第23話
「あれが、メルクト火山かぁ」
早朝に出発し、もう直ぐ日も沈むという頃に、目的地が見えた。
竜にちょっかいをかけて来るものも居らず、楽な道程だった。
なので色々質問したりしていたんだけど、サクさん達竜の里は人と同じ様な生活をして普段過ごしているらしい。料理をしてご飯を食べたり、お風呂に入ったり、竜の里の文化というより、人の文化に影響を受けた文化をもっているようだ。
それでも、今ではそこまで人と関わっていないので独自の文化になっているようだけど。
竜は生まれて一年経つと、二つに分かれるらしい。一つは自我が芽生え理性を持つものと一つは本能のまま野生に生きるもの。ただ、レッサードラゴンやワイバーン等の下級竜は別らしく、殆ど自我が芽生える事は無いそうだ。
野生に生きるものはたまに街を襲ったり、山に住み着いたりするようだが、里に襲い掛かりでもしない限り基本放置だそうだ。
私達が偶然遭遇した赤竜を殺した事も話したけれど、「へえ、流石だな」的な反応で別になんとも思わないようだ。
そして理性を持つものは、基本幼少時は里で保護し、色々教えるようだ。その後どう生きるかは自由だが、その教える内容の最初は人化の魔法らしく、里か人の街で人の姿で暮らすものが殆どのようだ。
とはいえ、絶対数が少ないのでそんなに居ないようだけど。
火山に着くと、山中の広い荒野に降り、そして人の姿になる。
ここが発着場らしい。後は歩いて直ぐの所に里があるらしい。
そして数分後、赤竜の里に着いた。
「ここが、竜の里?」
「普通の村と見た目変わんないなぁ」
「家に居る時に、人化の魔法の効果切れたりとかしたら、直ぐに壊れそうね」
私とユリウスとフィアナの感想で判るだろうけど、家が大きいとかも無く、里自体がそこまでの大きさじゃない、通りを歩く者の角と鱗に目を瞑れば普通の村と何ら変わらなかった。
「じゃあ、取り敢えず長の所に行くか」
一番大きい家に向かい歩き出すサクさんに付いて行く。その時に結構周りから注目されている事に気付く。やっぱり、珍しいんだろうなぁ。
「ようこそ、お客人。私はこの里の長でボルという宜しく頼む」
長は見た目、八十歳位の方だった。柔和な顔つきの優しそうなお爺ちゃんだ。
取り敢えず、私達も挨拶と自己紹介を返した。
「ふむ、それで『闘神の指輪』を返して貰う代わりに、我等の知識や技術を教えると聞いているが間違いないかね」
「はい、先ずは『闘神の指輪』をお返しします。私達の暫くの間の滞在を認めて貰い、私達が興味を持った事に答えを返して頂ければ嬉しいです」
「ありがとう。だが、それだけでいいのかね?なんなら我等が持つ他の宝を差し上げても構わないが」
「いえ、要りません。それだと、宝が一個増えて、一個減るので同じ事では?」
「宝を一つ紛失し取り戻せないのと、宝を一つ恩人に差し上げるのでは、意味が全く違うのでな。今回の件も『闘神の指輪』が大事なのではなく、我等が宝を守れず取り戻せない事が大事なのだ」
「そうですか。それでも要りません。宝を見せて貰ったりはしたいですが、私はそういった物を自らの手で作る事が大事ですから」
