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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ⑲

 しかし、聖女に残された選択肢は決して多くはなかった・・・





「聖女様。お初にお目にかかります。わたくしは調査団、団長のアインズと申します。以後、お見知り置きのほどを」


 調査団の団長と名乗る男が挨拶をしてきたが、呆然としている聖女の頭には響いてこなかった。

 すると、今度はヒョコッと小柄な女性が顔を出す。


「あら、聖女様ぁ。今日は随分とお淑やかなんですわねぇ。10年前とはまるで別人のようですわぁ」


 その女性は目を半開きにさせながら、少しイタズラっぽく語りかける。

 この女性の言葉に正気を取り戻した聖女は、ゆっくりと玉座に座りながら答えた。


「久しぶりね、エクレア。貴方も随分と成長したのね。まだガキだったあの頃が懐かしいわ」

「うふふ。10年前は随分と騒がれましたわぁ。『絶対に他の事を聞かないでよ!』ってね。私、あの頃から聖女様が言った『他の事』というのが、ずっと気になっておりましたのぉ。一体どんな『他の事』が隠されているのか。今日はお聞かせくださいね♪」


 相変わらず、人を小馬鹿にしたような喋り方。

 ホント鼻につく。


「貴方こそ、相変わらずの『処女』なのかしら?身体は少しは成長したようだけど、貴方みたいな『性格最悪』な女を抱こうと思う男はいないみたいね」

「あぁーはっはっはっ。流石聖女様ですわぁ。見抜かれてしまいましたぁ。今度、是非、女の魅力について教えてくださいましぃ。あっ、今度・・・が、あればの話ですけどぉ。うふふ」


 駄目だ。

 全くペースを乱せない。

 このままでは、この『悪魔の女』の思い通りに事が運んでしまう・・・


 聖女は取り繕う笑顔をするのが精一杯。

 頭の中では、どうすれば切り抜けられるか、懸命に考えを巡らせる。


「では、早速ですが、聖女様ぁ。先月は邪神がこの地に具現化して随分とご苦労されたとかぁ。まずは聖女様がご無事で何よりですわぁ。そして数多くの犠牲となった住民や兵士、冒険者の皆様にはお悔やみ申し上げますぅ」


 ゆっくりと前に出て話し始めるエクレアと呼ばれた女性。

 どうやら、最初に挨拶してきたアインズという団長よりも、こちらの女性の方が立場は上のようだ。実質的にリーダーの役割を担っているように感じる。



 この小柄な女性、エクレアについて少し説明させて頂こう。



 実はこのエクレアは世界的に有名な人物だ。

 若干10歳で博士号を取得し、この女の子が書いた数多くの論文は未だに世界の最先端を担っている。

 ローランちゃんも超天才児(大人)だが、どちらかというと技術者寄り。

 対して、このエクレアは戦略や推理、調査を得意とした軍師寄りで、特にその推理力は世界随一。

 この世界には自白魔法が存在しているので、未解決事件など無いと思うかもしれないが、実はそんな事はない。

 結局、事件に関わった者へ自白魔法を使わないと意味がないからだ。

 なので、犯人まで辿り着けずにお蔵入りした事件も多い。

 そんな数多くの未解決事件を、ハミス調査団に所属した途端、次々と解決へと導いた捜査のエキスパートがエクレアなのだ。


 このエクレアの名を世界に轟かせた事例が二つあるので紹介させて頂こう。

 

 一つは『力の神クラノス』を信仰していた宗教団体を壊滅状態に陥れた事。

 そして、もう一つは魔道技術大国ドルグレムに他国での修理を認めさせた事であろう。


 まずは宗教団体について。


 今現在ではゼロス信仰が一番盛んだが、10年くらい前は、ゼロス信仰と同じくらい、クラノス信仰も盛んだった。


 クラノスとは、この世界で『力』を司る神であり、力こそ正義と思っている連中や、自分達は特別と思い込んでいる貴族や富豪、序列上位の住民達などに特に人気があった。

 しかし、当然ながら過激な思想、行動する者も多く、やや問題視されていた宗教団体でもあった。


 そんなある日、クラノス信仰の幹部が死亡するといった事件が起こる。

 その幹部は特にゼロス信仰を『敵対視』していた人物で、事あるごとに批判を繰り返していた。

 だが、その過激な発言がウケたのか、かなり信者から人気がある人物で、クラノス信仰の組織の中でも中心的な人物。この人がいるからクラノス信仰は大きくなったのだと言われるような人物だった。


 なので、クラノス信者達の落胆の色は濃く、直ぐに『ゼロス信者の仕業だ!』と言って騒ぎだす。

 注目度が高い事もあり、国の警備局から特別チームが編成され、かなりの人数を投入して捜査が行われた。


 当時、この事件は簡単に解決するだろうと楽観視されていた。

 

 犯人が現場に残したと思われる遺留品も数多く発見されたし、凶器と思われるナイフも犯行現場で見つかった。そして、追跡魔法も作動したので、直ぐに犯人は近隣の大学生の男だと分かったからだ。


