蘇る魂の道しるべ⑮
ミールは背筋が凍るような錯覚を感じながら、真っ白な空間を進むのであった。
⇨
まだ朝日が登ったばかりの朝靄が残る早朝。
リリフはムクっと起き上がる。
そしてシュパパパパッと服を着替えて用意を整えた。
これだけで、かなりやる気に満ちているのが分かる。
前回の『恵みの池』での宴会で決めたビレット達との特訓が今日から始まるので、気合いがみなぎっているようだった。
そして入り口近くでリューイと一緒にスヤスヤと寝息を立てている幸せそうなブルニの寝顔に胸キュンしながら、そぉ~っと扉を開いて外に出る。
街はシーンと静まり返っており、チュンチュンと鳥が鳴く声が心地よく鼓膜を揺らす。
空気は冷たく、リリフの吐く息も真っ白だ。
「う~・・・さっむぅ~。いっちにぃさんっし。にぃにぃさんっしっ!」
リリフは寒さに身震いしながら準備運動を始めた。
「よおぉし。今日も頑張るぞぉ」
そして頬をパンパンと叩いて、身体に気合いを入れ、街中を走り始めた。
吸って吸って、吐いて吐いて、吸って吸って、吐いて吐いて。
呼吸を二段階に整えながら、リズミカルに足を前に出す。
リリフ達のアパートから、グワンバラの宿の前を通過し、南門通りを抜ける。そしてそのまま中央の公園まで進み、そこで折り返し。
同じ道を通ってアパートまで帰る、全長4キロほどの道のりだ。
最初こそサボり気味だったランニングも、今ではすっかり習慣になっていた。
冷たい空気を取り込みながら、しっかりと体内に力を蓄えていく。
「おっはよぉございまーすっ!」
リリフは南門通りのベンチに座っている怪しい男に元気に挨拶する。
いつも同じ場所に座っているこの男の風貌は浮浪者のようで、はっきり言って汚い。ヨレヨレの紙媒体の新聞を読んでおり、正直、普通は話しかけないような人物だ。
しかし、リリフは笑顔で挨拶している。
男も慣れているのか、少しだけ右手を挙げて答えていた。どうやら何回も挨拶している間柄のようだ。
その他にも、馬が残したフンを掃除している人獣や、ゴミ回収している人獣、犬の散歩をしている老夫婦や、同じようにランニングしている者達まで。
分け隔てなく挨拶を繰り返している。
普通、知らない人に挨拶します?
自分はしない。基本ネクラなので、挨拶されれば先程の浮浪者のように反応する事は出来るが、自分から知らない人に挨拶するなんてハードルが高すぎる。
しかし、あっさりとそのハードルを飛び越えていくリリフ。
この素直な性格というか、下心、損得勘定がない行動というか。
自分はどちらかというと、こういう者を見ると『いつか痛い目に遭うぞ』とか『偽善者め』と思って相手を蔑み、実際は行動することから逃げてしまうタチなので、こんなにも周りに明るさを配れるリリフを素直に尊敬してしまう。
そして最初はビックリするだろうが、何回も明るく挨拶をされて悪い気分になる人は少ないのであろう。
「おっはよぉ!」
「お、おはようございますっ」
ビクビクしている人獣も。
「おはよーございまーす!」
「あら、リリフちゃん。おはよう」
散歩をしている老夫婦も。
「あー。お姉ちゃーん!おっはよぉ~!」
「ヤッホー。おっはよぉ~」
バルコニーから手を振る子供達も。
リリフの挨拶に笑顔で答える人が多かった。
「おうっ!今日も元気だな!ほらよっ」
「わあっ!いつもありがとうございます!」
リリフは牛乳屋さんから牛乳瓶を受け取ると、腰に手を当ててグビグビっと一飲み。一気に飲み干した。
「ぷはぁぁ!おっいしいぃ!」
「がっはっは!今日も良い飲みっぷりだな!いってらっしゃい!」
「はいっ!行ってきますっ!」
「おっはよーございまーす!今日もお仕事頑張ってくださーい!」
「ああっ、リリフちゃん!ほらほら、これ持っていきなっ」
「えええ?!頂いて良いんですかぁ??」
「いいのよっ。作り過ぎちゃっただけだから。しっかりと食べて、今日もモンスターをバシバシと倒して頂戴っ!」
「あははっ。ありがとーございますっ」
今や、こんな風に物をくれて支援してくれる人もいたりする。
明るく楽しそうにしている人を見ると『陽キャ、リア充滅びろ!』と妬んだり僻んだりする人も、リリフを見習って自分から一歩踏み出してみると、世界が変わるかもしれませんね。
リリフはランニングを終え、部屋に戻る。
部屋に戻ったらシャワーを浴び、そしてまた二度寝するのが日課なのだ。
心地よい疲労感により、短い時間でもグッスリと眠る事が出来るので、この二度寝がお気に入りになっているのであった。
リリフはルンルンと鼻歌を歌いながらドアノブを回すと、ぴょこっと寝癖をつけたまま布団の上で、ぼーっとしているブルニと目が合う。
どうやら、ちょうど起きたようだ。
「ほえっ?リリフ姉様っ、何処か行ってたんですかぁ?」
「びえっ。あああ、ええええっと・・・ちょっとね。あははははは」
自分の努力を知られるのが恥ずかしいリリフは、タジタジになりながら誤魔化す。
「ほえぇぇ・・・・」
「あ、私、シャワー浴びてくるねっ。ブ、ブルニはまだ早いから、もう少し寝ればいいんじゃないかしら?おほほほほ」
そうしてシャワー室に逃げ込み、汗を流す。
すっきりしたリリフがタオルで髪を拭きながら部屋に戻ると、ブルニが変わらずにチョコンと布団の上でリリフを見ていた。
「あ、あれ??ぶ、ブルニ寝なかったの??わ、私は寝るね・・・お、おやすみぃ」
まだ髪や肌も少し濡れているが、構わずに布団の中に逃げ込むリリフ。
「はわわぁ・・・」
ブルニの、あくびなのか、感嘆の声なのか分からない声を背中で捉えながら、眠りに落ちるのであった。
それから数時間後。
リリフ達はいつも通り、グワンバラの食堂で朝食を食べていた。
「うえ~い。りりぴょん、おっは~」
「うい~。ねっみぃぃ」
「ふわわわぁ・・・」
あくびをしながらビレット達も合流する。
今、ビレット達はグワンバラの宿で部屋を取っているので、朝食はいつもここなのだ。
「おばちゃーん。納豆定食大盛りでー。あ、焼き魚つけてー」
「俺はハムエッグトーストとリンゴのパイセットぉ」
「おれはマラーニャ(カレー)にするわぁ。あ、納豆付きで」
「おいおい。マラーニャに納豆かけるのかよ」
「あ、知らねーの?ビレット。旨いんだぜぇ」
「おば様っ。牛丼を追加でお願いしますわっ」
「ちょ、セリー。流石に食べ過ぎじゃない?」
「むふふぅ。今まで我慢していたのですが、アーニャ様から100万もの報酬を頂いてしまったので、お金の心配も無くなりましたわっ。これからは好きなだけ食べるのですっ」
「うわっ。セリー、絶対に太るよぉ」
「りりぴょん、特訓は何時からにするー?」
「あ、えっとですね。10時くらいからお願いしてもいいですか?!」
「オッケー。それじゃあ10時に南門に集合ってことで」
「いちいち戻るのも面倒だからここで弁当買っていくか」
「そうですね。母さん、お弁当もお願いしまーす」
「あいよー」
「ルチポン達も来るん?」
「はいっ、もちろん。でも今日は見てるだけで基本的にはビレットさん達に任せるって言ってました」
「うっひょー。さっすがルチポン。器でかいな」
「こりゃ気合い入れねーとな」
「だなだな。任せられたからには頑張らねーと」
「それは私達も同じです。こんなに素敵な先生達に教えて貰えて・・・当たり前と思っちゃダメだと思うんですっ」
「僕も同じです。もっともっと魔力を高めて、回復の力を上げたいです」
「わたくしもですわ。そのために今しっかりと食べているのです。けっして欲望のためではないのですわっ」
「え~。ホントかなぁ」
「ぎゃははっ。それじゃあ今日はセリリンのために地獄のフットワークを組み込むか」
「おー」
「ぎゃああっ。それはやめてくださいましっ」
「あははは」
「リリフ姉様は朝に内緒でトレーニングしてるんですぅ?」
ずっと黙っていたブルニが遂に口を開く。
「ぎょえっ!えええええっと・・・」
「なになに、そーなん。凄いじゃん、りりぴょん」
「え・・・そうなのか?ブルニ」
「うん、お兄ちゃん。今日ブルニが起きたら、リリフ姉様が汗を掻いて部屋に戻ってきたのぉ」
