mission13 救世主はまだ子供
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mission13 救世主はまだ子供
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預言を受けての臨時軍議の場に、ニーナは両手いっぱいのお菓子を抱えてやってきた。
「……ニーナ、それ何」
ノワーレが一応聞くと、ニーナは胸を張って「お菓子」と答える。「お腹空いてる?」と聞くとニーナは首を振り、「クラウナーの代わりをしようと思って」と大真面目な顔で言った。
「わたし、上から見るとおかしくなっちゃうんでしょ? クラウナーが言ってた。わたし、気をつけないと心を忘れちゃうんだって。でも、甘いとかしょっぱいとかの刺激があれば、おかしくならないかもって」
ニーナは飴菓子をゴリゴリ噛みながら、騎士達を押し退けジョルジオとノワーレの間に陣取った。地図を正面から見る特等席である。
「クラウナー、疲れて寝ちゃったでしょ。無理させたらダメだよ。わたし、海の中でも島全部でも見えるから、未来はわかんなくても、いまどこに何があるかはわかるよ。たぶんね、クラウナーが一番怖いのはここ」
ニーナは服のポケットから飴玉を出し、地図上の海の上に置いた。ノワーレはため息を吐き、飴玉をニーナのポケットに戻して軍議用の駒を渡す。
「これ使いな。そんな量のお菓子どこから持ってきたの……」
「台所に行ってお願いしてきた。フェリーチェが隠してるのとか、使用人のみんなのとか、たくさん分けてくれたよ」
「ちゃんと後で返すんだよ」
「うん。貰ったやつ覚えたから、一緒に買いに行ってね。次に怖いのはここ」
ニーナが飴菓子をものすごいスピードで噛みながら駒を置いていくのを、ジョルジオ以下騎士団は大真面目な顔で眺めた。ニーナは「ここ」「ここは多分大丈夫」「一番最初に羽化するのはこれ」と、どんどん駒を置く。ニーナの目の焦点が合わなくなっていくのをノワーレは見た。だんだんと口調が固くなり始め、飴を齧る速度が落ちていく。
「砦の北東の小型槍を羽化前に潰す。この間わたしが壊しそびれたから、残党が早く羽化する危険がある。ここら一帯を潰せば他の羽化までに時間が稼げ……むぐ」
「飴食べな」
ノワーレはニーナの口に飴菓子の棒を突っ込んだ。ニーナが口を塞がれて黙る。飴菓子がニーナの口の中でもごもご動き、焦点の合わなかった目に少しずつ光が戻ってくる。
「……甘い」
「うん、甘いね」
ノワーレが繰り返すと、ニーナはごくん、と飴菓子の欠片を飲み込んだ。
「ありがと」
「どういたしまして。ニーナ、お前だって無理しなくていいんだよ」
真面目な顔で頷くニーナの隣で、ミゲルが「よし、じゃあニーナが見てくれたのを踏まえて、配置を決めよう」と手を叩いた。
「副長、ニーナを擁する僕ら第三小隊は、遊撃隊として自由配置を希望するよ。ニーナが状況を見てくれるのなら、その時々で一番危ないところを担当したい。どうかな」
ミゲルに水を向けられたユーリが「まあ、それしかないだろ」と頷き、ニーナに小袋を投げた。両手にお菓子を抱えたニーナの変わりにノワーレが受け取って、ニーナのお菓子の山に載せる。ニーナは袋を摘み上げ、不思議そうに首を傾げた。
「なにこれ?」
「甘いのばっかりだと飽きるだろ。しょっぱい豆やるよ」
「ありがとう」
「こちらこそ、さ。ちょっとそれ食べて休憩してな」
これまで黙って見ていたジョルジオが「よし」と一声あげ、騎士団が居住まいを正した。
「チビの救世主のおかげでかなり読めた。みんな、後で目一杯菓子を献上してやれ。今回は範囲が広い。第三小隊は除外、中隊規模で配置決めるぞ!」
騎士団の大声の応えに、ニーナがびっくりして目を瞬いた。ノワーレは苦笑し、ニーナの背中を叩く。
「クラウナーのところに行ってやりな。私もこれが終わったら行くから」
「わたし、いなくて大丈夫?」
「今日のところはね。また頼らせてもらう」
「わかった」
ニーナはやる気いっぱい、という顔で答え、騎士団に手を振って出ていった。ニーナの姿が消え、気配もなくなってから、ジョルジオが口を開く。
「ノワーレ、あれの手綱を取れるか」
「取りますよ」