 しかし、肝心の自白魔法は、この者が犯人ではないと逆に証明してしまう。

 実際に、この者にはアリバイがあり、捜査班はニセ情報に踊らされていたようだ。

 その他にも、現場に残された数々の遺留品も全て真犯人が残したフェイクだと分かった頃には、犯行から2ヶ月近くが経過していた。


 初動捜査を豪快にミスった警備局幹部達は大慌てで再度、捜査のやり直しを図る。


 恨みを抱いていそうな者や、この者が死んで利益を得た者、被害者の交友関係などを徹底的に調査していく。

 しかし、元々過激な発言が多かった被害者だ。疑わしい者は数えきれず、自白魔法での捜査も時間がかかる。


 一通り捜査を終えた頃には三ヶ月が経過していた。

 しかも、何一つ、犯人を突き止める証拠は出てこなかった。


 そして焦った当時の警備局幹部は、何一つ証拠が出てこないのは大きな力を持つ組織的な犯行、つまり、ゼロス信仰の幹部達の犯行だと決めつけ、確たる証拠も無いのに幹部数人に自白魔法を行使する。

 しかし、全く情報を引き出す事が出来ずに、捜査は頓挫してしまったという訳だ。



 え?とにかく自白魔法をかけまくっちゃえば、いずれ分かるんじゃ?・・・



 皆さんは、こんな風にお考えだろう。

 実は、誰でもかれでも自白魔法を強制的に使い続けることは出来ないのだ。

 その理由は『特別捜査権限』という仕組みが大きく関係してくる。


 『特別捜査権限』とは、捜査の為なら誰にでも強制的に自白魔法を行使できる権限だ(一部貴族を除く)

 非常に強力な仕組みだが、期間は90日以内という制限がかけられている。

 

 何故、期限が設定されているのか。

 それはこの仕組みが争いの火種、不正の温床になっていたのが大きい。


 無期限だった時は捜査という大義名分を掲げ、事件とは全く関係ないプライベートな情報を入手して相手を陥れる事に使ったり、依頼を受けて極秘情報を引き出し、その情報を売買するなど、とにかく無法地帯だった。

 

 又、通常は自白魔法を使われると、勝手に質問に答えてしまう。しかし、脳内で考える事は出来る。つまり、自白魔法を使われたという記憶は残る。

 だが、寝ている時に使われると、その使われたという感覚すら残らない。

 なので、相手を気絶させたり、睡眠魔法を使用したりして、勝手に情報を引き出す犯罪も横行した。


 更に、自白魔法士自身も犯罪に手を染める者が数多くいた。

 何故なら、自白魔法を使えば、どんな情報だろうが簡単に聞き出す事が出来る。

 相手の幼少期のトラウマだろうが、秘密にしているコンプレックスだろうが、根掘り葉掘り聞き出す事が出来る。

 これが、思いの外、快感に繋がるのだ。


 そして最初は、この人は普段どんな生活をしているのだろうとか、どんな事が好きなんだろとか、興味本位で始めても、情報を引き出しているうちにどんどんとエスカレートしていくのは、想像に難くない。


 誰にでも、自由に、際限なく情報を奪える自白魔法の特性ゆえか、この力に魅了される自白魔法士も多かった。

 ラインリッヒのように人間が出来ている者ばかりではないという事だ。


 当然、これらの『特別捜査権限』を悪用した犯罪行為は数々の揉め事、争いの火種となり、遂には戦争まで起こる事態となってしまう。


 それを危惧した聖女セブンは話し合いを重ね、期間も1年以内に・・・半年以内に・・・と段々と短くなり、今では90日以内のみ強制的に行使可能。行使できる者も疑いがある者だけ、質問も捜査に関する事のみ、という仕組みが出来上がったのである。



 とはいえ、90日は、ある程度強制的に自白魔法を行使出来るので、実際はかなりの確率で犯人が分かる。

 なので、この世界は刑の確定や執行のスピードが段違いに早いのが特徴だ。



 貴方達の世界では逮捕されてから起訴されて裁判で罪が確定するまで、非常に長い時間がかかるだろう。


 しかし、こちらの世界は自白魔法のお陰で本当に罪を犯したかは明白になるので、刑の確定までのスピードも早いし、犯人検挙の確率も非常に高い。

 それほど本音を引き出せる自白魔法の存在は大きいのだ。


 世論も、そのスピードや検挙率に慣れているので、逆に犯人検挙に時間がかかっていると、何やってんだ?と批判も多くなる。

 

 もちろんガタリヤのように自白魔法士が1人しかいない場合は、自白魔法士の体調を考慮して、裁判官により『自白魔法適用犯罪』と認定された事件や被告のみに自白魔法を行使したりするので、最初からポンポンと自白魔法を使って捜査するケースはあまりなく、事件解決までの時間も多少はかかる。


 しかし、今回のように注目度の高い犯罪は国から特別チームが編成されるので、専属の自白魔法士が用意される。

 つまり、自白魔法を使い放題の状態。

 ちょっとでも疑いがあれば、次々と自白魔法を行使できるので、かなりの確率で犯人がわかる。

 そんな状態なのにも関わらず、いつまでも逮捕できない状態が長く続くと、段々と世間からの風当たりが厳しくなり、批判も大きくなるのだ。


 又、自白魔法を使用すると相手の自由を奪える。権利を奪える。情報を奪える。

 これが人権の問題へと発展する事もままあったりする。


 そのため、相手がゼロス信仰という巨大な組織の場合は、『名誉毀損』や『権利の侵害』で逆に訴えられてしまう可能性があるのだ。


 しかも、今回のようなお粗末な対応が目立つ場合、かなりの確率で警備局側が負けるだろう。

 そうなれば多額の損害賠償を払わされ、警備局の信頼も地に落ちる。

 批判が大きければ大きいほど、矛先は犯人から警備局側へと向けられる。


 そして、世論を味方につけたゼロス信仰は、自身に疑いがあるにも関わらず、まるで正義のヒーローの如く『無能な捜査機関を成敗したぞ』と宣伝する。


 メンツにこだわる警備局のお偉いさん達は、この結果に大激怒するだろう。

 そうなれば今回指揮をした捜査幹部達の出世にも響く。

 