「な、ななななにかの間違いじゃないですの?たまたまですわよね、リリフ」
「えっ?う、うんうん。そうそう。たまたまよ、たまたま」
何故か否定するセリー。
実はセリーは、かなり最初の頃から気付いていた。
やはりリリフのメイドだったこともあり、主の動きには敏感なのだ。
しかし、この流れが広がるとブルニもリューイも『それじゃあ全員で走りましょう』と提案してくることが目に見えていたので知らんぷりしていたのだ。
いつぞやの事件により、フットワークなどは真面目に取り組むようになったが、やはり朝の貴重な睡眠時間と早朝の自主練とで天秤にかけると、まだまだ朝の睡眠時間がググッと重く傾く。
だからこそ、この流れを止めるべく、リリフに加勢したのであった。
「うえーい。りりぴょん、やるなぁ」
「流石りりぴょんだぜ。正に神!努力の神!」
「俺達とは真逆だぜ!」
「ぎゃははっ!」
「そうでしたか・・・全然気付きませんでした。申し訳ございません。リリフね・・様」
「えええ?!そ、そんな事ないよっ!私が勝手にしてることだしっ」
「リリフ姉様っ。今度ブルニも一緒に付いてっても良いですか?!」
「えええ?!ほ、ホントに?!」
「あ、自分もお願いします。元々体力不足だと感じていたので」
「うひょー。リュイリュイもブルッチも意識高けぇ」
「こりゃセリリンも、うかうかしてらんねーなっ」
「ううう・・・恐れていた事が現実になってしまいましたわ」
「ぎゃははっ。こりゃ俺達も走っちゃう?」
「うげー。俺朝苦手なんだよぉ」
「うーむ。りりぴょんと朝練デートを取るか、睡眠を取るか・・・むむむ」
「あっ。ちょっと待って待ってっ。あのねっ。やっぱりこういうのは強制になっちゃダメだと思うんだ。前にミールも言ってたと思うけど、結局は個人個人で判断して、やる、やらない、を決めないと身につかないって。自分が納得して取り組むから身につくんだって。だから私はPTとして訓練する時間さえ、しっかり取り組む事が出来ているなら、無理に追加でやる必要は無いって思うの。逆に朝練することでPTの特訓が疎かになるのは本末転倒だと思うしっ。だから自主練は誰かと一緒にやるんじゃなくて個人でやるようにしよ。自分の判断で足りないと思ったらやればいいし、PTの特訓やクエストに影響が出そうならやらなければいいし。自分自身で選択して実行する。私はこのチームをそんなPTにしたいのっ」
「うひょー。さっすがりりぴょん。メンタル鬼強っしょ」
「うげー。俺ダメだわ。1人でやれる自信ないわ」
「はわわっ。流石リリフ姉様ですっ。ブルニ、感動しましたっ」
「そうですね。自分自身の事ですから自分で決めないと。僕も甘えていたようです」
「ごめんなさい、リリフ。わたくしサボることしか考えておりませんでしたわ。そうですわね。お腹いっぱい食べてしまって動けなくなったらPTに迷惑がかかりますもの。フィールドはそんな甘いモノではない。自身の甘えた気持ちに喝ですわ」
「うわわっ。そそそんなことないよっ。あくまで私の考えってだけでっ。これも強制じゃないからっ。あ、ブルニとリューイ。最初は分からないと思うから明日は一緒に行きましょっ。宜しくねっ」
「はいいっ。リリフ姉様っ」
「分かりました。よろしくお願いします。リリフ・・ぇ様」
「わ、わたくしも・・・明日だけ・・・ご一緒致しますわ」
「あはは。セリー、無理しなくていいのにっ。分かったわ。明日はみんなで行こーねっ」
「はいですっ」
そうしていよいよ訓練を開始するリリフ達。
場所は南門から少し西に移動した城壁と結界の間のスペース。
ここなら、たまに冒険者や見回りの兵士などが通るくらいなので、邪魔にはならないだろう。
「うおっほん!では、記念すべき、第一回目の特訓をぉ、始める。諸君、準備は良いかね?!」
「ビレットぉ。普通にやれぇー」
「うるせぇー!こういうのはな!最初が肝心なんだよ!生徒に舐められたら教師は終わりだろうが!」
「りりぴょん達が俺達を舐めるわけねーだろが」
「そうだぞー。りりぴょんに謝れぇー」
「なんじゃ、早速仲間割れかいな」
「あら?やっぱり任せられないのかしら」
「おわっ!タンマ!今の取消!こっからだから!」
「いいから早くしろー。ビレットぉ」
「あはははは」
「そんじゃ早速、今日の特訓の内容を伝えようと思うぜ。とりま、しばらくは個人練にめっちゃフォーカスしようと思うっ。PTの動きも大切だが、やっぱ基本は個人の打開力が重要だからな。そこらへんをアゲアゲにすればPTの動きも選択肢が増えるっつーことよ。ここまではオッケェ?」
「はいっ!」
「んで、具体的には一人一人テーマを持って、目標を持って特訓してほしいわけよ。まずはりりぴょん。りりぴょんが成長させたいポイントとかはあるんかな?」
「あ、はいっ。えっと。基本的な事というか、身体の使い方というか・・・今まで自己流で剣を振るってたんですけど、なんか上手く力が伝わってない気がするんです。あとバランスも良くないというか・・・そんな所を改善したいなって思ってますっ」
「オッケーオッケー。いいね、流石だぜりりぴょん。それじゃあ、それを意識してやっていこう」
「はいっ」
「あとは俺が気付いたのは打開力が足りないってことかなぁ。りりぴょんは目が良いから相手の動きとかに合わせて動きを変えることが出来てるのはグッジョブだぜ。だけど、その影響で受け身の行動が増えてるから、自分から局面を打開する力っつーか、主導権を握る戦いっつーか。そういうのが足りない気がするんだよなぁ。俺達のPTは俺とブルーダの2人が火力出せるから協力できるけど、りりぴょん達の前衛は基本りりぴょんだけだろ?だから尚更、りりぴょん個人の打開力が必要な場面も出てくると思うんだわ。そういった所も意識してやっていこうぜい」
「なるほど、分かりましたっ」
「ウエーイ。んじゃ、お次はセリリンだな。なんか目標ってあるん?」
「わたくしはもっと魔力を高めたいですわぁ。今、ビレット様も仰いましたが、わたくしも打開力が必要だと思いますの。通常の魔法士は、高火力の魔法を使って不利な局面を覆すことが期待されている適性ですもの。ですが、今のわたくしでは小さな火の玉しか使えません。もっともっと、魔力を高めて、いざという時にみんなを救えるようになりたいですわぁ」
「なるほどねぇ。良いじゃん良いじゃん。その心意気グッドだぜ。魔力に関してはクリムとルチポンに任せっから、重点的に鍛えていこうぜい」
「あら。あたしも加わるの?自分達でやりたいんじゃないのかしら?」
「ウエーイ。俺達のプライドやメンツなんてどうでもいいのさ。重要なのはりりぴょん達の成長に繋がること。『あの子達は俺が育てたんだぜ』なんて自己満じゃなくて『よくぞここまで成長したなぁ』って言葉を言いたいぜ、俺はっ」
「うおっ?!ビレット、まだ酒が残ってるんじゃね?!」
「あらまあ、立派じゃない。今晩おばちゃんとどう?」
「ふわわっ。ビレット兄様っ、とっても格好いいですぅ」
「本当に良い先生に出会えて嬉しいです。ルチアーニさん、ビレットさん、本当にありがとうございます!」
「お、おう・・・」
少し照れながら頭を掻くビレット。やはり褒められる事に慣れてないようだ。
「そ、そんでだな。俺が思うに、セリリンは充分、局面を打開する力を持ってると思うんだよなぁ」
「まあ、そうですの??」
「多分だけどよぉ。セリリンさ、ラルッパの森でゴブリンに対峙したとき・・・最初の時な。まだゴブリン相手に力を出せなかった時。あの時さ、セリリン火の玉を連射してたよな?まあ、セリリンは発狂してたから覚えてねーかもしれねーが」
「ああ、確かにね。セリリン、火の玉めっちゃ連射してたわ」
「おお、確かにの。ワシもそれは思ったぞい」
「僕はセリーね・・様が連射しているのを見るのは2回目です。1回目はバウンドウルフに囲まれた時に、そして次にゴブリン相手にです」
「まあ・・・そうですの?わたくし全く覚えておりませんわぁ」
「ビレット兄様ぁ。それは凄いことなんですかぁ?」
