蘇る魂の道しるべ㉑
「あんた・・・根っからの中間管理職ね・・・」
聖女がハミス調査団相手に四苦八苦していた頃、ミールも同じようにフローリア相手に四苦八苦していた。
「あのね、フローリアさん。ちょっと・・・」
「きゃ〜!ダーリン、ダーリン♡見て、見てぇ!とっても可愛い!」
「フローリアさん。少しお話しが・・・」
「ダーリン!ダーリン!はいっ、アーン♡」
「フローリアさん。実はね・・・」
「ダーリン、ダーリンっ!ちゅきちゅき♡」
「・・・・・・・・・・・・。」
全く会話の糸口すら見つけられない。
一向にフローリアの恋熱は下がらず、むしろ青天井のように上がり続けていた。
無理もない。
フローリアにとっては初恋だもんな。
しかも恋は成就し、連日大好きな人と身体を重ねている。
いまは毎日楽しくてしょうがないだろう。
おいおい。毎日身体を重ねてるのかよ・・・と、ツッコミありがとうございます。
でもねぇ。だってねぇ。
目の前に100万の札束があったら、とりあえずポッケにしまいますよね?(例え下手)
ミール自身も『欲望に流されてはダメだ』『先延ばしにしてもフローリアのためにならないぞ』とは思いつつも、ついつい、まあ今日はいいか・・・を繰り返し、現在に至る。
自業自得やん・・・と言われると、まあ、その通りなんですけどね・・・
その夜、いつものように、ローランちゃん達と孤児院で一緒に食事をするミール。
「ぷはあぁぁっ!ビルビルが美味いっ!やはり労働の後のビルビルは最高だな!」
ローランちゃんはご機嫌に大ジョッキを傾けている。
「労働って・・・ただ魔道具差し込んでるだけですよね・・・」
「それを言ったら、あっしらも板に乗せて運んでるだけでやんすっ」
「でも、苦労して掘り出してホント良かったですねっ。一気に楽になりましたっ」
どうやら、あの遺跡にはミールの予想通り、使える浮遊版が複数あったようで、作業は格段に楽になったようだ。
ミールの言う通り連結して使えたので、安定感も増し、大きな発掘品も簡単に運べている。
「本当でやんす。お陰で大きな魔道具も簡単に運べるでやんす。兵士が羨ましがってやした」
「兵士?兵士が森の中にいたんですか?」
「それがですね、先生。なんか通り道にベヒーモスの死体が転がってたんですっ。もう、真っ二つでしたっ。ホントビックリしましたっ」
「僕、あんな大きな獣、初めて見ました・・・あれが動いていたと考えるとゾッとしますね・・・」
「それでアッシらが兵士に知らせたんでやんす。したら、なんかその死体を聖都に運ぶ事になったらしく、兵士達がヒイヒイ言って運んでやした」
「でも結局、誰が倒したかは分からないみたいですよっ。モンスター同士の争いで死んだって事になるみたいですけど、明らかに真っ二つでしたからね。不思議ですっ」
ミールはカインをチラッと見る。
カインは意味ありげに頷いた。
なるほど。どうやらカインはコクリト達にも話してないようだ。
確かに知る人数を増やしてしまうと、ウッカリ話してしまう事になりかねない(特にコクリト)
それを防ぐために、ベヒーモスの事は伝えてないようだ。
ミールの能力はコクリト達も知っているので、ある意味、秘密を共有している者同士。
そこに新たな情報が手に入ったら、普通は喋りたくなるだろう。
ミールも別にコクリト達が知っても問題ないと思っているので、秘密にしてくださいと釘も刺していない。
それなのに、カインは喋らない。
つまり、それだけミールの事を気にかけているという事。
ミールの能力を秘密にする事を大前提に考えてくれているという事。
