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スライムには負けるけど魔王には勝ちます  作者: すふぃ~だ


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蘇る魂の道しるべ⑯

 そうしてスレルに乗せられて、リリフ達は恥ずかしそうにしながらも、写真に収まっていくのであった。





 ミールはフローリアに肩を貸しながら歩き続け、お昼を過ぎた頃にククラーソン村に到着する。ドーラメルク産の結界石を使用したこともあり、誰にもバレずに村に入る事が出来た。


 ミール達は真っ先に孤児院に向かう。

 敷地内では子供が2人、砂遊びをしていたが、フローリアの姿を確認すると、大声を上げて抱きついてきた。


「わああぁ!お姉ちゃん!お姉ちゃんだぁ!無事だったんだねぇ!やったー!やったー!」

「みんなー!お姉ちゃんだよ!お姉ちゃんが帰ってきたよぉ!!」


 大声を聞きつけた子供達が、ワラワラと建物から出てくる。

 みんなとても嬉しそうだ。

 次々と子供達はフローリアに抱きつき、運動会の棒倒しのように群がっている。


「やったー!お姉ちゃんが帰ってきたー!」

「わーい!わーい!」

「お姉ちゃーん!寂しかったよぉぉ!」

「お姉ちゃん!大好きー!」


「みんな!心配かけてごめんね!元気だった?!」


「うん!元気―!」

「あのね、あのね!ポンタがおねしょしたの!」

「うわわっ!サラ、告げ口するなよぉ!」

「サラはつまみ食いして怒られてたー!」

「コラ!ペータ!あんたもでしょ!」

「ぎゃはは!」

「お前やるなー!ぼうけんしゃ!」

「頼りなさそうだったけど見直したわ!わたしのカレシにしてあげてもいいわよ!」

「リーナ。意味わからずに言うなよー」


「うふふ。リーナは相変わらずおませさんねっ」


「わ!お姉ちゃん足が痛いの!大丈夫?!」

「わわ!本当だ!大変!大変!」

「あ!ちょうどルメルテ爺ちゃんが来てるんだ!見てもらおうよ!」

「お姉ちゃん!こっち、こっち!」


 子供達はフローリアに群がりながら、建物内に引っ張って行く。

 入り口には、中学生くらいの男女が、目に涙を溜めながら、嬉しそうに微笑んでいた。


「サーシャ、マルチネス。心配かけてごめんね。子供達のお世話、ありがとう」


「フローリア姉さん。よかった・・・」

 女の子はそっとフローリアに抱きつく。

 そんな女の子の頭を優しく撫でるフローリア。


「マルチネスもいらっしゃい」

 フローリアは男の子にも声をかける。

 男の子は俯きながら、スススっと近づいてきた。

 フローリアが頭を撫でると、大粒の涙を流して嗚咽を耐えている。


 以前、ミールが来た時は不在だったが、多分、孤児院のお兄ちゃん、お姉ちゃん的な存在なのだろう。

 この2人を除くと、他の子供達は小学校1〜2年生くらいなので、食事やお風呂など、孤児院の普段の生活をフローリアと共に支えていたと思われる。

 しかし、フローリアがいつまで経っても帰ってこないので、不安と心配な気持ちに押し潰されそうになっていた2人は、急に帰ってきたフローリアの顔を見て安堵したのだった。



「おお、フローリア!無事じゃったか!」



 ミールに色々と説明してくれた足の悪い園長さんも、騒ぎを聞きつけ入り口に顔を出す。

 そしてもう1人、初老なお爺さんが園長の隣で立っていた。

 そして、ミールはそのお爺さんに見覚えがあった。


「園長。ご心配をおかけしました。フローリア、只今戻りました」

「うむうむ。フローリア。おかえり。無事でよかった。本当によかった」

「ルメルテおじさんもお久しぶりです。お元気そうでなによりです」


「んお、フローリア。コイツから話を聞いた時は驚いたが・・・無事に帰ってきたんじゃな。よかった、よかった。エゼノアは残念じゃったな」

「はい。でもお母さんの魂を無事、里に帰すことが出来ました。本当に良かったです」


「そうか、そうか。それは何よりじゃな・・・ん?そちらの方は・・・はて?」

「あ、こちらはミールさんです。私の命の恩人です」


「冒険者様。本当にフローリアを救ってくださり感謝いたしますぞ。貴方に頼んで良かった」

「いやいや。えっと・・・確か1度会ってますよね?・・・どこだっけな」


「え?ミールさん、ルメルテおじさんを知ってるんですか?」

「んん・・・そうなんじゃ・・・ワシも何処かで会った気がするのぉ・・・どこじゃったかな・・・んー・・・んんー・・・」


「ルメルテおじさんはルーン国のマルリって街で治療院を開いてるんですよっ」


「あああああ!!そうだ!そうだ!あの時の院長さんだ!お久しぶりです!ガウディ一派の時にお会いした者です」


「むお?!おおおおお!そうじゃ、そうじゃ!あの時か!うむうむ。思い出したぞよ。ガウディ一派に勧誘されていた者じゃな。ふぉふぉふぉ。その後、ガウディとは上手くやっておるかな」


