mission16 大規模防衛戦開始
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mission16 大規模防衛戦開始
…………
大規模防衛戦を開始します。
◆防衛達成条件◆
災厄獣を20体以上撃破
絶望の槍を3本以上破壊
騎士団損耗率50%未満
歌唱大隊損耗率30%未満
「ニーナ」生存
「ノワーレ」生存
「クラウナー」生存
準備はよろしいですか?
<はい>
大規模防衛戦<開始>
…………
早朝、ノワーレとニーナはクラウナーと別れ、第三小隊員と共に流氷の上へ銀狼を走らせた。目指すは最初に羽化が預言されている沖合の槍。先日クラウナーが立てた流氷の壁が、今はやや溶けて、おぞましい黄金が覗いている。
薄くなった氷の壁越しに槍が脈動する様が見え、ノワーレは礎石指輪を最も得意な片手剣へ変えた。隣ではニーナとチュテレールが低い姿勢を維持したまま、じっと絶望の槍を注視している。ニーナの黒銀の目は虹色に光り、どこか焦点が怪しい。
「ニーナ、まだだ」
ノワーレの声に、ニーナが小さく頷いた。ニーナのコートのポケットには、ニーナ自身の希望で飴が大量に詰め込まれている。ニーナは飴を一つ口に放り込むと、がり、と噛んだ。怪しかった焦点がやや戻ってくる。
「……もう少し。ここが羽化したら、岸辺の小さいのが一斉に羽化する。大丈夫?」
「他の小隊が張り込んでる。問題ない」
「わかった……」
ニーナが飴を再び噛んだ途端、背後から、歌唱大隊の合唱が響いた。
戦いの聖歌序章 我ら人類に繁栄あれ
一〇〇人規模の大合唱だ。これから防衛戦が終わるまで、彼らの歌声は響き続ける。彼らが歌う限り力が湧くと信じられる。戦いへの恐怖が勇気へと変わり、強き意思となって騎士たちの背を強く押すのだ。
「クラウナー、歌ってないね」
ニーナが槍を見据えたまま呟いた。
「わかるのか?」
「わかるよ。クラウナーの声はわかる」
フェリーチェとピエールが槍の左右に散り、ミゲルが奥へ回る。
「羽化する……みんな、構えて」
ニーナ呟き、右手が氷の剣を生み出し握りしめた。槍が一際大きく脈動し、流氷がひび割れる。
「……来る。大きいかも」
ニーナが氷の剣を投擲し、流氷の亀裂に命中した。亀裂が虹色に輝きながら広がり、流氷が内側に向けて破裂する。
天を裂くような、災厄獣の産声。
「小隊、突撃!」
ノワーレの号令に、小隊員が短く応えて狼を走らせた。
ノワーレもニーナと共に、羽化したばかりの災厄獣へ向かって駆けて行く。
※※※※
大隊全員の合唱を聞きながら、クラウナーは戦場を見ていた。
流氷が浮かぶ海のそこここに、黄金色の柱が見える。氷が溶け出し露わになった槍肌は不気味に脈動し、羽化を待つ災厄獣の胎獣がおぞましく蠢くのが透けて見えた。おそらく自分にしか見えていないだろう。胎獣は槍を内側から切り開き、槍がきりきりと悲鳴を上げる。まともに聞いてはいけない。絶望の槍の悲鳴は人の心を狂わせる。絶望の海へ呼び寄せて、災厄の潮に飛び込ませようとする。
戦いの聖歌の序章が終わった。これから歌唱大隊は輪唱に入る。中隊規模に分かれ、交代しながら歌を途切れさせぬよう合唱を続けるのだ。
「クラウナー! 元気かしら?」
後陣の更に後方、預言士の卓にいるクラウナーの元へ、シャンティがやってきた。頬が高揚し、荒く白い息を吐いている。序章でかなり強く喉を酷使したのだろう。喉元から胸にかけての聖紋が七色に輝きを放っているのが装束越しにも見て取れた。第一女声筆頭の彼女はこれから女声歌唱士を率いて輪唱に加わるはずだ。
「これから私、少しシフト外れるのよ。クラウナー、元気なら大隊長の近くで勉強しない? 一緒に行きましょうよ」
シャンティが戦場に似合わず朗らかなので、クラウナーは少しばかり戸惑う。しかし、他の預言士も護衛の騎士たちも皆、行ってこい、という雰囲気なので、クラウナーは頷いた。クラウナーの硬い表情を見て、シャンティは笑う。
「いまからそんなんじゃ保たないわよ。特にあなたはいつ預言が来るかわからないんだから、どーんと構えてなさい」
シャンティに背中をばしばし叩かれて、クラウナーは苦笑する。シャンティも他の預言士も、クラウナーが災厄の槍の内部まで鮮明に見えていることは知らないのだ。彼らはクラウナーを、精度の良い預言士で歌唱士でもある、くらいに思っている。
「うーん……難しい、かも……」
シャンティに合わせて少しだけ微笑んで、クラウナーは脳裏の羽化槍を観察する。すでに羽化した槍が割れ砕け、内側から血潮のような黄金が溢れて流氷を穢し、虫や犬を模した災厄獣が次々と湧き出ていた。騎士団が端から討伐しており、まだ血を見るような状況にはなっていない。しかし、見えている以上、シャンティのように気楽に構えてはいられない。
