mission29 緊急防衛
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mission29 緊急防衛
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中規模防衛戦「銀狼領海岸防衛 Lv.2」まで、あと2日
沖の様子を確認し、防衛戦の開始時期を調整してください。
※※※※
その金切り声は、ノワーレとイライヤ以外にも聞こえたはずだ。
早朝だった。まだ身支度を整えたばかりだったノワーレは、耳を弄する絶望の槍の絶叫に思わず眉を寄せた。廊下で次々と扉が開き、慌てた様子の騎士たちが駆け出してゆく。
ノワーレの部屋の扉が勢いよく開き、「ノワーレ! 大丈夫?!」とニーナが駆け込んできた。「問題ない」と答える間に、青い顔をしたクラウナーも駆け込んでくる。ノワーレはクラウナーの顔を見て問う。
「聞いたか?」
「聞こえた」
「多分、沖の槍が起きた声だ。連鎖羽化するぞ、見たか」
「見た……、海底からどんどん上がってくる。小さいけど、すごく数が多い。災厄獣が津波みたいになってる。育つ前に無理矢理出されたみたいな……生き物の形になる前の、超小型の大群だ。接岸は約三〇分後。騎士団が間に合うところまでは見えてる」
「行くぞ。このまま本陣に向かう」
ノワーレは外套を羽織ると、二人を連れて足早に海岸へ向かった。歩きながら確認する。
「ニーナ、飴は?」「持った!」「クラウナー、補給は陣に着いてからにしろ。ニーナから適当に分けてもらえ」「わかった」「クラウナー、これあげるね。ポケットに入れといていい?」「ありがとう、もらうね」
宿舎の外に出ると、待ち構えていた聖獣たちが合流した。アルタノッドがクラウナーに心配そうな目を向け、クラウナーが笑顔で応える。ニーナの横にチュテレールがつき、ノワーレの傍らにガルディエーヌがついた。三人と三頭が足早に向かう中、イライヤがフランツを伴い先に本陣へ向かうのを見る。足元を幾匹もの白鼠が縫うように駆けてゆく。
再び、沖から槍の金切り声。
クラウナーが思わず足を止め、ニーナとアルタノッドが支えた。人類の絶望を呼び起こす声なのに、ノワーレには不思議と影響がない。ただのうるさい喚き声だ。無理な出産の痛みに喚き散らすくらいなら、産まなければいいものを。
元々絶望している紛い物の命の癖に、なんだって人類を害すのか。絶望しているというのなら、成り変わりなど求めるな。
ノワーレは、思考が普段より随分と攻撃的になっていることを自覚する。やけに強気だ。恐怖など微塵も無く、鮮烈な怒りだけがある。災厄獣など脅威としては取るに足らない。本当に怖いのは――
歩きながら、フェリーチェとピエールが合流する。最後に来たのはミゲルだ。ノワーレは皆を率いて本陣に入り、声を上げる。
「第三小隊、参上しました! これより後陣にて歌唱者たちの防衛にあたります!」
「よし、行け」
団長たるジョルジオの命。ノワーレは先に着いていたイライヤ、フランツと合流し、そのまま後陣へ向かう。狼たちが足元で唸り声を上げる。ノワーレは歩きながら指示を出した。
「フェリーチェ、ピエールは後陣の前へ。ミゲルは二人のフォローだ。クラウナーは後陣の最後列でローランと合流し歌唱者たちのフォローを。前列はシャンティに任せてある。ニーナとイライヤ、フランツは私と来い」
全員の応え。フェリーチェとピエールが騎乗して走り去り、ミゲルが後を追った。クラウナーがローランを見つけてアルタノッドに乗って走り寄り、ノワーレは、歌唱者たちが歌う露台の下へ陣取った。海岸は遠いが、見えないほどではない。前に出るのでは無く、歌唱者たちへの被害を抑えるため、いつでも飛び出して盾になれる位置だ。
「ニーナ、チュテレールに乗れ。撤退判断はチュテレールに任せろ。私が残っていてもチュテレールが後退するなら後退しろ」
ニーナは飴を齧りながら、素直にチュテレールに跨った。チュテレールは沖に向けて低く唸っている。
「イライヤとフランツは好きに判断してくれて構わない。白鼠には白鼠の動きがあるだろう」
「ありがたいね。その通り」
イライヤが普段の数倍鋭い声で答え、指を鳴らした。
イライヤの足元から数千、いや、数万以上の白鼠が湧き出して、海岸に散っていった。
「鼠たちの目は私の目だ。銀狼より状況の判断は早いと思うよ。フランツ、任せた」
「は、お任せを」
フランツがイライヤの前に立ち、指輪から細剣を生み出した。足元を鼠が這い回り、低い壁となってイライヤを囲む。
イライヤは鼠椅子を作り上げると、悠然と座り目を伏せた。
