表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枯淡  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/40

17.織が“好きかもしれない”と気づいた夜

裕介がシャワーから出てくると、二人で、リビングのソファで乾杯した。


多少腹が減っていたため、裕介が何か作るよ、というと、お願い、とだけ言った。


ダイニングに向かう裕介を横目に、織は、PCを開く。

こういう隙間時間でも、織は書ける。

タイピングは、速いほうだと思っている。

人が喋るくらいのスピードで、文字を打ち込む事が出来る。


裕介は、初めて織がそうやっているのを見た時には、目を丸くしていたくらいだ。


裕介の顔を見て、話しながらでも、キーボードを打つ事は出来るのだ。


十分後くらいに、裕介が、フライパンで、焼いたシャウエッセンを皿に盛りつけてきた。

皿に縁に、マヨネーズも添えてある。

爪楊枝が、シャウエッセンに刺してあった。


「いただきます」


織は、そう言って、ひとつまみ口に入れると、香ばしい匂いが漂う。

塩コショウ加減が絶妙だった。

女は、男の胃袋をつかめ、というが、逆の方がよほどいい、と思う。

料理の旨い男なら、女はきっとある意味、安心するのだ。

そう思っているのは、私だけかもしれないが。


織は、さらにもうひとつ、シャウエッセンを口に咥えると、裕介に向き直る。

裕介も、察してか、織の咥えたシャウエッセンを反対から咥える。


ポッキーゲームみたいなものだが、普通にそのまま裕介と口づけをする。

そうやって、皿に置いてあるシャウエッセン全てを、二人で平らげた。


キスしているか、食べているのか、分からないが、いい大人同士で、こんなくだらない事で楽しめるのが、織にとっては、幸せなのだ。


裕介の事を、本当に、好きになってしまったのかもしれない。

もう半年以上もの付き合いになる。

今日、雪のところに連れて行ったのも、心の何処かにそういう想いが芽生えているから、かもしれない。


「ハイボール飲みたい」

そう言うだけで、裕介は立ち上がり、冷蔵庫から炭酸水を取って、ダイニングからウィスキーのボトルを持ってくる。


「氷、買ってないよ、そういえば」

「いらない」


織は、ボトルを受け取ると、開栓する。

ウィスキーのこの匂いが好きだった。


一時期は、ウィスキーにハマりすぎていて、一人で一晩で、ボトル一本空けてしまった事があった。

地元に帰ってきてから、裕介と知り合うまで、約十年の間、男の影は無かった。


そもそも作家として、ずっと家に籠っているので、出会いが無かった。


必然的に、酒を飲むようになった。


タバコもかつては吸っていたが、何年か前に、止めた。


あまりの自堕落した生活で、何かしらを制御したかったのだ。

喫煙スペースがかつてに比べて、ずいぶんと少ないのも、禁煙に拍車をかけた。


シーバスリーガルをグラスに半分ほど入れて、炭酸水を足す。


酒は、作家になってから、強くなった気がする。

出版社の集まりの後の飲み会に参加した時は、一人だけ最後まで平然としていたのを覚えている。


裕介の方は、以前、会社の飲み会で、飲み放題の日本酒を飲んで、記憶を無くして以来、酒の飲み方には、気をつかっているらしく、合間に必ず水を飲んでいた。


この穏やかな男には、似つかわしくないエピソードだと、思う。

織が、裕介の事を知らないだけだ、と裕介は言う。


そうであろうとなかろうと、織にはあまり関係が無かった。

裕介が休みの日に、家に来ては、織の遊び相手になり、帰っていく。

仮に、本当に裕介の事が好きだとしても、それで十分に思えた。


やがて、きっと裕介も、自分に愛想を尽かせて、妻の元に帰るのだろうと思う。

だから、こうしている今を、大切にしたかった。


甘い香りが口に広がる。

二杯目を口に含むと、隣にいる裕介に口移しで飲ませる。


裕介の喉が鳴る。


「…結構、濃くつくるね」

「ウィスキーでしょ?」

「その方が、いいの?」

「味が、全然違う」


もう一度、口移しで飲ませる。


裕介の顔がみるみるうちに赤くなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