蘇る魂の道しるべ⑰
そんな訳でフローリアは、全くミールとイチャイチャする事が出来ず、イライラを募らせていくのであった。
⇨
ビレット達との特訓も3日目を迎えた。
相変わらずリリフの剣はビレット達に当たる事はないが、それでも十分、成長しているのを感じる。
「おっ?!りりぴょん、結構、重心がしっかりしてきたんじゃね?」
「はい!なんとなく分かってきた感じがします!もっとトレーニング続けます!」
リリフはビレットに言われた片足立ちのトレーニング中だ。まだまだビレットには遠く及ばないが、着実にどっしりとしてきている。
「オッケー。一分休憩〜」
「ふ〜」
リリフはドサっと大地に尻餅をつく。
「やっぱ、りりぴょんすげーよ」
そんなリリフを見て、ブルーダが感心したように呟く。
「え?」
「いや、だってりりぴょんって毎朝走ってるんだろ?そしてこの特訓前にフットワークもしっかりやってんじゃん。更に更に、こんなクソつまんねー重心の鍛練を全力でこなしてんじゃん?俺だったら、せっかく銀ランクがいるんだから、技術的な事を教えてくれとか、スペシャルな必殺技を教えてくれとか言ってると思うんだわ。それなのに、りりぴょんは超真面目に基礎練をこなしてんじゃん。マジでスゲーなって思っちまうんだ」
「そ、そんな事ないですよっ。ビレットさんとブルーダさんと模擬戦してみて、自分はまだまだ基礎の部分が出来てないなって思ったから、やってるだけだしっ」
「いやいや。そう思える事がスゲーんだって。俺らは見た目から入るっつーか、格好から入るっつーか。結構、派手な技とかを重視してて、基礎を疎かにしてたんよ。したら、かなり紫ランクの時に苦労してよ。そっから一から基礎を鍛え直したっつー過去があるんだぜ」
「ぎゃはは。それ言っちゃう?超恥ずかしいヤツじゃん。まんま黒歴史だぜ」
「だなだな。あん時の俺ら、マジでアホだったよな。フィールドも何も考えずにノリで突っ込んでたし」
「それそれ。マジで火力ゴリ押しPTだったよな。よくあれで全滅しなかったもんだぜ」
「んだな。特に、りりぴょん達の戦い方を見た後だと、更に自分らの愚かさが分かるっつーか。フィールドで油断してんじゃねーぞって、昔の自分に言いたいぜ」
「それな。俺も実際に同行してみて分かったけど、4人ともめちゃくちゃ慎重っていうか、油断しないっていうか。正直、臆病に思えるくらい、常に最悪なケースを頭に入れて行動してるじゃん?あれが俺らとは正反対すぎてビビったな」
「わかる。りりぴょんってメンタル鬼つよじゃん。だからフィールドでもイケイケドンドンみたいな感じかと思ってたんだよなぁ。したら、めっちゃ慎重じゃん。マジかよ?!って頭真っ白になったもん。あの衝撃は忘れられないわ」
「あはは。イケイケドンドンって・・・私ってそんなイメージだったんですね(笑)」
リリフは立ち上がり、腕をグッグッとストレッチしながら
「正直、どっちが正解とかはないと思うんです。今の主流の火力重視はモンスターに付け入る隙を与えない、反撃のチャンスを与えないって事で、とても理にかなってると思うし。同じく、私達のように慎重に相手の出方を見ながら対応するのは、予想外の行動やアクシデントが起こっても損害を最小限に出来ると思うし。でも逆に言うと、火力重視は相手が身構えてたり、ワナを張ってた場合は大損害を出す可能性があるし、私達のような慎重タイプは、その分、モンスターに考える時間を与えちゃうから、気づいたら自分達が不利な状況に追い詰められてたって事もあると思うんです。私達はPTで話し合って、慎重な戦いの方が向いてると思ったから、やってるだけで、別にビレットさん達が間違ってるとは思えません」
リリフは髪を結び直しながら
