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mission31 可能世界

 サーバへの接続が完了しました。

 以下のアクティブユーザーから、救援を依頼するフレンドを選択してください。


mission31 可能世界

…………

 チュテレールから顔を上げたニーナが、無表情に宙を見つめた。目が虹色に輝いて、クラウナーの聴覚からひび割れた合唱が遠のいていく。


 ニーナが、表情が抜け落ちた顔で口を開いた。


「フレンド(隣界の神)へ救援依頼開始(願い求めます)、|サーバへ接続いたします《隣界より可能世界へ祈ります》。ユーザー(救世主)を検索中(召喚します)…|最もレベルが高いプレイヤーを自動選択《最も世界を安定させた救世主へ願います》、UID(神の名):2707001180、|救援を依頼します《人類の為の刃をお貸しください》。プレイヤーネーム(神より賜りし名):セカンド」


 ニーナが空へ右の手のひらを掲げると、虹色の光が弓矢の如く放たれた。虹の矢は空を割り、裂けた青空からオーロラ色の輝きが溢れ出す。


 知らない、だが、ニーナによく似た少年の声を、クラウナーは確かに聞いた。


「救援要請を受領(祈りは届けられた)。UID(神の名):0018217325、プレイヤーネーム(神より賜りし名):ニーナへの救援を開始(を助く刃とならん)」


 白く巨大な、あまりにも巨大な手が空を割って差し出された。男の手だ。巨大な掌から、蒼く輝く熊に乗った青年と、聖杖を携えた青髪の女が降りてくる。その後ろから、ニーナによく似た面立ちの少年が、氷の槍を掲げて現れた。


 少年が氷の槍を投擲した。槍は押し寄せてきた海に突き刺さり、海が割れ、中から数多の災厄獣と黄金の血が溢れ出す。その向こうに突き立つ数えきれないほどの絶望の槍(グランギニョル)。


 女が聖杖を掲げ声を上げた。麗しいアルトのロングトーン。夢見るようなビブラートが絶望の槍(グランギニョル)を震わせ、脈動が止まり、黄金の血が枯れ始める。


 青年が巨大な鎌を右手に掴むと、少年が手を添えた。鎌の刃に虹の輝きが宿る。女の声が錆びついた合唱を掻き消し四弦楽器(ヴァイオリン)の悲鳴を抑え込む中、男が振るった大鎌が、虹色の波動を伴い絶望の槍(グランギニョル)を刈り取った。


 少年が、虹色の眼差しをニーナへ向け、頷いた。


 再び空が割れる。オーロラの輝きと共に巨大な男の手が差し出される。蒼熊に乗った二人と少年が、掌に乗って空へと帰ってゆく。


 ニーナはそれを、無表情に眺めていた。

 クラウナーたちは、呆然と立ち尽くすしかできなかった。


 絶望の音は消えていた。流氷が波に洗われる音だけが残り、そこここから騎士たちのうめき声が聞こえる。崩れた流氷の壁と、氷の槍。散らばる嘆石の欠片と鼠の遺体。クラウナーの隣で、ニーナの体がぐらりと傾いだ。


「ニーナ!」


 クラウナーは慌ててニーナを支える。ニーナの頬は真っ白に色をなくし、半ば閉じられた目は輝きを失って黒く濁っていた。息は、している。だが体は脱力し切って、クラウナーが何度呼びかけても答えない。