「いや、結局、チームには入らなかったんですよ。でも別件で、とてもお世話になりました。院長が言うとおり、問題が多かったですけど」

「ふぉっふぉっふぉ!そうじゃろ、そうじゃろ。ふぉっふぉっふぉ!」


「ルメルテ爺ちゃん!お姉ちゃん、足に怪我してるの!見てあげて!」

「なぬ?!そうか。よし、フローリア。こっちに来なさい。見てあげよう」

「はい。ありがとうございます。ルメルテおじさん」


 そうして園長の私室に移動したミール達。

 子供達は治療の邪魔になるので、部屋の外で待機だ。

 とはいえ、特に扉があるわけではないので、部屋の入り口で重なり合って、心配そうに治療の様子を見つめている。


「どれ?見せてごらんなさい」

「はい」

「ふむぅ。かなり深い傷じゃな。よく我慢したのぉ」

「ええ。ミールさんが回復魔法を使えるので、痛みはかなり軽減する事ができてましたから」

「なぬ?!お主、使役士のくせに回復魔法が使えるのか?珍しいのぉ」


 しまった・・・

 フローリアには黙っておくように伝えてなかったな。

 しかし、まあいいか。

 この院長さんも含めて、ここにいる人達が知っても、あまり害にはならないだろう。


「ええ。何故か反発なく使えるんですよね」

「ほほう。そうかそうか」


 院長さんはフローリアの足に手をかざし、魔力を込める。

 すると手のひらから白い光がボヤッと現われた。

 おそらく診断魔法というやつだろう。


「ふむふむ。骨には異常はないようじゃな」

 院長さんは、そう呟くと、テーブルの上に置かれていたカバンを開ける。


「確か・・・持って来ていたはず・・・おお、あったあった」

 院長さんはカバンから小瓶を取り出す。

 小瓶の中にはブロマーオの鱗が入っていた。


 以前、ドラゴン討伐の時にチラッと説明させて頂いたが、戦闘での治療には、このブロマーオの鱗を触媒として使うのが一般的。

 比較的安価で万能的に効果を発揮するので、冒険者達に重宝されている。

 しかし、治療の箇所によっては、痺れなどの後遺症が残ったりするので、再度、修復魔法を受ける必要がある場合もある。


「まあ、フローリアは若いし、傷も神経を傷つけておらんしな。これで大丈夫じゃろう。ほれ、お若いの。これを床に引いてくれ」


「あ、はい」

 ミールは言われた通りに、床に魔法陣が描かれた布を敷く。


「ではフローリア。この中央に横になっておくれ」


「はい。ルメルテおじさん」

 フローリアも言われた通りに、魔法陣の中央で横になる。


「ふむ。では下がっておれ」


 院長さんは園長とミールを魔法陣の外に出し、魔力を込め始めた。

 パアァっと小瓶の中のブロマーオの鱗は魔法液に溶けていく。

 院長さんはそれをフローリアの足へ振り掛け、力ある言葉を放つ。



「レパレーション!(修復)」



 白い光が魔法陣から放たれ、部屋全体を照らす。

 子供達は『わあぁ・・』とその光に魅入られている。



 手のひらから放たれている光は白と緑色の2色で、グルグルとフローリアの傷口に侵入しているかのような光を放っていた。


 2~3分が経過し、白と緑の光は、部屋から溢れる光量を放ちながら消える。

 そして、すっかり傷口が塞がったフローリアの綺麗な足が現われた。


「ふむ。成功じゃ」

 院長さんは静かに成功を伝える。


 やはりこの院長さんは腕は確からしい。

 普通だったら5分以上は余裕でかかる治療をあっさりと完了させている。

 しかも息の乱れなども全くない。

 腕が良いと評判になるのも頷ける。


「ルメルテおじさん。ありがとうございます。お金を・・・」

「ふぉっふぉっふぉ。なに、フローリアは身内みたいなものじゃ。お代はいらんぞよ」

「そんな・・・いつもありがとうございます」

 フローリアは深々と頭を下げる。


「お姉ちゃん、直ったの?!」

「うん!みんな心配かけてごめんね!もう大丈夫よ!」

「わーい!」

「やったー!」

 子供達は嬉しそうに走り回る。


「院長さんはなんでこの村にいるんです?まさかわざわざこんな遠い村まで診療を?」


「ふぉふぉふぉ。ワシはこの村出身なんじゃよ。じゃからいつも年末年始は、この村に帰省しておるんじゃ」

「へええ」


「そしてコイツとは幼馴染みでのぉ。それが縁でエゼノアやフローリアとも接しておったのじゃ。ワシはフローリアのオムツを替えたこともあるんじゃぞ」


「ちょっと!おじさん!恥ずかしいこと言わないでください!」

「ふぉっふぉっふぉ!怒られてしもうた。ふぉっふぉっふぉ!」

「もうっ!」


「さて。ついでじゃからお前のヒザも見てやろう。まあ、いつものように維持療法じゃがな」


「園長さんのヒザは治せないんですか?」


「うむ。こやつのヒザは、すり減っておるからのぉ。『ドラゴンの爪』があれば治療できるのじゃが、あれは鱗よりも数十倍の値がつく、かなり高価な品じゃからな。一般人には手が出んのじゃよ」