「おうよ。普通・・・てか、熟練の金ランク魔法士でも連射は出来ねーぜ。1回1回魔力を込めてポンっポンっポンって感じで打つことは出来るけどな。でもセリリンはポポポポポンって感じで打つことが出来てるんだよ。だから相手からしたら火の玉が沢山飛んでくるって感じじゃなくて、炎が面となって一気に押し寄せてくるって感じに映ると思うんだよな。これを意図的に出すことが出来れば、かなりの打開力になると思うぜ」
「まあ、そうなんですのね。ちょっとやってみますわ」
セリーは誰もいないフィールドに向かって火の玉を放つ。
しかし連射は出来ていなかった。
「ああん。今のは違うのですわよね?」
「ああ、全然違うなぁ。もっとビュビュビュビュビュンって感じだったなぁ」
「ふみゅー。どうすれば良いのでしょうか?」
「あれじゃね。セリリンって炎の微精霊の加護を受けてるじゃん。それの影響じゃね?」
「ああ、多分な。セリリンって微精霊は自由に操る事ができるん?」
「全く出来ないですわぁ」
「ということは、火の玉を出すときに勝手に現われるって事じゃな」
「あ、でもでもっ。前にセリーがインチキ修復士に怒った時に、セリーの周りに微精霊様が現われてたよっ。だから火の玉じゃなくて、セリーの魔力自体に反応してるんじゃないかなぁ」
「なるほどね。ナイスりりぴょん。そんじゃ、セリリンは微精霊を自分の意思で操れるように成れれば、めっちゃ良いんじゃね?そこを強化すれば自然と魔力も上がるし、連射も出来るようになると思うしな」
「なるほどですわ、了解ですわ」
「んじゃお次はリュイリュイだな。リュイリュイはどんな目標を持ってるん?」
「えっと・・・僕もセリー・・ぇ様と同じで魔力を高めて、もう少し回復の力を上げたいです。あと・・・出来ればクリムさんのように回復以外の魔法・・・例えば防御力を上げる魔法なども覚えられれば・・・とは思ってます」
「お、良いねえ。それじゃあクリムとルチポンからコツを学ぶしかねーな。あと、俺が感じたのは全体を見るって事かなぁ。今は結構りりぴょんが指示だしてるだろ?だが攻撃の要であるりりぴょんが常に全体を見るのは限界がある。だからこそ、ここはリュイリュイが指示出し出来るようになるとPTは格段に安定すると思うぜ」
「確かに・・・クリムさんはいつも冷静に全体を見てますしね・・・意識してやってみます」
「最後はブルッチだな。ブルッチはどんな感じでやりたいんだ?」
「んとぉ。ブルニは良い所が全然ないので、もっともっと頑張りたいですぅ」
「うおっ?!ブルッチ!そんな事ないぜっ!」
「うんうん。ブルニがいてくれて本当に助かってるんだからっ」
「でもぉ、リリフ姉様ぁ。ブルニはレイン兄様みたいに敵さんの注目を集められないからぁ、みんなに迷惑をかけちゃいますぅ。もっとブルニがしっかり動けてれば、みんなの負担も減らせるのにって、いつも思ってますぅ」
ブルニが言ってるのは『ヘイトコントロール』の事だろう。
敵視を集められるので、自分の防御に専念もでき、PTも守りやすいので、盾役には必須と言えるスキルだ。
しかし、『盾使い』という武器適性職のブルニには、それが使えない。
それを密かに気にしていたようだ。
リリフはブルニが健気にそんな事を思ってたのかと知り、居ても立っても居られず、ブルニをギュッと抱きしめる。
「確かにブルッチはヘイトコントロールを使えないかもしれないが、だからといって、それがデメリットって訳じゃねーんだぜ」
「ほええ?」
「モンスターの中にはヘイトコントロールが効かない相手もいるし、戦闘が長引けば回復職を狙って攻撃してきたりするヤツもいるんだ。普段ヘイトコントロールに頼り切っていると、いざそういった相手に出くわした時に、壊滅的な被害を受けることも多い。けれど、りりぴょん達みたいに普段からヘイトコントロールに頼らない戦闘をしていれば、逆に言うと崩れにくいんだよ。常に周りを見る、相手の行動、仲間の行動を見て攻撃の組み立て、立ち位置などを考える必要があるから、一つ一つの戦闘は楽ではないかもしれないが、それが当たり前になってくると強敵相手の戦闘でも、いつも通り戦える。それはめっちゃメリットなんだぜ、ブルッチ」
「ほわわぁぁ」
「んで、俺が感じたのはブルッチは攻撃を真正面から受けすぎって事かな。確かに仲間を守りたいから、モンスターの前に立ち塞がりたいって気持ちは分かる。でもさ、正面で弾き返されたら、相手にとってはどうかな?反撃しやすい?しにくい?」
「んとぉ。えっとぉ。直ぐに反撃出来ちゃうかもしれないですぅ」
「そうそう。でもさ、ブルッチがスッと攻撃を受け流すように盾を操れたらどうよ?受け流された相手は体勢を崩すから反撃まで少し時間がかかるよな?その分、攻撃を受ける回数は少なくなるし、何より、そういった間を作れるのは戦闘ではめっちゃメリットなんだぜ。フィールドでは一瞬のスキが勝敗を分けるからな。そういった技術をレインやミケルンルンから学べると良いんじゃねーかなって思うんだ」
「はわわぁっ!ブルニ、頑張りますっ」
「おしっ!んじゃ各自別れて特訓だなっ!りりぴょんには俺とブルーダ、ブルッチにはレイン、セリリンとリュイリュイはクリムが担当する。ルチポン達は全体を見ながら、気になった点は遠慮無く言ってくれ。そんじゃ、始めるか!」
「おー」
「おっしゃあ、やったるぜー」
「よろしく」
「あいよ。任せときな」
「うむうむ、頑張るんじゃぞ」
「はいっ!みなさんよろしくお願いしますっ!」
「宜しくお願い致しますわっ」
「よ、よろしくです」
「ブルニ、頑張りますっ」
そうしてそれぞれ特訓を始めるリリフ達。
「おし。んじゃまずは俺と5分間、模擬戦してみよか。そんつぎはブルーダな。その中で気になった点は言うから」
「はいっ」
「えっと、りりぴょんは短剣とウイングナイフだよな。ちゃんと昨日買ってきたんだぜい。ほんじゃこれね」
ビレットはオモチャの剣を袋から取り出す。
剣の部分は白いプラスチックのようなモノで作られており、例え当っても痛さはないだろう。
「ちと軽すぎるのが難点だが、今回は身体の使い方とかをメインで確認するから、これで良いっしょ。りりぴょん、遠慮無くバンバン攻撃してきて良いからな。当っても全然痛くねーし」
「はいっ!」
「あとスキルもドンドン使ってな。出来ればこの特訓の間に2~3個くらいスキルを増やしたいからさ。実戦だと思ってやっていこうぜい」
「分かりましたっ」
「おし!来い!」
「やああぁぁ!」
リリフは早速スキル『瞬足』を使い、ビレットとの距離を縮める。
そしてウイングナイフ(オモチャ)を繰り出した。
しかし、ヒョイッと軽々と躱すビレット。
そしてペチッとオモチャの剣をリリフに当てる。
「うわわっ」
直ぐに追撃を繰り出すビレット。
リリフは慌てて、なんとかダガーナイフ(オモチャ)で受け止める。
「えいっ!やあっ!」
リリフは『切り上げ』で応戦するが、その脇腹にペチッと剣が当る。
その後もペチペチと、ビレットの剣が数多くリリフに当り続けた。
結局、リリフは1回も攻撃を当てれずに5分間が終わる。
「はあっ!はあっ!はあっ!」
手を膝につけて、荒く呼吸するリリフ。
「クリムー。りりぴょん回復してくれー」
「あいよー」
少し離れた場所でセリーとリューイの特訓をしていたクリムに話しかけるビレット。
直ぐに緑色の光がリリフを包み込んだ。
一気にリリフの呼吸が整う。
「はあぁぁ。全然ダメだったぁ・・・」
「いやいや。結構いい線いってたっしょ?なあ、ブルーダ」
「ああ。正直驚いたぜ。やるな、りりぴょん」
「えー・・・そっかなぁ・・・」
「ははは。まあ、実感がないのは分かるけどな。おし!とりあえず、俺が気付いた事、言ってくぜ!」
「はいっ!お願いします!」
「まずは重心を意識することかな。攻撃する前も、攻撃してる時も、攻撃し終わった後も。常に自分の重心をしっかりと意識する事が大事なんだぜい」
「へー。それって軸ってことですか?」