「ううん。多分、ビレットさん達の火力重視の方が正解なのかも。昔は私達のような慎重タイプも多かったみたいですけど、今はほとんど見られない。という事は、火力タイプの方が生き残る確率が高いって、みんなが判断したんだと思います。私も、もし最初からビレットさん達に師事してたら火力重視になってたかもしれない。でも、私は最初の頃に、フィールドでは絶対に油断するなって教えられてきたし、どんなに凄いスキルも基礎が出来てないと花開くことはないって教えられてきたから、その通りに実践してただけで」
「それってルチポンに教えてもらったん?」
「あ、いえ。それはミールに」
「ち、クソミールか」
「え?」
「あ、んにゃ。なんでもねー。おっと、かなり休憩しちまったな。んじゃ、次のステップ。今度はこの石の上に乗ってバランスを取ってみよか。結構グラグラすっから難しいぜ」
「は、はいっ!分かりました!」
そうして引き続き、鍛練に精を出すリリフであった。
ブルニはミケルとランドルップ相手に修練を続けていた。
ペチッ、パフッ、ペチッ、パフッ、ペチッ、パフッ
以前と違い、バックステップは少なくなってきているが、その分、攻撃を防ぐ事が難しくなってきているようだ。
結構、必死に2人の攻撃を盾で受け止めていた。
「やああぁ!」
事態を打開するべく、ブルニは意を決して前に出る。
スカッ
「あ、あれっ?!」
前に踏み込んで攻撃を受け止めるはずだったのだが、感触が無い。
そして背後に気配が・・・
ペチペチッ
ブルニが振り向いたと同時に、2人の剣はブルニの頭を叩いた。
「ふええぇぇん。また頭叩かれちゃいましたぁ」
「ぐわっはは。まだまだじゃな」
「甘いな」
「惜しいな、ブルッチ。今の前に出る勇気は良かったぜい」
「ううぅ。でも叩かれちゃいましたぁ」
「うんうん。なんでだと思う?」
「うーんとぉ・・・なんでだろぉ・・・」
「ブルニちゃんや。前に出た時、ワシらの事を見ていたかの?」
「あ・・・そういえば見れてなかったかもしれないですぅ」
「うむうむ。ブルニちゃんは前に出るとき、盾を前面に出して突っ込んでくるから、分かりやすいんじゃよ」
「目を瞑って突進してるから、どんな状況なのか把握も出来ないしな」
「そっかぁ・・・確かに怖がって盾の後ろに隠れちゃってるかもしれないですぅ」
「そうそう。確かに前に出るのは危険だから、盾の後ろに隠れたり、目を瞑りたくなる気持ちも分かる。だけど、そうすっと相手がどこにいるのか分からなくなっから、今みたいにカウンターを喰らう可能性も出てくるんだよな。大切なのは、前に出るときに、相手の攻撃を見ながら受け止めることなんだ」
「攻撃を見ながらですかぁ?」
「うんうん。さっきのブルッチのように盾の影に隠れないで、盾の横から顔を出してるような感じだな。結構、最初は怖いかもしれねーけど、これが出来るようになれば、相手の攻撃を弾くことも、受け流すことも出来るようになると思うぜい」
「そっかぁ・・・分かりましたっ、ブルニ、頑張りますっ!」
「おうよ、ドンドン練習しようぜい」
「よっしゃあ、行くぞよ」
「フン、行くぞ」
「はいっ!」
そうして、再び修練を重ねるブルニであった。
「んんんん~~~・・・」
セリーは相変わらず、魔力を指先に集中させる特訓を続けているが、あまり上達していないようだ。
指先の光は不規則に大きくなったり小さくなったりしている。
「おお、いいぞ、いいぞ、リュイリュイ。出来てる、出来てる」
対照的にリューイはグングンと成長しているようだ。
少し前までの別の事を考えながら魔力を溜める・・・といった訓練は終了し、ロイヤーの攻撃を躱しながら魔力を溜め続けるという次のステップに進んでいた。
「ほいさっ、ほいさっ」
リューイは冷静にロイヤーの動きを見ながら、魔力を溜めている。
指先の光は一定の輝きを放っていた。
「いいじゃない。リューイちゃん。その調子よぉ」
ルチアーニもリューイを褒め称える。
クリムもルチアーニもロイヤーも。
グイグイと成長していっているリューイの特訓に付きっきりになり、セリーはポツンと孤独に魔力の特訓を続けている。
一向に成長しない理由は、リューイへの嫉妬、僻みの感情が少なからず影響しているようだ。
