蘇る魂の道しるべ㉒
子供達は元気に返事をして、一斉に散らばっていくのであった。
⇨
夕方過ぎ、孤児院に笑い声が響く。
「がっはっはっは!それでこのチルドレン達は一生懸命工作をしてるという訳か!いいぞ、いいぞ。実際に手を動かして何かを作り出す事は脳に良い影響を与えるからな!」
運搬から帰ってきたローランちゃんは、ご機嫌な様子でジョッキを傾けている。
「ローラン偉そう!」
「ローランも手伝え!」
「ローランお酒くさい!」
子供達は口々に不満を言う。
「がっはっは!オーケー!オーケー!では僕はアイデアを出すとしよう!本来、僕の知識は君たちには買えない代物さ!それをタダで与えてあげようではないか!感謝したまえ!チルドレン達よ!」
「ローラン、やっぱり偉そう!」
「ローラン、口じゃなくて手をうごかせえ」
「ローラン、お酒きんし!」
「ふっふっふ。君たちぃ。これを見ても、そう言えるのかなぁ?」
ローランちゃんは得意げに歩き出し、何やら折り紙を折り始めた。
ノリやハサミを使い、パパパパっと工作している姿を見て、子供達も感嘆の声を漏らす。
「わあぁ・・・」
「はやぁい・・・」
「いつものローランじゃない・・・」
ローランちゃんは、あっという間に何やら長方形の物体を作り上げた。
「さあっ、チルドレン達よ!ここを引っ張ってみるがいい!」
ローランちゃんは長方形の底部分を指差す。
「ポンタ・・・ひっぱってみろよ」
「う、うん・・・」
1番近くにいた子供が、そぉ~っと引っ張る。
すると長方形の物体はパカッと割れ、扇子のような扇状の物体が現われた。
「うわわっ、すっげー!」
「かっちょいい!」
「どーなってんだ?!」
「がっはっは!どうだ?!知りたくないか?!この技術を!」
「僕たちにもできるの?!」
「ああ、もちろんさ!君たちの可能性は無限大だからねっ!」
「わああ!やりたい!やりたい!」
「教えてっ、ローラン!」
「がっはっは!良いとも、良いとも!さあっ、座ってよく見てるが良い!」
「やったー!」
「ああいう所は流石は技術者さんって感じですね」
「そうでやんすね。あっしもローランの姉貴が技術者ってことを、すっかり忘れてたでやんす」
「ぼく・・・ちょっと参加してきます・・・」
やはりルルも魔道具の整備士なだけあって、血が騒ぐようだ。
子供達と一緒になって工作を始めている。
「運搬は順調ですか?カインさん」
「ああ。明後日には完全に終わりそうだ。そのままここで『お別れ会』をしてもらい、出発は3日後の朝ってとこだな」
「ふむふむ。では僕達も、そのタイミングでドルグレムに出立します」
「ああ、了解。しばらくはドルグレムで暮らすのか?」
「ええ。当分はドルグレムに滞在すると思います。あそこは最新の技術で溢れてますからね。情報収集も兼ねて、ノンビリと過そうかと思ってます」
「ふむ。俺らもガタリヤに到着したら、とりあえず本部に帰ると思う。今はクリヤッテ島に新たな開拓地が見つかって忙しいらしいからな。そっちの応援に向かうかもしれんが」
「500年ぶりでしたっけ?新天地の場所が発見されたのは」
「ああ、正確には527年ぶりだな。島自体はそれほど大きな島ではないから聖都の結界を展開したら島のほとんどをカバーできそうだが・・・やはり巨大結界を展開出来る場所は貴重だからな。念入りに調べる必要があるようだ」
「クリヤッテ島か・・・・なんか聞いた事があるんですよね・・・どこだっけな・・・」
「ああ。大聖都ハミスで稼働している発魔システム。あの装置が毎回出す『魔廃石』を廃棄していた島だな」