「ほほう」


「じゃから、この『ヒアルロンの種』で治療するのが一般的じゃな。完全に治すことは出来んが、1ヶ月ほどは痛みを無くす事が出来るからの」


 ミールは後ろを向き、物を取り出すフリをして、マジックポケットから、ザザの村に飛来した変異種のドラゴンの爪を取り出す。


「それじゃあこれを使ってください」


「んん?!な、なんと?!こ、これはドラゴンの爪ではないか?!しかもかなりの上質。最高級の爪ではないか!」


「ええ?!ミールさん、凄い!これで園長のヒザが治せるんですね!」


「バカ言っちゃいかん、フローリア。そんな高価な物を頂くわけにはいかん」


「そうじゃぞ、フローリア。このドラゴンの爪は通常でも5~600万グルド。これほどの最高級クラスともなれば1000万近くの品じゃ。ワシらでさえ中々手に入れる事が出来ぬ品じゃからな」


「ええええええ?!い、いっせんまんぐるど?!私が10年働いても返せません!」


「気持ちは嬉しいが、流石にこれは受け取れん。お若いの。気持ちだけ受け取っておこう。ありがとう」


「いやいや。もちろんタダではお渡しできません。少し条件があります」

「条件・・・ですか?ミールさん」


「ええ。この園長さんの治療。それを僕にやらせてもらえませんか?それが条件です」

「んんん??お主が修復魔法を使うということかの?」


「ええ。もちろん、出来るかは分からないので、そこは院長のアドバイスを聞きながらって感じで。もし、成功してもお代はいりませんよって感じです」


「ふぉっふぉっふぉ。面白い事をいう男じゃ。使役士ぶぜいが回復魔法のみならず、修復魔法も会得しようとは。ふぉっふぉっふぉ。じゃが気に入った。よかろう。ワシが教えて進ぜよう」


「出来るんですか?ミールさん」


「いや、全く分からないですね。ですが、中々、修復士さんから直接アドバイスを受けつつ練習できる環境がなかったものですから。こうやってチャレンジできるだけでも僕的には有り難いんですよ」


「ふむ。よく分らんが、ワシは練習台という事かの?それならば喜んで協力しよう。冒険者様。よろしくお願いします」


 園長さんは魔法陣の中央で横になる。


「それではまず診断魔法が使えるかどうかじゃな。これが出来なければ話にならん。逆に言うと、これが出来れば修復魔法の『素質有り』ということじゃ。出来るかの?お若いの」


「実際はどんなイメージなんですか?診断魔法って」


「うむ。真っ暗な空間に手をかざした部分の中身が見えてくるという感じじゃな。骨は白く、筋肉は赤みがかかったピンク色、臓器は紫が入った赤色・・・という感じじゃ。そして損傷箇所などがあった場合、光って教えてくれるのじゃ」


「ふむふむ、なるほど。だいぶイメージ出来ました。やってみます」


 ミールは院長に言われた通りのイメージを頭の中に描く。

 そして目を閉じて、深呼吸。

 ゆっくりと園長のヒザに手をかざして魔力を込めた。

 パアァ・・・と一瞬、ミールは白い光に包まれる。


「ほう・・・」

 それを院長は興味深く見守っていた。


 かざした手からは白い光が出てはいるが、ミールは眉間にシワをよせている。


「うーん。なんかボヤっとしてるというか、(かす)れているっていうか。ハッキリとは見えない感じですね」

「それって失敗って事ですか?」


「いや。先程、お主の身体は白く光っておった。それはスキルを獲得した証拠じゃ。間違いなく、診断魔法を習得したようじゃの」


「ということは熟練度みたいなのが足らないって事ですかね?」


「いや。元々診断魔法はの、初心者は直接肌に触れてやるもんなんじゃ。慣れてくれば服の上からでも診断できるがの」

「なるほど。それじゃあ、園長さん。ちょっとズボンをまくりますね」

「うむ」


 ミールは園長のヒザに直接、手を乗せて、再度診断魔法を使う。

 すると、院長が言ったように真っ暗な空間に園長の骨と筋肉がハッキリ見えた。

 そしてヒザの部分が光っている。


「あっ。見えた見えた。見えました。イメージ通りです」


「ふむ。ヒザはどのように光っておるかの?」

「えっと。ヒザの中央部分、骨と骨の間が赤く光ってます。それとその繋ぎ目の骨の先端も黄色に光ってますね」


「うむ。その通りじゃ。赤色の光は大きく損傷して、その箇所の一部が無くなっている事を示している事が多い。そして黄色の光は、その部分に傷が付いている事を示している事が多いの。つまり、コイツのヒザの軟骨部分は大きく削られて無くなっており、その骨と骨が直接擦れて傷が出来ている事を示しておるのじゃ」


「へえぇ」


「このように、症状毎に光る色や位置は決まっておる。なので、我々修復士は、その光や位置を見て、どのような症状なのかを見極め、触媒を選んで治療するという事じゃの。つまり、数多くの症例を覚える必要があるという事じゃ」