「リューイ、素晴らしいですわ。では本日もこのまま上手くできたら、わたくしのおっぱいを好きにしていいですわよ」
またも、自身の胸を使い、リューイの心を乱そうと画策するセリーだったが、今回のリューイは全く集中力を解かない。
その瞳は真っ直ぐに、自身の成長した未来へと向いているようだ。
「おおおおぉぉ?!」
唐突にクリム達から歓声が上がる。
見ると、リューイの身体は白くボンヤリと光を放っていた。
「やったじゃんか、リュイリュイ!スキル獲得したみてーだぞ!」
「おおおっ!こりゃ凄いな!」
「おめでとう、リューイちゃん。今晩おばちゃんとどう?」
「あ、ありがとうございます・・・」
リューイは恥ずかしそうに照れている。
「なんのスキルだろうな?!頭の中になんかボヤッとしてるのはある感じ?!」
「あ、はい。なんかある気がします」
「おお!そんならパッシブスキルじゃなくて新たな魔法かもしれねーな!ウエーイ。リュイリュイ、やるぅ!」
歓声を上げている3人と、照れて恥ずかしそうにしているリューイを見て、セリーは誘惑するのを止めて、ブツブツとふてくされながらも再び魔力の特訓を始めた。
そんなセリーを気遣ってなのか、ルチアーニが声をかけてくる。
「セリーちゃん。調子はどう?」
「全然ダメですわぁ」
「うふふ。そんなことないわよぉ。セリーちゃんも少しずつ上達しているもの」
「ううう。ルチアーニ様。気休めはよしてくださいまし。現にリューイはグイグイと上達していますわ。わたくしが鈍間なのです」
「ふふふ。そうじゃないのよ、セリーちゃん。リューイちゃんは人獣ということもあって、多分人間よりも成長が早いのね。普通の魔力の特訓は半年単位でするものなの。それだけ魔力というのは直ぐには上達しないのよ」
「そうなのでございますか?ですが、ルチアーニ様。そうは言っても、やはり後輩に先を越されるのは悔しいですわぁ」
「そうよね、その気持ちも分かるわ。でもセリーちゃん。リューイちゃんはセリーちゃんにとってどんな存在?」
「え?」
「同僚?ただの冒険者仲間?」
「そ、それは・・・お互いに生活を共にする大切な仲間・・・家族同然ですわ・・・」
「うんうん。セリーちゃん偉いわよぉ。人獣の子に対してそういった気持ちを持てるのはとても凄いことなの。セリーちゃんは心も美人なのね」
「そ、そんなことは・・・」
「でもね、セリーちゃん。もう一歩、踏み込んでも良いかもしれないわ」
「もう一歩・・・でございますか」
「うんうん。もしかしたら自分では気づかない内に、セリーちゃんは、リューイちゃんやブルニちゃんを下に見ているのかもしれないわね。2人は人獣ということもあって普段の生活の事とか色々気にかけていたでしょ?だから教えてるうちに自分は教える側、相手は教わる側って線引きしちゃってるのかもしれないわね。でもね、普段の生活の事も、冒険者の事も、セリーちゃんはただ先に始めてただけで、別に偉くもなんともないのよ。でも多くの人は相手は自分よりも格下だって思ってしまうの。だから相手が自分より上達したら嫉妬したり、逆にアドバイスしてきたりしたらカチンときたりする事もよくあるのよ。でも相手からすると、頑張った事を褒めて欲しかっただけなのになんで?!一緒に成長しようとしてるだけなのになんで?!ってなるわよね。そして気づくの。ああ、この人は自分を下に見てたんだなって」
「むう」
「大切なのは、その気持ちを相手にぶつけない事。同じ立場の人が成功したら嫉妬するのは人として当然よ。別に無理に抑え込む必要はないの。でも態度を変えて冷たい対応をしたり、相手を陥れようとするのはよくないわ。だって、そんな事をしても自分の為にならないもの。それよりも、悔しい気持ちを自分の燃料に変えて努力する事。ひたすらに真摯に努力する事。もしリューイちゃんが、世界一の回復士と呼ばれるくらい成長した時、自分はまだ火の玉しか使えない魔法士だったら劣等感を抱くわよね。自分はなんて才能がないのだろうと思うわよね。でも、でもね、それでも実直に、真摯に、ひたすらに、真面目に努力する事ができたら、その努力はとてつもなく大きな財産になる。セリーちゃんの器を、大きくて、丈夫で、美しい器に変えると思うの」