「うーん。ちと違うかなぁ。確かに軸を意識すると力が伝わりやすいから、単純な火力アップには繋がると思う。けどモンスターとの戦闘は何が起こるか分からないからな。咄嗟の対応をする事が多い・・・てか、咄嗟の対応しかないからな。そういった対応が出来るように、まずは重心を意識して行動する事が大切なんだよなぁ。重心をしっかり意識して、それから軸って感じ」
「ふむふむ」
「で、具体的に言うと、りりぴょんはスキだらけって事だな。攻撃してる時も、攻撃し終わった後も。硬直が長いっていうか、バランスが取れてないから次の行動に繋がってないんだと思うぜ」
「そっかぁ・・・どうすれば重心を意識できますか?」
「りりぴょん、片足で立ってみ」
「あ、はい」
ビレットは片足のリリフの脇をツンと剣で押し込む。
「わわっ・・・」
バランスを崩して両足で着地するリリフ。
「おし。次はりりぴょんが俺を押してみ」
「あ、はいっ」
リリフはビレットを押すが、リリフのようにバランスを崩さずに片足で立てていた。
「うわっ。凄い。全然違う」
「まずはこれが出来るようになることかなぁー。そんつぎは逆足で、そんつぎは石の上でバランスとってみよか」
「え??石の上に?!」
「そうそう。モンスターとの戦闘はさ、常に正しい姿勢で攻撃なんて出来ないっしょ。斜めだったり、ジャンプしてたり、寝っ転がって攻撃する時もある。そんときも重心を意識できるように、最初は色々な場所や体勢で訓練するのが大事なんだぜいっ」
「へえええ」
「あとは相手の軸足を見るってことだな。相手がどっちに重心を置いてるかを見極める事が出来たら、戦闘は格段にレベルアップすることが出来るぜ」
「軸足・・・」
「なあ、ビレットぉ。最初からそんなに言っても分かんなくなるんじゃね?相手の重心を見るなんて、めっちゃ高度なテクニックだしよぉ」
「いや、りりぴょんはもっとレベルアップしたいって思ってるんだ。だったら俺は俺の知ってる全てを伝えたい。もちろん全部は出来ねーだろさ。つか、ほとんどの事は出来ないと思う。だが、やるかやらないかを選択するのはりりぴょんだ。これは自分には合わないなって思ったらやめればいいし、そういえばこんな事言ってたなって数年後のりりぴょんに役立つ知識があるかもしれない。俺は少しでも沢山の知識を伝えてーんだ」
「でもよぉ」
「あはは。ブルーダさん、心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。今は少しでも沢山のことを吸収したい。そんな気分なんです。もちろん自分の力量を越える知識は身につかないかもしれない。吸収し過ぎて、頭でっかちになるかもしれない。でもそれでいいと思ってます。まずは自分でやってみて、経験する。そして自分なりの答えを出す。けっしてマネだけで終わらないように。自分で経験して習得した技術は私の財産だと思うからっ。そして今度は私がそれを他の人に伝えれるようになりたい。今日は、その第一歩だと思ってますっ」
「うひょー。りりぴょんの真面目回答きちゃー」
「やべえ。テキトーにやってた自分が恥ずかしくなってきたぜい」
「もうっ!茶化さないで続き続き!さあ、今度はブルーダさん!お願いします!」
「おっしゃああ!やったるぜえぇ!」
そうして濃密な時間を過ごすリリフであった。
「おっし。それじゃあ、ブルッチ。まずはランドッピの攻撃をしばらく防いでみよか」
「は、はいっ。レイン兄様っ」
「おしゃ。いくぞい、ブルニちゃん」
「はいいっ」
ランドルップはビレットが用意したオモチャの剣でブルニに攻撃を仕掛ける。
ペチッ パフッ ペチッ パフッ ペチッ パフッ
ブルニはしっかりとランドルップの攻撃を盾で防いでいた。
そして・・・
「えいっ」
「んぎょよよよっ!」
攻撃してきた剣が盾に触れた瞬間、ビリビリと痺れるランドルップ。
スキル『盾振動』の効果だ。
ビリビリと痺れたランドルップは、地面にポテッと倒れ込む。
「やったぁ」
「おしっ、そこまで。中々やるな、ブルッチ」
「えへへっ」
「んじゃ、今度はミケルンルンとロイロイの2人同時の攻撃を防いでみよか」
「は、はいっ」
「おっしゃあ。いくでい、ブルニちゃん」
「いくぞ」
右からロイヤーの剣(オモチャ)がブルニを狙う。直ぐに盾で防ぐブルニ。
直ぐさま、今度は左からミケルの剣(オモチャ)が迫り来る。
ブルニはスッと後ろに後退して攻撃を躱す。
ペチッ パフッ ペチッ パフッ
次々と繰り出される2人の攻撃を、盾で防いだり、後ろに下がったりしながら、なんとか防ぐブルニ。
「えいっ!」
今度もスキル『盾振動』を発動して、ミケルを痺れさそうとするブルニ。
しかし、ミケルはスッと剣を引き、それに対処する。
「ほいさっ」
直ぐに逆方向からロイヤーの剣がブルニを襲う。
「はわわわわっ」
ブルニはそれに対応する事が出来ずに、ロイヤーの剣はペチッとブルニの頭を叩いた。
「おし!そこまで!」
「ふええぇぇんん。頭、叩かれちゃいましたぁ」
「惜しかったのぉ」
「甘いな」
「おしおし。結構やるな、ブルッチ」
「全然ダメですぅ。どうしてミケルさんはブルニが『盾振動』を使うって分かったんですかぁ?」
「ブルニが魔力を込めたのが分かったからな」
「うむうむ。正直、ちょっと分かりやすい行動じゃったかの。目つきも表情も変わって、腰を落として身構えておったからのぉ」
「ふええぇん。そーだったんですぅ?気をつけますぅ」
「まあ、普通のモンスター相手だと大丈夫なんだけどな。やっぱ、ある程度知能が高い相手だとバレちゃうから気をつけるってことだな」
「あのぉ。その後のロイヤーさんも『盾振動』で防ごうとしたんですけどぉ、スキルが発動しなかったですぅ。これはなんでなんですぅ?」
「うむうむ。ブルニちゃんや。スキルっちゅーもんは連続で発動するのが難しいもんなんじゃ。それも威力や効果が高いスキルほど、連続して使用するのが難しくなる。まあ、訓練次第で、ある程度、短い間隔で使う事が出来るようになるがの」
「そうそう。だからさっき、セリリンにビレットが言ってたじゃん?連続して魔法を使えればメリットになるって。それだけ熟練の冒険者でも連続で魔法やスキルを使うことは難しいことなんだぜい」
「ほええぇ」
「そんで、ブルッチ。さっきの2人の攻撃は、かなり良く防げたと思うぜい。盾を持つバランスもステップの踏み方もスゲー良かった。日頃からフットワークをしっかり取り組んでるお陰だな」
「えへへ」
「んだけどな、見てみ。ブルッチ。さっき痺れたランドッピが転がってる場所から、今は、かなり離れてないかい?」
「ほええ。ホントですぅ」
「うんうん。やっぱフィールドは、足場がしっかりしている場所とは限らないし、ブルッチの場合は自分の防御に専念する訳にもいかねーからな。あんま移動し過ぎると、仲間から離れたり、ガラ空きになって守れなくなるから注意だぜい」
「ふええんん」
「そんで、俺が気付いたのはブルッチは相手の攻撃を受け止めるのは、しっかり出来ているが、自分から防ぎに行ってはいない。だから攻撃を受け止めている内に、気付いたらこんなに移動してしまってるんだと思うぜ」
「ほえ?自分から防ぐんですぅ?」
「ちょっと見ててな。ロイロイとミケルンルン。ちと俺に攻撃してきてくんねーかな。あ、本気でな」
「おっしゃあ。銀ランクにひと泡吹かせてやるぞい」
「ふん、吠え面をかかせてやる」
そうして2人は攻撃を開始する。
ペチッ パフッ ペチッ パフッ
攻撃を受け止めるのはブルニとさして変わりは無いが、大きく違うのが横にずれたり、時には前に出て受け止めたりと、バックステップばかりだったブルニとは対照的で、場所もあまり移動していなかった。
「く・・・」
そして攻撃しても盾で押し返され続けたミケルは、なんとか一撃を喰らわせようと足に力を込める。
スッ
その瞬間、圧力をかけ続けていたレインの盾は、サッと身を引き、バランスを失ったミケルはゴロンと大地に転がった。
「なにをぉ」
直ぐさまロイヤーが背後からレインを狙うが、これも後ろに目があるかのように横に移動して躱す。
「おっとっと・・・」
目標を失ったロイヤーもバランスを崩して片足でピョンピョンする。
