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mission3 大会合での預言

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mission3 大会合での預言

…………

 ノワーレがクラウナーと別れて銀狼騎士団の定席へ着く頃には、既に各地の騎士団長たちが話し合いを行なっていた。各地の騎士団長、歌唱大隊長が大会室に設けられた巨大な円卓を囲み、輪になって座っている。円卓より一段高くなっている座にエヴァの姿はなく、大会合自体はまだ始まったばかり、首長たちが情報を交換している段階のようだった。


 ノワーレは白鼠《はくそ》騎士団長との話し合いに興じている父の後ろへ回り、既に座っているミゲルの隣に腰を下ろした。ミゲルは微笑んでノワーレを迎え、後ろの座のフェリーチェが話したそうな顔でノワーレに擦り寄ってくる。


「隊長ー、あの子、大丈夫でした?」


 フェリーチェに耳打ちされ、ノワーレは頷く。


「怪我はなし。あのあとすぐ目覚めたよ。多分、疲れてただけ」

「よかったぁ。頭打っちゃったとかじゃなかったんですね」


 ノワーレは、ニーナが何も思い出せない、と言っていたことを、フェリーチェには言わずに置いた。それ以外にも救世主だとか言われていたが、この情報はノワーレの手には余る。口軽く話すべきではない。


「ノワーレ? どうかした?」


 ミゲルに問われ、ノワーレは首を振った。この男はノワーレの兄代わりで、ノワーレの様子にだけはいつも妙に鋭い。


「狼たちは?」

「一階の厩舎にみんないるよ。コンディションも問題なし」

「そう。あとで労ってやらなきゃな」


 背後でフェリーチェとピエールがヒソヒソと話しているのを感じながら、ノワーレは父の話に耳を澄ます。積雪の具合、海の荒れ具合と流氷の厚み、災厄獣の出現傾向……いずれも重要な話題ばかりだ。普段は厚い雪に阻まれ他領との密な交流は難しいため、大会合の日は貴重な情報交換の場となる。


 鐘が鳴り、円卓の全員が一時口を閉ざして姿勢を正した。ノワーレも父の後ろで姿勢を正す。大聖軸の筆頭預言士たるエヴァが現れる合図だ。


 大会室の扉が厳かに開かれ、まず顔を出したのはクラウナーだった。ノワーレは、クラウナーの静かな表情に息を飲んだ。先程のあどけなさが嘘だったかのように、冷たく感情のない顔をしている。クラウナーは無表情のまま前へ進み、次いでエヴァが、更に後ろから、聖歌唱大隊の正装を纏ったニーナが現れた。


 円卓が一時ざわめき、ノワーレの背後でフェリーチェとピエールが驚く気配がし、ミゲルが横目でノワーレを窺った。ノワーレは首を振る。これまでの大会合では、現れるのはエヴァ一人だった。それが急に二人も若者を連れてきたのだから、皆の驚きは無理もない。


 エヴァは静かに一段高い座に座り、両隣にクラウナーとニーナが腰を下ろした。ニーナは服の袖や裾を気にして落ち着かない様子でもぞもぞと動いており、クラウナーは背筋を伸ばして悠然と前を向いている。

 クラウナーが見渡した視線がノワーレとぶつかった。クラウナーは何も反応せず、ただ黙って視線を逸らした。


 只者ではないと思ってはいたが、まさか、筆頭預言士の隣に座るような者とは。


 クラウナーはオーロラ色の眼差しで円卓をゆっくりと見回すと、すっと右手を上げた。それだけで円卓が水を打ったように静まり返った。クラウナーは全員が自分に注目したと確認すると、氷が溶けるように柔らかな笑みを見せた。その隣でエヴァが、ぱしん、と両手を打った。


「今年も女神様の思召しの通り、無事に大会合の日を迎えるとことができました。女神の信徒たる皆様の尽力に、深く感謝申し上げます。女神様もお喜びでしょう」


 エヴァがにこやかに言い、隣のニーナは何もわかっていない顔でエヴァを見ていた。クラウナーは完璧に微笑んでおり、先程ノワーレに見せたあどけなさとは似ても似つかぬ様子だ。


「今年も女神様はわたくしたちに預言の言葉をくださいました。まず……近々、これまでとは比べものにならぬ程強大な災厄獣が、絶望の槍(グランギニョル)より遣わされるでしょう。これを退けぬ限り、我々人類は春を迎えず滅びを迎えることになる……」