こういう気遣いが出来て、且つ、信頼できる者は非常に貴重だ。
ミールの中で、カインの評価は爆上がりとなった。
「がっはっは!召喚士君っ!世の中には未知で溢れている!それを解明するのが我々研究員の仕事さ!君も研究者の端くれなら自分で解明するクセを付けるといいぞ!」
「ちょっと!私は冒険者になるんですからっ!今回だけですからねっ、手伝うのは!分かってますよね?!大丈夫ですよね?!気づいたら抜け出せなくなってるなんて事にはならないですよね?!ねぇ?!ねぇ?!」
「がっはっは!そうだったな!分かってるとも!分かってるとも!さあ、気にせずドンドン飲みたまえ!」
「ひいぃん。不安ですぅ」
「確かに姐さんの言う通り、いつの間にか契約書にサインさせられてる可能性もあるでやんす!気をつけるでやんす!」
「もし、そうなったら、コクリトさんを生け贄にして僕は逃げますね」
「それはそうと、確かにあの巨体を人力で運ぶのは大変そうですね。だから最近、村の兵士が少なかったんですね」
「ああ、そうみたいだな。村の警護兵とかも駆り出して運んでいるらしい。もう2~3日くらいしたらベヒーモスの死体は聖都に出発し、村を警護していた兵士達はスワップの街へ帰還するようだ」
「へー。カインさん達の発掘の方は順調ですか?」
「ああ、あの板のお陰で、スピードも上がったからな。この分じゃ、あと三日もしたら終わりそうだな」
「へえ。それはそれは」
「がっはっは!ではいよいよ三日後にはガタリヤに向けて出発だな!早く研究を再開したいものだよ!」
「えぇ〜。ローラン、どっか行っちゃうのぉ」
「やだぁ〜」
「行かないでぇ」
ローランちゃんに、すっかり懐いた子供達は、口々に寂しがる。
「がっはっは!チルドレン達よ!出会いがあれば、また別れもあるのさ!しかし!寂しがる必要はないぞ!だってまた会えるからね!」
「本当にぃ?」
「ああ、本当だとも!君達が大きくなったら僕の元に来たまえ!僕の助手としてこき使ってあげよう!そして世界中の遺跡を探索するのさ!未知との遭遇は楽しいぞ!ワクワクしてくるだろう?!早く大人になりたまえ!チルドレン達よ!」
「ローラン、子供のくせに偉そう!」
「ローランが大人になれぇ!」
「ぎゃははっ」
「さて、ミール君。君はどうするんだい?ガタリヤまで同行しないのなら、前に言っていた助手候補や懇意にしているという領主に話を通しといてくれたまえ。僕はガタリヤに到着したら直ぐにでも研究を始めたいからね!」
「ああ、そうですね・・・伝えときます」
気乗りのしない返事をしたミールを、子供のお世話をしていたフローリアは心配そうに見つめるのであった。
そうして夕食を終わらせてお風呂、着替え、歯磨きなどなど。
子供達を寝かしつけてから、フローリアとミールは孤児院を出て、フローリアの家に向かう。
「行っちゃうんですか・・・」
夜道を進む足を止め、フローリアはポツリと尋ねる。
「え?・・・あ、えっと・・・」
「私、気付いてました・・・ミールさんが何かを言おうとしているのを・・・でも、それを聞くのが怖くて・・・いつもミールさんの言葉を強引に遮って・・・」
なるほど。恋に浮かれていた訳ではなかったという事か。
「ミールさん、いつも遠くを見てるというか・・・気持ちに壁があるというか・・・私馬鹿みたいですよね、勝手に1人で盛り上がって・・・ミールさんを困らせて・・・」
「いや、違うんです、フローリアさん。けしてフローリアさんが嫌いな訳じゃないんです」
「分かってます。ハーレムが作りたいんですよね?」
ん?
