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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ⑳

 聖女は観念したかのように、ため息をついて玉座から立ち上がる。

「分かったわ。好きにしなさい」





「ありがとうございますぅ。聖女様ぁ♪ではぁ、こちら・・・・」

「せ、聖女様ぁぁ!!た、たたた大変でございますっ!!」


 エクレアの言葉を遮り、慌てた様子の兵士が、玉座の斜め後ろの扉をバタンと勢いよく開けて入ってきた。


「何事だっ?!要人が聖女様に謁見中であるぞっ!!」

「ははっ!た、たたた大変失礼いたします!!た、ただ今、『大聖女様』から緊急の通信が来ております!至急、聖女様とお会いしたいとの事であります!」



「はああぁぁ??」

 本日、二度目の驚愕の声を上げる聖女。



 通常、聖女が住まう宮殿には巨大魔石を利用した『特別な通信室』が設置してある。

 ここではリアルタイムで相手の姿を見ながら会話する事が出来るので、テレビ電話のようなイメージだ。


 この世界では、テレビのように画像を観る技術は確立しているので、エクレアがクラノス教団を追い詰めたやりとりなども世界中で中継する事が出来ている。

 しかし、それはあくまで一方通行の中継を流すという行為の事で、リアルタイムで相手の顔を見ながら、やりとりを交わすのは難しい。


 同じ国内で、例えば互いの距離が近いガタリヤとクリルプリスの民同士がテレビ電話で会話する場合は、ギリギリ出来なくもないが、国外の相手だった場合は、かなりのラグが生じるのでお互いの意思疎通をとる事さえも難しい。

 皆さんも海外と中継を繋いでやりとりしているニュース番組などを観たことがあるだろう。

 その時にお互いの言葉が重なってしまったり、質問が噛み合わない感じになっている光景を観たことがある人も多いはず。

 それは相手に言葉が伝わるまでの『時差』が影響しているのだが、こちらの世界で海外とやりとりを交わそうとするのはもっと大変。

 皆さんの世界では時差はあっても5秒から10秒程度であろう。

 しかし、こちらの世界では5分近くかかる場合もある。とてもではないが、こんな状態で会話をするのは難しいだろう。

 なので、画面を見ながらやりとりを交わすのは近場の街がギリギリ。海外へテレビ電話で会話を交わすなんて一般民には無理な話なのだ。


 だが、聖女や領主は別。

 何故なら結界を展開している『巨大魔石』の力を利用して、ほぼリアルタイムで画面を見ながら交信する事が出来る。


 ただし、現在の技術力では魔石室の真上に『特別な通信室』を造り、巨大魔石の力を利用しないとリアルタイムでの交信はできないので、一般民には利用不可。

 主に他街の領主への連絡や他国の重臣達とのやり取り、そして10年に一度行われる聖女会議や世界序列の発表の時に使用されている。


 もちろん、邪神討伐直後は『救世主』の事を知りたい他国から、ひっきりなしに通信が入ったが、基本的にはルーン国は序列も低いし聖女自身も暗愚の聖女として有名だったので、普段の通信はあまり多くない。

 ましてや大聖女からの直接連絡なんて建国以来一度もないのだ。

 世界中で、大聖女が他国と連絡を取る事自体が異例。

 世界序列第2位のスーフェリアとて、今代こんだいの聖女は個人的にやり取りした事はない程、超超レアケースとなっているので、聖女は思わず驚愕の声を上げてしまったという訳だ。