 なので、これ以上の汚点を増やしたくない警備局幹部達は弱腰となり、捜査は頓挫してしまったという訳だ。



 唯一、自白魔法を際限なくいつまでも使いまくる事が出来るのは『聖女セブン』が決定した時だけ。

 つまり、『聖女が殺される』ような世界的に重大な案件が起こった場合のみなので、なんとか特別捜査権限があるうちに自白魔法を行使して犯人の検挙、もしくは重要な証拠を見つけて犯人の目星をつける必要があるという訳だ。


 もう、こうなったらどうしようもない。


 もしかしたら、下っ端のゼロス信者が個人的に恨みを募らせ、単独で犯行に及んだのかもしれない。

 もしかしたら、宗教は関係なく、殺された幹部の人間関係のこじれから犯行に及んだのかもしれない。

 もしかしたら、金で雇われた殺し屋の犯行だったのかもしれない。


 様々な疑惑と憶測を残しながら、捜査はお手上げ状態になる。



 先に答えを言ってしまうと、犯行は被害者と思われたクラノス信仰の幹部達だ。



 被害者の人気は益々大きくなっている。このままではクラノス信仰はヤツに乗っ取られてしまう。そうなる前に消してしまおう。そんな僻みの感情で犯行に及んだのであった。


 しかし、通常であればゼロス信仰の他に、クラノス信仰の内部の犯行と疑われる可能性も高い。

 もし自白魔法を使われる事態になったら一瞬で終わりだ。

 そうなる前に、自白魔法を使いづらい環境にしてしまおう。


 そう考えて、数々の遺留品を現場に残して捜査を撹乱したのだ。

 その甲斐あってか、捜査班は時間を無駄に浪費することになる。


 クラノス幹部達にとって幸運だったのが、警備局幹部達がゼロス信仰の仕業に違いないと『先入観』を持って捜査してしまった事だろう。

 なので、この遺留品はゼロス信者と繋がりがあるはず・・・といった考えを持ってしまい、無駄に捜査を難しくしてしまった。

 同じように、疑わしき者への自白魔法も、ゼロス信者と繋がりがある者を中心に捜査してしまったので有益な情報は得られない。

 そうして、何一つ証拠が出てこない状況に『流石にオカシイのでは?』『犯人はゼロス信者ではないのでは?』といった意見が現場からは上がるが、それも無視して、幹部達はそのまま捜査を継続。

 そして、確たる証拠もないのにゼロス信仰幹部達に自白魔法を行使し、見事に不発に終わらせ、そして、特別捜査権限の90日も経過してしまった。

 こうなると今後は、強制的に自白魔法を行使する事が出来なくなり、使うには相手の同意を得る、もしくは、かなり確固たる証拠が必要だ。故に犯人検挙の可能性もかなり低くなったと言わざる得ないだろう。

 しかも、今や世間の批判は非常に大きい。

 こうなると、クラノス幹部に自白魔法を行使する可能性はほぼ無くなった。


 捜査幹部達の偏った先入観、石頭な対応に助けられたとはいえ、結果的に、クラノス幹部達の狙い通り、事が進んだと言っていいだろう。



 その後・・・全く進展がない状況に業を煮やしたクラノス信者達は、各地で暴動を起こすようになった。

 その流れは世界中へと広がり、大きなウネリへと発展していく。

 そんな状況をうれいだのか、大聖女は直属の機関『ハミス調査団』を派遣した。


 前置きが長くなってしまったが、その中で頭角を現わしたのが、当時、入団したばかりの若干12才、天才少女エクレアだったのである。


 エクレアは直ぐに、クラノス信仰に関係する全ての人、ゼロス信仰に関係する全ての人、1人1人の金の流れを把握する。

 もう一度言おう。1人1人だ。

 そう。世界各地に散らばるゼロス信仰の教会、そしてクラノス信仰の教会と、そこに所属する信者全員、そして出入りする業者に至るまで、全ての金の流れを『特別権限』を使って調べ、把握したのだ。