「げっ。マジか。全部覚えなきゃいけないのか。結構大変なんだな。修復士って。正直舐めてたわ」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシの家に一覧が載ってる本がある。初心者の頃に使ってた本じゃが、ワシはもう使わんからお主にやろう。ただし、お主が修復魔法を会得したらの話じゃがの」


「まあ、そうですよね。よし、とりあえずチャレンジしてみます。修復魔法はどんなイメージですか?」


「ふむ。天から光の粒が降り注ぐような感じじゃ。そして、その光を症状がある場所に集めるようなイメージじゃな。例えるならば、女神様の光り輝く手で、患部を撫でているような感じじゃて。修復魔法を使用すると、その症状により、様々な色の光が現れよう。先程も白と緑色の光が出ていたはずじゃ。その光を集めて治療するのが修復魔法じゃな」


「へえぇ。なるほど。だからその時その時で光る色が違ったのか。納得」


 ガウディ一派のニアの毒を治療した時は白とオレンジ。

 瀕死のリリフを治療した時は七色と、その症状によって光の色は変わるようだ。

 けして、テキトーに書いていたら、たまたま辻褄(つじつま)が合った訳ではないと、声を大にしてお伝えしよう。



 ミールは深呼吸をして心を落ち着かせる。

 院長やフローリアはもちろん、子供達も、真剣に精神を集中しているミールの様子を静かに見つめていた。


 ミールは院長が言ったイメージを頭の中に描く。



 そして魔法水が入った瓶にドラゴンの爪を入れて魔力を込めた。

 パアァ・・・と薄く輝き、ドラゴンの爪は魔法水に溶けていく。


「ああ・・・いっせんまん・・・」

 微かにフローリアの声が聞こえてくるが、集中を解くことはない。



 ミールはその魔法水を園長のヒザに振りかけて、力ある言葉を放つ。




「レパレーション(修復)」




 しーん・・・・・・



 しかし、院長の時とは違い、全く変化がみられなかった。

 光が放たれる事はもちろん、光の粒さえ一つも現れない。

 完全な失敗のようだ。


「あちゃー。ダメだったかぁ。結構、しっかりイメージ出来たんだけどなぁ」

「失敗なんですか?ミールさん」

「そうですね。自分には出来ないみたいです」

「いや、そうでもないぞよ」

「え?」


「魔法水に触媒を溶かす事が出来たじゃろ?あれは修復魔法を会得できておる証拠じゃ。しかし発動しなかったという事は、お主の魔力や能力が足らんという事じゃろう。つまり、今後も修練に励み、魔力などを向上させる事が出来れば使えるようになる可能性が高いという事じゃな」


「へー。能力を向上か・・・」


「凄いです、ミールさん!これからも練習し続ければ使えるようになるかもしれないって事ですよね!ホント凄いです!」

「まあ、あくまで可能性の一部じゃがな。今後の努力次第といった所じゃの」


 ミールはしばらく考えて、魔法水を拭き取ろうとしている園長を止める。


「あ、園長。もう一回、試してみてもいいですか?」

「ふも?ああ、もちろんじゃ。気の済むまでやってくだされ」


「お若いの。流石に一日や二日程度修練した所で、解決する問題ではないぞよ。もっと長期的に見るべきじゃ」

「ええ。もちろん。ちょっと試したい事があるので、もう一回だけ。これで出来なければ諦めます」



 そう言うとミールは再び全神経を集中させる。



 そして、神々しい光とともに、詠唱を開始した。




『天界の主、金色の王、統べるは歴史、導くは命の灯火』




「えっ?!ミールさん、それって?!」

「なんじゃ!なんじゃ、これは?!」



 フローリアは聞き慣れた響きに、院長さんは唐突に黄金の光に包まれて意味不明な言葉を発するミールに、驚きの声を上げる。



『我は誓う、世界に願う、幾重にも重なる光の輪、その尊き束に紡がれた、気高き光の一糸のみ、願わくば、この大地へと繋ぎとめ、悪しきを拒み、善を助す、黄金の結界よ、顕現せよ』