そのロイヤーに向かって盾を突き出すレイン。
ロイヤーは大地に転がり白旗を上げた。
「ぬおお。降参じゃ。まいった」
「ち・・・」
「ふわわわぁぁ・・・」
「どうだい、ブルッチ。何か分かったかい?」
「んとぉ。レイン兄様の盾はとっても攻撃的でしたぁ。相手の攻撃を受け止めるというよりかは、相手に攻撃をさせないような感じに見えましたぁ」
「うんうん。いいね、よく見てる」
「あとぉ、ミケルさんがエイヤってした時に盾をスッと引いたから、ミケルさんはゴロンってなってましたぁ」
「そうそう。押している時に盾を引くと、相手は急に盾が消えたように見えるから体勢を崩すんだぜい。これはブルッチも出来ると思うぜ。相手をしっかりと見てるからな。大切なのは攻める盾と守る盾を使い分けることかな。だからブルッチはバックステップを踏む事が多いけど、そんな時、相手が調子に乗って攻撃してきたら、急に前に出てみ。相手はビックリして効果絶大だと思うぜ」
「ほわわわぁ。なるほどぉ」
「でも前に出て攻撃を防ぐのは、やっぱある程度、技術が必要だぜ。前に出るってのは危険が伴うからな。ブルッチが戦闘を離脱するってのはPTが壊滅するって事だから、今は焦らずに徐々に技術を学んでいこか」
「はいい。レイン兄様っ。あとぉ、最後のロイヤーさんの攻撃はどうして分かったんですかぁ?後ろにお目々さんがあるみたいでしたぁ」
「ふっふっふ。ブルッチ。これを見てみ」
「はわわわぁっ!盾の裏側に鏡が付いてますぅ」
「そうそう。小さいけど結構役立つんだぜい。基本的には常に周囲の動きを目で追って、把握するのが大切なんだけど、やっぱ攻撃を受け止めてる最中は中々把握できねーしな。そんな時にちょっとしたサポートとして活用してみると良いかもしれねーぜ」
「凄いですっ、レイン兄様っ。ブルニ、早速買ってみますっ」
「おうよ。そんじゃ、引き続き特訓を続けよか。今度は少し、前に出ることを意識してな」
「はいっ!ブルニ頑張りますっ!」
そうしてグイグイと成長していくブルニであった。
「んんんんんう〜〜」
セリーは眉間にシワを寄せながら、ひたすら唸っていた。
人差し指を立てて、そこに全神経を注いでいる。
爪の部分がボンヤリと光っているので、魔力を放出しているようだ。
「んはああぁぁ!だめですわぁ!」
「セリリン!早すぎ!もっと集中して!」
「ですが、クリム様っ。これ意外とキツいですわっ!ずっと魔力を注ぎこみ続けるなんて、とても・・・」
セリーは口を尖らせて不満を口にするが、同じようにずっと魔力を注ぎ続けているリューイを見て口を閉じる。
「セリリン。魔法は魔力の強さも関係あるが、なによりイメージ力と集中力が大切なんだ。集中力が研ぎ澄まされれば、威力の高い魔法も使えるしな。それに、こうやって魔力を注ぎ続けれれば微精霊が反応してくるかもしれない。けして無駄な事にはならないんだぜい」
「うみゅ~」
「セリーちゃんや。こういう魔力を制御できるようになれば、焚き火に着火させる用の小さな火も出せるようになるのよぉ。いい線いってるから頑張って」
「はいですわぁ」
セリーは渋々、再度魔力を指先に集める。
「お、リュイリュイは結構良い感じじゃんか。ナイスナイス」
「うんうん。リューイちゃん、その調子よぉ」
「は、はいっ!」
褒められているリューイをジト目で睨むセリー。
「そんじゃ、リュイリュイ。今度はあそこでビレットと戦ってるりりぴょんを見ながら魔力を高めてみ。目で見ながら、頭では魔力を高めてるって感じじゃなくて、しっかりとりりぴょんの動きを目で追って考えるんだ。魔力を高める指と、考える頭を、切り離すような感じ。魔力を高めているのに、頭の中では別の事を考えれるようになると、かなり行動に選択肢が増える。そうすっと、周りを冷静に見ながら魔力を高める事が出来るようになるしな」
「なるほど。やってみます」
リューイはリリフの動きを目で追いながら、指先に魔力を込めた。
人差し指にポヤっと白い光が灯る。
しかもセリーのように明るさが大きくなったり小さくなったりせずに、一定を保っていた。
かなり魔力を使いこなせているようだ。
「おおっ。リュイリュイ、良いじゃんか。めっちゃ出来てるっ。その調子、その調子」
「リューイちゃん、やるじゃない。これは成長が楽しみだわぁ」
クリムとルチアーニがリューイを絶賛していると、遠くのビレットからクリムに声がかかる。
「クリムー。りりぴょん回復してくれー」
「あいよー」
リリフの回復のために、ちょっとだけその場を離れるクリム。
その瞬間、セリーがリューイに話しかけた。
「素晴らしいですわ、リューイ。流石は我がPT自慢の回復士ですわね」
「え??そ、そんなことはありません、せり・・ね様」
「謙遜しなくて良いのですよ。いつもわたくしは助かっているのですから。そうですわ、何かお礼をしなくては。ではリューイ。今日、このまま、しっかりと魔力を高める事が出来たら、ご褒美にわたくしのおっぱいを好きにしていいですわ」
「ゑっ?!」
「好きなだけ揉んでもいいですし、吸い付いてもいいですわよ。リューイの大切な部分を挟んでも良いですわ。一晩中、好きにしてくださいませ」
「!!!!!!!!!!!!」
リューイは硬直して頭が真っ白になる。
『いやいや。自分はリリフ様が好きだって気付いたはずだ。そんな誘惑に乗っては駄目だ』
『でもあの巨乳を好きに出来るチャンスなんて今後現われないぞ』
『構うもんか。僕はリリフ様の中身が好きなんだ。胸が大きいとかは関係ないんだ』
『でもずっと揉みたかったあのおっぱいを好きに出来るんだぞ。あのデカすぎるおっぱいを。揺れまくるおっぱいを。柔らかそうなおっぱいを・・・・おっぱい・・・おっぱい』
思春期真っ盛りのリューイの頭の中は、あっという間に『おっぱい』という単語で埋め尽くされる。
「さてと、そんじゃ続き・・・・てっ!おおおいっ?!!リュイリュイ?!どーしたん?!全然集中出来てねーじゃんか?!さっきの集中力は何処行ったんだ?!」
「・・・僕は・・・・でもおっぱい・・・リリフ様・・・・おっぱい・・・」
リューイはブツブツと呟きながら虚ろな目をしている。
当然、この後は全くリューイの特訓は実を結ぶ事が無かった。
そんな光景を見て
「セリーちゃん。案外、えげつないわね・・・」
ひっそりと言葉を漏らすルチアーニであった。
そうして夕方近く、しっかりと特訓に汗を流したリリフ達(1人を除く)は、グワンバラの食堂で一緒に夕食を取ることにした。
「あ~・・・疲れたぁ・・・」
「お腹ペコペコですわぁ」
「ブルニもペコペコですぅ」
「・・・おっぱ・・・」
「それじゃあ、いっただきまーすっ」
「ワシらも頂くとするかのぉ」
「うむうむ。まずはモロ酒で乾杯じゃな」
「うお?!ビルビルじゃねーんかよ、ロイロイ」
「甘いのぉ、銀ランク達よ。下町ではモロ酒の方が一般的なんじゃぞ」
「フン、飲め」
「うおおぉ!うめーじゃん!モロ酒ってやつ!」
「だなだな!炭酸で割るとめっちゃ上手いぞ!」
「モロ酒サイコー!」
「お前ら、飲み過ぎるなよ。明日もあるんだから」
「うふふ。リリフちゃん、特訓はどうだった?」
「あ、はいっ。かなり勉強になりましたっ。全然まだまだですけど。てへへ」
「いやいや。りりぴょんマジで成長早いぜ。ビレット危なかったもんな、最後」
「ああ。危うく1本取られるとこだったぜ。ビビるぜ、マジで」
「ええ?・・・そっかなぁ・・・」
「うふふ。リリフちゃん。銀ランクちゃんに一太刀入れれるって事は、デーモンにも一太刀入れれるって事なのよ?凄いことなんだから」
「ふわわっ。リリフ姉様っ、凄いですぅ。ブルニも頑張りますぅ」
「いやいや。ブルニちゃんも凄いぞよ。最後はミケルを転ばせたからのぉ」
「ふん。今日は転んでばかりだ、くそ」
「ぎゃはは。セリーちゃんはどうじゃったんじゃ。うまく微精霊を操れるようになったかの?」
「わたくしは全然でしたわぁ。魔力のコントロールが上手くいきませんの」
「リュイリュイも最初は良かったんだけどなぁ。いきなり魔力が乱れるようになっちまったもんな」