「ルチアーニ様・・・」
「そして私の経験上、努力を積み重ねた人は大きく成長するわ。本当に大きく。逆にランクや名声だけに執着して努力を怠る人は、もしかしたら一時的に名声を得る事はあるかもしれないけど、直ぐに転げ落ちる。相手の成功を妬んだり、嫉妬したり、妨害する人は成長すらしない。自慢ばかり、嫌味ばかり、泣き言ばかりの人の周りには、信頼できる仲間なんて一人もいないでしょう。セリーちゃんは今、とても大切な分かれ道にいるの。もうここまで言えば分かるわよね。せっかく家族同然とまで言える美しい器を持っているんですもの。もう一歩踏み込んで、リューイちゃんは対等な相手なんだと認識しなさい。大切な仲間なんだと再確認しなさい。そして、その悔しさを、私も頑張ろう、負けるものかと自身を奮い立たせる糧としなさい。そんな想いで積み重ねた努力は必ず報われる。そして、一生懸命努力し続けるセリーちゃんの周りには、沢山の信頼出来る仲間がいるはずよ」
ルチアーニは涙目になっているセリーの頭を優しく撫でる。
「おばちゃんは知ってるわよ。フィールドでは常に周りを見て警戒心を解かないのを。誰よりも自分に厳しいのを。仲間の事を誰よりも思っている事を。普段はリリフちゃんに遠慮してそんな姿は見せないけど、影で支えてるのは知ってるのよ。こんなにも美しい器を、嫉妬や妬みで汚しちゃうのはもったいないわ。今は焦らずに自分を信じて訓練してくれると、おばちゃん嬉しいわぁ」
「うわ〜んっ!ルチアーニ様ぁ!ごめんなさーい!うわーんっ」
「よしよし。大丈夫。大丈夫よ。セリーちゃんはきっと凄い魔法士になるわ。おばちゃんが保証する。よしよし。良い子、良い子」
「ぐしゅっ、えっぐっ。るちあーにちゃまぁ。うわーん」
号泣しているセリーの頭を優しく撫でるルチアーニ。
それを見て、クリムも一旦、間を取る事にしたようだ。
「おしっ、一旦、ここらで休憩すっか」
「は、はい」
リューイはここで始めてセリーが泣いてる事に気づいたようだ。
何かあったんだろうかと、ルチアーニに抱きついているセリーに視線を送っている。
「おっしゃ。リュイリュイ。かなり良い感じだぜ。次は魔力を溜めながらロイロイの攻撃を躱して、かつ俺の動きを把握してみよか。これが出来れば周りに指示を出すことも出来るしな。とりま、休憩終わったら一回試してみよか」
「なるほどっ!分かりました!」
リューイは再び、真剣な表情に戻る。次の特訓のイメージを描いているようだった。
クリムはそんなリューイの表情に笑みを浮かべながら、ロイヤーの元に歩いていき、次の特訓の詳細を伝えている。
そんな中、目を真っ赤にしたセリーがリューイの元に歩いてきた。
「リューイ。本当にごめんなさい。わたくしが愚かでしたわ。お詫びに、今度ムラムラしたら、わたくしのおっぱいでご奉仕させてくださいませ。好きな時にわたくしのおっぱいを使ってくださいませ。遠慮する必要はないのですわ。リューイは家族同然ですもの」
「ゑゑ?!?!」
今回のリューイは以前にも増して真剣に取り組んでいるので、セリーの妨害目的の誘惑には耳を貸さない集中力を維持していた。
しかし、幸か不幸か、今回のセリーは本心から謝罪している。本音でリューイに謝ろうと、贖罪しようと考えている。
一切、リューイを陥れようとは思っておらず、本気でリューイの成功を願っている。
そんな純粋な想いは、あっという間にリューイの集中力を破壊し、脳天からつま先まで、電流の如く、駆け巡る。
え?!
おっぱい?!
おっぱいでご奉仕するって言った?!
ご奉仕って何?!
揉んでもいいの?!吸い付いてもいいの?!
え?!好きな時って言った?!
いつでもいいって事?!
えっ?!家族??家族同然って言った?!
それって結婚したいってこと?!
セリー様が僕を好きって事?!