 思わず聖女はハミスの調査団とスーフェリアの使節団の顔を見る。



 スーフェリア使節団の団長エンリケスも、ハミス調査団の団長アインズも、驚愕の表情を浮かべていた。

 エクレアは流石『悪魔の女』と二つ名が付く程の人物なので、表情に変化はない。

 しかし、同時にフラフラとゆらゆらと、常にバカにしたように揺れていた身体がピタッと動きを止めていた。

 恐らく、脳内はもの凄いスピードで、ありとあらゆる可能性について思考していると思われる。


 これを見て、聖女の頭には一つの疑問が浮かび上がる。



 もしかして、ハミスとスーフェリアは手を組んでいないの?・・・



 スーフェリアは聖女の意向に沿って使節団は訪れてるけど、ハミスの調査団は大聖女の同意を得ていないのかもしれない。

 もしそうならば、そこを突けば、この難局を切り抜けられる可能性が出てくるわ。


 いえ、そう考えるのは早計ね。

 いきなり大聖女から『アンタの聖女資格を今日剥奪するわね』と唐突に最終勧告を受ける事も十分考えられるもの。


 聖女は精一杯、頭の整理をしながら心を落ち着かせる。



「お、おほほほ。だ、大聖女様からのご連絡では・・・仕方がないですわね。み、皆様・・・ちょ、ちょっと失礼致しますわ・・・」



 聖女は震える足を何とか動かし、玉座の間から退出する。

 ポドロスキやピッケンバーグ、メイドのロココも後に続いた。


 通信室へと続く長い通路を進みながら、聖女はポドロスキを問い詰める。

「ちょっと、ポドロスキ。どういう事?なんで大聖女様が?!」

「わ、分かりませんっ。大聖女様ご自身が直接連絡をしてくるなど、聞いた事がございません・・・」

「いったい何を聞かれるのかしら?!どう思う?ポドロスキ!」

「全く・・・見当もつきませんな・・・」

「んもぉ~。役に立たないわねっ」

「す、すみませぇん・・・」

「こうなったら数で勝負よ。至急重臣達を集めなさい。全員で対処すればなんとかなるはず・・・」


「も、申し訳ございません、聖女様。大聖女様は聖女様と1対1の対話をご希望しております!」

 先頭を歩く、『大聖女様から連絡が来た』と告げに来た兵士が申し訳なさそうに発言する。


「マジ?!私1人?!」

「聖女様!頑張ってください!」

「あんた・・・本当に中間管理職ね・・・」


 ウンザリした表情を浮かべた聖女だったが、ピタッと立ち止まり、急にしおらしくなる。



「ぴ、ピッケンは・・・どう思う?私は・・・どうすればいいのかしら・・・」



 急に話しかけられたピッケンバーグは驚いた表情を浮かべたが、直ぐに極上のスマイルを聖女に送る。


「聖女様の思いのままになさいませ。今の聖女様には強い信念がございます。覚悟がございます。そして民を思いやる優しいお気持ちがございます。だからこそ、アーニャ様やリリフさん達は本当の笑顔を聖女様に向ける事が出来るのでございます。なにも臆することなどございません。ありのままの聖女様をお見せくだされば、きっと大聖女様にも伝わりましょう。大丈夫でございます」


 聖女はピッケンバーグの言葉を噛みしめるように、瞳を閉じて、大きく深呼吸する。

「さっ!行くわよ!」

 そしてキッと前を見て歩き始めた。

 その瞳、聖女の瞳には輝きが満ちあふれている。



 しばらく進み、聖女は通信室に到着した。

 兵士達は聖女を確認すると、扉を開ける。

 

 聖女は敬礼している兵士の横を通りすぎ、通信室の中へ入っていく。


 通信室の中は薄暗く、巨大なモニターが設置されていた。

 そして、1人の女性が座っているのを映し出していた。


「!!!!!!!!」


 聖女はそれを確認してピタッと歩みを止める。


 大聖女様が・・・・


 大聖女ハミス・ルアンデル様が・・・


 顔を見せている・・・


 聖女はしばらく、呆然としてしまった。



 大聖女ハミス・ルアンデルは通常、顔を隠している。

 聖女セブンの会合の時も、全世界に放送される序列発表の時も。


 白いパーテーションや、すだれによって隠されており、シルエットや身体のみ登場ばかりで実際に顔を見た者は限りなく少ない。

 ハミスの重臣達ですら、素の顔を見た者はいないのだ。


『聖女の母』と呼ばれる程、大聖女の存在は貴重なので、高貴な身分の者は下々の者に顔を見せないといった『しきたり』で、こういった対応をしているようだが、そこには暗殺を防ぐ為といった裏事情も関係しているようだ。