 エヴァは言い、円卓に手をついて、中心に地図を浮かび上がらせた。円形の島の北端、銀狼騎士団が守る所領の海に、巨大な金色の槍が生える。


「流氷を割り、大地を割り、多くの槍が現れるでしょう。槍から災厄獣が溢れ、人々を喰らおうとする……けれど、女神は我々に、対抗するための力をお与えくださいました」


 エヴァは円卓に手を置いたまま微笑み、クラウナーを見た。


「彼はクラウナー・ハイプリエスタ。全身に女神の聖紋を与えられた女神の写し身。女神様の権能を誰よりも強く、自在に行使できる、我々の守りの要です。わたくしが、この大聖軸で守り育てていました」


 クラウナーは、円卓を見渡し深く頭を下げた。一言も発しなかったが、円卓の全員が、クラウナーの目と髪が、女神の加護篤きオーロラ色に輝くのを見た。只人には有り得ぬ七色の輝きに、そこここから感嘆の吐息が漏れた。


 エヴァは次いで、隣でまだもぞもぞやっているニーナを見た。


「彼女はニーナ。女神様がわたくしたちに遣わした救世主。女神様と同じ眼差しを持ち、女神様の氷を自在に操り災厄獣を退ける、我々の刃です」


 言われたニーナはエヴァを見て、気の抜けた顔で首を傾げた。黒銀の髪が揺れ、虹色に光る。

 エヴァはにっこりとニーナに微笑みかけ、円卓を見渡した。


「この通り、救世主様はまだ幼いの。生まれたばかりで、まだ自身の使命のなんたるかを知らない……女神様は、彼らを導く者をもわたくしたちへ教えてくださいました」


 エヴァはそこで、不意にノワーレをまっすぐに見た。エヴァの視線を追った円卓全員の視線がノワーレに集まる。


「彼らは、銀狼に養育された娘により導かれる……。銀狼騎士団のノワーレ・ルーアルジャン。女神様は、あなたを彼らを導く騎士として指名なさいました」


 急に言われたノワーレは、何も言えずに固まるしかなかった。エヴァはノワーレを見つめ、と思ったら急に表情を崩し、幼い少女のように笑った。


「ノワーレ、あなたには、クラウナーとニーナ、二人のお友達になって欲しいの」


 そう来たか。


 ノワーレは思い、しかし口にはできず、クラウナーを見た。


 クラウナーは素知らぬ顔で座っている。平然とした顔はノワーレの眼差しを受けると、余裕たっぷりに微笑んだ。


 ――僕たち、きっと縁がありますよ。


 知ってたな、あいつ。

 思ったが、こんなところでは何を言うこともできない。


 エヴァが再び手を叩き、全員の視線を集めた。


「ということで、この二人は銀狼騎士団に預けます。今年の筆頭騎士団は銀狼です。細かな戦支度は例年通り各騎士団でご相談を。白鼠(はくそ)騎士団はお隣の銀狼に協力してください。蒼熊(そうゆう)騎士団はまだ十年前の傷が深いでしょうから、無理をせず、赤獅子騎士団は蒼熊をよく助けてください。皆で春を迎えられるよう、海に奪われた人類繁栄圏の拡大のため、我ら再創世者の末裔として、力を尽くしましょう」


 円卓全員の応(いら)えがあり、エヴァは「それではご機嫌よう」と席を立った。ニーナが慌てて後を追い、クラウナーはゆったりと席を立ったと思うと、ノワーレに軽く目配せをして、扉の奥へ去っていった。


 大会合は、ここからが本番である。

 女神の預言を受け、災厄獣から人類生存圏を守るため、各組織の代表たちが意見を交わし合うのだ。


 ノワーレの前に座る父が、視線だけで振り返って囁いた。


「先に三階に逃げておけ。他の連中に捕まるぞ。俺も適当に挨拶してすぐに向かう」


 その一言で、ノワーレは父が先にこの預言を知っていたことを察した。


「お父様……」

「行け。ミゲル、ノワーレを先導して守れ。フェリーチェ、ピエールは俺と来い。第一小隊は他の騎士団の温度感探って来い」


 ミゲルが立ち上がり、ノワーレは手を引かれ、人々が円卓から立ち上がる前に大会室を出た。一つ下の階の銀狼所領室へ急ぎ向かう。各所領の室へは招かれなければ入れない。ひとまずノワーレを各所領の視線から匿うつもりだろう。


「ミゲル……知ってたの?」


 足早に移動しながら問うと、ミゲルは振り返りもせず頷いた。


「この会合で、ノワーレに何か重大な使命が与えられる、ということだけは。まさかこんなこととは思わなかったけど」


 螺旋階段を降りながら、ノワーレはクラウナーの視線を思い出す。


 彼は、きっと最初から知っていた。ニーナのことも。ノワーレのことも。


 導く者、とは、なんのことか。


 不安に思いながら、ノワーレはひとまずミゲルと共に自領の室へ逃げ込んだ。

…………

mission3 完了


称号獲得

ノワーレ「救世主の導き手」

クラウナー「女神の写し身」

ニーナ「幼い救世主」


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