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スーパーヒロイン学園  作者: 仰木日向
BUSTERS REPORT - File 1 『こうもり傘と罪と罰』 - Guilty,Penalty,and Umbrella
20/22

ファントム捕縛任務②

 1時間くらい経過しただろうか、あたしとテイルは、なんでもない雑談をしながら過ごしている。オオカミ男のジュリアスはまだ現れない。


「ねぇレディ、この街のこと、どう思う?」

「どう思うって?」

「おかしいと思わない?どうしてバスターポリスは、こんな街を放置してるのかしら。ヒーロー全員で協力してこの街の悪と戦えばいいのに、ヒーロー庁はそれをしようとしないみたい」

「そりゃ、いまのグローリーデイズはヒーローっていうかアイドル寄りだしなぁ」

「一世代前はあんなに強かったのに、どうしてこんなことになってるのかしら…」

「平和が続いたからじゃない?まぁ、いいことなんだろうけど」

「小さい頃来た時は普通の街だったのに、5年前、この街になにがあったのかしら」

「5年前って…ああ、この街がなぜか急に立ち入り禁止になった時のこと?」

「ええ。私、このことが気になって、ヒーロー庁の人に詳しいことを聞いてみたことがあるの。でも、その話をしようとするとみんな口が重くなるっていうか、話をはぐらかそうとするのよね」


 たしかに、あたしもそれについては違和感を感じている。この街と他の行政区は、治安が違いすぎる。そして、一般人は決して知ることのないこの現状。徹底し過ぎている情報規制も、なんのためなのかはバスターティーンズのあたし達にも知らされていない。


「ヒーロー庁がなにか隠してるとか…?」

「私は、少しそんな気がしているの……ところでレディ、少し話は変わるんだけど『こうもり傘事件』のことは知ってる?」


 こうもり傘事件。最近、テレビとかでもたまにやってるやつだ。どんな事件だっけ?たしか、犯罪者だけを狙って殺してる殺人鬼が『こうもり傘』って呼ばれてて…傘持ってるのかな?


「あ~あれね、うん、知ってるような知らないような」

「やっぱり、気になるわよね」


 あ、しまった。よく知らないぞ。どうしよう。と、とりあえず…。


「こうもり傘ってあれだよね?ファントムの――」

「え? ああ、違うわ。こうもり傘はファントムとは関係ないみたいなの」

「ありゃ?そうなの?」

「むしろ、ファントムやファントムを支持する犯罪者を抑制するために報道してるんじゃないかしら。犯罪者を殺す殺人鬼、っていうのは、それなりに抑止力になるだろうし」

「なるほどね、ヒーロー庁的には都合がいいってことなのか。犯罪者が犯罪者を狙えば共食いになるみたいな?」

「…でも、私はそんなやり方、間違ってると思う」


 少しシリアスな面持ちで、フレイムテイルは言う。


「犯罪者は確かに悪者だけど、殺して解決なんてそんなの間違ってるわ。罪の償いをする責任も、やり直すチャンスも奪ってしまうなんて、そんなのおかしいもの」

「まぁ、殺せばいいってのはたしかにちょっと短絡的過ぎる気がするなぁ」

「だから私、ファントムとの戦いもだけど、こうもり傘のことも捕まえたいと思ってるの」

「へぇ。さすがだね。あたしもそいつ見つけたら捕まえとくよ」


 その時、二人同時に敵の気配を察した。垂れ流すような殺気。どう考えても尋常じゃない何かが、いま店内に入ってきた。


「テイル…いま」

「ええ、来たようね」


 歩きながら近づいてくる気配。そしてその何者かは、あたしたちの背後にゆっくり迫る!


「君たち、未成年だろ?学校はどうしたんだ。なんで昼間からこんなところにいるんだ?」

「え?」

「あ、えっと…」


 話しかけてきたのは、どうやらこのあたりを管轄にしている警官だった。


「いや、えっと、これにはわけがありまして」

「身元わかるものある?まさか、お酒とか飲んでないよね?」

「あの、だから、聞いてください」

「違うんだっておじさん!あたしらモゴ」


(犯罪者の縄張りで身元を明かしちゃダメよレディ!)

(ああそうか、めんどくさいなぁ!)


「なにをコソコソしているんだ。親御さんに電話するから、ちょっと署に来てもらうよ。まったく、一体どうやって学生がこんなところまで入ってきたんだ」

「いや、だから聞いてください」

「君たちあれかね、ギフト能力者の不良かね」

「いえ、違います、あの」

「あーわかったわかった、とりあえず来なさい。話は署で聞くから」


(テイル、どうする?)

(とりあえず行きましょ。派出所ならたぶん身元を明かしても平気だわ)


 あたしとテイルは、大人しく警官の後ろについて歩く。その道すがら、あたしたちは妙に注目を集めていた。まぁ、この空間では確かに浮いてるけど、でも、その視線は何か、次に起こることを見逃すまいというドス黒い期待感のようなものを感じさせた。


「全く、ほんとにどうやってここまで入ってきたんだ。信じられないよ。よく無事だったね」

「いやぁ、なんていうか、あたしら運がいい方っていうかなんていうか、ハハハ」


(レディ、警戒を緩めちゃダメよ)

(え?)

(いま、話を聞いてたカナリアさんからインカムに連絡があったわ。そもそもチェルシータウンには、派出所なんて一つもない)

(……!)