「そうか、わかった。では、そなた等が我が里の客人として滞在する事を許す。里の者にも話しておくから、好きに里を見て周るといい。その間は私の家に泊まるといい、この里に宿は無いからな」
「ありがとうございます。お世話になります」
「今日はもう遅い、見て回るのは明日からで良かろう。それでは、飯にしようか」
長の家に泊まって、次の日。
昨日は食事も美味しく、温泉にも入り、凄く快適だった。
特に温泉は源泉掛け流しの凄く良い湯だった。……将来ここに住むのも悪くないかも知れない。
今日は好きに別行動する事にした。
私とノエルとツカサが鍛冶師の下に、フィアナは竜のブレスや人化等の魔法を研究している人が居るらしいのでその竜の下へ、ローレンとユリウスはサクさんに頼んで若い竜と模擬戦をやるつもりらしい。
鍛冶師のドグさんの工房に着いた。
「こんにちは、初めまして、今日は宜しくお願いします」
「ああ、話は聞いてる。俺に判る事だったら何でも話してやるよ」
「ありがとうございます。では、『闘神の指輪』ですけど、あれヒヒイロカネで出来ていますよね?精製方法と加工方法を教えて下さい」
「訊かれるとは思ったがな、加工方法については知ってる、教えるのも問題無い。ただ、精製に関しては俺は出来ねえんだ、悪いな」
「いえ、では加工方法を教えて下さい」
「まあ、そう焦るなって。俺は出来ねえんだけどよ、先祖は出来たらしいんだよ、『闘神の指輪』を作った方とかな。で、その人が書き残した文献があんだよ。ただな、なんというか感覚的な書き方でな、使う材料や大まかな手順は解るが、炉の温度や時間、見極め方等がよくわかんなくてな。それに加えて材料も手に入り難いからな、試す事も余り出来ず俺は作る事が出来ない訳だが。その文献の写本をやるよ、お前等はもしかしたら出来るかも知れないしな」
「ありがとうございます!お願いします」
「じゃあ、はいこれな。それと加工方法だが今手元にヒヒイロカネが無いからな、もし精製出来たら作りながら教えるよ。出来なかったら、説明だけしてやる」
「はい、わかりました」
渡された写本を三人で見る。書いてある文字に関しては今使われているものと同じでそのまま読めた。
……材料は緋鉄鉱石と白鉄鉱石と呼ばれる物を使うらしく、どちらもこの山の中で少量ながら採れるそうだ。手順は緋鉄鉱石を溶かした所に白鉄鉱石を少しずつ混ぜ合わせて行けば良い様だ。その時に闘気を込める事と竜の血を入れる事で、少し違った特性にも出来る事がわかった。
これだけ読むとそれ程難しく無い様に思えるが、問題はここからである。
先ず始めの緋鉄鉱石を溶かす温度と時間、書かれている内容そのままだと[緋が喜ぶ熱の強さで溶かしていき、苦しみ始める前に一度取り出す]……は?
次に再び炉に入れ白鉄鉱石を混ぜる割合、内容は[緋に白は負けてはいけないが、勝ってもいけない]……なんとなくニュアンスは伝わるけどさぁ。同じ量ってわけじゃ無いんだろうなぁ。
そしてその時の温度と時間、[緋は心地好くあり、白は少し苦しめる事が強靭さを生み出す]……感覚的とかいう問題?
