mission6 でこぼこ新人訓練
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mission6 でこぼこ新人訓練
…………
「はーい! お手本係のフェリーチェ先輩です!」
「同じくお手本のピエールっす」
翌朝、ノワーレ達第三小隊は銀狼城砦裏門から出てすぐの海岸に繰り出した。ニーナ以外はめいめい銀狼を、クラウナーは金馬を連れている。春を控えた晩冬の海は、流氷の端が溶け出しており少しだけ心許ない。
「銀狼では毎日朝昼晩と海岸哨戒に出ます! 何故だかわかりますか、はい! クラウナーくん!」
「え、あ、災厄獣が上陸したら困るから……?」
「正解! 預言がなくても小さい災厄獣がちょくちょく発生するからです! でっかくなる前に即討伐! これが基本です!」
やる気満々のフェリーチェが先生役を買って出たので、ノワーレはやらせることにした。ピエールをフェリーチェの手綱役として隣に置いておく。この二人は幼馴染同士で、五年ほど前に災厄獣によって崩壊した海岸の村で、銀狼に守られていたのをノワーレ達が保護した。今では二人とも十六才、一端の若手騎士だ。
「あー、哨戒は基本二人一組、第三小隊はこれまで四人だったので、二人一組が二つの四人組でやってました。今回二人増えて六人なので……組み合わせと隊列はまあ……あとで隊長が考えるとして、今日は二人とも見学しててください……でいいっすか隊長」
「ま、最初はそんなものだろ」
ノワーレは肩をすくめ、隣で目を見開いてフェリーチェの講義を聞いているニーナの肩を叩き、自身が連れてきた二頭の銀狼を見せた。やや細身の体躯の一頭が、ニーナの前に進み出る。
「ニーナ、これは今日からお前のことを世話してくれる銀狼。名前はチュテレール」
銀狼――チュテレールは、穏やかな金色の目でニーナを見上げた。ニーナはびっくりし、おずおずと銀狼の前に立つ。
「私の狼の一頭だよ。優しいし、人を守るのに長けてる」
「……昨日、乗せてもらった狼とは別の子?」
「別だよ。こっちはガルディエーヌ。賢くて気が強い武闘派だから、お前が一人で乗るのはまだ無理」
ガルディエーヌはノワーレの隣で静かに瞬きをした。ニーナを少しだけ見て、すぐに視線を逸らしてしまう。
「私はチュテレールに乗るの?」
「そう。足がないと銀狼の群れじゃやっていけないからね。チュテレールは優しいし慎重だから、そそっかしいお前を助けてくれるよ」
ニーナはガルディエーヌとチュテレールを見比べて、ガルディエーヌに「昨日はありがと」と微笑んだ。ガルディエーヌはゆっくりと頷き、チュテレールはニーナに自身の鼻を擦り付けた。ニーナがくすぐったがって笑う。
「よろしくね、チュテレール」
チュテレールはキュウン、と細く喉を鳴らした。
「クラウナー、お前の馬はなんて名前なの?」
ノワーレはフェリーチェのご高説を真面目に聞いているクラウナーに声をかけた。クラウナーは一瞬ノワーレとフェリーチェどちらの話を聞いていいか迷って、フェリーチェが講義をやめて金馬に興味津々の目を向けたので、ノワーレに向き直って答える。
「あ、アルタノッド」
「そう。アルタノッドは銀狼の速さについて来られる?」
「大丈夫だと思う。実戦は……初めてだけど」
「じゃ、いくよ。今日は流すだけだし、私とミゲルが後ろからついていく。だめそうなら早めに言うんだよ」
フェリーチェとピエールがそれぞれの銀狼に跨り、ニーナとクラウナーも慌ててそれぞれの獣に跨った。
「いっきますよー! ヤッ!」
フェリーチェが先陣を切って海岸線を駆け出し、ピエールが「ついてきて下さーい」と後を追う。ニーナとクラウナーは、おっかなびっくりついていく。
ミゲルがノワーレの隣に来て、「懐かしいね」と笑った。
「天気は晴れ、晩冬だけど、流氷の厚さも密度もまだ充分。波もないし、今日はきっと何事もなく終わるよ」
「だといいけど。ま、小型のくらいなら二人だけでもなんとかなるだろ」
新人が来るのは初めてではない。フェリーチェとピエールはノワーレが育てたし、ノワーレ自身もまた、兄二人と父によって同じように鍛えられた。
海岸線を駈けてゆく姿を見ながら、ノワーレとミゲルも遅れて後を追う。雪煙を散らして走りながら沖を観察し、流氷の隙間に災厄獣の影がないかを見て回る。
銀狼城砦は、海から街を守る防壁だ。石の城壁を高く積み上げて、海から来る災厄獣から物理的に人々を守っている。その壁の外、海岸で災厄獣を討伐するのが騎士の役目であり、女神から銀狼と共に与えられた使命だ。流氷の上に出て、災厄獣が陸に上がらぬうちに討ち取る。