 しかしその影響で、『複数の影武者がいる説』や『既に何回も世代交代している説』など、大聖女に対して根強いゴシップが絶えないのも、こういった事が関係しているのだった。



 聖女は緊張した面持ちで、モニターの前に立つ。

 そしてマジマジと大聖女の顔を見つめた。


 思ったよりもずっと若い。

 20代後半~30代前半のように感じる。

 もしかしたら、自分と同じで整形魔法を使いまくりなのかもしれない。

 流石に200歳近くなると、シワ一つ隠すのも大変だ。

 それが大聖女ともなれば2500歳近くの年齢。

 どうやってその美しさを維持しているのだろう・・・

 聖女は思わず、美容トークに花を咲かせたい気持ちに溢れたが、それをグッと堪える。



「初めてお目にかかります、大聖女様。ルーン国の聖女、ルーン・スワイラル7世、お目通りが叶い、恐悦至極に存じます」



 聖女はスカートを摘まんで挨拶する。


「急に呼び出してしまってごめんなさいね。どうぞ、座ってください」

「はっ」

 聖女はモニターの前に緊張しながら着席した。


 思ったよりもずっと優しい声質だ。

 全く威圧的な感じではない。

 そのお陰で頭がパニックにもなっていない。


 聖女はスーッと深呼吸して、大聖女を見つめる。

 そんな聖女を大聖女ハミス・ルアンデルは優しい瞳で見つめる。


「思ったよりもずっと綺麗で真っ直ぐな瞳をしているのね。スワイラル・・・と呼んでもいいかしら?」


「はっ。私の事は、暗愚の聖女でも、ヤリ○ン聖女でも、お好きなようにお呼びくださいませ」

「うふふ。貴方って面白い人なのね」


 唐突だが、交渉はいかに限られた時間で相手の懐に入り込めるかが鍵となる。

 馴れ馴れしくもなく、かといって壁がある訳でもない。

 その絶妙な距離感を維持しつつ、相手が興味を持つ提案を適切なタイミングで提示する事。これが大事。


 人によっては馴れ馴れしいのを不快に思う人もいる。

 堅苦しいのを不快に思う人もいる。


 いきなりハイテンションで話し始めるのもアウトだ。

 専門的には『インパルスカーブ』と呼ぶが、相手への興味は徐々に上がっていく事が多い。

 お互いが同じテンションで盛り上がっていく事で、交渉は成功しやすくなるのだ。


 相手はどんなタイプか。興味はどれくらいか。


 そんな状況を瞬時に見極め、適切なタイミングで提案をすること。

 成績が良い営業マンはこの見極めができる者が多いらしい。


 もちろん、この時の聖女は、そんな事一切考えていないが、大聖女の懐に入り込む事には成功したようだ。

 ピッケンバーグから『今のままの自分で大丈夫』と言われたからかも知れないが、正直に嘘偽りない姿でいよう。ありのままの自分を見せようという気持ちで大聖女に接していたので咄嗟に出た言葉だったが、それが功を奏したようだ。


 意識せずとも出来てしまう。

 人はそれを才能と呼ぶ。


 ポドロスキもそうだが、聖女も十分、特筆すべき才能の持ち主なのであろう。



「ではスワイラル。率直(そっちょく)に聞くわね。今回の邪神を討伐した『救世主』はミールかしら?」



 この言葉を聞き、聖女の頭の中はくっきりと明白に考えがまとまった。


 大聖女様が知っている。

 アイツの事を知っている。

 つまり、2人はそれだけ深い仲なのだろう。


 故に、アイツの事を追い詰めるような事は絶対にしない。

 ハミス調査団の行動は大聖女の意思ではない。


 となると、スーフェリアと手も組んでいない。

 ハミス調査団の・・・・いや、エクレアの独断専行な行動なのかもしれない。

 