 当然だが、その数は1万とか2万とかで収まる人数ではない。おそらく3億近くになるであろう人数の、全ての金の流れを把握したのだった。


 先程、エクレアの推理力は世界随一と書かせて頂いたが、本当に驚異的なのは、この『演算能力』なのだ。

 巨大なコンピューターで行うような複雑な計算も、彼女にかかればあっという間。

 正に人間離れしていると言っていい。


 そして、この事件の注目度が高いこともあり、調査団の捜査の模様は世界中で中継されることになった。

 当然、世界中の信者や権力者、全く関係ない人々まで、その様子を固唾を飲んで見守った。


 記念すべき第一回目。

 調査団が意気揚々と訪れたのは、なんとクラノス信仰の本部だった。


『え?!クラノス信仰が犯人なの?!』

『そんなバカな!』

『クラノスは被害者だろ?!』

『信じられない』

 このような信者達の驚きの声に溢れる。


 そして、不安な表情を浮かべて巨大な集会所に集められたクラノス信者だったが、その不安な感情は直ぐに安心へと変わる。

 何故なら調査団から『まずはクラノス本部から。その次にゼロス本部へと向かいます』とアナウンスがあったからだ。


 実際、エクレアからも

「ごめんなさいねぇ。被害者の皆さんを疑うような形になってしまって。どうしても世界中で中継されているので、一つ一つ、順番に訪れる必要があるのですわぁ。簡単な質問をしたら直ぐに退散しますので安心してくださいね♪」


 このような発言があったので『なんだ、形だけか』『よかったぁ』『そうよそうよ。私達クラノスに犯人なんているはずないわ』と、安堵の声を上げた。


 そして壇上に上がった12人の幹部達。

 周りには総勢一万人ほどの信者が取り囲む。


「ではぁ、これから私が二つの質問をしますわ。その中で、どちらの質問に自白魔法で答えてもいいかをお答えくださいね。そしてぇ、その質問のみ自白魔法を使わせてもらいます。幹部の皆さん全員が答える必要はありませーん。この12人の中で、誰か一人でも自白魔法でお答え頂ければ、私達は直ぐに退出いたしますわぁ。もちろ~ん、両方とも答えたくない・・・という場合でしたらパスする事も可能です。でもぉ、あんまりパスばかりしてしまいますと、世界中で中継を観ている方はもちろん、この場にいる信者さん達も憤ってしまいますわぁ。もしそうなれば、9割の方が賛成したと見なし、自白魔法を『強制的』に行使させて頂きますので、気をつけてくださいね♪」


 そう。自白魔法は『特別捜査権限』を過ぎると強制的に行使出来ないと説明したが、例外なのが、その組織内の大多数が賛成した場合。

 その場合は確固たる証拠と同じ扱いになり、自白魔法を問答無用で強制的に使う事が出来る。

 しかし、現在この場にいるクラノス信者達は1万人を超えている。

 この信仰を導いてくれているリーダー達を信者のほとんどが否定するのは通常考えられない。

 なので、壇上に上がっている12人の幹部達も、強制的に自白魔法を使われる事にはならないだろうとたかをくくっており、一種の形骸化けいがいかしている仕組みでもあった。


 そしてエクレアはクラノス信仰の最高指導者に、いつものように悪戯っぽく質問する。


「ではぁ、まずは恒例ですが、貴方は『今回の事件の真相を知っていますかぁ?』という質問から始めさせて貰いますね♪それともう一つの質問・・・・貴方は『クラノス信仰を信じていますかぁ?』です。うふふ。これは簡単ですわよねぇ。では、お答えください♪」


 このエクレアからの質問を聞き、その場にいた数多くの信者から安堵の声が漏れる。

『なんだ、本当に形だけなんだ』

『安心したぁ』

『やっぱり調査団が怪しんでいるのはゼロス信者なんだ』

 等々。今回の調査団の訪問に困惑していたが、それも杞憂きゆうに終わりホッとしていた。


 しかし・・・


 いつまで経っても最高指導者からの返答はない。

 見ると、汗を大量にかいてブルブルと震えていた。



 ザワザワザワ・・・・



 次第にざわめき出す集会所。

 これはマズイと思ったのか、最高指導者はハッとして

「はは・・・はははっ。こ、これは面白い質問だ・・・だ、だが、いきなり私が答えてしまったら・・・あっという間に終わってしまう・・・そ、それは・・・わざわざこのような遠い場所まで足を運んでもらったのに申し訳ないので、私はパスさせて頂こう」


 最高指導者の言葉に、笑い声を上げる信者達。


「あらあらぁ。それは大変失礼致しましたぁ。まさか私達にまでお気遣いを頂けるとはぁ。やはりこういう仕事をしているとセッカチになってしまいますわね。クラノス信仰の慈悲深い教えに感銘致しますわぁ」


 深くお辞儀をするエクレアにパチパチと拍手する信者達。


「ではぁ、次の方。貴方はこの信仰のナンバー2だと伺っておりますわぁ。また同じ質問になってしまい申し訳ございませんが、お答えくださいませ。貴方は『この事件の真相を知っていますか?』それとも『クラノス信仰を信じていますか?』ではぁ、お答えくださ~い♪」


「ははは・・・ま、まだまだ始まって10分も経っておらん。私もそれではパスさせて頂こう」


『ははははは』

 笑いに溢れる集会所。


「まあまあまあぁ。クラノス信仰の幹部の皆さんは本当に面白い人達なんですわねぇ。これだけ巨大な宗教になるのも頷けますわぁ。ではぁ、次の方ぁ・・・」


 そして次の者に同じように質問をするエクレア。

 しかし、次の者も、その次の者も、同じように答えを避けてパスをした。

 次第に集会所にざわめきが混じるようになる。


「あらあらぁ。困りましたわぁ。そろそろお答えくださって結構ですのよぉ?では次の方ぁ」


 5番目の者にエクレアは視線を移す。

 しかし、この男は前の4人と違い自信に溢れているように感じた。

 何故ならこの男は今回の事件とは無関係。自白魔法を使われても、なんら問題はないからだ。

 しかしエクレアはそんな男の考えを見透かしたように質問を変える。


「本当に困りましたわぁ。私達は早く終わらせて次の現場に行きたいのですぅ。ではぁ、質問を変えましょう♪貴方は『クラノス信仰を信じていますかぁ?』それとも『クラノス信者達はただの金づるですかぁ?』ですわぁ。これならお答えくださいますわよね?ではぁ、どうぞ♪」