「あれはスーフェリアの教会にいた頃。ゼロス信仰は1人の女性を愛し、添い遂げ続けるのを規律としているのに、男性は浮気ばかり。不思議に思っていた私にクラリスが教えてくれました。男は『ハーレム願望』があるのだと。例え、心から好きな人が愛している人がいようとも、下半身は他の女を求めてしまうケダモノなんだと」
クラリスさん・・・いったい過去に何があったんだ・・・
「あ・・・まあ・・・極論はそうなんだけど・・・じゃなくてっ!違いますよっ、フローリアさんっ」
「私も連れて行ってください!」
フローリアはミールに抱きつく。
「私、ミールさんと離れるなんて考えられないですっ。他の女と浮気しても我慢しますっ。ケンカ・・・は、するかもしれないけど、他の女とも仲良くしますっ。他の女が妊娠しても労ります。生まれてきた子供もしっかりとお世話します。そして沢山の女と子供達に囲まれて幸せな人生を終えるミールさんを看取ります。ミールさんが亡くなった後もしっかりと子供達の面倒をみます。だからお願いしますっ。私も連れて行ってくださいっ」
またしてもかなり先の事まで一瞬で想像してしまうフローリア。
「あ、あのですね・・・フローリアさん。まず最初に言っておかなければならない事があります。僕はフローリアさんと結婚はおろか、お付き合いをするつもりもないんです」
「え・・・そんな・・・」
「あ、言っておきますけど全員ですからね。今まで関わってきた女性も、これから関わる女性も同じです。僕は一切、誰ともお付き合いするつもりはないんですよ」
「・・・・」
「これは今まで誰にも話した事はないんですが、フローリアさんが一生懸命、僕に向き合ってくれているので、話します。僕は以前、1人の女性を愛していました。本当に、本当に心から愛していました。しかし、結果として僕は彼女を傷つけてしまった。本当に辛く、苦しく、そして今でも後悔しています。だから僕は、これ以上、他の女性を傷つける訳にはいかないと、愛さないようにしてきました。だからフローリアさんともお付き合いできないんです」
「そ、そんなっ。ミールさん。確かにその女性の方は気の毒ですが・・・同じ結果になるとは限らないじゃないですかっ。私だったら大丈夫ですっ。ミールさんの浮気癖も、見境ない下半身も容認しますっ。例え、ミールさんにNTR願望があっても、赤ちゃん願望があっても受け入れますっ。決してミールさんの欲望の邪魔はしませんっ」
なんか俺の事めっちゃ誤解してないか?・・・
ミールはツッコミを入れたい欲望に駆られるが、今はシリアスなシーンだ。
真面目な顔をして首を横に振る。
「いえ。理由は言えませんが、必ずフローリアさんも同じように傷つけてしまいます。必ずそうなります。これは気持ちの持ちようでなんとかなるような話では無いんですよ」
「そんな・・・」
「しかし、ここまで深く関わってしまった僕にも責任はあります。もっと早く言えてれば良かったですが、ついフローリアさんの魅力に負けてしまいました」
「///」
こんな状況でも顔を赤らめて照れるフローリア。案外、チョロいのかもしれない。
「だからフローリアさんの望み通り、しばらく一緒に旅をしましょうか。フローリアさんはハーフエルフなので他国に行くのも制限はかからないでしょうから。冒険者登録をして、まずはドルグレムで暮らしましょう」
「は、はいっ」
「そして、今後も一緒に色々な国に行って沢山の人と触れ合い、文化を学びましょう。そうして旅を続けていると、フローリアさんにも僕以外に気になる人が現われるでしょうから」
「そ、そんなことはありえませんっ。ミールさん以外の人なんて!」
「そうそう。今はそんな事あり得ない!って思うでしょう。でもね、フローリアさん。沢山の人と関わり、様々な経験を積み上げると、自分の価値観も大きく変わるものなんですよ。今は、このククラーソン村という限られた場所の事しか知らないから想像もつかないでしょうけどね」
「・・・・・」
「ただし、一緒に旅をする上で約束して欲しい事が幾つかあります。まず一つめは、人前では決してイチャイチャしないって事です。あくまで旅を同行している仲間。恋人ではないという感じですね」
「はい、分かります。私とイチャイチャしちゃうと他の女に手が出せないですものね」
「・・・・・」
いや、俺ってどんなイメージ?!