 パアァっと部屋が光に包まれ、そしてミールと園長さんがギリギリ収まるくらいの黄金の空間が現れた。



「ミールさん!いつの間にエルフの結界を?!」

「エルフの結界じゃと?!なんじゃそれは?!」



 驚きの声を上げている2人には構わず、ミールは再び力ある言葉を放つ。




「レパレーション!」




 ミールの手から白と緑の光がグルグルと回転して現れた。

 そして、その光は園長のヒザに吸い込まれているように降り注いでいる。



「・・・・・」

 あまりの光量に誰も声をあげれない。

 その光は明らかに院長の光より強く、たくましく輝きを放っていた。



 そして、その光は一分ほど輝き続け、その後、園長のヒザに吸い込まれるように消えていく。



「ふ〜。なんとか発動したか。良かった、良かった」

 安堵しているのはミールだけで、その他の全員は驚きの表情をしている。



「ミールさん、凄い。まさかエルフの結界が使えるなんてっ」

「お主はいったい・・・」

「にいちゃん、すげー」

「めっちゃ光ってたぁ」

「なんか神様みたいだったわ」

「かっけー」


 子供達も黄金の光を放ったミールに憧れの表情を浮かべる。

 子供にとって、黄金とか七色の光はヒーローの証なのだ。


「なんじゃ?!さっきの言葉はなんじゃ?!ワシは全く聞きとれんかったぞよ!」


「ルメルテおじさん。あれはエルフの結界を発動させるおまじないなんですよ。言葉自体には意味が無いんです」

「なぬ?そうなのか。いやはや、驚いたのぉ」



 なるほど。どうやらフローリアのお母さん、エゼノアは、詠唱を文字として教えて、意味などは伝えなかったようだ。

 いや、伝えられなかったというのが正解か。

 おそらく契約が関係して、エルフ語を教える事が出来なかったので、文字として暗記させたのであろう。



「それでミールさん。魔法は成功しましたか?」

「うーん。どうでしょう。一応発動はしたんですけど。園長、ちょっと歩いてもらってもいいですか?」


「う、うむ。そうじゃな!」

 呆然としていた園長だったが、ミールの呼びかけにハッと正気を取り戻し、急いで立ち上がる。



「ん?んんん?・・・おお!・・・おおお!・・歩ける!歩けるぞよ!」

 園長はさっきまでとは別人のように、スムーズに足を前に進める。



「おおお!これは凄い!これは凄いぞよ!全く痛くない!全く痛くないぞ!まるで生まれ変わったようじゃ!これは凄い!」

 園長は呪縛が解かれたかのように、楽しそうに歩き回る。



「うわわ!園長が!園長がぁ!」

「すっげー!めっちゃ歩いてる!」

「園長、キモ!」

「ぼうけんしゃ、やるわね!」

「にいちゃんの光で治ったのか?!かっけー!」

「にいちゃん、ありがとぉ!」


 やはり、子供達も園長が楽しそうに歩き回るのが嬉しいのであろう。

 次々とミールに感謝と賛辞を贈る。


「ぬわっはっはっは!もうこれでイタズラしても逃げられんぞ!必ずワシが捕まえてやるからの!片っ端から、お尻ペンペンの刑じゃ!」

「うわー!しまったぁ!」

「ぼうけんしゃ、なんて事してくれたんだ!」

「見損なったわ!」

「にいちゃんのバカヤロー!」

 一転してミールを責める子供達。


「がっはっは!早速捕まえてやるぞい!」

「わあぁ!逃げろぉー!」

「きゃー!」

「ぎゃはは!」

 園長と追っかけっこを始める子供達。

 みんなとても嬉しそうだ。

 孤児院は久しぶりに笑いに包まれた時間を過ごすのであった。




 その晩、孤児院は久しぶりの、いや、今までで一番豪華な夕飯を迎える。

 というのも、院長がお金を出して食材を揃えてくれたのだ。

 今現在、ククラーソン村はベヒーモスの騒ぎで流通が止まっている。

 なので、全ての品が値上がりしており結構な金額になったのだが、全く気にしてない様子だった。

 