(なるほど、ってことは)

(どうやら、当たりみたいね)


「おまわりさん、派出所ってどこなんでしょうか?結構歩いたと思うんですが」

「ん~?おかしいなぁ、道に迷ったかなぁ」

「へぇ。おっちょこちょいなんですね」

「はは、仕事仲間にもよく言われるんだ。まさかそんな小さな電話でお話ししてたなんて……おじさん気づかなかったよ」


「…………」

「そろそろお昼を食べようと思うんだけど、よかったら君たちもどうだい?」


 いつのまにか人気のない路地裏に入り込んだあたしたちは、どうやら完全にこの男の縄張りの中にいるようだった。


「…実は私も、危険な男と火遊びしたい気分だったの」


 一瞬でヒリつく空気。お互いの距離、呼吸を感じつつ、周りの環境を確認出来るだけ確認しながら、あたしとテイルは同時に上に飛んだ!脱ぎ捨てたマントとベールを鋭い牙で噛みちぎったオオカミ男ジュリアスは、オオカミ男といいつつ8割以上オオカミだった。


「バスターティーンズのフレイムテイルよ!あなたをメガトンベースに連行します!自首すれば痛い目に遭わなくてすむわよ!」


 飛び乗った屋根の上からジュリアスに言う、その言葉に、ジュリアスは怪物のような咆哮で応えた。頭がやられてファントムからも見捨てられたハグレ者というのは本当らしい。もはや、ジュリアスはただの猛獣だった。


「テイル!説得は無駄だ、こいつ理性がない!」

「…そのようね」


 すると、ジュリアスもまた、強靭な脚力で屋根の上まで飛び上がってきた。そして、屋根の一部を食いちぎる!


「なんつーアゴだ!」


 うっかり感心しつつ、足場を失ったあたしたちは二人とも元の路地裏に戻る。それを、上から落ちてくるように迫るジュリアス。


「しゃがんでテイル!」

「!」


 あたしは、落ちてくるジュリアスのその顔面を、宙返りのような形で回し蹴りをして路地裏の突き当たりの壁まで吹き飛ばす。遠慮なく蹴った体は壁を突き破り、その奥の建物を倒壊させた。


「一発で…すごいわね」

「いや、たぶんまだ襲ってくるんじゃないかな」


 予想通り、倒壊した建物を突き破るように、ジュリアスは4足歩行で雄叫びを上げ、そしてまっすぐに向かってきた。


「やっぱりか!ようしもう一発…」

「レディ、消火栓を探して!」

「え?消火栓?」

「早く!」

「わかった!」


 よくわからないけど、とりあえず消火栓を探してみる。その間に、ジュリアスはテイルに突撃し、そして、鋭い牙でテイルの体を胴体から食いちぎった!?…ように見えたけど、あれ?


 モヤっと歪む影。一瞬で蜃気楼を作る恐るべき炎の熱で、テイルはジュリアスの牙を逃れていた!


「こっちよ、嘘つきオオカミさん」


 そして、テイルはジュリアスの首に背中から抱きついて言う。


「一緒に燃え上がりましょ♪」


 テイルはジュリアスに抱きついたまま、信じられないような熱量の炎の塊になった。ジュリアスはのたうち回りながら必死に火を消そうとするも、テイルの火力はさらに上がっていく。周りの景色が歪むほどの炎に包まれて火だるまになったオオカミ男は、もうフレイムテイルどころではなく、とにかく熱さで体中を掻きむしりながらのたうち回っていた。


「レディ!消火栓を壊して!」

「え!?ああ!」


 フレイムテイルが叫ぶ。あたしは、消火栓を引き抜いて叩き割り、噴水のように水を噴き出させた。


「ハァッ!」


 ジュリアスを担ぎ上げたままジャンプしたフレイムテイルは、そのまま消火栓の上でジュリアスを水浸しにし、火だるまになった体を消火した。そして、そのまま地面に投げ捨てる。叩き付けられた地面に雨のように降る消火栓の噴水の下で、ひどいヤケドを負ったオオカミ男は元の人間の姿に戻り、のたうちながら水たまりの中に体を沈めていた。


「任務完了!ありがとレディ♪」

「あ…ああ。さすがだなぁ」


 温厚なイメージだったフレイムテイルだけど、意外と容赦ない逮捕劇にあたしはちょっと度肝を抜かれた。能力の性質もあるんだろうけど、想像してたよりずっと迫力のある戦いぶりだ。


「あ、またインカム溶けちゃった。耐火性に難があるのよね…」

「まぁ、あの炎に耐えれるインカムがあったら、むしろその方が驚きだけど」

「ふふ、技術部に頑張ってもらわなきゃね!」


 フレイムテイルは、またいつものあどけない笑顔で話す少女になっていた。


「……さっき、実力的にはあたしが1位って言ってたけど、そんなことないかもね」

「え?」

「やっぱり、さすがバスターティーンズ1位だ。ひと味違うよ」

「そうかしら?ありがとうレディ♪」


 ジュリアスの護送をフレイムテイルに任せたあたしは、インカムでカナリアに任務完了の報告をし、現場解散でそれぞれ帰路につく。ちょうど、しとしとと雨が降り始めた時だった。



 いま思えば、これがいけなかった。


 この時、あたしもフレイムテイルと一緒にジュリアスを護送していればよかった。

 そうすれば、もしかしたらあんな事態は避けられたのかもしれない。

 いや、関係ないか。

 どっちにしろ、こっちの人数なんかおかまいなく、あいつは来たに違いない。


*~*~*~*~*~*~*


 朝、6時過ぎ。

 窓に目をやると、殴りつけるような激しい雨。

 遠くで雷が鳴っている。

 押し潰すような空。


 昨日ちょっと調子に乗りすぎたかな。

 体がダルい。


 任務携帯【ミッションベル】の着信で目を覚ましたあたしは、ベッドの中でメールを読む。

 

 AM 6:21 MAY 13 TUE MESSAGE From : BusterPolis HeroAgency

 D-U-T-Y BusterTeens-5th Place【LadyDynamite】

EXERCISE AREA "SquareGarden"

   MISSION "maintenance of public"


「…またか」


(続く)

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