか言ってちょうだいよ。少し話し合いくらいしてもいいんじゃないかって。それからなんであなたが私の名前を様付けで呼ぶのかしら」
「そんなに不思議なことではありませんよ。この宿に泊まっているという事はあなたもお客人。それ以上の理由はありませんよ」
エプロンを畳みながらグレンデル達が座っている食卓につく。これから朝食といった様子だ。
私以外全員が座って食事をしている光景は傍から見れば滑稽であろう。意味不明のアベンチュリンの言葉に絶句し立ち尽くす。
アベンチュリンとサリスとグレンデルはカチャカチャと食器の擦れる音を立てて食事をしているがリューシュは机に頬杖をついてニコニコとこちらを見ていた。まるで私のことを愛おしいと思っているかのような視線。怒りや戸惑いの感情は消え、困惑に変わる。
「なによ。」
「いやぁ、グレンデルちゃんも可愛いけど、ベルコちゃんも可愛いなぁって思ってね~。私とご飯食べようよ!!お腹すいてるよね??すいてるでしょ!?」
グレンデルの頭をクシュクシュと撫でながら立ち上がり私の腕をとる。相変わらず顔いっぱいの笑顔で。この女、笑顔以外の表情は出来ないのだろうか。
そう言えば昨日の一件のあとも腕を掴まれたがそれよりも更に優しく掴んできた。
「だからなんであなた達と食事をっ…ひゃぁ!」
とらなければいけないのか。と言いかけたところで私の腹が鳴る。っっ!こんなタイミングでっ!
「あははははは!ベルコちゃんお腹は正直だねぇ!」
「仕方ないじゃない!!昨日は何も食べてないのよ!!成功するか分からない作戦で、ロキ様の力も借りて、緊張しない方がおかしいじゃない!」
お腹を抑えて笑うリューシュ。
きっと私の顔は真っ赤になっている事だろう。顔がカーっと熱くなる。
「ん、ベルコさん、結構可愛い」
「おい、グレンデル。そんな事言ったら」
視界の端ではさっきまで食事を頬張っていたのだろう、ほっぺたを膨らませたグレンデルがもぐもぐと独り言を呟く。
私の荒立てた声を聞いたサリスがグレンデルを阻止するように声をかけるが私には全て聞こえている。
「分かったわよ!食べればいいんでしょ!食べれば!」
リューシュの手を振りほどき椅子に座る。出来たてで湯気があがっている目玉焼きは少し半熟に焼かれ、適度に胡椒が振られ見れば見るほど食欲をそそってくる。乱暴にナイフとフォークを掴むと黄身を割り一口大に切り口へ運ぶ。
「美味しい。目玉焼きってこんなに美味しかったの」
「びっくりしたベルコちゃんはやっぱ可愛いね!!!アベンチュリン君の作るご飯は絶品だからねぇほっぺた落ちそうでしょ‼︎」
私に隣の椅子に座ったリューシュがグイッと顔を近づけまた笑うこの笑顔も“友達”になったからなのだろうか。私とまともに話しかけてくれるのはロキ様と彼女達だけだろう。物心ついた頃から一人だった私には出来たこともない存在。思い出したくもない過去が頭によぎる。それを振り払う様に私は話題を変える。
「で、あなた達の目的は何。私の起床を待っていたってことは何か聞きたい事でもあるのかしら」
「ああ、聞きたいことが山積みだ。本題に入ろう」
「それはっ!」
頭を掻きながらサリスが取り出したものは真っ黒い杖の様なもの。他の者がそれを見ても何に使う道具か全く分からないだろう。ただ、ベルコは違う。それは正しく昨夜の戦闘でベルコが使っていた杖だった。
ベルコの同様も気にせずサリスは続ける。
「この杖はどこで手に入れた?杖って言うよりは棒って言った方がいいか」
サリスの言う通りだ。それは杖のように見えるが杖ではない。邪神ロキによる恩恵が施された黒魔道具。サリスは尚も淡々と言葉を紡ぐ。
