mission10 災厄獣の預言
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mission10 災厄獣の預言
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ある朝、クラウナーが起きてこない、と思ったら、小聖軸より伝令があった。言伝を受けた騎士が、ルーアルジャン一家と救世主たちの朝食の場へ駆け込んできた。
「今朝方、海面近くに小型災厄獣の連鎖羽化兆候との預言あり。騎士団は先んじて防衛陣を編成し、災厄獣の上陸を阻止されたし、とのことです!」
小聖軸に詰めている預言士たちが、皆同じ預言を受け取ったらしい。晩冬にはよくあることだ。大規模防衛陣を敷く程ではないが、組織立っての討伐編成は行わなくてはならない。
団長である父は、「もうそんな時期か」と顔を顰めた。
「ユーリ、ノワーレ、小隊長たちを集めて軍議を知らせろ。街にも人をやってこの間の大雪の分の排雪を運ばせて、ついでに小聖軸から作戦立案用に一人、目が良くてまだ寝込んでいないのを借りて来い」
ジョルジオの言葉にノワーレたちが動き出そうとしたとき、部屋の扉が開き、真っ青な顔をしたクラウナーが現れた。
「ごめんなさい……遅くなって。その……目の良い預言士、僕ができます。槍の位置、割り出すんですよね」
ノワーレの隣でおろおろしていたニーナが、「クラウナー……、しんどそうだよ」と立ち上がって傍に寄った。クラウナーはニーナに微笑みかけ首を振る。
「大丈夫……預言が急に来てびっくりしただけ……。槍の位置も、連鎖羽化の規模も全部見た。たぶん、僕が一番見えてます」
ジョルジオはクラウナーの顔色をしばらく眺め、ため息をついた。
「預言士が、預言の後に倒れるのは誰であっても同じか……」
「僕は、歌唱大隊の歌唱士ですが、預言士でもあります。預言士としての精度はエヴァ様の次でしょうし、大隊の人間として、街の預言士よりは鍛えています。体は長く保つはずです」
「……わかった。ノワーレ、クラウナーの手綱を取れるな」
ジョルジオが苦々しい顔で言い、ノワーレは「はい」と部下の顔で頷いた。
「よし、一時間後に軍議を行う。ノワーレ、それまでにクラウナーを落ち着かせておけ。無理そうであればそれで構わん」
言いながらジョルジオが立とうとし、ニーナが「待って!」と声を上げた。
「わたしも行く。わたし、いたら便利だよ」
ジョルジオは焦っているニーナの顔を見下ろした。しばらく無言で眺め、いや、睨みつけるが、ニーナは気にせずジョルジオを見上げる。
「ノワーレの言うことを聞けるか?」
「聞く」
「便利ってどういうことだ」
「クラウナーが疲れちゃっても、わたしも見える」
「いま見えてないのにか?」
「ノワーレが、女神様の目は使うなって言ったから、今は見てない。クラウナーは無理矢理捻じ込まれちゃったんだよ。そうだよね?」
クラウナーが青い顔をしたまま頷き、ノワーレは立ち上がると、とりあえずクラウナーを座らせ水を飲ませた。クラウナーは目を閉じたまま、震える声で呟く。
「僕はかなりマシな方だけど……目や耳に聖紋を持つ預言士は、預言から逃げられない。僕は全身が聖紋だから……その、海が冷たいのとか、全部、捩じ込まれて……ちょっと酔ってるけど、大丈夫。慣れてるから、体も立て直せます」
クラウナーは、ノワーレにしか聞こえないような小さな声で「十三才までは、ずっとこうだったし」と呟いた。
ジョルジオはしばらく考え込むと、泣きそうな顔をしてるニーナと、真っ青なクラウナーを見比べた。
「ニーナ、ノワーレの言うことが最優先だ。クラウナーがぶっ倒れようが誰が怪我しようが、ノワーレの言うことを全部聞け。それが出来ないなら前線には出さん」
「できる。今日も、わたし、なんか来るってわかってたけど見なかった。ノワーレが言ったから」
ニーナが必死に説明し、ジョルジオはノワーレを見た。ノワーレはしばらく考え込み、「ニーナにチュテレールをつけます」と顔を上げた。
「危機があればチュテレールにニーナを下げさせます。クラウナーにもアルタノッドがいる。聖獣の方が危機には敏感でしょうし、金馬は戦闘より主人の安全を優先するはずです。チュテレールにはアルタノッドの言うことを聞いてもらいましょう。小隊内でも最後列を維持させます。それでいかがですか」
「わかった」