「ふええんん。お兄ちゃん、頑張ってぇ」
「・・・おっぱ・・・・はっ!・・・す、すまんブルニ。兄ちゃん頑張るよ」
「うんっ。お兄ちゃんなら出来るよぉ」
そうしてワイワイと食事を楽しんだリリフ達は明日に向けて早めに解散する。
「んじゃな、りりぴょん。また明日ぁ」
「またなー」
「ウエーイ。もうちっと部屋で飲まね?モロ酒旨すぎ」
「ブルーダ。あんま飲み過ぎると明日りりぴょんに一太刀喰らうぜ」
「おわっ。やめとこ。おやすー」
食堂と宿屋は併設しており、中で繋がっているので、銀ランク達はそのまま部屋に移動する。
「そっれじゃあ、ルチアーニさん。ロイヤーさん、ランドルップさん、ミケルさん。また明日お願いします!」
「こちらこそよぉ。またねぇ」
「おうよ。また明日のぉ」
「ご機嫌ようですわぁ」
「バイバーイ」
「おお!リリフ様?!ルチアーニ様!」
リリフ達も食堂を出て、そのまま解散しようと挨拶を交わしていたら、驚きの声を上げて話しかけてきた人がいた。
ビックリして振り返ると、そこには大人の男性と女性、そして小さな子供がウサギのぬいぐるみを抱えてリリフ達を見ていた。
「おおお?!お前さんは!」
「おお。確かリビの街の・・・」
「あああっ!マルゼンさん!マルゼンさんじゃないですかっ!」
「違いますわっ!オルゼン様ですわっ、リリフ!」
「そうよそうよ。お久しぶりじゃないの、オルゼンさん。こんな所で、いったいどうしたのかしら?」
「実は前回の皆様のご対応に感銘を受けまして。一家でガタリヤに移住する事にしたのでございます。そして今し方、このガタリヤに到着したという訳でございます」
「へええっ。てことは、この子が病気だった子ですか?」
「はい。妻のプリシーナと娘のロゼッタです。プリシーナ、この方達がミール様と一緒に自分を救ってくれたんだよ」
「まあ。本当に主人を救ってくださりありがとうございました」
「えええ?!そ、そんなことないですよぉ。ミールはともかく、私達なんて何もしてないしっ」
「とんでもないですわ。もちろん聖女様、アーニャ様、ミール様には大変感謝しておりますが、皆様も私達にとっては大切な命の恩人ですわ」
「えへへ。恐縮です。でも元気になって良かった。良かったね、ロゼッタちゃんっ」
リリフは笑顔でロゼッタに話しかけるが、ミールの時と違い、周りには大勢の大人達がいるせいか、人見知りが発動してお母さんの後ろに隠れている。
「ほら、ロゼッタ。皆さんに挨拶なさい」
「んん〜・・・」
ロゼッタはお母さんのズボンに顔を埋め、首をフリフリしている。
「あはは。大丈夫ですよっ。私達、さっきまで特訓してたから泥だらけだし。ビックリしちゃったんだと思います。大丈夫だからね、ロゼッタちゃん」
リリフはしゃがみ込んで笑顔を向ける。
すると、ブルニもリリフの横に座り、帽子を取って、笑顔で猫耳をピョコピョコ動かした。
ロゼッタはブルニの猫耳に興味津々の様子。口を開けて目を輝かせている。
「それはそうと、オルゼンさん。ガタリヤにさっき到着したって言ってたけど、よくここに来たわね。これって偶然かしら」
「いえいえ、ルチアーニ様。実は先日、リビの街にて偶然ミール様にお会いしたのです。その時にガタリヤに移住する事になったとお伝えしましたら、このグワンバラの宿をご紹介して頂きました。それで真っ先にここへ来たのでございます」
「へええっ。ミールに会ったんだ?!」
「はい。私も妻もピダカウ村から出た事が無かったので正直不安でしたが、ここの女将を頼れば力になってくれるとご紹介してくださいました」
「そっかぁ。じゃあ、話は通ってるんですねっ。今、ちょうど忙しい時間だから私が聞いてきますっ。ちょっと待っててくださいっ」
「おお。リリフさん、ありがとうございます」
「母さーん。オルゼンさんが来てるんだけど、どうすればいい?!」
「あーん?!誰だってぇ!!」
グワンバラは忙しそうに厨房で食器を並べている。
「だからオルゼンさん!オルゼンさんだよ!ミールから聞いてない?!」
「何言ってんだか全く分からないね!あのテキトー冒険者が連絡なんてよこすわけないだろうさ!」
「えええっ?!なにも聞いてないの!?」
「流石ミール様ですわっ!見事な丸投げっぷりですわ!」
「ど、どーしよぉ。わざわざ母さんを頼ってここまで来たのに・・・」
「リリフ!あたしは手が離せないから、アンタが部屋に案内してやってくれ!リリフが前に住んでた部屋にね!」
「えええ?!いいの?!」
「良いもなにも、もう来ちゃってるんだろ?!だったら面倒みるしかないだろさ!好きに使ってくれと言っときな!食堂が落ち着いたらあたいも顔を出すから!」
「わーい!母さん、ありがとう!大好き!」
「オルゼンさん!母さん、今、手が離せないみたいなので、私が代わりにお部屋に案内しますねっ!」
「おお、ありがとうございます。宜しくお願いします」
「そんじゃ、リリフちゃん。あたしらはここらで帰らせてもらうよ。また明日ね」
「はいっ、今日はありがとうございました!また明日!」
「そんじゃの、オルゼンさん。今度、落ち着いたら酒でも飲もうぞい」
「はい!喜んで!」
「それじゃあ、私はオルゼンさんを案内してくるから、セリー達は先に帰っててぇ」
「わかりましたわ」
「ではお先に失礼します」
「ロゼッタちゃん、バイバイ」
ブルニは、猫耳を触るのに夢中になっているロゼッタに笑顔で手を振る。
「猫しゃん、バイアイ!」
ロゼッタは大きく頷き、笑顔で手を振った。
猫耳を触りまくったお陰か、すっかり緊張が解けたようだ。
半獣の子達や、このロゼッタへの対応の仕方を見ると、やはりブルニは、かなり面倒見が良い性格なのだろう。
「オルゼンさん。ここですっ」
リリフは2階の、以前住んでいた部屋に案内する。
「おお、かなり立派ですね。トイレもお風呂もあるとはっ」
「こんな広いお部屋を使っても良いのでしょうか・・・お恥ずかしい話ですが、貧しい村での生活でしたので、あまり貯えがなく・・・」
「あはは。大丈夫ですよっ。私達も前に住んでたんですけど、ここは客室じゃなくて、従業員さん用のお部屋らしいので、多分、格安で貸してくれると思いますよっ。母さんも好きに使ってくれって言ってたし!」
「そうでしたか。本当にありがたい事です。感謝致します」
「いえいえ。感謝は母さんにしてくださいっ。後で顔を出すって言ってましたのでっ」
「分かりました。まさかリリフさんのお母様が経営されているとは驚きました」
「あああっ!ち、違います!母さんは母さんで、お母様とは違くて!グワンバラ母さんは皆んなの母さんって言うか!私も初めてガタリヤに来た時に物凄くお世話になった人なんです!とっても頼りになる女将さんなんですよっ」
「なるほど、なるほど。そういう事でしたか。納得しました。私達家族にとって村を出て暮らすのは初めての事なので、分からない事も多いかと思います。その時は何卒宜しくお願いします」
「はいっ、もちろん!何でも聞いてくださいっ」
「はい。ありがとうございます」
「お姉たん、ありやと!」
ロゼッタはすっかり緊張は解けているようで、トコトコトコっとリリフの前に走ってきて、元気にお礼を言った。
リリフはしゃがみ込んでロゼッタの頭を撫でる。
「このウサギさんはなんてお名前?」
「このこあね、ウサたん!」
「ウサたんかー。いい?ロゼッタちゃん。ガタリヤは広いから勝手に走り回ると直ぐ迷子になっちゃうから気をつけてね。ロゼッタちゃんが迷子になったら、ウサたんも不安になっちゃうから。ウサたんを守れるのはロゼッタちゃんだけなんだからねっ」
「うん!わかったお!」
「うんうん!良いお返事!良い子、良い子」
リリフがロゼッタの頭を撫でていると、オルゼンが感慨深いように呟く。
「リリフさん、ありがとうございます。本当にありがとうございます。いえ、実は先日、ミール様にお会いした時に、今と同じような言葉をかけて頂きました。本当にガタリヤの皆さんはお優しい方ばかりです。この街に移住してきて本当に良かった。今、改めてそう思う次第でございます」