 貴方方の世界のお医者様(特に開業医)も、金銭感覚はゼロが一つ違うと思った方がいい。

 つまり、皆さんの一万円は先生方にとっては千円。

 皆さんの100万円は先生方には10万円。

 医療機器メーカーに勤めた経験がある人なら大きく頷く事だろう。


 どこの世界でも、院長さんの懐には大きく余裕があるのだ。


「うおー!すげー!」

「うまそー!」

「良い匂いぃ!」

「これ、お肉?!ホントにお肉?!」

「山盛りだあ!」

「ケーキもあるぞ!」

「フルーツもあるわ!」

「こんなの初めてだぁ!」


「ほら!みんな手を洗った?!洗わないと食べれないんだからね!」


「うわー!洗ってくるー!」

「俺も俺も!」

「急げぇ!」


 子供達は素直に言うことを聞く。

 ご馳走は人を従順にするのだ。


「みんなー!席についたー?!」

「はーい!」


「手、洗ったぁ?!」

「はーい!」


「みんな良い子、良い子!それじゃあ、みんな!ルメルテおじさんにお礼を言いましょう!」

「ルメルテお爺ちゃん!ありがとー!」

「うむうむ。みんな沢山食べるんじゃぞ」

「はーい!」


「それでは、みんな!手を合わせて!せーの!」



『いただきます!』



 初めてのご馳走に目を輝かせている子供達は、大きな声で『いただきます』を叫ぶ。

 そして我先にと、目の前の魅惑の食材の数々に手を伸ばしていく。


「うんめー!」

「はぐはぐっ」

「むしゃむしゃっ」

「うわーんっ!サーシャ姉ちゃん!ポンタが私のお肉取ったぁ!」

「ほらっ、サラ、落ち着いて。こっちにまだまだあるわよっ」

「幸せぇ!」

「あまぁい!おいちい!」

「旨いな!めっちゃ旨いな!これ!」

「ペータ!食べながら話すのやめろよ!沢山飛んでくる!」

「全く、静かに食べれないのかしら。野蛮だわ」

「リーナ!バルバル(バナナ)にフォークとナイフは必要ないだろ!手で行けよ!手で!」

「うふふ。リーナは相変わらずのおませさんねっ」


 当然だが、小さい子供達が多いので、食卓は大騒ぎだ。

 チキンを食べた手や口はベトベトで、フォークを刺そうとしたトマトが飛んできて、コップは倒れてビショビショで、顔や服、髪にまでケチャップが付いている。


 そんな子供達を、お姉さん的な存在のサーシャとフローリアが、忙しそうにフォローしていた。

 もう1人のお兄さん的な存在のマルチネスは、太ももに1才くらいの子供を乗せて、食事を補助している。

 どうやらこの子が最年少のようだ。

 総勢、15名ほどの孤児院は、いつも以上に騒がしい夕食を楽しむ。


 食事が終わったからといって静まることはない。

 直ぐに施設内を走り回る子供達。

 そんな子供達を捕まえて、お風呂に入れていかなければならない。


 子供達と一緒にサーシャがお風呂に入ってサポートし、出てきた子供達をフローリアが受け止めて身体を拭いていき、マルチネスが服を着せていく。

 しばらくしたら、今度はフローリアがお風呂に入って、マルチネスが身体を拭き、サーシャが服を着せる。

 こうやって交代しながら自分達も食事やお風呂を済ませていかないと、時間が足りないのだ。


 そしてお風呂が終わったら、歯磨き。子供はテキトーにやりがちなので、しっかりと磨かせる。

 その次におトイレに行かせ、大きな部屋一面にお布団を敷き、みんなで眠りにつくのだ。


 親がいない、この子達が一番寂しがるのが夜。

 あれだけ元気に走り回っていた子供が、びっくりするくらいシュンとしてしまうのだ。

 子供達はお互いに寄り添いながら、心の隙間を埋めていく。

 フローリアやサーシャ、マルチネスに抱きつきながら、あるいは絵本を読んでもらいながら眠りについていく。


 そして今回はミールも例外ではなく、多数の子供達に抱きつかれていた。

 何故なら黄金の光を纏ったミールはヒーローそのもの。

 特に男の子達に大人気なのだ。

 ミールは両腕、両足に抱きつかれながらも、やれやれと苦笑いを浮かべ、瞳を閉じるのであった。

 