「ああ。そうだ、そうだ。その廃棄場所になってた島か・・・こりゃ、結構揉めそうですね」
「そうだな。まあ、廃棄場所を変えることになるとは思うが、ハミスにとってはなるべく秘密にしておきたい情報だったからな。それが今回の事で多くの人に知られてしまった。『どうやら原因不明の魔廃石ってヤツが大量に排出されているらしいぞ』『もしかしたら発魔システムは危ないのでは?』といった雑音も多くなるだろうな」
「ふーむ」
「がーっはっはっは!そうか!陰キャ女君は、このまま子供達の面倒を見るのが夢なのか!それはそれで素晴らしいではないか!君にだったら安心して任せられるな!」
ローランちゃんは子供達に伝授は終わったようで、ご機嫌な様子でサーシャに絡んでいる。
結構酔っているようだ。
「では陰キャ男君!君の夢はなにかねぇ?!君のしたい事を語ってみたまえ!」
ローランちゃんは若干ウザ絡みな感じで、マルチネスにも絡んでいく。
「ぼ、ぼくは・・・て、手に職をつけたいです・・・出来れば適性を獲得して・・・そして・・・」
マルチネスはチラッとサーシャを見て、意を決して立ち上がる。
「そして・・・そして!!僕はサーシャと結婚したい!サーシャと結婚して幸せな家庭を築くのが僕の夢です!」
「ひょわっ」
ビックリしたサーシャは、折っていた折り紙をグシャっと潰してしまう。
「うわわっ、サーシャ姉ちゃんとマルチネス兄ちゃんがけっこんするんだってー!」
「けっこんだぁ!」
「けっこん、けっこん!」
「ねえねえ、けっこんってなーに?」
「わたし、しってるわ!けっこんてのは、ふーふになることなのよっ」
「へえぇ・・・ねぇ、サラ。ふーふって何?何するの?」
「何するって・・・リーナ!教えて!」
「ふーふってのは、こどもを作ってお父さんお母さんになることなのよっ」
「そーなんだぁ。じゃあサーシャ姉ちゃんはお母さん!」
「こども、こども!」
「ねえねえ、こどもってどうやってできるの??」
「俺しってるぜ!チューするとできるんだ!」
「違うわよ。大きな鳥さんがはこんでくるって本にかいてあったわ」
「えー?ぼくはお花からうまれてくるってきいたー」
「バカねー。アンタ達。ぜっんぜんちがうわ。こどもってのは、ふーふがなかよしすると産まれてくるのよ。つまり、せっくすよ!」
「あー!それしってるー!前にフローリア姉ちゃんがしてたやつだー!」
「僕もおぼえてるー!」
「せっくす!せっくす!」
子供達は知ってる単語が出てきた事、そしてやはり『せっくす』という響きが面白いのか、再び騒ぎ出す。
「がーはっはっはっ!そうか、そうか!陰キャ男君は陰キャ女君と結婚したいのかっ!それは面白い!陰キャが二つ合わさり陽キャになるかもしれないな!がーはっはっ!・・・ひっく・・・」
ローランちゃんはだいぶ酔いが回ってきているようで、マルチネスの背中を手加減なくバンバンと叩いている。
「そうだったんだ?!全然知らなかったわ!二人はいつから付き合ってたの?!」
フローリアも驚きを隠せない様子で質問する。
「あわわわ・・・」
しかし、サーシャは口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない。
「い、いえ・・・付き合ってません・・・気持ちを伝えたのも今が初めてです・・・」
「えっ?!そうなの?!」
「おお?!正に童貞にありがちなスタンドプレイじゃないかぁ!完全な見切り発車を純粋さでカバーしようということだな?!ひっく・・・がっはっは!僕は、そういう男は嫌いじゃないよ!・・・うーい・・・」