 狼が雪を駆けてくる音が聞こえた。


「ニーナ! クラウナー!」


 ノワーレの声。クラウナーは泣きそうに安心し、自分がどれほどノワーレを求めていたかを知る。


「ノワーレ……ニーナが……」


 震える声で呟くと、狼を降りたノワーレはクラウナーの腕からニーナを抱き取った。頬を軽く叩き、呼びかける。


「ニーナ、しっかりしろ」


 ニーナは答えない。クラウナーが触れた額はとても熱く、体だけが氷のように冷たい。


「ミゲル、いるか!」


 ノワーレが吠えると、どこからか狼の遠吠えが聞こえた。遠くはない。少なくとも、ノワーレの声が届く範囲にいる。


「チュテレール、ミゲルと合流して団長に伝えろ。ニーナが倒れた。急ぎ城砦へ保護する」


 チュテレールはくうん、と喉を鳴らすと、遠吠えが聞こえた方角へ走り出した。ノワーレはニーナを抱えてガルディエーヌに跨る。


「クラウナー、来い!」


 クラウナーも急ぎアルタノッドに跨り、駆け出したガルディエーヌの後を追った。


 何が起こったのかはわからない。けれど、ニーナがきっと無茶をしたのだ。

 でなければ、説明がつかない。


 空を割り現れた巨大な手。手から降りてきた三人。

 隣界の救世主。ニーナは確かにそう言った。

 降りてきた少年は、ニーナと鏡写しのようによく似ていた。まるで、ニーナが少年になったかのように。


 あれは、一体何者なのか。


 女神の器たるクラウナーにもわからない神々の御業が、いま、起こっている。


※※※※


 騎士たちの呻き声と、歌唱者たちが走り回る音。

 イライヤは倒れていたフランツを引き起こすと、軽く頬を打って目覚めさせた。


「動けるね。銀狼の後処理を手伝いな。負傷者を城砦へ。ユーリかミゲル、団長を見つけたら指示を仰げ。私の鼠も預けるから」


 掠れた声の返事を待たず、イライヤは鼠の群れをフランツの元に置き、歩みを進める。


 崩れかけた雪壁の下、ここから先はもう城壁、というあたりに、蒼熊に乗ったままのカジャカを見つけた。足元にはローランが座り込み、呆然と空を眺めている。


 カジャカが不安げな視線を寄越すので、イライヤは頭を撫でてやった。座り込んだローランを軽く蹴飛ばし、「しっかりしろ、こら」と正気に戻す。


「イライヤ……?」

「うん」

「生き残ったか……」

「お互いね」


 イライヤはローランの傍らに座り込み、片手で頭をガリガリと掻いた。薄紅の癖毛がぐしゃぐしゃになる。


 もつれてどうしようもないこの髪を、笑いながら編んでくれた人がいた。美しいアルトの歌声を持つ人だった。「編み込んじゃえばもつれないのに」と言いながら、この髪を綺麗なまとめ髪にしてくれた。


 もう、あの手はない。そのはずなのに。


「あれは……ジャッドとキリエリだったよな」


 ローランが、力のない声で言った。

 イライヤは、頷いた。


 忘れるはずもない。十年前、巨大な災厄獣に向かっていった後ろ姿。大鎌を構えて波へ突っ込んでいった蒼熊の騎士と、吟遊者だったその妻。


 騎士団に所属していない自分たちこそが身を投げ打つべきだ、と、二人は街を呑む巨大な災厄獣の群れへ飛び込んだのだ。


「ニーナは……可能世界と言った」


 ローランが、呆然と呟く。


「二人は……死んでいなかったのか?」

「死んだよ」


 イライヤは言い捨てた。


 カジャカが不思議そうにイライヤを見た。イライヤはカジャカを見られない。あの時三歳だった子供は、もう十三歳になった。大した記憶も残っていないはずなのに、父を真似て蒼熊に跨り、大鎌を振るっている。母に良く似た面差しで。


 錆びついた弦楽器の音が、耳にこびりついている。

 優しい少年の声。海に落ちてからずっと、イライヤに囁き続ける声。


「あれは……死ななかったどこかの二人だ」

「なんだ、それは」

「女神様は、二人を助けられなかったんだよ」


 耳の奥で響き続ける潮騒の隙間から、優しい少年の声。


 ――かわいそうに。女神の手の上で踊らされて。


「私たちは、望まれた残酷の一つだ」


 黄金色に変わってしまった目の奥が、酷く疼いた。


「海は……ずっと、教えてくれていた。十年間……ずっと」


………

mission31 完了


「ニーナ」の「人間性」を消費し、フレンド救援依頼を実行しました。


中規模防衛戦「銀狼領海岸防衛 Lv.2」

勝利C

部隊損耗率85%


報酬を計算しています……


フレンドへの救援依頼が可能になりました。

フレンドを増やし、ゲームを有利に進行しましょう。


「人間性」を消費し切るとキャラクターが行動不能になります。

「人間性」は「食事」や銀狼城砦内でのミニゲームで回復できます。

「人間性」が枯渇しないよう注意してください。


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