「なっ?!そんな!それは卑怯だ!」

「卑怯・・・ですかぁ?」

「い、いや・・・失礼・・・・」


 うつむく幹部。

 シーンとなる集会所。

 1万の人達、いや、世界中の中継を観ている人達がこの男に注目する。



「・・・・・パス・・・・・」



 長い沈黙の後に、ポツリと放ったこの言葉に、集会所の人々から怒号が湧き上がる。

『ふざけるなぁ!』

『いつまでパスしてるんだ!』

『なんで答えないんだ?!』


「あっら~ん。ホントに困りましたわぁ。何故、皆さんはお答えくださらないのでしょうかぁ。そこの貴方ぁ。貴方はもちろん答えられますわよねぇ」

 エクレアは周りにいる信者に質問した。


「もちろんだ!直ぐに答えられる!」


「ですわよねぇ。そこの貴方はぁ?」


「私も直ぐに答えられるわ!」


「ですわよねぇ。貴方達信者にとって『クラノス信仰を信じているか』なんて質問は挨拶みたいなモノ。当然全員が思っている、考えている、願っている、信仰そのもの、信仰の大前提ですものぉ。何故、このような簡単な質問にお答えくださらないのでしょうかぁ」


 エクレアはその後も幹部達に質問を続ける。


『信者達はただの性処理の道具ですか?』

『信者達から巻き上げたお金で豪遊したことはありますか?」

『現在、信者達と4・・・いえ、5股中ですか?』

『正直、今の最高指導者は人間のクズだと思いますか?』

 等々。

 絶妙ぜつみょうに質問を変えながら。


 結局、12人の幹部達全員がパスする結果となるのであった。


 上位の4人の幹部達は犯行に関わっているので『真相を知っていますか?』の問いに答える事が出来ない。

 かといって、クラノス信仰を信じていないと知れたら今の立場を失ってしまう。

 その他の者達がなんとかしてくれるだろう・・・といった他人任せにパスをした。


 しかし、その後の者達も、今の地位を失う訳にはいかないと、パスをし続けてしまう。

もし、『地位を失っても必ず復帰されるように計らうから、ここはみんなのために犠牲になってくれ』とでも裏取引をする事が出来れば、状況は変わったかもしれないが、所詮は今まで散々甘い蜜を吸いまくっていた幹部達だ。

 誰1人、『自分が犠牲になって教団を救おう』とは考える事は出来ないようだ。



 この結果に怒号や罵声を浴びせる信者達。

 直ぐにエクレアは追撃の一手を放つ。



「みなさーん。これをご覧下さーい♪」

 直ぐに集会所の大画面に数々の映像が映し出される。



 そこには豪華な屋敷や装飾品、絵画に溢れた部屋、数々の宝石、沢山の妖艶ようえんな女性に囲まれた幹部、振り込まれた金額の明細など。

 数多くの幹部達の実生活の様子が映し出されていた。


「あらあらぁ。最高指導者様は随分と豪華なお屋敷に住んでるんですのねぇ。まあぁ、このお部屋も凄い。え?ナンバー2の方のお部屋ですのぉ。宝石も美術品も凄い数ですわぁ。あらあらぁ、ナンバー3の方はこんなに美女達に囲まれてぇ。お店の方のお話だと毎週のように豪遊してたんですってぇ。あらあらあらぁ、凄い金額ぅ。毎月、5000万グルドも入ってきたら、そりゃ笑いが止まりませんわよねぇ?でもぉ、それって誰から集めたお金なんでしょうねぇ?」