しかし、いちいちツッコミを入れていたら朝日が昇りそうなので、黙っておこう。
「そして二つ目は、自分が『逃げろ』と言ったら、必ず逃げてください。フローリアさんはかなりの猛者なので大抵の事はなんとかなるでしょう。既に自らが生き残る術を心得ているはずです。しかし、仲間がいると決断に迷いが出る場合があります。ましてや、その相手に好意を抱いていたら、命に代えてでも助けたいと思うでしょう。しかし、僕にとっては、逆効果になる事が多いです。フローリアさんが周りでウロチョロされる方が、かえって迷惑な場合があります。僕は必ずフローリアさんの元に帰ってきますので、フローリアさんも僕を信じて『逃げろ』と言われたら直ぐに逃げてください。いいですか?」
「はい。例えミールさんが他の女の所に入り浸りになっても、帰ってくるのを信じて待ち続けます」
いや、だからっ!・・・と言いそうになるミール。
「三つ目は自分達の事をむやみに他人に話さない事です。僕の能力の事も、フローリアさん自身の事も。フローリアさんもスーフェリアの教会で経験していると思いますが、ハーフエルフを利用しようとする者は多いです。そして『神力』を所持しているハーフエルフのフローリアさんはどうしても目立ってしまう。しかし僕はスキルの影響で人間相手に全力を出す事が出来ません。なので、あまり目立たなく行動したいんです。沢山の人と関わり、楽しく生活する事はオススメしますが、能力の事など、プライベートな情報は言わないように約束してください」
「分かりました。例えミールさんが人には言えない性癖を持っていても秘密にします」
「・・・・・」
ここまで来ると、真面目に聞いていないのではないかと思ってしまうが、フローリア自身も頭が回転してないのかもしれない。
有頂天だった時に、いきなり否定されてしまったのだから。
今後、旅を続けながら、徐々に伝えて行くことにしよう。
「分かりました。では明日、園長や子供達に伝えましょう。そして師匠やカインさん達と同じタイミングで出立するとしますか。行き先はとりあえずドルグレムで」
「はいっ!分かりましたっ!私、ミールさんに付いて行きます!どこまでも!」
フローリアは頬を高揚させながら、ギューッとミールに抱きつくのであった。
そして次の日、まずは園長に旅立つ事を伝える。
「そうか・・・うむうむ。分かったぞよ。気をつけて行くんじゃぞ」
「はい。ごめんなさい。園長」
「なにを言うか。フローリアとエゼノアには本当に助けてもらった。ありがとう。この園のことは気にせず、思いっきり世界を見てきなさい。フローリアの人生はフローリア自身のものだからね」
「はい・・・ありがとうございます、園長」
前に修復魔法で使用した際に説明したが、園長の私室は特に扉があるわけではない。
なので、子供達は深刻そうに話し合っている園長とフローリア達を、不思議そうに覗き込んでいた。
「おねーちゃん。どっか行っちゃうのぉ?・・・」
子供の1人が話しかける。
「うん。お姉ちゃんはこのお兄ちゃんと一緒に、旅に出ることにしたの」
この言葉を聞いて、ローランちゃんの時とは比べものがないくらい、子供達は泣き叫ぶ。
「嫌だあぁぁ!」
「うわーん!」
「びえええんん!」
「なになに?!どーしたの??」
「お姉ちゃんが出て行くってええ!」
「えええ?!やだやだぁ!」
「お姉ちゃん行かないでえぇ!」
「寂しいよおぉ!」
子供達は一気に集まりだし、フローリアを囲んで抱きつく。
「そんな・・・フローリア姉さん・・・」
「ううう・・・」
お兄ちゃん、お姉ちゃん的な存在のサーシャとマルチネスもショックを受けているようだ。
フローリア自身も涙を流しながら、みんなを抱きしめる。
「みんなごめんね。お姉ちゃんはこのお兄ちゃんと一緒に旅に出ることにしたの。そして世界中を見て回りたいんだ」
「やだああぁ!」
「お姉ちゃんを連れてくなぁ!」
「ぼーけんしゃ、見損なったわ!」
「ぼーけんしゃなんて嫌いだあぁ!」
ワンワンと大泣きする子供達。
そんな1人1人の頭を優しく撫でて、フローリアは語り出す。
「みんな聞いて。みんなの夢はなに?将来、どんな風になりたい?」
「ぐすっ。あのねー。お花屋さーん」
「ぼ、ぼくはカッコいい勇者!」
「んとねー。ケーキ屋さんになって毎日お菓子食べるー」
「ぐすっ、学校の先生になるぅ」
「ひっく。聖女さまになるのぉ」