「私も主人と同じですわ。リリフさん、本当にありがとうございます」
「お姉たんっ!バイアイ!」
「えへへ。うんっ、バイバイ、ロゼッタちゃん。ではオルゼンさん、プリシーナさん。今日はゆっくり休んで下さい。おやすみなさい」
リリフは笑顔で手を振り、扉を閉める。
ミールも同じ事してたんだ。
リリフは、普段素っ気ないミールが優しくロゼッタに接していたことが嬉しくなり、口元が緩む。
そして、ルンルンと鼻歌を歌いながら階段を降りていくのであった。
翌日の早朝、リリフ達はガサゴソと動き出していた。
「みんな、ルクリアが寝てるから静かに準備しよ」
「分かりましたっ、リリフ姉様っ」
「あ、ブルニ。もうちょっと薄着の方がいいかもよ?」
「ふええん。リリフ姉様ぁ。これ脱ぐと寒いですぅ」
「うんうん。今は寒いけど、走り出したら直ぐに暑くなるから。あまり着込まない方が良いんだよ」
「なるほどぉ。分かりましたぁ」
「うにゅ~。眠いですわぁ」
「ほら、セリーも服着替えて。ブラ付けるよりも、タンクトップで胸を締め付ける方が良いかも?」
「分かりましたわぁ・・・むにゃむにゃ」
「はわわっ。お兄ちゃんっ、見ちゃダメ!」
「リューイ、ちょっと向こう向いてて。セリー着替えるから」
「は、ははいいっ」
「あ、ごめんごめん、ルクリア。起こしちゃったね」
「・・・ううん・・・私も走る・・・」
「えっ?!そなの?!」
「うん・・・朝に身体を動かすと頭の回転も良くなるってラインリッヒ様も言ってたし・・・」
「そっかぁ。分かったっ。じゃあ一緒に行こっ」
「うん・・・」
「セリー姉様、早くおっぱいしまってくださーい」
「ううんんん。キツいですわぁ」
「・・・トンプー乳・・・」
「あっ、コラ、リューイ!こっち見ないっ!」
「す、すみませんっ」
「お兄ちゃんのエッチ」
準備を整えたリリフ達は、アパートの前で準備運動を始める。
「うううっ。さっむー!」
「寒いですわぁ!」
「ふええん。寒いですぅ」
「・・・ブルブル・・・」
「こんなに早朝は静かなんですね。別の場所みたいです」
「さあっ、みんな頑張って身体動かそ!いっちにぃ、さんっしっ。にいにい、さんっしっ」
「うんしょ、うんしょ」
リリフに習って、身体を動かすセリー達。
「よしっ!それじゃあ、南門通りまで一緒に行こっか。それからは中央の公園まで各自のペースで走ろ。吸って吸って、吐いて吐いて。呼吸を二段階にして、リズミカルに走るのを心掛けよう」
「分かりましたわぁ」
「はいっ!リリフ姉様っ」
「・・・がんばる・・・」
「呼吸を二段階に。なるほど、了解です」
そうして走り始めたリリフ達。
リリフも普段よりもスピードを落とし、全員で一緒になって走っていた。
「どう?走り始めるとあまり寒くないでしょ?」
「本当ですぅ。逆に気持ちいいですぅ」
全員の吐く息は白い。
頬も耳も赤くなっているので、寒いことは間違いないが、それ以上に身体の芯から温かさが湧き上がってきているようだ。
黙々と冷たい空気を体内に取り込んでいく。
「おっはよぉ~ございまーすっ!」
リリフはいつも通り、ベンチに座ってヨレヨレの新聞を読んでいる怪しい男性に、元気に挨拶した。
「えっ?!リリフ、お知り合いですのっ?!」
「ううん。全然知らない人」
「えええ?!どういう事ですの?!」
「何か変??あっ、おっはよー!」
今度は馬車のフンを掃除している人獣に挨拶する。
「なんか良くない?挨拶しないよりも、した方が絶対に気分良いしっ。それに挨拶が返ってくると、とっても嬉しいっ。なんか、みんなから元気貰ってる感じっ」
「な、なるほどぉ、流石リリフ姉様ですっ」
「はああん。わたくしはリリフが素直に育ってくれて嬉しいですわぁ・・・」
「・・・挨拶・・できるかな・・・」
「な、なるほど。なるべく頑張ります」
「あはは。別に強制じゃないから無理にしなくていいんだよっ。さてとっ。それじゃあ、ここからは各自のペースで走って行こっか。とりあえず中央の公園までっ。それじゃ、レッツゴー」
そうしてリリフは挨拶しながら明るく走り始めた。
各自のペースで走り始めて、分かった事がある。
意外にもブルニは足が遅かった。
一生懸命、大きく腕を振りながら走っているのだが、何故か遅い。
セリーは予想通り遅い。
タンクトップで胸を締め付けて、その上にTシャツを着ているので、いつもよりかは胸の揺れは目立たないが、明らかに走りを妨害しているように感じる。
そしてリューイは普通の速さ。
遅くもなく、速くもなく。一般的なスピードだ。
1番意外だったのがルクリア。
めっちゃ速い。
小柄で、普段大人しい印象のルクリアとは思えないほど、豪快なストライドで伸びやかに走っている。
以前、リリフとセリーと初めてガタリヤに来たときに、グワンバラの宿目指して一緒に走った時とは比べようがない程の速さ。
そのスピードは、いつも走っているリリフに負けないほどだった。
公園に到着したリリフはルクリアを褒め称える。
「すっごーいっ!ルクリア、めっちゃ速いじゃんっ。ビックリ!」
「・・・そうかな・・・」
「うんうんっ。それに凄く綺麗な走り方だった!私も参考にするねっ」
「うん・・・ありがと・・・」
「あっ、おっはよーございまーすっ!」
リリフは散歩をしている老夫婦に元気に挨拶する。
ルクリアは、流石にリリフと同じようには出来ないので、その代わりに頭をめいいっぱい下げている。
「あらあら、リリフちゃん。今日は2人なのねぇ。おはよう」
「随分と可愛い子じゃのぉ」
「あははっ。実は今日、私達のPT全員で走ってるんですっ。だから後3人来ますよっ」
「あらあら、それじゃあちょっと待ってようかしら。リリフちゃんのお仲間、興味あるわぁ」
「そうじゃの。どんな美少女が来るんじゃろか。楽しみじゃの」
老夫婦はベンチに腰を降ろしてニコニコとリリフ達を見つめる。
少し経って、リューイが公園に到着した。
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・お待たせしました・・・」
「やるじゃん、リューイ。結構速い速い」
「い、いえ・・・そんな・・・あ、お、おはようございます・・・」
リューイはぎこちなく、ベンチでニコニコしている老夫婦に挨拶する。
「この子がお仲間さんね。初々しいわねぇ」
「なんじゃ、男か。つまらんの」
更にしばらくして、ようやくセリーとブルニが揃って公園に到着する。
「ふえっ・・・ふえっ・・・ふえっ・・・リリフ姉様ぁ・・・は、速いですぅ」
「ぜえっ・・・ぜえっ・・・ぜえっ・・・うぷっ」
2人とも荒く呼吸しながら、公園の芝生に倒れ込む。
「まあまあ。大丈夫かしら」
「こりゃえらい可愛い子と・・・・ボインボインな子じゃのぉ。ありがたや、ありがたや」
「あんた・・・どこに向かって拝んでるんだい(怒)」
「いててて。なんじゃ、ちょっとくらいいいじゃろ?冥土の土産じゃ。土産」
「やれやれ」
「あはは。2人とも大丈夫?お水そこにあるから飲んでね」
「はいい・・・リリフ姉ちゃま・・・」
「ぜえっ・・・ぜえっ・・・キツいですわぁ」
「でもセリーもブルニも頑張ったよ。えらいえらい」
「・・・はい、セリー・・お水・・・」
「ぜえっ・・・ぜえっ・・・ぐびぐびぐびっ、ぷはあぁ・・・お水が美味しいですわぁ。ありがとう、ルクリア」
「ルクリア姉様ぁ・・・凄く速いですぅ・・・はあはあ・・・なにか運動してたんですかぁ?」
「ううん・・・なにもしてない・・・」
「ほええぇぇ・・」
「ですが、やっぱり良いですね。朝に身体を動かすのは。とてもすがすがしい気分です」
「うんうん。でしょでしょ?」
「ブルニもぉ・・・大変ですが楽しいですぅ」
「わたくしも・・・はあはあ・・・案外悪くないですわね・・・これから毎日しろ・・・と言われると嫌ですが・・・」
「あはは。うんうん。自分のペースでいいんだよ。よしっと。それじゃあ折り返し。アパートまで帰ろっか」
「えええ?!もうですの?!まだ動けませんわっ」
「ふええええんん」