 そうして集会所は怒号や罵声が乱れ飛ぶ、異様な雰囲気に包まれた。

 当然、信者達の満場一致の結果となり、自白魔法が行使されて、殺したのは最高指導者を含めたクラノス信仰の幹部達だと証明された。

 更に、他の幹部達も『クラノス信仰を信じていない』どころか、金と女、欲望にまみれた生活だった事が明るみに出てしまい、地位を失う。

 その結果、クラノス教団は壊滅的な打撃を受け、一気に求心力を失い、やがて衰退していくのであった。


 そしてこの事件は全世界に中継されていた事もあり、エクレアの名前は一気に知れ渡ったという訳だ。



 実は、クラノス信仰から派生した『皇帝ボルニウス』を神と崇める宗教団体が、いずれ世界を混乱に陥れる事件を引き起こすのだが・・・・・それはいつか語ろう。



 では、次に、魔道技術大国ドルグレムに他国での魔道具の修理を認めさせた事について。


 以前、少しミールが話していたのを覚えているだろうか。

 リリフがバウンドウルフを初めてブレーメンに買い取ってもらった時に、最新の荷車を譲り受けた事があったと思う。

 その際に、荷車の技術力に感心していたリリフにミールは説明していた。

 今までは故障したら、いちいちドルグレムまで輸送する必要があって面倒だったが、10年前にドルグレムの技術者を派遣して他国で修理する事が認められたんだと。

 その影響で、各国で技術者を支援する雇用が生まれ、優秀な技術者も数多く育成され、世界中の技術力は一気に向上し、今ではドンドンと新しい技術が生まれているのだと。


 その交渉をしたのがエクレアだったという訳だ。


 ドルグレムが他国の要望に応えるのは非常に珍しい。

 国のトップが独裁者として有名な男なので、交渉の席に付くことすら難しいからだ。

 それなのに、大した見返りも差し出さずに交渉をまとめたので、エクレアは世界中で賞賛されたのであった。


 だがしかし・・・


 実はエクレアは、この一件以来、一部の人達からは疑いの目で見られるようにもなった。

 その説明をするには『聖女暗殺事件』の事を話さずにはいられないだろう。



─────聖女暗殺事件─────



 およそ10年前に起こった、その名の通り聖女が殺された事件だ。

 殺害されたのはドーラメルクというスーフェリアの東にある小国だ。


 たいした産業もなく、国力も乏しく、時代が時代なら、あっという間にスーフェリアに攻め滅ぼされていたであろうと容易に想像できる小国だ。


 その国の聖女が殺された。


 当然、聖女の殺害という緊急かつ重大な案件だったので、直ぐにハミス調査団も派遣され、捜査が開始された。

 しかし、捜査は難航を極めた。

 エクレアの頭脳を持ってしても真犯人を見つける事が出来ず、捜査開始から1年が経過した頃、聖女セブンはある決定をする。


 それは『全ての聖女に自白魔法をかける』という事。

 

 この異例とも言える対応は、それほど手掛かりが掴めていない事の現れでもあった。

 調査団は順調に各国を周り、そしてドルグレムの番になる。


 ドルグレムの聖女に自白魔法をかけたが、全く情報を得られず、調査団は退出しようとした、その時・・・


 エクレアはそっと独裁者と有名な国家元首に耳打ちした。

 すると、明らかに独裁者の顔色が変わる。

 そのまま、しばらくヒソヒソと言葉を交わす2人。


 その後、唐突に発表されたのだ。

 他国での魔道具の修理を認めると。


 結局、調査団はその後も世界中を周り、全聖女に自白魔法を使ったが、犯人を特定する事は出来ずに事件はお蔵入りとなる。

 なので、エクレアが関わった事件で、初めて未解決に終わったのが『聖女暗殺事件』なのだ。


 普通であれば、エクレアにとって遺恨いこんを残すような出来事となりそうなモノだが、当の本人は涼しい顔のまま。


 詳細を知らない普通の人達は『犯人は分からなかったが、変わりに大きな収穫があった』『流石エクレアだ。転んでもタダでは起きない』と、修理の権利を勝ち取ったエクレアを賞賛したが、あの時、あの現場にいた者達は思ってしまうのだ。



 もしかして、聖女殺しを秘密にする代わりに権利を勝ち取ったのではないかと・・・



 そんな事もあり、エクレアはハミス調査団の一部の者達から現在も疑われているのであった。


 そうそう。

 結局、そのドーラメルクという小国には隣国のスーフェリアから聖女が派遣されたので、被害は出ずに済んだ・・・・というより、以前よりも活気が増すことになる。

 皆さんもご存知の通り、現在ドーラメルク産の結界石は世界最高峰の性能と有名だ。

 そのため、何の取り柄もなかった田舎の小国が、一気に世界有数の港街へと変貌する。

 そして貿易が盛んになり、人も物資も多く集まるようになり、スーフェリアにとってもドーラメルクは欠かせない国になったのである。

 ドーラメルクの発展にはもちろん、スーフェリアから派遣された聖女が大きく関わっているのだが、それはいずれ語らせて頂く『聖女救出編』にて、改めて説明させて頂くので、今は省くとしよう。



 少し話が逸れたが、そういった二つの事例があり、エクレアの名前は世界中に知れ渡る事となる。

 そして、その後も数多くの事件を解決へと導く。


 強大な力を保持している大貴族も

 何代も統治し続けている歴史ある領主一族も

 世界に名が通っている国の重鎮も

 けして触れる事が出来なかった王家の血筋の者も


 エクレアは構わず裁き続け、その容赦ない捜査、非情な追い詰め方、根掘り葉掘り徹底的に調べあげて、事件と関係ない事柄まで全てぶちまけるデリカシーのなさ。

 彼女が関わると、その一族はことごとく破滅する。


 そんな恐れと恐怖、絶望を運んでくる女として、いつしか人々からこう呼ばれるようになった。


 『悪魔の女』と



 エクレアの説明はこれくらいにして、話を本編に戻そう。

 エクレアはいつもの悪戯っぽい喋り方で聖女に話しかける。


「ではぁ、聖女様。本日、わたくしども調査団が訪問した理由は『救世主様』の情報を得るためですのぉ。邪神すらも討伐してしまう救世主様とはどのような人物なのか。この方の情報は正に世界平和に通ずる貴重なもの。全世界に公開し、世界中で共有すべき情報ですわぁあ。で・す・の・でぇ♪我々ハミスの調査団は自白魔法を使い、今回の件を調べる事にしましたぁ。10年前と同じでぇ、今回も『他の事』は聞かないと約束しても良いですよぉ。どうですかぁ?聖女様♪」