「うんうん。私はね、色んな国に行って世界中見て回りたいんだ。世界にはね、オアシスなんかよりもずっとずっと大きな海っていう湖があるんだよ。火を吹く山もあれば、真っ白な雪に包まれた山もある。天高く聳える大きな木もあれば、底が見えないくらい深い谷まであるんだって。そして世界中には沢山の、本当に沢山の人がいるの。私はそんな人達と仲良くお友達になりたいんだ。これが私の夢。これが私のやりたい事なの」
「ふえぇぇん」
「ぐっしゅ。えっぐ。お姉ちゃんのゆめぇ」
「お姉ちゃんはいっぱいお友だちほしいのぉ?」
「うんうん。お姉ちゃんは世界中にお友達作るのが夢なの。だから旅に出るんだ。だからね、みんなにも夢を持って欲しい。そして夢を諦めないでほしいの」
「ふん。くだらないわ。どうせあたし達みたいな、みなしごは夢をかなえられるはずないじゃない」
「なんだよ、リーナ。なんでそんなこと言うんだよぉ」
「ペータ。あんたなにも分かってないのね。あたし達みなしごは親に捨てられたの。だからおかねないの。おとなになったら直ぐにはたらかなきゃならないの・・・だから・・・だから!なかよしじゃない人といっしょに寝て、なかよししなきゃならないの!」
リーナは涙を流しながら叫ぶ。
そんなリーナの前にしゃがみ込み、優しく頭を撫でるフローリア。
「リーナ。そんな事ないわ。夢に向かって行動してれば、未来は変えられるの」
「うそよ!そんなのきやすめだわ!」
「リーナ。半年前にペータがお母さんに手紙を書きたいって言いだしたわよね。そして孤児院のみんなで、それぞれ手紙を書いた。結局、お返事は一つも返ってこなかったけど、リーナはあれが無駄だったと思う?」
「・・・・」
「みんなはどう?あれは無駄だった?」
「うんとねぇ。なんか楽しかった」
「おへんじ来なかったのはかなしかったけど、なんかスッキリしたぁ」
「お母さんのきおくは無いから、書いてる時はさびしくなったけど、みんながいたからさびしくなくなった」
「こんどはもっと良いほうこくできるようにがんばるの」
「うんうん。前を向いて行動すれば、上手くいかなくても無駄にはならないのよ。リーナの未来もきっと変えられるわ」
「ほんと?」
「うんうん。本当」
「知らない人となかよししなくてもいいの?」
「うんうん。しなくていい未来に変えよう」
「わ、わかったわ。しょうがないから、あたしがルメルテ爺ちゃんのじょしゅになって、みんなのおかねをかせいできてあげるわ」
「そう。リーナは看護師さんになりたいのね。それじゃあ頑張らないとねっ」
「ぼくは学者になる!」
「僕なんてえーゆーになっておかね沢山かせぐもんね!」
「わたしは洋服やさんになって、まいにちあたらしい服にきがえるの!」
「わたしはあいどるでお歌をうたうの!」
「ばかね。なきむしペータがえーゆーになんてなれるわけないじゃない。おかねをかせぐのは大変なことなんだから。だからおかねはあたしにまかせてアンタは草むしりでもするといいわ」
「なんだとぉ。おまえこそ、ちょっとかすり傷ついただけでワンワン泣くくせにぃ。そんなんで爺ちゃんのじょしゅなんてできるかー!」
「アンタなんていつも泣いてるじゃない!あたしはたまによ!あたしの方がえらいもん!」
「なにを!」「なによ!」
取っ組み合いのケンカを始めたペータとリーナの両方を抱きしめるフローリア。
「うんうん。偉いよ、ペータ。英雄になって、この子供園を支えようとしてくれてるんだもんね」
「うん・・・」
フローリアが優しく頭を撫でると、ペータは涙を流しながら抱きついてくる。
「リーナも偉いわ。自分1人でお金を稼いで、みんなの為に頑張ろうとしてくれてるんだもんね」
リーナも大粒の涙を流しながら、無言でフローリアに抱きつく。
「みんな聞いて。確かにみんなに親はいないかもしれない。そのせいで、お菓子もお洋服もオモチャも買ってもらえない。食卓にケーキが出ることも無いし、お肉すら満足に食べる事も出来てないわ。普通の子供達が当たり前にしてもらってる事ですら、私達は経験できないの」
「ふえーん」
「えーん」
子供達は寂しさを埋めるように、お互いに抱きしめ合う。