文献を読ませてもらった私達の結論としては、やってみないとわからないだった。
という訳で、鉱石採掘にしゅっぱーつ!と行きたい訳ではあるが、かなり厳しい所でしか採れないらしい。まあ、簡単に採れるならドグさんが色々試してるだろうけど。
先ず暑い、というか熱い。赤竜が熱さを感じるレベルで熱いらしい。
次に魔物が強い、中に生息する魔物が竜でも一対一で苦戦する程の強さを持ち、鉱石が取れる辺りでは沢山居るらしい。
最後に見分けが付き難い、緋鉄鉱石も白鉄鉱石もその名の通り緋色と白色をしている、わけではなくこの名は溶ける時に緋色と白色に発光する事から付いているらしく、普段の見た目は殆ど鉄鉱石と変わらないようだ。
だから苦労して採って来たのに、全てただの鉄鉱石という可能性もあるらしい。
取り敢えず、熱さ対策は私の魔法でなんとかする、最後の見分けに関しては大体の場所は聞いているので、後は運任せで出来れば見分けがつけばいいなという感じで。
で、対策を練らねばならないのが、魔物である。ドグさんに危険な魔物に関して訊いてみた所。
先ず、蝙蝠の見た目の魔物フレイムバット、炎を吐いてくるらしいけど、それより問題なのが爪に毒を持っていて、プラス隠密に優れているらしい。霧の結界で発見出来たら良いけど、出来なかったらやばいかも。
意思ある炎、炎の精霊みたいな魔物イフリート、物理無効、火属性無効の赤竜には相手するのがきつい魔物らしい。相手の炎も赤竜には効き難いので、基本無視らしい。
溶岩の魔物マグマゴーレム、熱を持つ硬い身体の時とドロドロに溶けた状態の二形態を持つらしく、例えば砕いても溶けて合体したりしてくるので、核を破壊しないと倒せないらしい。
そして最後に赤竜、野生に帰ったものが何体か居るらしい。
ちょっと、私達三人じゃ厳しそうなので、ローレン達を呼びに行く。
ローレンはサクさんと模擬戦をしていて、ユリウスは一人唸っていた。
「ああ、シェラハ、鍛冶師への用は終わったのか?」
「まだだけど、ちょっと厳しい火山の中の洞窟に鉱石掘りに行かないといけないから、呼びに来たんだけど……何してんの?」
「ローレンが闘神武具生み出したじゃん?全く勝てなくなっちゃってさぁ、ローレンは赤竜達と良い勝負出来るけど、俺一人だと厳しいしさ、俺も闘神武具生み出したい訳だけど……どうやればいいかな?」
「知らないよ、私も使えないし。ローレンは何て?訊いたんでしょ?」
「それが、よくわかんないんだよな。ローレン自身もなんとなく出来ると思ったらしいし、説明受けても理解出来ない」
「じゃあ、そういうものだって事でしょ。ローレンみたいになんとなく出来ると思うまで頑張りなさいよ。ただ、そうやって唸ってても出来ないと思うけど」
「……そうだな。それで、洞窟に行くって?」
「うん。魔物強いみたいだから、出来れば全員で行くつもり。深淵の洞窟の前哨戦だね」
「そういえば、俺達って勇者なんだよな。ここでこうしてていいのか?」
「他の二パーティーもこれから武具を作ってもらう訳だし、少しなら良いでしょ」
「もう十一日経ってるけどな」
「気にしない気にしない。私達にはそこまで期待してないでしょうし」
「そうか?……まあ、いっか。おーい、ローレン!洞窟探索に行くってよ」
「うん、わかった!」
ローレンが模擬戦を切り上げ、サクさんの案内でフィアナの下に向かう。
フィアナはお婆さんと議論していた。内容は人の魔法と竜の魔法の違いについてのようだ。
事情を話して切り上げて貰い、洞窟に向けて出発する。
「フィアナごめんね、邪魔しちゃって」
「いいわよ。話は帰ってからでも良いし、私もその洞窟には興味があるわ」
「話は面白かった?」
「そうね、彼女は優れた竜の魔術師みたいだし、彼女の研究内容は中々興味深かったわ。シェラハも聞いてみると良いわよ」
「こっちが一段落したらそれも良いかもね」
「でもヒヒイロカネの精製か、出来たら凄い事になるんじゃないかしら?」
「まだ出来るか判らないけどね、でもやり方解っても広める気無いけど」
「広める気無いの?」
「うん、ノエルとツカサがどうするかは知らないけど、私はね」
「どうして?」
「うーん、別に大した理由無いけど、赤竜達って別に人を拒絶してないでしょ?私達は恩人として色々飛ばせた訳だけど、別に恩人じゃなくても竜と仲良くなって鍛冶を習う事も出来ると思うし、精製方法の写本貰う事も出来ると思うんだよね。だからかな?」
「そう、まあいいんじゃないかしら。私は反対はしないわ」
「うん。……あれだね、じゃあ気を引き締めてね」
竜も入れる程大きな洞窟に、私達は入っていく。




