mission8 美貌の流浪の吟遊歌人ローラン
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mission8 美貌の流浪の吟遊歌人ローラン
…………
数日後、久々の大雪で城砦前庭の雪掻きに駆り出されていたノワーレたちの前に、突然一匹の金猫が現れた。太く長い尻尾を揺らし、ノワーレたちの前を悠々と横切る。
「ねこちゃん!」
排雪の山で遊んでいたニーナが猫を見て走り降りてきたと思った途端「待て待て! どこ通らせるんだ、雪に埋まっちまう!」と男の声がして、雪山の影から巨大な蒼い熊が現れた。
「え、熊!」
「おお? お嬢ちゃんすまないな、ちょっとそこの猫を捕まえてくれ」
熊の後ろから、今度は長い金の巻毛を雪まみれにした美男子が現れた。端正な顔を寒さに赤くして、熊を押し除けて前に出てくる。
「わかった! ねこちゃん! 待って!」
ニーナが金猫を追いかけていき、ノワーレが熊を前に呆然としてると、男の方がノワーレに気付いて近づいてきた。
「やあ、銀狼の姫騎士ノワーレよ! 久しぶりだな!」
「え、あ、ローラン?」
ノワーレが記憶を掘り起こしながら聞くと、男は芝居がかった仕草で「そうとも!」と両手を広げた。
「この美貌の流浪の吟遊歌人を忘れたとは言わせないぞ。ローラン・ド・サンローラン、大聖軸より此度の銀狼騎士団の勇姿を記録せよとの命を受け、我が猫に導かれ参上した次第……と、おおい、カジャカ! どこだ!」
ローランと名乗った男は、肩の雪を払いながら周囲を見渡し大声を上げた。熊の後ろから、今度は蒼い髪の小柄な少女が顔を出し、熊によじ登るようにして跨る。
「よしよし、ちゃんといるな。さて、ここに僕の弟……クラウナー・ハイプリエスタが預けられてると聞いてるが、いるか?」
ローランの歌うような声に、ノワーレの後ろで雪掻きに精を出していたクラウナーが顔を上げた。
「……どちら様ですか?」
「おお! なんと! こんなに立派な少年になって!」
ローランはズカズカとクラウナーに近寄ると、戸惑うクラウナーを前に抱擁せんばかりに腕を広げて声を張った。うるさい。ノワーレは狼狽えているクラウナーが可哀想になり、ローランをひとまずクラウナーの前から押しのける。
「ローラン、久しぶり。で、急に来て何? クラウナーの兄弟なの?」
「ふむ、銀狼の姫はすでに女神の写し身をその懐に入れていると見える。そうとも、僕と彼とは実の兄弟だ。ま、この子が生まれた時には僕はもう修行に出ていたし、この子は生まれて早々に大聖軸に保護されたしで、面識はないがね」
ローランは優雅にクラウナーの前から一歩引くと、自身の礎石指輪を弦楽器に変え、歌い始めた。
――僕は吟遊の使命を帯びた歌人、ローラン。歌唱大隊の名門ハイプリエスタに生まれた落ちこぼれ。ある日金猫に導かれ、吟遊の徒として旅を始めた。修行のために家族と別れ、孤独に身をやつす哀れな男。僕は流浪の美貌の吟遊歌人、ローラン・ド・サンローラン。今は蒼熊の娘を育てながら、永遠に終わらぬ旅路をゆく……
ひとんちの前で高らかに歌い上げ、ローランは優雅に一礼した。聞いていたフェリーチェとピエールが雑に拍手をし、金猫を抱えてきたニーナが「すごーい!」と歓声を上げた。
「と、いうことだ。クラウナー、僕のことは親しみをこめて、お兄さま、と呼んでくれたまえ」
「ええ……いやです……」
「おお! にべもない! 生き別れの兄弟の感動の再会だというのに!」
「いや……初対面です……」
クラウナーが珍しく本気で引いた顔をしているのを見て、ノワーレは苦笑する。この生真面目な子にいつまでもローランの相手をさせるのは可哀そうだ。
「ローラン、わかったから早く中に入って。団長に挨拶してきなよ。しばらくいるんでしょ?」
ノワーレはピエールを呼び、ローランを客間へ案内させた。ローランは大仰に嘆きながら、蒼熊とカジャカを連れて城砦へ案内されていった。
「えーと……いまの」
クラウナーがおずおずと聞き、ノワーレはため息と共に説明する。