「せっくす!せっくす!」
「わーい!わーい!」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがせっくす!せっくす!」
「初告白で結婚を申し込むとか・・・羨ましい・・・」
「甘酸っぱいでやんす!青春でやんす!」
「先生!結婚しっ!」
「結構です」
「酷い!せめて最後まで言っ!」
「ミールさんは私の旦那様です!」
「だから!先生はっ!」
「私の旦那様です!!」
「あれってちわげんかって言うのよ」
「またコクリトがちわげんかしてるぅ!」
「コクリトしつこい!」
「コクリトうるさい!」
「ちょっと!私の扱い、雑すぎませんか?!ねぇ!ねぇ!」
「さあっ!陰キャ女君!陰キャ男君の渾身のプロポーズの答えをぉ、そろそろ聞こうではないかぁ!ひっく・・・さぁ・・・どうするんだい?!陰キャ女君の素直で率直な気持ちを述べてみたまえぇぇ!」
目が据わったローランちゃんの言葉に孤児院はピタッと静かになる。
子供達は全く理解はしてないが『お姉ちゃんが何か言うみたいだぞっ』といった雰囲気を感じたのか、ジーっとサーシャを見つめていた。
マルチネスも破れるのではないかと思うほど、ギューっと自分の襟元を自分で握りしめながら、サーシャの口の動きを食い入るように見つめている。
孤児院は緊張感、期待感、不安感、ワクワク感、そして一部からは冷やかしや僻みなど、様々な感情が合わさったような、なんともモゾモゾしてしまうような空気に包まれた。
しかし、肝心のサーシャは全く予想外の展開だったようで右往左往。
目を渦巻きにしながら混乱している。
「あわわ・・わ・・わ・・・」
「ひっく・・・どうやら陰キャ女君にはぁ、刺激が強すぎたようだな・・・ひっく・・・うーい・・・では陰キャ男君・・・ここは童貞らしくぅ・・・一途な想いを再度ぶつけてはぁ・・・どうかね?・・・陰キャ女君がぁ・・・YESかNOでぇ、答えられるようにねぇ・・・」
マルチネスは真剣な表情でコクリと頷くと、サーシャの目の前まで歩いていき、再度想いを伝える。
「サーシャ!ぼ、僕はサーシャが好きだ!小さい頃からずっと一緒で、いるのが当たり前な存在で・・・だけど僕はいつもサーシャの笑顔に救われていたんだ。サーシャの優しさが好きだ!サーシャの気遣いが好きだ!サーシャの笑顔が大好きだ!今すぐなんて言わない!僕もしっかりと経済力をつけないといけないと思ってるから・・・だけど・・・これからもずっと僕の気持ちは変わらない!絶対に変わらない!だからサーシャ!僕がしっかりと適性を習得できたら、その時は僕と結婚してくれないか?!一緒にこの子供園を守っていこう!子供達を守っていこう!僕と一緒に幸せな家庭を築いてほしい!」
真剣な表情で言い切るマルチネス。
全ての視線はサーシャへと自然と移っていく。
サーシャはマルチネスの愛の告白を、真っ赤な顔で、呼吸を忘れて受け止めた。
そして・・・本当に小さく、とても恥ずかしそうに、しかし誰にでも『OK』と分かるような感じで頷く。
それを見てマルチネスは陰キャとは思えないほど・・・・いや、陰キャらしくブレーキが利かない感じで思いっきり喜ぶ。
「うおおおおぉお!やったー!やったー!最高だああ!俺は今、最高に幸せだああ!愛してるぞ!サーシャ!サーシャ!愛してるぅぅ!」
テンションMAXなマルチネスはサーシャを抱きしめる。
「ちょっとっ。ちょっと落ち着いて、マルチネスっ。みんな見てるっ。みんな見てるってば・・・は、恥ずかしいよぉぉ」
「わーい!わーい!」
「良かったね!マルチネス兄ちゃん!」