「俺達はグレンデルの失われた記憶を戻す旅をしている。この間お前のような終焉徒から黒魔道具を取り上げてな。グレンデルが触った途端記憶の一部が戻った。俺は黒魔道具とグレンデルの記憶には何か深い関係があるんじゃないかと睨んでいる。お前に危害を加えたりはしない。知っている事を話してはくれないか」
ベルコは少し驚いていた。敵から情報を聞き出すにはもう少し手荒い方法もあるはずだ。少なくとも自分ならそうする。と。
ふとリューシュとグレンデルを見ると「むむむ」と今にも言いそうな顔でサリスを見ていた。
なるほど。この2人が止めているのね。
「何かと思えば、あなた達情報が無いのね。たまたま訪れた街に、たまたま終焉徒が居たから倒したって感じなのね。私の運が悪かったわ」
ベルコは手をヒラヒラとしながらため息混じりに呟く。
「いいわ私の知っている情報を教えましょう。その黒魔道具はロキ様から頂いた物。元になっているものは『結晶』よ。ここまで言えば誰の結晶か言わなくても分かるんじゃない?」
この程度の情報は遅かれ早かれ彼らが知る情報だ。私の口から言っても問題は無いだろう。
結晶。そるは体内魔素が凝縮され身体の源にある人としての形を保つもの。役割ごとに記憶、運動、形成、思考の4つに分けられる。
「やっぱりそういうことか。記憶が戻っていた時から薄々は勘づいていたが本当だったとはな」
「まぁ、ここまで証拠が揃えば答えは一つだけだよねぇ」
「あなた達も大変な子と旅をしているのね」
「要らないお世話だ。俺は好きでやっている」
サリスとベルコの会話はリューシュが少し加わる形で加速。グレンデルは目を丸くして全く会話についていけてない。アベンチュリンは瞼を閉じて話を聞いている様子だ。
「ドクター、今の話どういうこと?この杖、そんなに危ない物なの?」
ユサユサと白衣を引っ張るグレンデルの頭に手を置きサリスはグレンデルが分かるよう、掻い摘んで説明する。
「この黒魔道具の原料はグレンデル、お前の記憶の結晶だ。どうやって取り出したのかは知らんが、ドライバーであるお前の記憶が悪用されている。これだけは事実だ」
「わ、私の記憶…?少し難しい…」
グレンデルら眉に皺を寄せ俯く。
「ん~!簡単に言うと、この杖みたいな黒魔道具を持っている人をぜーんぶ倒して、黒魔道具をぜーんぶ集めて、その全部の黒魔道具に触れればグレンデルちゃんの記憶は元通りって事!!!分かりやすいよね!?」
待っていましたと言わんばかりにグレンデルの顔の前に詰め寄ったリューシュはニコニコと説明する。
「まぁ、早い話がそういう事だな終焉徒を全部倒しちまえば問題解決だ」
サリスも頷きながら呟く。
「君たちはもう少し穏便な言い方が出来ないものか…」
腕を組み目を閉じていたアベンチュリンはそのまま呟く。
「あなた達がとっても脳天気なのがはっきり分かったわ」
ベルコもため息。
張り詰めた空気が緩んでいく。
「あっ、やっぱり宿屋さんに居たね。ウチの勘やっぱり冴えてるかも。お話は終わった?フナブ様が読んでる。グレンデル達を迎えに来たよ」
その空気を更に一転させたのは昨日も聞いた精霊の声だった。
「ロアさん!また会えたね!」
記憶を乱用されている事実を飲み込めず、暗い顔をしていたグレンデルだったが空を飛ぶ手の平サイズの精霊に元気が戻った様だ。
「フナブ様が昨日のお礼をしたいんだって。一緒に神殿まで行きましょ」
昨日以来気に入ったのかグレンデルの頭の上にちょこんと乗ったロアは神殿の方角を指さす。
「フナブ様ってもしかして!」
たちまちグレンデルは目を輝かせるとロアに尋ねる。それに応えるようにロアは優しく応える。
「そう。この街に居る治癒の神様だよ」