ジョルジオの低い声に、ノワーレはニーナが落としていった飴玉を拾いながら答えた。
「ニーナが槍を壊せること、大隊は知ってるんですか?」
「これから知らせる。下手すりゃ大隊か大聖軸が囲い込むくらいの戦力だぞ。守れるか」
「女神のご指名があるから大丈夫でしょう。それに、あの子は前に出たがりますよ……ああ見えて、責任感が強い。クラウナーもですが」
ノワーレの評に、ジョルジオは地図を見ながら僅かに唸った。
あんな子供でも、大聖軸筆頭たるエヴァが保証した救世主なのだ。飴玉をこぼしながら歩くのに、黒銀の目は虹色に輝いて海底までを見据え、空から氷の槍を降らせる。
ニーナは、向こう見ずな少女の形をした抜き身の刃だ。
「第三はいつも通り先鋒に出す。最初の羽化を見た後は自由にやれ。それが一番いいだろ」
ジョルジオが唸り、ノワーレは頷く。
「そうですね。ニーナは槍を見たら止まらなくなりそうだ。私が張り付いています。後ろにはミゲルを」
「いいだろう。クラウナーは大隊に任せるか?」
「どうでしょう……彼の金馬は脚が速いし、案外前に出たがるかも。本人の調子を見てから決めても?」
「わかった。お前に任せる」
騎士団はそれから夜半までを軍議に費やした。ノワーレは途中で後をミゲルに任せて抜け、自室で休んでいるクラウナーの様子を見に行った。薄明かりが灯された渡り廊下を抜け、第三小隊宿舎へ向かう。
クラウナーの部屋の扉はほんの少しだけ開いていた。細く明かりが漏れる隙間から、潜めた話声が聞こえる。
「……それでね、ここは一番小さい槍だから、無視してよくて」
「そうだね……一旦無視しても被害はなさそう」
ニーナが飴をもごもごやりながら話す声に、クラウナーが答える掠れ声。扉の隙間から、ベッドに起き上がったクラウナーの膝の上に地図が広げられているのが見える。転がっている飴玉はニーナが置いたものだろう。ニーナは長椅子をクラウナーのベッドの横に寄せ、座り込んでクラウナーと頭を突き合わせている。
ノワーレが扉をノックすると、二人はぱっと顔を上げた。
「ノワーレ! クラウナー起きてた!」
「ごめんね、もう大丈夫」
二人が口々に言い、ノワーレは苦笑する。まるで親を見つけた子犬だ。
「軍議の復習でもしてたの?」
ノワーレが言いながら部屋に入ると、ニーナは嬉しそうに頷いた。「クラウナーが見たのと合ってるのか確認しなきゃ」と、やる気に満ちた顔で飴が置かれた地図を示す。ノワーレはニーナの隣に座って頭を撫でてやった。クラウナーは昼間よりはましだが、まだ真っ白な顔をして、万全とは言い難いように見える。それでも微笑んでいるあたり、頑固な強がりが見えた。
「クラウナー、体調は?」
「良いとは言えないけど、このくらいなら大丈夫だよ。明日には元気だと思う」
「そう。ローランが大聖軸に猫を行かせたから、状況は伝わってる。すぐ聖歌唱大隊の一軍が派遣されて来るって」
「一軍て、大聖軸管理の?」
「多分。詳しくは知らないけど、大隊総隊長が来るんだって」
「じゃあ、すごい人数が来るね……」
「うん。だから、お前だけが頑張る必要はないからね」
ノワーレが言うと、クラウナーはびっくりしたような顔でノワーレを見た。しばらくノワーレを見つめたあと、固まっていた表情が、氷が溶けるようにほどける。
「うん、ありがとう」
礼の言葉は、ノワーレには「そんなこと考えたこともなかった」というように聞こえた。
まったく頑固で責任感ばかり育った奴だ。生まれた頃から大聖軸に預けられていたと言うし、特殊な育ちのようだから、仕方のないことなのかもしれないが。
「いっしょにがんばろうね」
ニーナが何もわかっていない顔で笑う。なんだかその顔が妙に愛らしく、それでいて腹立たしいように思えて、ノワーレはニーナの頭をめちゃくちゃに撫でた。ニーナが喚く横でクラウナーが一瞬羨ましそうな顔をする。ノワーレはニーナのついでにクラウナーの頭もめちゃめちゃに撫でてやった。二人が子犬のように笑う。
七日後には、遅くとも大規模防衛陣が敷かれる。
穏やかな時間を楽しめるのも、いっときだけだ。
…………
mission13 完了
称号獲得
ニーナ「お菓子大好き救世主」
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