リューイの頭の中は、数多くの単語で埋め尽くされる。
「うーし。そんじゃあ、そろそろ再開すっかぁ。リュイリュイ、さっき言った通り、ロイロイの攻撃を躱わしながら・・・・・って!おおい!リュイリュイどうした?!全然集中出来てねーじゃんか?!魔力乱れまくってんぞ?!めっちゃボーっとしてんじゃんか?!一体何があったんだ?!」
クリムはリューイの両肩を掴み、グラグラと揺らす。
リューイは完全に上の空で、薄ら笑いすら浮かべていた。
「これは先が長そうね・・・」
ひっそりと言葉を漏らすルチアーニであった。
「今日は家に帰らせて頂きますっ!」
唐突に力強く宣言したのはフローリア。
夕食でワイワイしていた孤児院がシーンとなる。
「そんな・・・お姉ちゃ・・・」
「帰らせて頂きますっ!」
寂しそうな子供が声を上げるのを遮り、再度、力強く宣言するフローリア。
瞳にはメラメラと炎が宿っている。
「う、うむ。フローリアもずっと孤児院にいては気が休まらんじゃろう。明日、お日様が昇ったら、また来てもらおうぞ」
「はぁーい」
フォローに入った園長の言葉に、子供達は素直に返事をする。
「それじゃあ、ぼく、今日はぼーけんしゃと一緒に寝るぅ!」
「わたしもー!」
「僕もー!」
「ミールさんも私と一緒に帰らせて頂きますっ!」
もはや我慢の限界に来ているのであろう。
フローリアは恥も外聞も捨てて、堂々と宣言する。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!私の旦那様になにをする気ですか?!」
「ミールさんは私の旦那様ですっ!」
「な、何を言ってるんですかっ!せ、先生は・・・」
「私の旦那様ですっ!」
コクリトの抗議の声も、圧力で乗り切るフローリア。
「あれってちわげんかって言うのよ」
「へえ。リーナ、ものしりぃ。ねぇ、ちわげんかって何ぃ?」
「そ、それは・・・ちわげんかはちわげんかよ。何もくそもないわ」
コソコソと話し合う子供達。
「ははーん。さてはミール君。まだハーフエルフ君を抱いてなかったんだね。可哀想に。こんなにも欲求不満な顔をさせて。それは男としてどうなんだい?」
「え・・・いや・・・だって・・・」
カイン達男共は、聞こえぬフリをしてくれている。
「あれってせっくすってのをするつもりだわ」
「え?リーナ。せっくすって何?」
「せっくすってのは若いだんじょが、なかよしするものなのよ」
「へええ。じゃあフローリア姉ちゃんとぼーけんしゃさまはせっくすするんだぁ」
「せっくす、せっくす」
せっくすという言葉の響きが面白かったのか、ヒソヒソとざわめきだす子供達。
そんなザワザワし始めた夕食のテーブルを、フローリアは思いっきりバンッと叩いて
「と!に!か!く!今日!私とミールさんは家に帰らせて頂きますっ!いいですね!」
「は、はい・・・」
あまりに目を血走らせているフローリアの姿に、カイン達はもちろん、子供達も静かになる。
孤児院は、創設以来、初めて静かに夕食を取るのであった。
夕食を終え、子供達と共にお風呂に入り、寝間着を着させて布団を引く。
フローリアは誰よりもテキパキと準備をして、自身の身支度も整えていた。
「さ、さあ!みみみミールさん!案内します!い、行きましょう!」
フローリアは真っ赤な顔でミールを手招きする。
「ハーフエルフ君。安心して全てを任せたまえ。なーに。初めは痛いかもしれないが、直ぐに気持ちよくなるはずさ」
「ま、まあ。施設は任せてくれ・・・」
「ああ・・・旦那様・・・」
「流石ミールの旦那でやんす。こんな美女とお泊まりなんて!」
「羨ましい・・・コクリトさんと交換しませんか・・・」
ローランちゃんやカイン達に見送られながら、ミールはフローリアの後を付いて行く。
孤児院から2~3分ほど歩いたのち、フローリアはエルフの結界を発動して、ククラーソン村の結界からフィールドに出る。
フィールドも2~3分ほど歩いていると、平原と森林の境目に大きな大木がそびえ立っているのが見えてきた。
そしてその大木の根元には扉があり、その周囲はうっすらと黄金の光が放たれている。
どうやらエルフの結界が常時発動しているようだ。
フローリアはその扉を開けて中に入っていく。
大木の根元はくりぬかれているので、そこで生活できるスペースがあるようだ。
ミールも腰をかがめながら、扉の中に入っていった。
予想通り、扉の中には部屋が造られており、広さは6畳ほど。
手前に台所、中央にテーブル、奥にはベッドが置かれており、ワンフロアで生活しているようだ。
部屋の壁や天井からは数々の乾燥させた根類、キノコ、花や葉っぱ、そして加工した肉類などが吊り下げられている。