「隊長ー! 一匹でました! どうしますー?」
フェリーチェとピエールが駆ける先、小さく黒く蠢く塊があった。ノワーレは四人に追いついて、ニーナとクラウナーの前に出る。犬に似た超小型の災厄獣だ。小型であるがゆえに、流氷の隙間から出て来られたのだろう。
「二人でやっちゃいな」
「はーい! ピエール、援護!」
「りょうかーい」
フェリーチェとピエールは気負った様子なく災厄獣に近づき、災厄獣が伸ばした触手を切り払って難なく胴を仕留めた。災厄獣は流氷の上に霧散し、ピエールが石を拾って戻ってくる。
「はい、討伐完了。で、これが嘆石の欠片。別に全部拾わなくていいけど、拾えたらお得っす。聖軸に引き取ってもらったりできるんで」
ピエールは言いながら、クラウナーの手に嘆石の欠片を落とした。
「じゃ、サクサク行きましょう」
「行けそうなら二人も討伐やりましょー! あ、クラウナーは元気なら歌ってください!」
フェリーチェとピエールが駆け出して、ニーナとクラウナーが慌てて後を追った。
その日の戦果は超小型が二匹、小型が一匹という平和ぶりだった。ニーナとクラウナーは先輩二人の後を追いかけるだけで精一杯で、帰投してすぐ泥のように眠りについた。ちなみにこれは第三小隊としては日常の任務であり、疲れるほどのことではない。
「狼に乗るのって大変……」
特訓を始めて三日目、ニーナは毎日ぐにゃぐにゃになってチュテレールの上に突っ伏し、クラウナーは体力というより気疲れなのか、日に日に表情がぼんやりしていった。まあ最初はそんなものだろ、とノワーレは二人を観察し、天候と海の様子を見ながら考える。
「クラウナー、明日から少し実践してみる?」
四日目、夜の哨戒から帰投した獣舎で、ノワーレはやけに静かなクラウナーに声をかけた。
「う、え? 実践?」
「歌唱大隊の見習いだったんでしょ? 大会合の時も流氷立ててくれたし、やってみなよ」
「……うん」
やけに大人しい、とノワーレが言葉を続けようとすると、チュテレールのブラッシングをしていたニーナが「わたしもやる!」声を上げた。
「こら、獣舎で大声出さない。みんなが驚くだろ」
「ごめんなさい……でも、わたしも前に出たい!」
「まあいいけど……」
ノワーレはクラウナーとニーナを見比べ、クラウナーがやけに静かなのを気にしつつも、「まあいいか」と頷いた。
「フェリーチェとピエールの言うことをちゃんと聞くこと。それができるならよし」
ノワーレの言葉にニーナは元気よく頷き、クラウナーもおずおずと頷いた。クラウナーの隣で金馬が鼻先をクラウナーの肩口に擦り付けて、クラウナーは帰投して初めてリラックスした顔を見せる。
――緊張していただけか。
ノワーレは馬を撫でるクラウナーの表情に安堵し、「じゃ、明日に備えてゆっくり休むこと。おやすみ」と自室に戻った。
事件は翌朝起こった。
「隊長! 前方の流氷に小型複数!」
「連鎖羽化っぽいです! 沖の流氷薄くなってます!」
朝の海岸哨戒で、最前を走るフェリーチェとピエールが声を上げた。
「……小槍の周りの氷が溶けたか。ミゲル、クラウナーについて」
ノワーレは言いながら、前をゆくニーナの横に狼をつけ、指示を出す。
「フェリーチェ、先行! ピエールはフェリーチェの討ち漏らしを獲れ! クラウナー、二人が届かない遠方の流氷立てられるか?」
「フェリーチェ、了解!」
「ピエール了解っス」
「クラウナー、行けます」
三名の応え。隣のニーナが「わたしは?」と聞くのに「待機」と答えながら、ノワーレはクラウナーの動きを見た。
クラウナーは海岸線に馬を止め、フェリーチェとピエールが流氷の上に突撃していくのを見ながら雪の上に聖杖を突き立てた。一旦目を閉じてから空を見上げる。焦点の合わない目だ、とノワーレが反射的に喝を入れようとした途端、口を開いたクラウナーの喉から、信じがたい響きの歌が聞こえた。
――戦いの聖歌 第一楽章 奮い立て強き者の末裔よ
聖歌唱大隊が戦闘開始時に騎士に向けて歌う始まりの歌。本来は一個大隊で声を合わせて歌われるそれが、クラウナー一人の声であるにも関わらず、重厚なハーモニーを奏でて海岸に響き渡った。
「えっうわっ、超動ける!」
「えっマジっすか」