「たまにうちに来る吟遊歌人だよ。吟遊者は他領の情報とか持ってきてくれるからね。あれでも賓客だ」
「兄……なの?」
「それは本人に聞いて……でも、言われてみれば顔立ちは似てるかもね」
ノワーレが言うと、クラウナーは珍しく嫌そうな顔をした。ノワーレの後ろで猫を抱えたニーナが、「ねこちゃん、どうしよう……」と途方に暮れていた。
※※※※
ノワーレたちが雪掻きを終えて城砦へ戻ると、ちょうどジョルジオとローランが茶室から出てきたところだった。猫を抱えたニーナが慌てて「ローラン! 猫!」と喚く。
「おお! 捕まえててくれたか! ありがとうな嬢ちゃん」
ローランはニーナから猫を受け取り、ついでにニーナの髪についた雪を払って笑った。
「おまえさんが噂の救世主さまか。普通のお嬢ちゃんじゃないか」
「ニーナだよ」
「そうか、ニーナというのか。僕もしばらく銀狼の世話になる。よろしくな」
ニーナとローランが話すのを見ながら、クラウナーが「えっ」と言ったのをノワーレは聞き逃さなかった。どうやらローランも聞き逃さなかったらしい。ローランは猫を抱えたままクラウナーを見上げて笑う。
「どうだ、お前さんたち。少し僕に付き合わないか。団長、構わないだろ?」
「構わん。ちょうどいい、ノワーレ、二人を連れて街でも見て来い」
ジョルジオはノワーレに言い、「ローラン、適当に連れ回してくれ」とやや意地悪く笑んでノワーレの頭を撫で回した。
「えっ、ちょっと何するんですか」
「久々に娘の頭を撫でるのもいいだろ」
満足するまで撫で回され、ノワーレは気まずくなる。ニーナは隣で笑っているし、クラウナーは微笑ましげにこちらを見ている。
「ようし、決まりだな! ノワーレ、市場に行くぞ! 僕はアレだ、揚砂糖が食べたい! カジャカもだろ?」
ローランの後ろにくっついていたカジャカが、ローランを見上げて無表情に頷いた。ローランはジョルジオを真似てカジャカの頭を撫で回し、嫌がられながら笑う。
「そうそう、ニーナとクラウナーは知らないな。カジャカは耳が聞こえないし話せないんだ。十年前の蒼熊領南部海岸戦で、潮に呑まれてな。どういうわけか僕の声は聞こえるし、ある程度なら口も読めるから、話しかける時は僕を通すか顔の前で話してやってくれ」
ノワーレは知っていたが、クラウナーは痛ましげに眉を寄せて頷いた。カジャカの前に屈み込んで「よろしく」と微笑みかける。カジャカが無表情に頷く横で、ニーナが「十年前?」とローランに聞いた。ローランの隣にいたジョルジオが、ニーナを手招きする。
「……十年前に、蒼熊領南部の街一つが壊滅した戦災があったんだ。何人も死んだ」
「わたしはいなかったの?」
ニーナはジョルジオを真っ直ぐ見つめ、ジョルジオは意図が取れずに黙る。カジャカを撫で回していたローランが、どこか遠い目をしながらニーナの疑問に答えた。
「……おまえさんのような救世主さまは、あの時はいなかったさ。だが……カジャカの両親が、身を捨てて巨災を仕留めた。僕らにとっては彼らが救世主だ」
ローランの手を振り払い、カジャカも頷いた。ニーナはローランとカジャカを見比べながら首を傾げる。
「……倒して、いなくなっちゃったの?」
「そうだな。海に落ちて、亡骸も見つかってない」
ニーナはローランの言葉に、悲しげに俯いた。
「そんなに怖い災厄獣なら、わたし、いなきゃいけなかったね」
しょげてしまったニーナを見て、ローランは優しく笑う。
「昔の話さ。救世主さまだっていつでもどこでも自由自在ってわけじゃないんだろう。どれ、揚砂糖でも買ってやろう。ニーナは甘いの好きか?」
「わかんない」
「じゃあ試してみないとな。ノワーレ、案内してくれ!」
ローランが声を張り、ノワーレはため息をついた。カジャカがローランの隣で、ニーナの顔を不思議そうに眺めていた。
…………
mission8 完了
称号獲得
クラウナー「ローランの弟?」
ニーナ「しょげた救世主」
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