 10年前とは、先程説明した『聖女暗殺事件』の時だ。

 この時、当然ルーン国にも調査団は訪れている。

 そのため、エクレアとは面識があったという訳だ。

 その時の聖女は全く事件に関係してなかったが、他の事を聞かれると非情にマズイ状況になるほど、当時は汚職や不正をしまくっていたので、エクレアに『絶対に他の事は聞かないでよ!』と念を押して自白魔法を受けた経緯がある。


 しかし、今回は受ける訳にはいかない。

 なんとかして凌がなければ・・・


「さ、さあ・・・何の事だか・・・分からないわ。きゅ、救世主?・・・いったい誰の事かしら・・・」


「あらあらあらぁ。またまたご冗談をぉ。だって聖女様、仰ってたじゃないですかぁ。街の順位発表する広場でぇ。英雄様はこう言ってましたよってぇ。会ったんですわよねぇ?」


 やはり、この程度、既に調査済というわけか・・・


「おほほほ。あ、あれは・・・住民を納得させるための口実。ここだけの話、嘘なの。ああ言えば納得するだろうって思って言っただけなの・・・ご、ごめんなさいね。誤解させちゃったみたいで・・・」


「あっら~ん。そうでございましたかぁ。わたくし早とちりしてしまったようですわぁ。聖女様ぁ。申し訳ございませーん♪」


「い、いいのよ。エクレア。問題な・・・」


「ではっ聖女様!あの日、邪神を討伐した夜。騎士本部の最上階に泊まった人は誰なんですかぁ?聖女様もそこに立ち寄られたとかぁ。かなりのVIPですわよねえぇ?お聞かせください、聖女様♪」


 まずい・・・

 想像以上に調査されている。

 もしかしたら、既に誰だか目星が付いているのかもしれない。


「そ、それは・・・私の個人的に恩がある人が・・・負傷してしまったので・・・お見舞いに行っただけのことよ・・・きゅ、救世主とは・・・か、関係・・・ないわ」


「あらあらあらぁ。そーでございますかぁ。聖女様のお知り合いの方が無事でなによりですわぁ。ではぁ、その方が誰なのか、念のため自白魔法にて明らかにしてもよいでしょうかぁ?」


「そ、そそそれは勘弁して頂戴・・・あ、相手に迷惑がかかってしまうから・・・」


「あら~ん。そうでございますかぁ。救世主様の事もダメ。騎士本部に泊まった人の事もダメ。こうも拒否されてしまいますとぉ、我々調査団も困ってしまいますわぁ。ねえ、エンリケス様ぁ」


「ですな。聖女様、ハミスの調査団の皆さんは我が主ロプティーナ様がご招待した形となっております。あまり無下になさらず、少しは要望に応えてくださりませんと、我々のメンツが保てません。何卒、ご配慮を」


「・・・・・・」


「ではぁ、こうしましょう♪聖女様に自白魔法をかけるのは止めに致しますわぁ」

「え?・・・」

「そのかわりぃ、聖都専属修復士の皆さん、1人1人に自白魔法をかけさせてくださいましぃ。これでわたくし共は退散致しますわぁ。どーですかぁ、聖女様♪」

「く・・・・」


 聖都専属修復士に自白魔法をかける。

 つまり、ミールの治療に関わった者が自白魔法を受けるという事。

 この提案を飲む訳にはいかない。


「そ、それは・・・難しいかしら・・・修復士は色々と忙しくて・・・」

「もっちろ~ん。いっぺんに全員集めろぉなんてワガママは言いませんわぁ。1人ひと~り、ゆっく~りと、数日かけて調べさせて頂きますわぁ。けしてぇ、修復士様のお仕事の邪魔はいたしませーん♪」


「え、えええっと。そ、そう!修復士達には住民の健康診断をさせるつもりなのよ。1人1人全員にね!やはり住民達の命が最優先ですものっ!今月中に終わらせたいわ!だ、だから・・・修復士には寝る間も惜しんで仕事してもらってるの。つまり・・・その・・・時間ないんじゃないのかしら!」


 自分でも少し(くる)しい言い訳か・・・とも思ったが、とにかく受け入れる訳にはいかないのだ。

 なり振り構ってなどいられない。


 しかし、エクレアはそんな聖女の動揺を見透かしたように

「そうでございますかぁ。残念ですわぁ。ではぁ、輸送兵の皆さんはどうでしょーか?輸送兵の皆さんは急な仕事は無いですわよねぇ?わたくし達は1ヶ月くらい時間を掛けてゆっくりと捜査しますのでぇ、輸送兵の皆さんにはご迷惑をおかけしませーん。これはいいですわよねぇ?聖女様♪」

「く・・・・」


 輸送兵全員に自白魔法をかける。

 つまり、ミールを騎士本部へと運んだ者達に自白魔法をかけられるという事だ。

 これも飲む訳にはいかない・

 しかし・・・・


「まさかぁ・・・これもダメなんですかぁ?聖女様ぁ。こーんなに、こぉ~んなにも譲歩してるのにぃ。流石にここまで拒否されるとぉ、聖女様ご自身が、実は関わりがあるんじゃないかとぉ、わたくしぃ、疑ってしまいますわぁ。ねえ、エンリケス様ぁ」