「サーシャ姉ちゃん、照れてら!」
子供達も幸せそうな2人を見て、嬉しくなったようだ。
祝福の言葉を投げかける。
「わーい!わーい!お姉ちゃん嬉しそう!」
「兄ちゃん、やったな!」
「サーシャ姉ちゃんとマルチネス兄ちゃんがせっくすだ!」
「せっくす!せっくす!」
「ばかね、さいしょはチューから始めるのがマナーなのよ」
「そっか!チューだ!」
「チュー!チュー!」
「チューするの?!」
「あかちゃんできちゃう!」
『チューウ!チューウ!』
段々と手拍子が始まり、キスを迫る子供達。
現在、有頂天のマルチネスは、サーシャの両肩をガシッと掴み、血走った目で見つめてくる。
「チョット待って!無理無理無理!みんなが見てる前でするなんて出来ないわ!落ち着いて、マルチネス!」
サーシャは今にも唇を突き出そうとしてくるマルチネスの顔にガバッと手のひらをぶつけて必死にガードする。
拒否されて、有頂天だったマルチネスは正気に戻ったのか、いつも通りの陰キャの雰囲気に変わった。
「ご、ごめん・・・サーシャ・・・」
「あ、ううん。ごめんね、マルチネス。マルチネスが嫌いってことじゃないから」
「うん、わかってるよ、サーシャ。いつも気遣ってくれてありがとう・・・大好きだよ」
「もう・・・・ばか」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがイチャイチャしてるぅぅ!」
「わーい!わーい!」
「ぼくもお姉ちゃん大好きー!」
「わたしもー!」
「やったー!」
子供達はニコニコしながらサーシャとマルチネスに抱きつく。とてもとても嬉しそうだ。
唐突だが、もし子供との距離感や教育方法、育て方に迷ったら、子供の前でイチャイチャするのも一つの手だ。
はしたない、みっともない、恥ずかしい。色々あるだろう。
ましてやイチャイチャするには相手の同意が必要になってくる(これが一番ハードル高い)ので、したくても出来ないって人も多いだろう。
そもそも結婚してないし。まだまだ先の話だし。そんな人も多いだろう。
とりあえず今回は、そういったのは置いといて、『イチャイチャ=悪』ではない事だけ覚えておいて欲しい。
会話がうわの空、スマホばかりみてる、興味がない、考えを押し付ける、だらしない、汚い、否定ばかり、説教ばかり、ため息ばかり、ケンカばかり・・・
こんな親は子供に良い影響を与えるだろうか。
子供にとって親が仲良しなのはとても良い事なのだ。
「初々しいでやんすねぇ」
「羨ましい・・・僕の人生、どこで間違ったんでしょう・・・」
「ルルの旦那。諦めるのは早いでやんす。まだまだ、これからでやんす。まずは女性との接点を増やしやしょう。長い時間を共有すれば、きっとルルの旦那の良さを分かってくれる女性が現れるでやんすよ」
「長い時間を共有・・・つまりコクリトさんって事ですか?・・・うう、ぶるぶるぶる!・・・そんな事になるくらいなら、僕ずっと二次元でいいです・・・」
「ううう。あっしらの青春はどこに行ったんでやんしょう」
「ちょっとおぉぉ!めっちゃ聞こえてるんですけどぉ?!せめて小声で言いませんか?!ねぇ?!ねえっ?!」
「マルチネス・・・だったか。お前、適性を習得したいって言ってたが、金はあるのか?何処のギルド学校でも三ヶ月コースは80万近くかかるぞ?」
唯一、無責任な祝福を送る事なく、しっかりとマルチネスの将来を見据えたカインが質問する。
「え・・・そんなにかかるんですか・・・で、でも諦める訳にはいきません。少しずつバイトしながら、お金を貯めていこうと思います!」