「私は戦場の全てを見る。私のことはフランツが守るから放っておいてくれて構わない」
「わかった、白鼠は白鼠に任せる」
沖合から鬨の声が上がった。
イライヤが呟く。
「流氷の上、最前線のユーリの隊が接敵した。小型の群れが来るよ」
ノワーレは指輪を弓へ変えながら、ニーナがぼんやりと空を見上げるのを見た。ニーナの目が虹色に光る。
「沖に、槍がたくさん生えてる……全部、早熟羽化槍だ」
「ニーナ、全部見なくていい。騎士団に任せて歌唱者を守れ。歌唱隊が壊滅したら騎士団が崩れる。ここが重要拠点だ」
「わかった」
ノワーレたちの背後から、歌唱者たちの合唱が響いた。騎士を鼓舞する戦いの歌。少ない人数ながらも全員が声を張り上げている。
大規模戦闘ほどの人数はない。しかし、この規模で海岸を守り切らねばならない。
※※※※
中規模防衛陣「銀狼騎士団」の敷設が完了しました。
接近戦パーティの編成が完了しました。
近接戦闘参加キャラクター
「ニーナ」
「ノワーレ」
近接戦闘に、白鼠騎士団から以下の補助キャラクターが参加します。
「イライヤ」
「フランツ」
支援戦闘参加キャラクター
「クラウナー」
「ローラン」
戦闘配備が完了しました。
中規模防衛戦「銀狼領海岸防衛 Lv.2」を開始します。
※※※※
流氷に穴が空いた。
海底から黄金の槍が幾本も生え、流氷の裂け目から真っ黒い海水が染み出してくる。雫から小型の災厄獣が生まれ、自らの役目も知らずにのたうっている。
白鼠の群れが、波濤の如く襲いかかった。
小型の災厄獣が鼠の群れにみるみる喰われてゆく。白鼠の歯が災厄獣を食い破り、破裂させ、生まれた端から倒してゆく。
海岸で、イライヤが目を開けた。
「ノワーレ、来るよ」
言葉と共に歌唱隊の前に白鼠が群れ、巨大な壁となった。
同時に真っ黒な波が押し寄せ、小型の災厄獣が喚きながら転がり出る。まだ己の命の意味すら知らぬ、命に憧れることすらしない紛い物たちだ。天が割れ、紛い物の命の上に氷の矢が降り注いだ。波が歌唱隊の歌によって押し返される。ノワーレは波の中に息づく一匹の巨大な絶望の獣を見た。犬、いや、狼を真似ている。聖獣を真似るなど浅はかな。お前たちを噛み殺すのは聖なる銀狼だというのに。
狼が吠え立てる。ピエールとフェリーチェが踊りかかり、ミゲルが黒い獣の首を刎ね飛ばす。その背後に現れた人型の首は、ノワーレが射た矢が貫き落とした。
調子は悪くない。次、どこに災厄獣が現れるか、手に取るようにわかる。産声が聞こえるのだ。槍の血によって目覚めさせられた命の器が喚いている。槍が孕んだ紛い物の命が叫んでいる。うるさくて仕方がない。早く、早く、全てを殺してやらないと。
どうせ生まれ落ちたところで、絶望に染まるだけなのに。
胸の傷跡が疼く。
命の紛い物が海底でまた孵る。槍の胎を突き破って次々に羽化する。槍が嘆き喚く。うるさい、うるさい、うるさい。生まれたくもないのになぜ生まれたのか。お前たちを生み出しているのは一体誰だ? 絶望の槍を孕ませるのは、黄金の血で海を穢し、海底の無垢なる魂を侵し、今を生きる人類への渇望を掻き立てさせるのは誰だ。生まれぬまま、目覚めぬままであれば、女神の救いの御手を待ち続けられたかもしれないのに。
イライヤが弓を天へ向ける。弦はない。矢すらない。弓はただ狙いを定めるための道具にすぎない。イライヤの指輪から天へ向けて一筋の光が走り、ノワーレたちの頭上で四散して、生まれ落ちた災厄獣たちを射殺してゆく。鼠が群がる。狼が吠え立て首を食い千切る。騎士の刃が災厄獣を屠ってゆく。
歌唱隊が歌う。決死のフォルテシモ。楽章の合間にクラウナーの声が聞こえる。歌唱隊の歌を絶やさぬため、少ない歌唱者を休ませるための独唱。闘争心が掻き立てられる。絶望の槍が生んだ紛い物など、脅威ではない。
ニーナが掲げた腕の先に巨大な氷の槍が現れ、沖へ向けて射出された。
遠くから、絶望の槍の断末魔が聞こえた。
直後、錆びた四弦楽器のような金切音が、その場にいた全員の耳を貫いた。
悲鳴ではない。断末魔でもない。錆びついた音の独奏だ。
ノワーレの横で、ニーナが表情を失くした。
鼓膜を撫でるような、優しい声が聞こえた。
――ならば、共に皆、殺してしまおう。
四弦楽器の絶叫が流氷を割り、クラウナーの声を掻き消した。
遠く水平線に、黄金に輝く波が立ち上がるのが見えた。
…………
mission29 完了
危機警告 沖合に未確認敵影を確認しました。
近接戦闘参加キャラクターを操作し、危機を回避してください。
誰を操作しますか?
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