「あはは。セリー達は少し休んでからにしよ。ゆっくりでいいから。あ、それと。さっきみたいに走り終わって直ぐに倒れ込むのは身体によくないから、アパートが近くなったら走るのを止めて、ゆっくり歩いて呼吸を整えるようにしよっか。最悪、折り返しはずっと歩いててもいいから。結構、朝の街を歩くのも良い気分転換になるんだよっ」
「はいですわぁ」
「わかりましたぁ、リリフ姉様ぁ」
「よしっ!じゃあ、行こっか。ルクリア」
「・・・うん」
「ああっ!貴方達はいつぞやの!」
唐突に声をかけてきたのは中年の男性。
眼鏡を掛けて、帽子を被り、ポケットの沢山付いたベストを着ている。
一見、釣り人のような雰囲気だが、手にはカメラを持っていた。
「え?・・・あの・・・」
リリフは誰だか分からずに、オドオドしている。
「ああ、失礼。自分はスレルと申します。先日まで聖都の『T&L』という会社で聖女様の専属カメラマンをしていた者です」
「聖女様の?!」
「ええ。そしてあの邪神との戦いの時、カメラで皆さんの映像を収めた者でもありますっ」
「ええ?!あー!そっか!あの時にカメラを構えてくれたカメラマンさんだ!うわぁー。お久しぶりですっ」
「はいっ!お久しぶりです!自分は戦ってはいませんが、皆さんと共に、あの場所を共有できたことは自分の誇りです!」
「何を言ってるんですかっ。スレルさんが映像を撮ってくれたから、みんなに情報が伝わって混乱が収まったんですっ。スレルさんも立派な戦友ですよっ」
「くうぅ・・ありがとうございます!このスレル。今の言葉を一生忘れません!」
「あはは。それでスレルさんはどうしてガタリヤに?聖都を離れちゃって良いんですか?」
「ええ。実は邪神との一件以来、僕はガタリヤの皆さんに感銘を受けまして。ガタリヤの魅力をルーン国全体に伝えたい。そんな思いで所属変更を願い出て、ガタリヤに来たんです」
「へえぇ。聖女様のお仕事はいいんですか?」
「ええ。正直、聖女様専属のカメラマンという地位はエリートの証でもあるので、同僚にもかなり止められました。ですがやっぱり私はガタリヤのことを国中に伝えたいのですっ。率いる兵士の数も1番少なく、序列も常に最下位でしたが、実際、1番活躍したのはガタリヤの皆さんでした。あの気高き瞳で我々を導いたアーニャ様の統治する街には何かあるのではないか?街を良くしようと熱気に包まれている人々はどのように生まれたのか?そして、大逆転で1位を獲得した街はどのような所なのか?私はそれを伝えたい。忖度しない、権力の意向に沿わない、ありのままのガタリヤの姿を全世界に伝えたいんです!」
スレルはググッと拳に力を込めて力説する。
「それでですね。実は先日、アーニャ様の独占取材をさせて頂きまして。今、聖都ではアーニャ様は大人気なんですよ。各社がこぞってアーニャ様に取材申し込みをしているようですが、公務に忙しいからと全然アポが取れない状況らしいんです。で・す・が!わたくしスレルはアーニャ様と約束をしていたので特別に自分だけ取材をさせて貰えたんですよっ。もう感激でしたっ。アーニャ様はとてもお美しく、お優しく、良い香りがして・・・」
スレルは、ぼーっとした表情になり、思い出に浸っているようだ。
「なので我が社が唯一、アーニャ様の取材をする事が出来たので、記事は大盛況だったようです!会社からもドンドンとガタリヤの記事を上げてくれと言われておりまして!ただいま絶賛取材中という訳です!題して『今、ガタリヤの女性達が熱い!』です!ガタリヤの日常的な場所を撮りつつ、そこで働く女性達を紹介したい!リリフさん!是非、魔法絵(写真)を撮らせて頂けないでしょうか?!」
「えええ?!わ、私ですかぁ?!」
「ええ!もちろん!アーニャ様もそうですが、聖都の住民達はリリフさんの真っ直ぐな瞳を記憶している人も多いはずですっ!そのリリフさんの元気な姿を見れば、聖都の多くの住民達が勇気づけられるはずです!『真っ先に手を上げて邪神に立ち向かっていった女の子が生きていたのか!』『凄いぞ!俺達も頑張ろう!』となるはずです!是非、復興中の聖都の住民達に希望を勇気を与えてあげてください!お願いします!」
スレルは土下座でリリフに頼み込む。
「わわわ。分かりました。分かりましたから頭を上げてください」
「おお!それでは?!」
「は、はい。あんまり自信はないですけど、ちょっとでも聖都の住民の皆さんのお力になれるなら」
「ありがとうございます!助かります!」
スレルはビョンっと飛び上がり、早速カメラを構える。
「はい!ではまず笑顔で一枚!おお!良いですね!次は準備運動をしているような感じで!そうですそうです!凄い良いです!ああ!お仲間の皆さんも是非是非!」
「はあぁん。撮られていると思うとゾクゾクしますわぁ」
「・・・恥ずかしい・・・」
「ぼ、僕なんかが一緒でいいんでしょうか?」
「はわわぁ。リリフ姉様ぁ。これってなんですかぁ?」
「これはね、ブルニ。魔法絵を撮る魔道具なんだよっ。これを使うと、その時、その時を画像として残すことが出来るのっ」
「ふえっ?!そ、そうなんですかぁ?もっと大きいのかと思ってましたぁ」
「おお、ブルニさんはカメラは初めてなのですねっ?!」
「はいい。初めて見ましたぁ。どんな風に写ってるかって見ることは出来るんですぅ?」
「もちろん、もちろん。ほら、こんな風に」
「はわわっ。リリフ姉様が写ってますぅ」
「あとは魔法新聞に送って見ることも出来ますし、自分で記事を書いたりも出来ますよぉ。専用の魔法紙にプリントする事だって出来るんです!」
「ふわぁぁ・・・いいなぁ」
「あはは。ブルニ、メモ大好きだもんねっ。魔法新聞に記事を載せたら人気出るんじゃないかしら」
「確かにそうですわ。学校で見せてくれたノートはとても見やすかったですものっ」
「お兄ちゃん・・・」
ブルニはつぶらな瞳で兄を見つめる。
「う・・・こ、これは買うとお幾らくらいするのでしょうか?」
「おお、素晴らしい。私が使っているカメラは『LXー283ZX』という機種でしてっ。シャッタースピードも細かく設定できて、フォーカス機能も優れており、非常に鮮明な画像を・・・って、こんな情報はいらないですよね。えっと・・・このカメラは中古でも100万グルドはしてしまいますねえ」
「うわっ、結構たっかーい」
「ひええ・・・ですわ」
「し、しかし・・・妹のためなら・・・」
「ダメだよぉ、お兄ちゃん・・・分割にしよぉ・・・」
「そうだっ!」
スレルはぴょんっとジャンプして、側に置いてあったリュックサックから一台のカメラを取り出す。
「これは予備のカメラなんですが、ブルニさんにお譲りしましょう!」
「えええ?!いいんですかあ?!」
「ええ!ええ!もちろん!これは簡易型なので望遠機能などは劣りますが、逆に初心者には使いやすいでしょう!細かい設定などもいりませんからね!」
「ふわわぁ!本当に貰っちゃって良いんですかぁ?」
「ええ!リリフさん達が撮影に協力してくれたお礼みたいなものです!私もカメラに興味を持ってもらえるのは嬉しいですから!是非、思い出を記録してみてください!」
「わあ、スレルさん。ありがとうございます!良かったねっ、ブルニ」
「はいっ、リリフ姉様っ。ブルニ、とっても嬉しいですっ」
「おお!良い笑顔ですね!いいですよ!いいですよお!」
スレルは再度、カメラを構えて撮影を再開する。
「うんうん!素晴らしい!素敵な笑顔ですねっ!まるで『雷光の姫君』のようです!」
「えええっ?!そ、そんな!私なんかが烏滸がましいですよぉ」
「いやいや!そんな事はありませんよ!聖都の住民は、きっとリリフさんの瞳に雷光の姫君の面影を見たはずです!だからこそっ、リリフさんの元気な姿、素敵な笑顔に勇気づけられる人は多いでしょう!これは反響が楽しみになってきましたよおぉ!」
やはり憧れの気持ちを持つ『雷光の姫君』に例えられてリリフも嬉しそうだ。
そうしてスレルに乗せられて、リリフ達は恥ずかしそうにしながらも、写真に収まっていくのであった。
続く
次回は5/15頃、投稿予定です。