「分かってると思うが、もちろん80万だけじゃ足りないからな。街までの渡航費、三ヶ月間の滞在費、食費、教材費。そして三ヶ月で習得できなければ追加で授業を受ける必要もある。そうなれば、どんどんと必要な金は増えてくる。万が一の事も考えて、300万くらいは用意しといた方が良いぞ」
「う・・・」
「マルチネス。私も協力するわ。二人で頑張ってお金貯めよ」
「そんなっ・・・サーシャに迷惑はかけられないよ・・・」
落ち込むマルチネスのほっぺをつねるサーシャ。
「もうっ。何言ってるのよっ。迷惑なんかじゃないわ。マルチネス一人に負担をかけることなんて出来ない。なに一つ頼ってくれなくて、物事全て用意されても私は何も嬉しくなんてないもの。それよりも二人で頑張って乗り越えたい。だって・・・私達は・・・け・・・けっこ・・・ん・・するんだから」
「サーシャ・・・」
恥ずかしそうに『結婚』という言葉を口にしたサーシャに嬉しさが込み上げたのか、マルチネスは、また泣き始めた。
「あー。マルチネス兄ちゃん、また泣いてら」
「兄ちゃん、泣き虫」
「よちよち」
「良い子、良い子」
「ミールさん。適性って、そんなお金をかけてでも習得する価値があるものなんですか?」
「ん?ああ、そうですね。適性を持ってる場合と持ってない場合では、収入に大きな差が出る事が多いです。例えば特殊な職業は、特定の適性を持たないと仕事につくことすら出来ません。『修復士』などが良い例ですね。それ以外でも『調理士』を持っていると料理の味が良くなったり、『農士』を持っていたら作物の生育が良くなったり、『動物使い』を持っていたら馬などを思い通りに動かせたり。こんな風に適性を持っていなくても出来る仕事は多いですが、やはり適性持ちの方が質や効率が良いので、優遇されたり高収入な仕事が舞い込んでくる事が多いです。その結果、収入に違いが出てくるという訳ですね」
「へえぇ。マルチネスだったらどんな適性が良いのかしら?」
「んー。ここは宿場村ですからね。ひっきりなしに冒険者や商人などが訪れます。なので、それを活かせる適性が良いんじゃないですかね?例えば『研磨士』。この適性を持っていると剣などを研ぐ力量が上がります。宿屋に泊まっている間に研いでくれる・・・なんてサービスがあったら冒険者はめちゃくちゃ喜ぶと思いますよ。あとは『鍛治士』だったり『指圧士』だったり『調合士』だったり。旅の途中で装備や身体、道具のメンテナンスをしてくれる者は貴重ですからね。これらの適性を習得する事が出来たら、まず食いっぱぐれる事はないでしょう。また、これらは子供園の仕事の合間に出来るってのもメリットですよね。今、遺跡の魔道具を置いてある庭に仕事場を作っちゃえば、サーシャさんと一緒に生活する事も可能でしょうから」
「わあぁ、それいいなぁ。確かに子供の頃、よく冒険者の人に聞かれたわ。整備してくれるお店はあるのかって。もしマルチネスが出来るようになれば、凄く人気が出そうねっ」
「はい。僕も人と接するのは苦手ですが、装備のメンテナンスなどは出来そうな気がします。ありがとうございます、ミールさん。そしてカインさん。しっかりとサーシャと二人でお金を貯めて夢を掴み取ろうと思いますっ」
ここで、テーブルに屈してスヤスヤと寝息を立てていたローランちゃんが、ヨダレを垂らしながらムクッと起き上がる。
「むおぉ・・・そうかぁ・・・陰キャ男君は適性を習得したいんだなぁ・・・ひっく・・・よかろぉぉ!ではぁ、僕がお金を用意してあげようではないかぁ!・・・うーい・・・適性代と庭に建てる工場代かぁ・・・ひっく・・・とりあえず5000万で良いかなぁ?・・・」