何があっても、救世主と女神の写し身である二人だけは守らなくてはならない。
誰も明瞭には口にしないが、皆が考えていた。第三小隊の見習いとして迎えたとはいえ、二人は騎士ではない。人類を救う預言を受けた特別な人間なのだ。
「ノワーレ、第三は前には出さないぞ」
「承知しています」
「よし。じゃあ一時間後だ。準備しておけ。ミゲル、ノワーレに代わり小隊長たちを集めろ」
ジョルジオが消え、ユーリとミゲルがそれぞれ小隊長たちを集めに部屋を出た。クラウナーは目を閉じたまま、「ごめん……」と呟いた。
「謝らなくて良い。預言士が大変なのは知ってる」
預言士は、女神が人類へもたらす未来予知を全身で受ける。聖紋とは女神が自身の意志を届ける人間として認めた証だ。だが、はるか高みから人類を見下ろし海底までをも見渡す眼差しを、一人の人間がどうしてまともに受け入れられよう。預言士は預言のたびに体調を崩すし、悲劇的な預言の場合は尚更だ。
「何を見た?」
「海底から金の槍が生えてるよ」
ノワーレの質問に答えたのはニーナだった。見ても良い? と聞かれ、ノワーレは頷く。
「前にわたしが倒れちゃったときにはもうあったよ。今、流氷を突き破って生えてる槍だけじゃなくて、海底でどんどん増えてる。まだ小さいから羽化はしないだろうけど……クラウナーは怖くなっちゃったの?」
クラウナーは冷や汗に濡れた顔を上げ、ニーナの無垢な視線を受けて頷いた。ニーナは微笑む。
「大丈夫だよ、わたしがいるもん。みんなを守るよ」
気楽、としか言いようがない笑顔に、ノワーレは呆れれば良いのか、頼れば良いのかわからなくなった。こんなに幼く気楽に見えても、ニーナは救世主なのだ。
「でも、なんで増えてるんだろ。誰か増やしてるのかな……」
ニーナが呟く。ノワーレはひとまず先のことは考えないことにして、目の前の不安材料を処理することにした。
「クラウナー、お茶だけでも飲めるなら飲んでおきな」
クラウナーが頷き、ノワーレはクラウナーの茶碗に温かい塩乳茶を注いだ。
防衛戦が始まる。戦う前に、体を整えておかねばならない。そして、戦いの場では、ニーナとクラウナーをなんとしても守らねばならない。
銀狼に養育された娘が二人を導くと、大会合でエヴァは言った。
導く、が何を意味するのであれ、今やることは変わらないはずだ。
※※※※
天候は晴れ。風は弱く地吹雪の類もなし。波は穏やかだが流氷の厚みは十全とはいえず、氷の下に不穏あり。
銀狼騎士団はまず海辺の地図を広げた。すでに見えている沖合の絶望の槍の位置と流氷の厚さ、数を確認し、小隊単位で割り振りを決める。クラウナーが駒をいくつか手に取り、「羽化速度が早そうなのは、こことここです」と示した。相変わらず顔色は悪いが、先程より幾分落ち着いている。ニーナがクラウナーの隣にくっついており、「その下、すごい怖いよ」と緊張感のない発言でクラウナーを補足する。
「わたしが頑張ればいくつかは壊せると思うけど、もう海底で生まれてるのは登ってきちゃうし、全部壊せるかはわかんない」
ニーナの発言にジョルジオが首を振る。
「いや、今はいい。壊してそれだけならいいが、この規模なら何が起こるかわからん。ノワーレにくっついてクラウナーの補佐に徹しろ」
「わかった」
ニーナが素直に頷いて、ジョルジオは声を張った。
「狼共、聞け! 隊の配置は指示した通り。各隊それぞれ槍が枯れるまで災厄獣を討ち続けろ。討ち漏らしは第五と第四、万が一大型が発生した場合は例年通りだ。今年は第三を後陣に下げる。クラウナーとニーナのおかげで地図の精度が上がった分、我々が敵の首を噛み千切るぞ! 人類に繁栄あれ!」
小隊長らが声高く吠え士気を示し、各隊へ作戦を伝えるべく戻っていく。ジョルジオは傍らのノワーレを見下ろすと、銀狼の鋭い眼差しのまま口を開いた。
「任せるぞ、ノワーレ」
それは、娘でも、第三小隊長としてでもなく、女神に指名された導き手に対してのように聞こえた。
「心得ています」
ノワーレは頷いて、ニーナとクラウナーを伴い、第三小隊の隊室へ向かう。
すぐに防衛陣が敷かれる。
ノワーレ率いる銀狼騎士団第三小隊もまた、使命を果たさねばならない。
…………
mission10 完了
防衛戦を開始します。
各ユニットを戦線へ配置してください。
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