「そしてみんなは親がいないって他の子供からイジメられるかもしれない。私もエルフの血を引いてるって事で随分とイジメられたわ。でもね、私はこのミールさんに出会って救われた。普通に接してくれて、笑ってくれて、助けてくれるミールさんに出会って救われたの。1人じゃないんだって思えるのって凄く嬉しくて心強い。グングンと力が湧いてくるの。勇気が出るの。確かにみんなは普通の子供達と比べると夢を叶えるのは大変かもしれない。沢山辛い経験や嫌な思いをするかもしれない。くじけそうになるかもしれない。でもそんな時は周りを見て。みんなは1人じゃない。お互いを思いやれる沢山の友達がいるんだから」
フローリアは涙を拭いて、とびっきりの優しい笑顔を子供達に送る。
「誰だって生まれた境遇は変わらない。でも、これからの事は変えられる。前向きに行動してれば、上手くいかなくてもけっして無駄にはならないもの。だからみんな。夢を持って。夢を諦めないで。お姉ちゃんも自分の夢を叶えにいくわ。しばらくは会えないけど、必ず戻ってくる。そして沢山、沢山お土産を持って帰ってくるわ。楽しみに待ってて。そして・・・帰って来た時に、私がビックリするくらい、みんなが成長してくれてると嬉しいわ」
「分かったぁ!」
「僕、がんばる!」
「寂しいけど負けないもんね!」
「わたしも泣かない!」
「お姉ちゃんのようになりたい!」
「ふん。おとなのおんなになってビックリさせてやるんだから」
「ぼくは園長せんせいのお手伝いたくさんするー!」
「1人でおトイレ行くもんね!」
「ピーマンも食べるもん!」
嬉しそうに話す子供達を優しく撫でるフローリア。
そして不安そうにしている2人を見上げる。
「あと、サーシャとマルチネス。貴方達2人も夢を諦めないで。二人は責任感が強いから、子供達の事を第一に考えてしまって、一歩を踏み出せない事もあると思うの。そして、大人になると分かってくる事も多いわよね。お金を稼ぐ大変さも知るし、結構出来ない事が多い事も知る。色々な事を知っていくにつれて、いつのまにか自分には無理だと諦めてしまうわ。私もエルフだからと諦めてた。周りは利用しようとする人や、逆に近づかないようにしようと思う人ばかり。世界中見る事なんて無理なんだって。でも、だからこそ諦めないで。自分のやりたい夢を諦めないで。頑張った分だけ夢は近づくから。もし叶わなくてもペータのようにやって良かったと思えるから」
「フローリア姉さん・・・」
「ううう・・・」
フローリアは立ち上がり、サーシャとマルチネスを抱きしめる。
「うむうむ。先程フローリアにも言ったが2人も自分達の人生を歩みなさい。ワシらに気をつかう必要はないんじゃ。この園から巣立った子供達が幸せに生きることこそが、ワシの願いじゃからの」
園長も和かな笑顔を二人に向ける。
「もしかして・・・サーシャ姉ちゃんも、どっか行っちゃうのぉ・・・」
子供の一人がサーシャのスカートの裾を引っ張り、心配そうに見上げる。
「ううん。私は行かないわ。ずっと、ずっとみんなと一緒よ。安心して」
サーシャがしゃがみ込み、目線を同じにして笑顔を向けると、子供は嬉しそうにサーシャに抱きついた。
「フローリア姉さん。そして園長。私はここにいるわ。だって、この園が大好きだもの。今はこの子達の成長を見守りたい。そしてサポートしたい気持ちでいっぱいなの。この子達が私と同じ年齢になった時に夢を諦めないように・・・でも、もし今後、私も何かしたいって気持ちが出てきたら、その時はちゃんと相談するね。けして、やる前から諦める事にはならないように、姉さんを見習って頑張るから。だから安心して行ってきて。姉さんは私にとってヒーローなんだものっ。子供達の希望になって世界中のお土産を持ってきてくれる事を期待してるね」
「あはは。うん、ありがと。サーシャ」
フローリアもしゃがみ込んでサーシャを抱きしめる。
「ぼくもー」
「わたしもー」
「ぎゅぎゅー」
一斉に子供達も抱きついてくる。
しかし、マルチネスは涙を拭くのに精一杯で、ずっとヒックヒックと嗚咽を繰り返していた。
「マルチネス兄ちゃん、泣いてるー」
「兄ちゃん泣き虫ぃ」
「ペータ、あんたが言わないの」
「兄ちゃん良い子、良い子。よちよち」
子供達はマルチネスにも、ぎゅぎゅーと抱きつく。
「さあさあ、それじゃあみんなで『お別れ会』の準備をしよう。明後日にはフローリアもローランさんも旅立ってしまうからのぉ。あまり時間はないぞい。みんなで協力して、盛大にみんなを送りだそう」
『はーいっ!』
子供達は元気に返事をして、一斉に散らばっていくのであった。
続く