「えええええっ?!?!」
「ご、ごっせんまんん?!?!」
「ひょえぇぇ!!」
「私が50年働いても返せません!」
「凄いでやんす!太っ腹でやんす!」
「5000万をポンって渡せるなんて・・・」
「ローランさん!私と結婚してください!」
「あ、あの・・・融資して頂けるのは大変ありがたいお話なのですが・・・利息はいかほどになりますでしょうか・・・また、返済までの期日なども教えて頂ければ・・・なにぶん、小さい村ですので・・・その点を考慮して頂けると幸いでございます」
園長さんは額の汗を拭きながら遠慮ぎみに尋ねる。
「なあにをぉ・・・言ってるんだい、園長ぉ・・・ひっく・・・これは融資ではなく投資さぁ・・・いわば寄付だぁ!返す必要はないいぃ!返したら呪ってやるからなぁ!・・・ぐっひっひ・・・」
「なんと?!」
「うひゃぁ。太っ腹どころの話じゃないでやんす!富豪でやんす!大富豪でやんす!」
「石油でも掘り当てたんですか?・・・」
「ローランさん!私を養子にしてくださいっ!」
「ほ、本当に・・・いいんでしょうか・・・」
「こんな見ず知らずの私達に、こんな大金を・・・」
サーシャとマルチネスも、嬉しさよりも驚きや戸惑いが大きいようだ。
「ぐっひっひぃ・・・もちろん構わないさぁ・・・ひっひっひ・・・ぐびぐび!ぷはあぁ!・・・」
ローランちゃんは身体を左右にフラフラと揺らしながらビルビルを一口。
そしてサーシャとマルチネスに対して・・・ではなく、ジョッキに向かって話し始める。
「僕はねぇ、君たちが気に入ったんだぁ・・・実は僕も捨て子でねぇ・・・ドルグレムの地下街でネズミと共に食事をしたもんさぁ・・・ひっく・・・でも僕はぁ、全然寂しくなんてぇ・・なかったのさぁ・・・だって周りにはぁ、未知の魔道具に溢れていたからねぇ・・・あの頃はぁ、朝から晩までぇ、時間を忘れてぇ、魔道具と戯れていたもんさぁ・・・今考えるとぉ、あれが僕の原点なのだろうねぇ・・・うーい・・・子供の頃にぃ、感じた想いや感覚はぁ・・・とても貴重で大切なモノなんだ・・・だけど多くの人はぁ・・・自ら可能性を捨ててしまう・・・放棄してしまう・・・なんてもったいないんだぁぁぁ・・・だからこそ君達にはぁ・・・捨ててほしくないんだよぉぉ・・チャレンジする事をぉ・・・どうか諦めないでおくれぇぇぇ・・ぐー・・・」
ジョッキに注がれたビルビルの、下から上へと立ち上る炭酸の粒が遠い記憶を解きほぐしているのか、珍しく昔を語るローランちゃん。
しかし、そのままオデコをテーブルにガコッとぶつけながら寝てしまった。
「ローランさんも子供の頃は大変だったんですね」
「そうみたいですね。僕も初めて聞きました」
ミールはヨダレを垂らして寝ているローランちゃんの寝顔を見つめる。
ローランちゃんは言わずと知れたドルグレムの重要人物だ。
故に、タチの悪い犯罪に巻き込まれる事も多い。
その為、普段はここまで酔うことはないし、自分の事を語る事もない。
そしてお分かりかと思うが、魔道具以外の物事に関心を持つこともほとんどない。
そんなローランちゃんが無防備な姿を晒し、自分の隠していた思い出を語り、そして子供達の世話を焼こうとしている。
ミールはローランちゃんの人間くさい部分を初めて知り、口元がにやける。
そしてスヤスヤと寝息をたてているローランちゃんの乱れた髪を整える。
オデコにはテーブルにぶつけた影響で真っ赤なアザが出来ていた。
ミールは丁寧に、そして愛おしそうに、乱れた髪を指で掬って耳にかけてあげる。