前線を駆けるフェリーチェとピエールが、普段よりも遥かに良い動きを見せた。フェリーチェが剣の一薙ぎで小型災厄獣の群れを蹴散らし、ピエールは海から湧いて出る群れを小刀を数本投擲するだけで押し留める。いつもならノワーレとミゲルが援護しないと討ち漏らしが上陸するくらいの規模なのに、二人だけで対処できてしまっている。
クラウナーは二人を見ながら、続けて口を開いた。
――戦いの聖歌 第十二楽章 民の盾となれ我が魂
沖合の流氷が震えながら持ち上がり、災厄獣が湧き出す流氷の穴を囲う壁として海に突き立てられた。
「……とんでもないな」
ノワーレは思わず呟いた。クラウナーが成したことは、歌唱大隊の中隊規模の合唱で行うことだ。独唱でやってのける人間など見たこともない。
「ねえ、ノワーレ……クラウナーが今囲ったところ、なんかある」
ニーナがチュテレールに乗ったまま空を見上げ、焦点の合わない目で呟いた。
「……なんか? ニーナ、どこ見てる?」
「空から見てる……なんか、金色の……槍? そこから災厄獣湧いてるみたい」
「絶望の槍だろ。流氷が溶けると現れるんだ。壊せないけど、あの規模なら湧くのが止まるまで耐えればしばらくは大人しくなる。ちゃんと前見ろ」
「壊せるよ?」
「え?」
「わたしなら壊せると思う……」
ニーナは空を見上げたまま、不意に右手を宙に差し出した。ニーナの右手の上に氷の槍が現れて、宙に浮き上がる。
「なんかあれ、怖いから、壊すね」
空を見上げたまま言われ、ノワーレが何か言う間もなく、ニーナの手から氷の槍が放たれて、クラウナーが立てた氷壁の間に突き刺さった。
空を割くような甲高い悲鳴を、ノワーレは聞いたと思う。
背筋を怖気が這い上がった。途端、災厄獣の群れが一気に霧散し、前線にいたフェリーチェとピエールが「なんで?」「うわ、怖!」と悲鳴をあげた。ノワーレはそれで気を取り戻し、隣でぼんやりと空を見上げているニーナの頬を引っ叩いた。
「いったぁ!」
叩かれたニーナの目が、ようやくノワーレを見た。
「こら! お前、今何した!」
「うぇ?」
「勝手に先走るな! 死ぬぞ!」
「死なないもん! 死なないために壊したんだもん!」
「そうじゃない! 戦闘時に指揮官の言うことを聞けない人間に騎士が務まるか!」
ニーナの大きな目にみるみる涙が溢れた。ノワーレはため息をつき、叩いたニーナの頬を撫でてやる。
「落ち着いた?」
「痛かったぁ……」
「それはごめん。でも、何かする前に必ず私に相談しろ。今何をしたの?」
「金色のやつ壊した……」
「普通壊せないだろあれ……近づくだけで危ないし、何しても壊れないよ……」
「わたしだから壊せたんだと思う……破片も砕いて沈めないと、だめな気がする」
「……今?」
「いま。破片が大きいままだとくっついて復活しちゃうよ。砕いていい?」
「……やってごらん」
ニーナはもう一度空を見上げると、今度は右手の上に小さな氷の刃をいくつも生み出した。空を見たまま右手を掲げ、一息に振り下ろす。
無数の氷の刃が氷壁の間へ向かい、氷が砕け散る音と共に、災厄獣たちの断末魔が響き渡った。
「あれ……? なんか、他にもいっぱい……」
ニーナが焦点の合わない目のまま呟いて、そのままチュテレールの上にぐらりと突っ伏した。
「え、ニーナ!」
ノワーレは慌ててニーナを支え、見ていたクラウナーとミゲルが駆け寄ってきた。ノワーレはニーナを抱えながら指示を叫ぶ。
「フェリーチェ、ピエール! 周辺警戒! 討ち漏らしがあったら処理しろ!」
二人の応え。ミゲルがノワーレの隣に来て、「先に戻って。僕が背後を警戒する」と言い、クラウナーへも「僕に協力して。ニーナを守りながら戻るよ」と命じた。
ノワーレは意識を失ったニーナを抱え上げ、城砦へ向けて狼を走らせた。
背後からクラウナーが金馬で追いついて、ノワーレに言う。
「あの……多分、ニーナは大丈夫だと思う。何が起こったか、着いたら説明するね」
クラウナーの言葉に訳もわからぬまま頷きながら、ノワーレはぐったりと眠るニーナを抱いて城砦へと駆けた。
…………
mission6 完了
戦果S
報酬を計算しています……
デイリーミッション「海岸哨戒」が解放されました。
ノワーレ 固有スキル「小隊長」獲得。
クラウナーの戦技が解放されました。
ニーナの戦技が解放されました。
ニーナの編成が解放されました。
ノワーレの編成が解放されました。
クラウナーの編成が解放されました。
フェリーチェの編成が解放されました。
ピエールの編成が解放されました。
ミゲルの編成が解放されました。
今後、「海岸哨戒」のパーティーに編成できます。
mission7へ