「ですね。聖女様。これ以上拒否するのは我々の主ロプティーナ様に失礼ではないでしょうか?名代として参上した私、エンリケスはこれ以上の拒否を認める訳にはいきません。聖女様、ご決断ください」


 聖女は唇を噛みしめる。

 

 普通であれば、何の連絡もよこさないで訪問してくる貴方達の方が失礼なんじゃないかしら?後日、しっかりとアポをとって出直してきなさい・・・とでも言える状況だが、それも出来ない。

 それほど序列というのは強い力があるのだ。


 聖女は無言で苦悶の表情を浮かべている。

 それをポドロスキや後ろに控えているピッケンバーグやロココ、周りの衛兵達が心配そうに見つめていた。


 ごめん、リリフ。

 ごめん、アーニャ。


 もうこれ以上、隠せそうにないわ。


 今、1番最悪なシナリオが、この場で自分が拘束され、いずれ聖女剥奪となり、他国から聖女が派遣されてくるようなケース。

 これはなんとしても避けなければ。

 しかし、それには『救世主』の情報を開示しなければならないわ。

 おそらくスーフェリア側も自国の聖女をルーン国に送り込む事が出来るならば、それが最高のシナリオでしょうけど、そこまでは考えてないと思う。


 貴族制度の廃止を撤回させる事が出来たら及第点。

 最悪、ハミスの調査団に恩を売れる結果となれば、それでいいと考えているはず。


 ここで自分が出来る最高のシナリオは、『救世主』の情報を開示する代わりに『貴族制度の廃止』は譲らない。そんな所ね。



 だけど・・・



 これは多分、アイツとの決別を意味している。

 もし、情報が漏れたら、アイツは姿も名前も変えて、二度とこの国に足を踏み入れないだろう。

 いや、もしかしたら、二度と人間とは関わらないかもしれない。

 世界が破滅しても、もう二度と力を振るう事はないのかもしれない。

 アイツは以前、こう言った。

 自分の手の届く範囲だけ守れればそれで良いと。

 だけど、今回私が喋ったら、それすらもしなくなるような気がする。

 目の前で多くの人が殺されようが、黙って見ているだけな気がする。

 世界が巨大な悪に蹂躙され、人間が絶滅するような事になっても、一切手を出さずに『観測者』として徹するような気がする。

 それなのに私は自分の保身のためにアイツを売ってもいいの?

 

 そんな思いにかられ、聖女は一歩踏み出す事が出来なかった。


「どうしましたぁ?聖女様ぁ。ぼ〜っとしちゃって。まだボケるには早いですよぉ・・・って、聖女様はそういえば200歳近いんでしたっけ?うふふ」


「そうね・・・私もいよいよお迎えが近いのかも知れないわ。最近、物忘れが酷いのよ。だから貴方達が探している『救世主』の事も忘れていたみたい。でも思い出したわ。確かに私は救世主の事を知っている。だから私にかけるといいわ。自白魔法をね」


「まあっ!まあまあまぁ!なんて素晴らしい!よくぞご決断されましたねっ!立派ですわぁ、聖女様♪」


「せ、聖女様・・・」

 聖女の決断にポドロスキが不安そうな声を上げる。


「仕方がないわ、ポドロスキ。もうこれ以上、とぼけるのは無理。私はまだ、拘束される訳にはいかないもの。でも・・・」


 聖女はキッとエクレアに視線を移す。


「最後に確認させて頂戴。自白魔法で調べるのは救世主の事だけ。他の事は一切聞かない事」


「ええ。ええ。もちろんですわぁ、聖女様♪我々は救世主様の事を聞ければ充分ですものぉ」


「そう。あともう一つ。この場にいる全ての人は、自白魔法中に口を出さない。一切割って入ってこない。これを約束出来るかしら?」


 聖女の言葉に、小さく舌打ちするエンリケス。

 あわよくば、聖女が予想した通り、割って入るつもりだったのであろう。

 だが、直ぐに切り替えて、次の妥協点を探る。


「もっちろ〜ん。質問するのは私だけ、内容も救世主様の事だけ。お約束致しますわぁ、聖女様♪エンリケス様も宜しいですわよねぇ」


「そうでございますな。もちろん我々も異存はございませんが・・・なんと申しましょうか・・・我が主、ロプティーナ様も気にかけておられますので・・・このままでは何とご報告すればよいか・・・」


 歯切れが悪いエンリケス。何かしらの要望があるようだ。

 しかし、『悪魔の女』と呼ばれるほどの頭脳の持ち主が、これを察しないわけがない。


「エンリケス様。『今回も』ロプティーナ様には大変お世話になりましたぁ。後日、ハミス調査団から正式に感謝状を送らせて頂きますわぁ。そして今後、もし私がお役立て出来そうな機会がありましたら、是非ご協力させてください♪」


 エクレアの言葉を聞いて、安堵するエンリケス。

 予定通り、ハミスに恩を売る事が出来て、次の確約まで取り付けたので、お役目達成といった所なのであろう。


「それを聞いて安心しました。今後も良い関係を築いていきたいものです」

「こちらこそですわぁ、エンリケス様♪」


 エクレアは軽くエンリケスにお辞儀をすると、クルっと聖女に向き直る。


「ではぁ、聖女様。ご準備はよろしくて?」


 聖女は観念したかのように、ため息をついて玉座から立ち上がる。


「分かったわ。好きにしなさい」


  続く

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