それに反応したのかは分からないが、再びローランちゃんはガバッと起き上がり、ビルビルをグビグビと飲み干した。
「ぷはあぁ!ビルビルがうみゃい!やはり労働の後のぉ・・ビルビルは最高だなぁぁ・・・ひっく・・・んん??・・・どうしたんだぁい?・・・みんなこっちを見て・・・ひっく・・・うーい・・・んん??んんん??・・・おお、そうかぁ・・・話の途中だったなぁ・・・ひっく・・・では話の続きをぉ・・・しようではないかぁ・・・うーい・・・ん〜んと・・・ん〜とぉ・・・なんの話だっけなぁ?・・・ミール君がぁ、僕の初めてを奪った時の話ぃ、だったっけなぁ・・・え?違う??・・・おお、そうかぁ・・・陰キャ君にお金を出すぅ・・・という話だったかぁ・・・まあ、安心したまえぇ・・・寄付は全員にぃ・・・しようではないかぁ・・・いわゆるぅ・・・『ローラン基金』ってやつだなぁ・・・この孤児院からぁ、沢山の子供達が巣立ちぃ、成功を収めぇ、今度は君達がぁ、次の世代の為に寄付をするぅ・・・そうしてぇ・・・支援の輪がぁ、広がっていく事をぉ、僕は期待してぇ・・・うーん・・・なんの話だっけぇ?・・・」
「ミールさん。ローランさん・・・かなり酔ってるみたいですけど、お金は大丈夫なんですかね。朝起きたら全く覚えてません・・・て、なったらどうしましょ」
「あはは。まあ、大丈夫でしょう。今日の事を覚えてるかは分かりませんが、師匠はめちゃくちゃ金持ちなのでお金の心配はないですね。きっと気軽に出してくれますよ」
「え??そうなんですか?」
「ええ。以前に少し話しましたが、師匠は6大基礎魔法の一つ、魔法通貨を開発しているんですよ。なので毎年、莫大なお金がドルグレムから振り込まれてくるらしいので、ちょうど良かったんじゃないですか?使い道に困っていたみたいですし」
「ひえぇ・・・私も使い道に困るくらいお金を持ってみたいです」
6大基礎魔法は無料で習得できるのに、そんなに儲かるの??
こんな風に思った人も多いだろう。
その答えは税金にある。
以前、ミールがリリフ達に説明していたのを覚えているだろうか。
住民には毎年、国民税、住民税、固定資産税、魔法税などを支払う義務があると。
その魔法税。
これは年に700グルドだから金額的には安いよ。まあ、魔法システムの使用料ってとこだね・・・と、ミールはリリフ達に説明していたと思う。
この魔法税が直接的な利益となる。
つまり、6個の基礎魔法を開発した国にそれぞれ100グルドずつ、合計600グルドが権利料として支払われ、残りの100グルドがその国自体の収入となるのだ。
例えばローランちゃんが開発した魔法通貨によってドルグレムには毎年、一人100グルドが魔法税として振り込まれてくる。
たった100グルド??と思わないで頂きたい。
一人100グルドだ。
ガタリヤは人口120万なので、単純計算で毎年一億2千万グルドがガタリヤからドルグレムに支払われる。
ルーン国は街は10個ある。聖都も含めると11個だ。
なので、ルーン国だけで、だいたい13億グルドという大金が権利料としてドルグレムに支払われている。
そして当然だが、世界中の国からも同じように権利料として大金が振り込まれてくる。
しかも、それが毎年だ。
いかに基礎魔法が莫大な利益を生み出しているかが、お分かりだろう。
その為、莫大な利益を生み出す基礎魔法をなんとしてでも手に入れようと、各国は競って新魔法の研究に力を入れている。
なので、もし仮に新たな基礎魔法が誕生したとしたら、6大基礎魔法は7大基礎魔法となり、魔法税も800グルドに値上がりするという訳だ。