 深夜。

 ミールはトイレで目を覚ます。



 寝る時は羽交締めにされていた状況も、今は四方八方の場所に散らばって、子供達は寝息をたてていた。

 ミールはそぉ〜っと起き上がり、トイレを済ます。

 そして台所に立ち寄り、コップに水を注ぎ、コクっと飲み干した。



「ミールさん・・・」



 いきなり話しかけられてビクッとしたが、入り口の暗闇からフローリアが顔を出したので

「ああ、ビックリした。フローリアさんでしたか」

「ごめんなさい。急に」

「いえいえ。トイレですか?」

「いえ・・・あの・・・その・・・」



 フローリアはモジモジしている。暗闇でも分かるくらい顔を真っ赤にしながら。

 そして意を決してミールに駆け寄った。

 そのままギュッとミールの身体に抱きつくフローリア。



「私、ミールさんが好きですっ!」



 顔をミールの胸に埋めながら、精一杯想いを伝える。



「フローリアさん・・・」

 ミールも優しく、優しくフローリアを抱きしめる。

 とても柔らかく、暖かく、そして良い香りがする。

 一気に股間に熱いモノが込み上げてきた。


「ミールさん・・・」

 フローリアはウルウルした瞳でミールを見上げる。

 そして、スッと目を閉じた。


 ここまで来たら、躊躇するまでもない。

 ミールはフローリアの唇を自身の唇に重ねた。


 10秒ほど経ち、ソッと唇を離す。


 フローリアはミールの目を逸らす事なくジッと見つめている。

 更に高揚した表情を浮かべながら。


「ミールさん、好き。大好き!」


 フローリアはギュッと腕をミールの首に巻きつけ、引き寄せて唇を重ねる。

 何度も何度も。


 段々と激しさを増し、唇や舌を貪るように絡め合う2人。

 ミールも本能に任せて、フローリアの胸に手を伸ばそうとした、まさにその時。


「お姉ちゃーん。おしっこぉ〜」

「びえっ?!!」


 フローリアは漫画のように全身を逆撫でして、思いっきりジャンプしながらミールから離れた。


「???」

 子供は不思議そうに首を傾げている。


「お姉ちゃん、何してたのぉ?」

「な、ななななんでもないわよっ。オシッコよね?!お、お姉ちゃんが一緒に行ってあげるねっ」

「うん〜」


 そうしてミールとフローリアの情事は不完全燃焼で終わるのであった。




 翌日。

 院長は自分の実家に帰ったが、相変わらず騒がしい孤児院。

 その中で、1人だけ瞳をメラメラとしている、まるでハンターのような者がいた。

 言わずと知れたフローリアだ。


「もっともっとイチャイチャしたいっ!今夜はもっと身体を重ねたい!」

 そんな表情が見て取れる。


 ミールはそんな野望に満ちた視線に気付きながらも、子供達に髪や服、ほっぺなどを引っ張られながら、冷静に院長から貰った修復士用の症例集を読んでいる。

 しかし、ミールもまた、頭の中では別の事を考えていた。

 昨夜はつい、フローリアの魅力に負けて流されてしまったが、次はしっかりと伝えなければ。


 フローリアとは付き合えないということを・・・


 フローリアとミールはお互いに、理性と欲望の狭間で揺れ続ける一日を送るのであった。



 しかし、待ちに待った夜がやってきたというのに、フローリアの顔は冴えない。

 何故なら、孤児院に予期せぬ来訪者が訪れ、とてもミールと二人っきりになれそうになかったからである。


 その来訪者とは。



「わーはっはっはっ。君の紹介してくれた人材は実に優秀だっ。僕はすっかり気に入ってしまったよっ。流石はミール君だ!わーっはっはっは!」



「そうか・・・それは何より・・だぜ・・・」

「ううう・・・私、ここまでコキ使われたの始めてですぅ」

「た、隊長がまるで天使のように見えてきたでやんす」

「・・・僕・・・明日死ぬかもしれません」


 そう。ローランちゃんとカイン達調査隊が、この孤児院を拠点に活動することになったのだ。

 というのも、ローランちゃんの遺跡から発掘した魔道具を一時的に保管する場所が必要だ。

 なので、この孤児院の敷地を貸し出し、オマケに寝泊まりをしてローランちゃん達は朝に出発。

 遺跡から魔道具を運び出し、夕方近くにククラーソン村に帰還するといった流れ。


 ローランちゃん達からしたら、朝、夕食付きの寝床を確保でき、魔道具の保管もしてくれる。

 そして孤児院も、貸し出し料として、ローランちゃんが多額の寄付をしてくれたので、正にWin-Winの関係となっているのだ。


「ははは。やっぱり大変ですよね。あの森の中から人力で運び出すんですから」

「そーなんですよぉ。草のトゲは服にひっついてくるし、至る所に小川があるから足がビショビショになるし、木の根がデンってなってるから一直線には進めないし・・・」


「何を言ってるんだ!召喚士君!君には『浮遊板』を渡したではないか!」


「でも、ローランさん。あれ、中々バランスを取るのが難しいんですよ。しかもずっと中腰で移動しなきゃならないしっ」


「ならば明日はボサボサ頭の整備士君に渡すとしよう!召喚士君は自力で運んでくれたまえっ!」

「えええ?!そんなの無理ですぅ!」


「ならばギャーギャー言わずに運ぶんだ!運んで運んで運びまくってくれたまえっ!」

「ううう。分かりましたぁ・・・」

「世知が無い世の中でやんすねぇ」

「僕、明日仮病使っていいですか?」


 ローランちゃんが言っている『浮遊板』とは、さっきから子供達が夢中で乗ったりして遊んでいる魔道具だ。


 ちょうどファッション雑誌くらいの大きさと厚さがあり、水色の半透明な板である。

 それに魔力を込めると、なんと地面から30センチくらい浮かび上がり、そのままの位置で静止するのだ。

 今の所、子供はもちろん、大柄なカインが乗っても大丈夫。

 そして浮かんでいるので、ちょっと横に押せば、そのまま移動させる事が出来る。

 つまり、重い物を運ぶ労力を大幅に軽減させてくれる魔道具なのだ。


 ミールとフローリアがエルフの里に旅立った後、引き続き調査をしていたローランちゃん。


 寝室らしき部屋の隣にある、土に埋もれていた扉を強引に開けたらしい。

 すると、この浮遊板が土に埋まっていたので、引っ張り出して使ってみたところ、偶然起動させる事が出来たので、ちょうど良いからと運搬に使用しているようだ。


 しかし、先程コクリトも言っていたが、浮遊板自体はA4サイズくらいなので、大きな物体を乗せるとバランスが取りづらく、運ぶには常に支えていなければならない。

 しかも30センチくらいしか浮かび上がらないので、物によっては常に中腰で支えなければならず、浮遊板を使っているとはいえ、運ぶのは楽ではないようだ。


「カインさんも運んでるんですか?」

「ああ。俺がある程度、大きな物を運ばないと、いつまで経っても終わりそうにないからな」

「でもそれだと誰がモンスターから守るんです?まさか師匠が?」


「はっはっは!君も見たではないか!僕が開発した結界分散機を!あれを使えば常に結界の力を拝借しながら進むことが出来るのさ!」

「へえ。でもあれって地面に刺して使う物じゃないんですか?」


「そうさ!あれはだいたい20メートルくらいの範囲をカバーしてくれるからね!だからこの子達を結界の先端ギリギリまで進ませて、僕がこの分散機を引っこ抜く。そして前方にダッシュして、分散機を差し込む。すると結界が再度発動するから、またこの子達を結界ギリギリまで進ませて・・・って感じさ!どうだ?!今回は僕もちゃんと仕事してるだろ?!本当だったら僕はずっと調査を続けたい所だが、グッと堪えて運ぶのを手伝ってあげているのだよ!これも全て、可愛い魔道具のためさ!僕もすっかり親バカだな!がーっはっはは!」