 そしてわざわざ連絡してきたということは、大聖女様は完全に味方だ。

 100%信頼できる。


 聖女は少し笑みを浮かべながら返答する。

「その通りでございます。大聖女様」



──────────────────────



 しばらく大聖女ハミス・ルアンデルとやり取りを交わした聖女は、ゆっくりと通信室から出てきた。


「ど、どどどうでしたか?!聖女様!」

 直ぐにポドロスキが大慌てで訪ねてくる。


「ふっふっふ・・・」


 聖女は不敵な笑みを浮かべながら数歩歩き、クルッと振り返る。


「バッチシよ!勝ったわ!完全に勝ったわ!」

 Vサインを出して勝ち誇る聖女。


「ぐっふっふぅ。見てなさい、エクレア・・・エンリケス・・・コテンパンにしてやるんだから・・・ぐっふっふ」


 暗愚の聖女と呼ばれていた頃のように、悪巧み満載の笑みを浮かべて歩き出す聖女に、お互い顔を見合わせて付いて行くポドロスキやピッケンバーグ、メイドのロココであった。




 聖女は玉座の間にゆっくりと戻ってきた。

 出て行く時は震えていた足取りも、今は優雅さすら感じられる。

 そして不敵な笑みを浮かべながら、玉座へ腰を降ろした。


「皆さん、ごめんなさいね。大変お待たせしましたわ」

 聖女は笑みを浮かべながら言葉をかける。


「いえいえぇ。こちらこそぉ、お忙しい中、申し訳ございませぇん。ではぁ、聖女様ぁ。早速ですがぁ、先程の続きを致しましょ~う♪ご準備はぁ、よろしいですかぁ?」


「うふふ。エクレア。そう焦らないで」

「???」


「スーフェリアの使節団の皆さんも、ハミスの調査団の皆さんも、長旅でさぞお疲れでしょう。紅茶を用意するから少し休憩されてはいかが?」

「あっははぁ。聖女様ぁ、それには及びませんわぁ。聖女様が自白魔法を受けてくださる事が、何よりのご褒美ですもの♪」


「あらあら。せっかちな女はモテないわよ、エクレア。もうしばらくしたら『大聖女様から緊急連絡』が世界中にあると思うから、少し待ってなさい」


「世界中に・・・ですかぁ・・・」


「ふふふ。嘘だと思うなら自身で確認する事ね。玉座の間を出て、左に真っ直ぐ進むと、角に固定魔石が置いてある部屋があるわ。そこで自国に問い合わせてみることね」


 エクレアはイタズラっぽい表情は崩さずに、目で部下に合図する。

 直ぐに調査団の数人が部屋を出て行った。

 同時にスーフェリアの使節団の数人も、エンリケスの指示を受けて後を追っかける。


 しばらくして・・・大慌てで戻ってくる。


「え、エクレア様っ。本当でございます!大聖女ハミス・ルアンデル様から一時間後に世界各国に向けて緊急連絡があると通知が出ております!」


「エンリケス様!本国にも緊急の通知が来ております!ロプティーナ様より、しばらく待機せよとのご命令が出ております!」


「なんと?!」

「本当か?!」

「大聖女様から緊急連絡なんて今まであったか?!」

「いや!初めてじゃないか?!」

「信じられん・・・」


 玉座の間はスーフェリアの使節団、ハミスの調査団、そして聖女の衛兵達の声でザワザワしている。

 そんな動揺している人々をあざ笑うかのように、聖女は余裕たっぷりで話しかける。


「では皆さん。時間までくつろいでください。ポドロスキ、皆さんに紅茶をお出しして」

「は、はいっ、かしこまりましたぁ!」


 そして急遽、簡易の椅子とテーブルが容易され、その場で時間を潰す使節団と調査団。

 スーフェリア使節団のエンリケスは、口元を手で覆いながら、厳しい表情で部下たちと言葉を交わしている。

 ハミス調査団のエクレアは表情を変えずに紅茶を楽しんでいるが、団長のアインズは顔面蒼白で部下達と今後の可能性について協議していた。


 このルーン国は日中なのでまだ良いが、この世界にも当然『時差』は存在する。

 なので、この発表が深夜や早朝の国もあるだろう。

 大聖女からの連絡自体が異例中の異例な事なので、世界各国で大慌て、大混乱になっている重臣達の姿が容易に想像できる。


 巨大なモニターが玉座の間へと運ばれ、全員が大聖女からの緊急会見が始まるのを待っている。