とはいえ、基礎魔法のシステムが稼働し始めて2000年ほど経過しているが、現在発表されている基礎魔法は6つ。ローランちゃんの未発表を含めても7つだ。
それほど適性に関係なく誰でも習得できて、かつ、実用的な魔法の開発は一筋縄ではいかないのである。
「ひっく・・・さあてぇ・・・陰キャ男君・・・うーい・・・これで障害は無くなったなぁ・・・ひっく・・・あとはぁ・・・ひっく・・・陰キャ棒をぉ・・・陰キャ穴にぃ・・・突っ込むだけだなっ!・・・がーはっはっは!・・・ひっく・・・」
段々とおっさんのような言動になってきたローランちゃん。
「ではぁ、2人にはぁ、これを授けよう・・・ひっく・・・なあに、最初は痛いだろうがぁ・・・直ぐに気持ち良くぅ・・・なるはずさ・・・ひっく・・・」
「こ、これはっ・・・」
「あわわわ・・・」
ローランちゃんからコンドームを受け取った2人は顔を真っ赤にしている。
どうやらフローリアとは違い、それが何なのか分かっているようだ。
「あー!ずるい!僕もほしー」
「いいな、いいな!」
「サーシャ姉ちゃん、何もらったのぉ?」
「あ、これはお守りなのよっ。私もローランさんから貰ったもの」
「えー!いいなぁ!おまもりほしいっ」
「僕も!」
「私も!」
「がーはっはっは!・・・すまんなぁ、チルドレン達よぉ・・・ひっく・・・お守りはそれでぇ・・・最後なんだぁ!・・・ひっく・・・カイン君相手にぃ・・・ひっく・・・随分と使ってしまったからねぇ・・・うーい・・・」
「えっ?!」
「隊長?!」
一斉にカインを凝視するコクリト達。
一方、カインは唐突にローランちゃんに暴露され、ジョッキを持ったまま硬直中。
ビルビルがテーブルの上に滴り落ちる。
「それじゃあ、みんな!私が貰った分を預けるわね!大事なお守りだからみんなで大切に保管すること!そして私が帰ってきたら返してもらうからねっ!」
「わーい!ありがと!お姉ちゃん!」
「やったー!おまもりだぁ!」
「ぼくにも見せて見せて!」
「わぁ!これが大切なおまもりかぁ!」
「すげー」
「ねえねえ、フローリア姉ちゃん。おまもりってなーに?」
「お守りっていうのはね。大切にすると神様が守ってくれるものなのよ!」
「うわー。すごーい」
「だれが大切にするの?」
「僕にまかせろ!」
「なにいってんだ!ペータ。みんなで守るんだそ!」
「そうよ、そうよ!みんなできょーりょくするのよ!」
「そっかぁ。でもきょーりょくって何すればいいのぉ」
「僕もおまもり守りたい!」
「フローリアお姉ちゃんおしえてぇ」
「うーん。やっぱり神様だから祭壇とか必要なんじゃないのかしら?そのお守りを保管するお家を作るの。あとは毎日、お供えしてお祈りすること。神様ありがとうってね。毎日神様に感謝を伝えると神様も守ってくれるのよっ」
「そっかー。わかったぁ」
「それじゃあ、じゅんばんに守っていこうぜ!僕、いちばーん!」
「あー!ずるいずるい!僕にばーん!」
「何いってるのよ!私がいちばんよ!」
「じゃあ、私にばーんっ」
「なにをー!」
「なによー!」
「ほらほら。ケンカは駄目よ。順番は早ければ良いって事はないんだから。みんなで仲良く、ね?」
「サーシャの言う通りだよ。じゃあジャンケンで決めよう。兄ちゃんに勝った人から順番に決めていくよ?」
「うわわっ。わかったぁ」
「負けないぞー」
『最初はグー!ジャーンケン!ポンッ!』
サーシャとマルチネスになだめられ、子供達は素直にジャンケンを始めるのであった。
続く




