sub mission 2 カジャカのための子守唄
Now loading…
sub mission 2 カジャカのための子守唄
…………
なんだい? 眠れないか?
久々だなぁ、おまえさんが僕の寝床に潜り込んでくるなんて。女の子なんだから、そろそろ男の寝床に潜り込むなんて控えなきゃいけないよ。ま、僕なら構わないがね。オムツまで替えたことのあるお子ちゃまに何かしようなんて気は起こらんさ。
歌ってほしい? 構わんが……ははぁん、さてはお前さん、戦続きで不安になったんだろう。いいさ、助けを求められるってのはいいことだ。本当に強い人間ていうのは、総じて怖がりなもんさ。
さて、何を歌おうか……おや、リクエストかい。
なるほど……それなら歌ってやろう。おまえさんのご両親……蒼熊領の英雄、ジャッドとキリエリの恋物語さ。
――sub mission『カジャカのための子守唄』を開始します。
――操作キャラクターを「ローラン」へ変更しました。
――吟遊歌詠唱画面へと移行します。
――画面上のマークをタイミングよくタップし、ローランに「ジャッドとキリエリの恋物語」を歌わせて、カジャカを安心させ眠らせましょう。
「ほら、目を閉じて……大人しく聞きなさい。おまえさんのための子守唄だ」
――ready……
――START!
吹雪の森を少女が歩く……美しき娘、名をキリエリ。猫を従え、己の歌を探し求め、厳しい旅を続ける孤独な少女……
吹雪の森を青年が行く……精悍な騎士、名をジャッド。蒼熊を従え、使命を胸に、民を守り続ける孤高の騎士……
吹雪の森で出会った二人……朽ちたあばら屋に身を寄せ合い、吹雪が去るのを待つ……
女神の悪戯、運命の導き、孤独な二人は心寄せ合い恋に落ちた。
騎士は誓う。永遠にあなた一人を守る守護騎士となろう。
乙女は誓う。永遠にあなたを想い心を燃やそう。
恋に身を焦がした二人……吹雪は晴れ、深い雪を溶かし、二人は街へ向かい、愛を誓った。
きっと、きっと、この愛よ永遠に……
愛はやがて命の実を結ぶ……
愛らしい少女だ……
カジャカ、祝福の鐘の音を表す喜びの名だ。二人の人生に愛の鐘が鳴り響く
カジャカ、祝福の鐘の音を表す運命の名だ。二人の愛が形となって実を結んだ
祝福され生まれ落ちた娘よ。カジャカ。希望の名だ。
カジャカ、お前の勇敢な心は父のもの
カジャカ、お前の燃える心は母のもの
いまは立派な乙女となり、父の意思と母の心を継ぎ、守護騎士を志し雪の道をゆく……
――full combo complete!
――「ジャッドとキリエリの恋物語」の譜面を入手しました。
――今後、メニュー画面より視聴できます。
「眠ったか……ま、最近忙しかったしな」
眠るカジャカの髪を撫でながら、ローランは呟く。
「十三歳……あんなにチビだったのになぁ……」
カジャカの性格は、父ジャッドによく似ている。だが、面差しや髪の色と目は母に似た。キリエリ――自身の師であった女を、ローランは遠く思い出す。
あの人の心に、自分が映し出されることは全くなかった。
それでも、子供を託されたのだ。あの日、災厄獣に向かってジャッドと共に蒼熊に跨り向かっていった背中を、ローランは鮮やかに思い出せる。
カジャカをお願い。
叫ばれ、猫を放られ、ローランは、ジャッドとキリエリが戻らぬつもりなのだと悟った。
カジャカが生きる未来を守るため、二人は命を捨てる覚悟を決めたのだ。
なんて勝手な。両親を失った子を撫でながら、ローランは思う。
あの日、キリエリの猫に先導され、カジャカを探して潮に襲われた街を走った。カジャカは避難先の小聖軸の庭先で泣いていた。まだ三歳。ローランはカジャカを抱え、押し寄せる潮に洗われる道を逃げ惑った。何度潮を被ったか知れない。それでも生き残ったのは、上半身に聖紋が満ちていたからだ。自分の猫は災厄獣に喰われて死んでしまった。以来、キリエリの猫がローランを先導する。カジャカを生かせ、カジャカを守れと。
もう、あの頃のようには歌えない。聖紋はローランの体に灼きついて、長く歌おうとすれば胸と喉を締め付け燃えるような痛みをもたらすようになった。喚きながら逃げ惑い、その後三日三晩歌い続けて、ローランの体はずたずたになってしまった。
それでも、カジャカが大人になるくらいまでは保つだろう。
「たくさん眠って、大きくなるといい」
カジャカは安心し切って眠っている。
この寝顔を守ることができるのなら、自分の身など安いものだ。
…………
mission complete!