 先程も述べたが、一方通行の動画や中継画像は問題無く再生する事が出来る技術は確立しているので、中継が始まるのを待っているのだ。



 そして通達通り、約一時間後、世界中に大聖女ハミス・ルアンデルからの会見の様子が中継された。



「皆さん。突然の連絡になってしまいごめんなさい。今日はどうしても皆さんにお伝えしたい事案があり連絡させてもらいました。わたくし大聖女ハミス・ルアンデルは『神の使徒様』への皆さんの対応に『深い懸念』を表明致します。先日、ルーン国を襲った邪神を討伐されたのは『神の使徒様』です。結界すら破壊する邪神を相手に、通常、人間では太刀打ちできません。まさに『神の使徒様』がお助けくださったからこそ、今日こんにちの我々の生活があるのです。その偉大なる御心を宿した『神の使徒様』に対し、正体を突き止めようと動いたり、唯一、繋がりがあるルーン国へ圧力をかけて調べようという動きが見られます。わたくし大聖女ハミス・ルアンデルは、この行為に『深い懸念』を表明します。このような事が続き、もし万が一、『神の使徒様』との繋がりが断ち切れる事になれば、それは『世界平和を脅かす』事案です。皆さんが行うべき事は正体を突き止める事ではありません。命があることに感謝し、神へ更なる信仰を捧げることです。今、人間と『神の使徒様』を繋ぎ止めているのはルーン国の聖女、ルーン・スワイラル7世のみです。この結界すら破壊する悪魔達に対抗できる力を宿す『神の使徒様』との唯一の繋がりを消さない為にも、住民の皆さん、報道関係者、そして各国の指導者は、ルーン国が不利益に巻き込まれないように対処する事を切に願います」



 会見が終わり、シーンとする玉座の間。

 


 今回の大聖女はパーテーションで仕切られシルエットのみで登場・・・といった、いつもの感じではなく、すだれに遮られただけの、よ~く目を凝らして見れば、何となく顔立ちが分かるような、一歩踏み込んだ印象を受ける。

 それだけで、この通達に対する、大聖女の強い意志が感じられた。


 そして表明された大聖女の意思とは真逆の行動をしている調査団。

 大聖女直属の機関である調査団が、これに動揺しない訳がない。


「さあて。どうするのかしら、ハミスの調査団の皆さん。慈悲深い『神の使徒様』の恩恵に仇で返すのか。神が遣わしてくださった使徒様を好奇心や興味などといった『くだらない』気持ちで穢し、絆を断ち切るのか。そしてなにより、大聖女様の意向に反して『神の使徒様』への調査を続けるのか。答えを聞かせてくれるかしら、エクレア」


 エクレアはいつもの目を半開きにさせ、悪戯っぽい表情で何かを言おうとした。

 しかし、それを遮り、ハッキリとした声で宣言するハミス調査団の団長アインズ。



「ハミス調査団は直ちに帰国する!」



「はあぁ?ちょっとアインズ。何を言ってるの?ここまで来て・・・」

「エクレア。アインズではない。団長と呼べ。ここでは俺が団長だ。俺の命令には従ってもらう」


 アインズの言葉にムッとした表情を見せるエクレア。


「聖女様。お時間取らせてしまい申し訳ございませんでした。ハミス調査団はこれにて失礼させて頂きます。聖女様のご健勝とご多幸を心からお祈り申し上げます」

「わかったわ、アインズ。貴方も道中、気をつけてね」

「はっ」


 そうして不服そうなエクレアを引っ張って行き、退出するハミスの調査団。

 それを見て、スーフェリア使節団の団長エンリケスも動揺を隠せない。

 一生懸命、7:3の髪を整えながら、ぎこちなく挨拶する。


「で、では我々も失礼させて頂きます・・・聖女様。またお会い出来る日を楽しみにしております。では・・・」


「エンリケス」

「は、はひっ」


「ルーン国はスーフェリア国に対して、正式に『遺憾の意』を表明します。先程、貴方が提示した『数々』の一方的な発表に、私は『強い圧力』と『制裁』であると受け止めました。直ぐにこれらの発言を撤回せねば、ルーン国は世界各国にこの事案を報告します。そして今後、スーフェリア国に対して一切の協力を行いません。『神の使徒様』へもスーフェリア国のみ、非協力的であると伝えます。各国へも、スーフェリアを擁護する場合は同じ対応になると伝えます。分かったわね、エンリケス」