床にはツボや樽がいくつか置かれているので、なるべく自給自足の生活をしているようだった。
飾られている装飾品も少なく、服も多くない。
全体的には質素な生活をしているように見える。
「へええ・・・凄いですね。正に秘密基地って感じです。この結界はどうやって維持しているんですか?」
どうやらこの大木は聖なる力を宿しているらしい。
この世界には『聖なる泉』と呼ばれる、聖なる力を宿した水が湧き出ている箇所がある。
その泉は聖女の結界石と相性が良く、人々はその泉を利用して村を守る巨大結界を維持していると以前説明させて頂いた。
そして世界中には、泉以外にも、このような聖なる力を宿した場所が数多く存在しているらしい。
聖水が湧き出るほど強力な力ではないが、聖水が染みこんでいる大地・・・のようなイメージとのこと。
この場所も聖水が染みこんでいる大地らしく、この地面も大木も聖なる力を宿しているようだ。
そしてその大地にエルフの結界を発動させると、10日くらいは結界を維持できるんだそうだ。
ただし、この聖なる力が染みこんだ大地の範囲は狭く、大体5メートルほど。
そして、人間はもちろん、ハーフエルフであるフローリアでさえ、そこがただの大地なのか、はたまた聖なる力が染み込んでいる大地なのか、見分けることはできないらしい。
神力を使って特別な魔法を発動しないと分からないらしいので、見分ける方法はエルフのみが知る力なのだそうだ。
さっきから、何故ミールの問いに要約したような書き方をしているかというと・・・
実はこの説明は数日後にフローリアから聞いた話なのだ。
何故なら、フローリアはミールの問いには答えず、猪突猛進、抱きついてきて唇に吸い付き、舐め回してきたのだから。
「ちょっ・・・フロー・・・ベロベロ・・・落ち着いて・・・じゅるじゅる・・・待って・・・一旦・・・ちゅぱちゅぱ・・・」
「ミールさん!好き!大好き!ちゅきちゅきちゅき!」
2人は導かれるように奥のベッドに倒れ込む。
ミールは何とかフローリアを落ち着かせて、人として最低な同意を取ろうと奮闘する。
しかし、元々距離感がバグっている娘だ。
ミールの服を脱がし、ぎこちないながらも一生懸命、身体中を舐め回す。
「ミールさんの凄く固い・・・私で興奮してくれてるんですねっ。嬉しいっ。私はミールさんのモノですっ。好きにしてくださいっ。大好き!」
こんな事言われちゃあ・・・ねぇ?・・・
しょうがないですよねぇ・・・
元々、ミールもフローリアと出会った時から我慢していた事もあり、段々と欲望に流されていく。
そして結局、『フローリアとは付き合えない。でもエッチはしたい』というミールお得意の最低な契約を結ばせることなく、身体を重ねてしまうのであった。
そして翌日は皆さんの予想通り、一日中身体を重ね合い、結局孤児院に顔を出したのは二日後の事だった。
そして二日ぶりに顔を出したフローリアに対して、院長やカイン達はもちろん、子供達でさえ、苦笑いを浮かべるような、気後れするような、腫れ物にでも触るかのような、そんな表情を浮かべてフローリアを見ていた。
「ダーリンっ。はいっ、アーン♪」
「きゃーっ。ダーリン可愛いいっ!ちゅきちゅきっ!」
「だありーんっ。私もギューッてしてぇ。ダーリンっダーリン!ちゅっちゅ♡」
「・・・・・・・・・・・。」
何回も言うが、元々距離感などがあやふやな子なのだ。
他者から見るとどう思われるのか、どういう場所は理性を保つ必要があるのかなども曖昧。
そして男性への接し方なども全く分かっていない
そういったブレブレの境界線を取っ払うと、惜しげもなく『好き』を全面に出し、どこかれ構わずイチャイチャしてきて、みんなの前で平気で恥ずかしい言葉を連呼する者へと変貌するというわけだ。
以前、ローランちゃんがミールと身体を重ねようとしていたのを『はしたない!』と顔を真っ赤にして止めていたのが、遥か遠い昔のようだった。
こうなってしまうと、どうしようもない。
仮に、今更フローリアとは付き合えないと宣言したら、自殺されたり、後ろから刺されたりしかねない。
恋は盲目・・・と言われてはいるが、おそらくそういった言葉さえ知らないのかもしれない。
正に本能のまま、初めて経験する『好き』という感情、いや、次々と溢れ出てくる『恋』という感情に身を任せて、どっぷりと浸かっている。
そして多分、このまま結婚して子供を作って、幸せな家庭を築いて・・・といったイメージを持っている・・・・いや、確信しているに違いない。
ずっとずっとこのまま2人で一緒に暮らしていくと確信しているに違いない。
「どうしたもんかな・・・」
ミールは腕の中でスヤスヤと寝息をたてているフローリアの体温を感じながら、ひっそりと呟くのであった。
続く