「偉そうに言ってますけど、ただ魔道具を差し込むだけですよね・・・」

「しかも、あっしらがまだ進んでないのに、ドンドンと先に先にと結界を発動させていくんでやんす。追いつくのに必死でやんす」

「更に、私の可愛いスパーチクちゃんに回復魔法を連打させるもんだから、私達、一切休憩ないんです!これって虐待ですよ!虐待!スパーチクちゃんもすっかりへそ曲げちゃうし!」

「本人に悪気はない・・・というか、魔道具しか見えてないのが、キツいな」


 どうやらカイン達は疲労困憊のようだ。

 高額な報酬を受け取るとはいえ、流石に気の毒になったミール。

 事態を打開するべく、ローランちゃんに話しかける。


「師匠。この浮遊板はもうないんですか?」


「んん?いや、どうだろうな。あるかもしれないが、部屋全体が土に埋まっているから分からないな。まあ、この浮遊板の性能はもう分かった。今はまだ解明されていない魔道具達の調査に全力を尽くすとしよう」


「いやいや、師匠。この浮遊板を沢山発掘できれば、カインさん達の運搬能力も格段に上がりますので、その分、師匠が研究する時間も増えるんじゃないですか?」


「む」


「それに、もしかしたら、この浮遊板は連結できるかもしれませんよ?そうなれば、あの寝室に置かれていた巨大な魔道具も簡単に運び出す事も出来るでしょう。大きいから今回は運び出すのを断念しよう・・・的な考えをしなくて済むんですから」


「むむ」


「そしてやはりガタリヤまで運ぶとなると、魔道具の損傷が心配になります。なにせ馬車で運ぶと段差や砂利道で、衝撃がひっきりなしに来ますからね。しかしこの浮遊板を巨大な空飛ぶ絨毯じゅうたんのように連結して広げる事が出来たなら・・・これ以上、安定して安全に運べる方法はないのではないでしょうか。そんな丁寧に運んでくれたなら、きっと魔道具達も嬉しいと思いますよ」


「ぬおおおぉぉ!そうか!分かったよ!ミール君!可愛い魔道具のためだ!ここは浮遊板の発掘を優先させるとしよう!カイン君!明日は土木工事だ!シャベルとバケツを持ちたまえ!あの部屋にある土砂を全部掻き出すぞ!」


「ひいいぃん。それはそれで大変そうですぅ」

「でも確かに浮遊板をあっしらも使えたら楽になるでやんす」

「そしたら、ずっと浮遊板に乗ってますね。ぼくは」


 浮遊板は通常、一枚だけで使うものではなく、何枚かを連結させて使う物だ。

 そうすることにより、バランスも良くなり、運びやすくなる。

 なので、ミールは更に浮遊板が何枚か部屋に埋まっているはずと予想し、提案したのであった。


「ねえ!ローラン!ローラン!あっちで遊ぼ!」

「絵本読んでぇ!」

「あー!ローランお酒飲んでるぅ!」

「いーけないんだ!子供はお酒飲んじゃダメなんだぞぉ!」

「ぎゃはは!」


 子供達にローランちゃんは大人気だった。

 外見は子供そのものなので親近感が生まれているのかもしれない。


「オーケーオーケー。分かったよ、チルドレン達。これを飲んだら向かうとしよう」


「へえ。師匠って子供好きなんですね。意外です」


「がっっはっは!もちろんだとも!!ミール君!子供とは未知の宝庫さ!正に突拍子のない行動をする事が出来る!柔軟な発想をする事が出来る!僕ら大人達の凝り固まった考えをマシュマロのように柔らかくしてくれるんだ!特に魔道具研究で行き詰まった時は効果てきめんさ!彼ら彼女達を見ているだけで、僕自身も沢山気付かされる事が多いんだ!だから僕は積極的に子供達と接するようにしているのさ!」


 あくまで魔道具のため・・・といった軸の部分はブレてないが、ローランちゃんが子供好きという事を知り、どこか嬉しくなるミール。


「さあ!チルドレン達!僕が遺跡の魅力を語ってあげようではないか!」

「ぎゃはは!イセキ、イセキ!」

「意味わかんなーい!」

「ローラン!お酒くさーい!ぎゃははは!」


 

 こんな感じで大盛り上がりになった孤児院。

 やはり大人が増えるという事は、夜中に行動する者が増えるということ。

 子供達が寝静まった後に、ようやくお風呂に入ったり、晩酌したり。


 基本、フローリアは子供達のお世話をしているので、一緒に寝ている。

 なので、フローリアがミールの元へ動きだそうにも、まだ起きている者がいるので、中々近づけない。

 更に、流石に大人が5人(1人子供)も増えると、寝る場所がないので、廊下などを活用して就寝スペースを確保している。

 つまり、こっそりとイチャイチャするスペースさえない。


 そんな訳でフローリアは、全くミールとイチャイチャする事が出来ず、イライラを募らせていくのであった。


  続く


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