「は、ははっ!必ず!必ず伝えさせて頂きます!ではこれにちぇ失礼いたしましゅ!」

 言葉の後半を噛みながら、エンリケスは逃げるように玉座の間から出て行った。



 二つの大きな団体が去り、静かになった玉座の間。


 しばらくして聖女は『ククク・・・』と小さく笑う。

 そして次第に声は大きくなり、大声を上げて玉座から立ち上がる。



「あーっはっはは!ざまあ見ろってもんよ!あのエクレアの悔しそうな顔、見た?!あーはっはっは!超気持ち良い!最高だわ!やったわよ、ポドロスキ!やったわよ、みんな!ルーン国は勝ったのよ!やったー!やったー!」



 ジャンプして大喜びの聖女様。

 子供のように無邪気に喜ぶ姿に、衛兵達の顔も緩む。


「流石聖女様!」

「やりましたな!」

「スカッとしたぜ!」

「ルーン国万歳!聖女様万歳!」


 衛兵達はパチパチと拍手をしながら聖女を称える。

 それに気を良くしたのか、テンションMAXで気分が高揚していたのかは分からないが、聖女はピッケンバーグに飛びついた。



「やったわよ!ピッケン!貴方のお陰よ!貴方が信じてくれたから大聖女様にも普段通り接する事が出来たわ!ありがとう!ピッケン!」



 唐突に聖女が抱きついてきたので、ビックリしたピッケンバーグであったが、直ぐに優しく聖女を支える。


「とんでもございません。聖女様の国を良くしようとする想い、民を思いやる気持ちに大聖女様は心を動かされたのだと存じます。おめでとうございます、聖女様」


 いつも優しく聖女を包み込んでくれるピッケンバーグの声が耳元で聞こえ、そこでようやく自分がピッケンバーグに抱きついている事に気付いた聖女。慌てて離れる。


「ご、ごめん・・・ピッケン」


 聖女は顔を真っ赤にして、うつむいて謝る。

 そして髪を耳にかけながら、眼球を上に動かしてピッケンバーグの様子を伺う。

 ピッケンバーグは変わらずに笑顔で聖女を見つめていた。

 再度、恥ずかしそうにうつむく聖女様。


 そんな、見ているだけで思わず微笑んでしまいそうになる2人の間に、ご機嫌な様子のポドロスキが割って入ってくる。


「いやぁ~。よかった、よかった。それにしても聖女様は人が悪いですなぁ。まさか救世主様が神の使徒様だったとは・・・このポドロスキ、腰が抜けそうになりましたぞ。ピッケンバーグ殿は知っておられたのですかな?いやはや、そういう事は前もって知らせておいてくださると助かりますなぁ。はっはっは」


「あらそう。話しても良いけど、そうなると貴方も『世界平和の責任』を負うことになるけど、それで良いのね?」


「・・・・・あー!そういえば、スーフェリアへの対応は見事でしたなぁ。このままではスーフェリアは世界中で孤立するのは確実。必ず撤回してくるでしょう。これで数々の圧力は弱まり、貴族への対応もスムーズに行えますなっ。ルーン国の未来は明るいですぞっ」


「ええ。だからこそ、ナンバー3の貴方には『神の使徒様』の事を知ってもらう必要があるわよね。これから話すから私の私室に来てちょうだい」


「・・・・・・・・・・・・・あ~!そういえば、使節団や調査団の皆様をお見送りしなくては!今後、両国でシコリを残してはいかんですからな!では、聖女様!これにて失礼しますぞ!」

 ポドロスキは逃げるように走り去る。


「あんた・・・根っからの中間管理職ね・・・」


  続く

次回は7/14頃投稿予定です。

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