「無理なら尚更よ。少し前に出て歌わせてもらうといいわ。自分も戦っていると思えた方がマシよ」
クラウナーはシャンティに背を押されながら、後陣砦の前線、歌唱大隊が扇状陣を組み輪唱している露台の裏へ来た。一段高い位置にギヨームが立ち、歌う大隊員たちを厳しい目で見据えている。扇状陣の後ろには交代の人員が待機している。楽章の変わり目で交代するのだろう。彼らの金馬もまた隣で待機している。金馬は総じて臆病で忠義深いから、危機があればすぐに気づいて主人に知らせるだろう。
「ギヨーム様、クラウナーを連れてきました。学ばせてやってください」
シャンティが明るい声で言い、ギヨームは視線だけで振り返ると、「どうぞ、上がってきなさい」と渋い笑みを見せた。シャンティに促され、クラウナーはギヨームの隣へ上がる。
「ご覧なさい、ここからだと、前線がよく見えるでしょう」
ギヨームに言われ、クラウナーは視線を沖へやった。流氷が広がる海岸線、視界のそこここに黄金の槍が見え、砕けながら脈動する槍や、流氷の隙間から、災厄獣が湧き出て来るのが見える。銀狼に跨った騎士たちが刃を振るい、災厄獣を陸から退けている。
一番遠く、流氷の薄い沖合に、ノワーレたちがいるはずだ。最も早く羽化した槍は、視界の遥か遠く、人の判別がつかない位置にある。
「彼らを勇気づけ、普段は出せぬ力を呼び起こすのが我々の役目です。女神が騎士に見出した力と意志を極限まで発揮させる。そのために我々の喉や舌、胸はある」
「……女神様が、人の世に神の権能を表すために、僕らの体を選ばれた」
「左様。我々は使命を持つ者としての責務を全うせねばなりません」
第一楽章を終え、第一隊筆頭と次席とが間章の独唱に入った。その間に第一隊と第二隊が交代する。交代の間も決して声を途切れさせてはいけない。歌えずとも声を張り続けなくてはならない。
聖歌は、聖紋を持つ者が長く声を出すために辿り着いた形式だ。歌詞と旋律で集団の意思をまとめ、一つの目的のために女神の権能を行使できる声を出し続ける。人類が災厄獣に喰われぬために。
クラウナーは、沖合の槍が羽化し続けてる様を空から見る。ノワーレとニーナが戦っている。二人にも声は届いているはずだ。
ギヨームが、クラウナーの目を見て眉を寄せた。
「何が見えておいでで?」
「……騎士団が戦う様を」
「あなたは、エヴァ様と同じく遠見ができるのでしたな」
遠くを見ているわけではない。クラウナーは女神の視点から海を見下ろしている。だが、わざわざ説明しようとは思わなかった。今は、多少の齟齬は問題ではない。
クラウナーの視界が絶望の槍の黄金に染まる。連鎖羽化の預言だ。海底が隆起し、槍が共振し、すでに胎獣を吐き出し切ったはずの槍が更に命の紛い物を孕み、膨れ上がる。来ることは分かっていたから耐えられる。クラウナーは後頭部に鈍い痛みを感じながら、進言する。
「僕を、次のシフトに入れてくれませんか。間章だけ、独唱で構いません。次の羽化で災厄獣が爆発的に増えます……僕なら時間を稼げるはずです」
ギヨームに見つめられるのを感じながら、クラウナーは預言を受け止め続けた。槍が脈動し、羽化し続ける災厄獣の群れ。羽化の度に流れる黄金の血潮。狼は血潮になど負けない。だが、早熟羽化で破裂した一際巨大な槍の破片と、黄金の血飛沫が騎士たちを襲う。流氷が揺れ、血潮にひび割れ、騎士たちの足場が削れてゆく。
「……良いでしょう。第三隊! 一時下がれ! 女神の写し身を間章へ入れる!」
ギヨームの言葉に安堵しながら、クラウナーは首から下げた礎石を握りしめた。自分にならできるはずだ。早熟羽化で槍が破裂する前に、流氷で囲って時間を稼ぐ。槍の数は十二本。ニーナは一番危険な槍に気づくだろうか。いまノワーレたちが戦っている槍からは、少し離れている。
ニーナなら、槍を壊せる。自分なら、ニーナに何かしらの合図を送れるはずだ。
大聖軸でただ預言を捩じ込まれていた頃とは違う。今の自分は戦場にいて、騎士団と共にある。示された悲劇を回避する術がある。
「第二楽章が終わります。ご準備を」
ギヨームに促され、クラウナーは高座を降りて扇状陣へ向かう。第二隊が下がろうと声を落とす直前、歩きながら声を張り上げた。
戦いの聖歌、間章 人類の凍らぬ足跡を 独唱
この声は、ノワーレとニーナに届くはずだ。
…………
mission16 完了
大規模防衛戦 防衛率30%
騎士団損耗率 4%
聖歌唱大隊損耗率 1%
防衛を続けてください。
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