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mission11 危機警告

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mission11 危機警告

…………

 中規模防衛陣「銀狼騎士団」の敷設が完了しました。


 接近戦パーティを編成します。


 近接戦闘参加キャラクターを選択します。

 近接戦闘キャラクターに「ニーナ」「ノワーレ」を選択してください。


 支援戦闘参加キャラクターを選択します。

 支援戦闘キャラクターに「クラウナー」を選択してください。


 戦闘配備が完了しました。


 中規模防衛戦「銀狼領海岸防衛 Lv.1」を開始します。

…………

 銀狼城砦の裏手、流氷が押し寄せる海岸に、騎士団は防衛陣を敷いた。排雪を整形し壁を作り、投雪用の雪玉を投雪機の周囲へ積み上げる。預言では本日午後より災厄獣の連鎖羽化が開始するはずだ。


 ノワーレは本陣で小隊と打合せをしていた。


「我々は今回は討ち漏らしの処理に回る。フェリーチェ、ピエールはいつも通り前だ。本陣前で遊撃しろ。ミゲルは二人のフォロー。あまり前に行かせすぎないように見張ってくれ。ニーナと私は本陣でクラウナーを守る。ニーナは絶対にチュテレールから降りないこと。クラウナーもアルタノッドから離れるな。二人の目的は自分の命を最優先に守ること。いいね」


 全員が頷き、フェリーチェ、ピエール、ミゲルが陣を出て戦線へ向かった。ノワーレは本陣の前方、戦線からはやや離れたところで愛機ガルディエーヌに跨る。後ろに従えたニーナはチュテレールに乗って相変わらず気の抜けた顔をして、アルタノッドの上のクラウナーは緊張した面持ちだ。ノワーレは前方を見据えたまま、クラウナーに「心配いらないよ」と声をかけてやる。


「ここまで災厄獣が来ることはほとんどない。もし来ても私かお兄様……第二小隊がなんとかするし、団長もいるからね」


 ノワーレの言葉に、クラウナーは緊張を隠さず頷いた。毎日の海岸哨戒とは異なる騎士団の雰囲気に圧倒されているのかもしれない。海岸の防衛陣には銀狼騎士団六十名弱が参加する。他にも、万が一街へ被害が及びそうな場合に備え、城砦、小聖軸、街中に五十名余りが配備されており、いかにも戦時という雰囲気だ。


「大丈夫……、海岸が制圧されるところまでは見えてない。被害は確定していない」


 クラウナーが呟き、ニーナがクラウナーの震える手をそっと握った。


「大丈夫だよ、わたしが守ってあげる」


 何もわからぬ子供の気楽さか、救世主としての自負なのか。ニーナは完全にいつも通りだ。


「氷の下も、流氷の上も、怖かったらわたしが見てあげるね」


 ニーナが朗らかに言った時、沖合から鬨の声が上がった。災厄獣の連鎖羽化が始まったのだ。


 災厄獣は、海底に突き刺さる幾本もの巨大な黄金の槍から生まれる。絶望の槍(グランギニョル)――海底に沈むと言われる有象無象の魂を穢し、生命を騙る獣(けだもの)を産み続ける、人類の敵だ。


「東側一号槍、羽化速度上昇。群れが出ます」


 クラウナーはアルタノッドの上で聖杖を握り締め、半ば目を閉じたまま、何かを朗読するように呟いた。


「西側三号、まもなく大型羽化開始」


 ノワーレは黙って聞いている。隣の狼に跨ったジョルジオもまた、何も言わない。災厄獣の羽化が始まった以上、現場でしかできることはないからだ。女神の氷に閉ざされていた槍が一度枯れるまで、災厄獣を倒し続けるしかない。


 災厄獣は生物を喰う。生命を騙り生み出された獣(けだもの)たちは、それ自体では何者でもない。命の温もりを求めて動くだけの空虚な塊だ。形は目の前の生命を模してはいるが、たとえ人型であろうが、悲鳴を上げようが、心などは持ち合わせていない。命の成り損ないだ。


 流氷の軋む音の中に、災厄獣の断末魔が溢れかえる。騎士の怒号。「投雪機、構え!」「東端の雪壁崩壊間近! 援護求む!」「落ちるなよ! 流氷が薄いぞ!」各小隊長が指揮する声。クラウナーの顔はどんどん色を無くすが、ニーナが隣でずっと手を握っている。


「わたしが代わろうか?」

「いや……」


 預言士は、戦場の間近な未来を見続けることになる。回避できる危機は多くなくとも、少しでも人類を生かすために、血を見続ける。


「倒れる前に代わってもらいな。防衛戦は持久戦だ。そのままだと保たないよ。ニーナも無茶はするな」


 ノワーレが言うと、クラウナーは素直に頷いた。目を閉じて、アルタノッドに突っ伏してしまう。


「……あれ? 海底で何か……すごい速さで生えてる……? どこ……?」


 クラウナーに変わって宙を見上げたニーナが、不穏な呟きを漏らした。ノワーレは、焦点の合わない目で空を見ているニーナを見る。


「ニーナ?」

「違う……これ、わたしを狙ってる?! 逃げて!」


 ニーナが叫び、ノワーレは反射的にニーナを抱えて狼を走らせた。「クラウナー! 着いて来い!」アルタノッドに伏していたクラウナーが、慌てて拍車をかける。「散れ!」とジョルジオが叫ぶ声。銀狼たちが雪煙を上げて海岸に散っていく。


 あと一秒でも遅れていたら、ノワーレたちの命はなかった。


 本陣の真下から、凍った地面を突き破り、禍々しい黄金に輝く槍が幾本も生えていた。


「第三小隊、いるか!」


 ノワーレの声にそこここから返事があった。「フェリーチェ無事!」「ピエール無事!」「ミゲル無事!」


 ノワーレは自分の後ろにクラウナーが付いてきていることを確認し、隣にチュテレールが付いていることも見た。


「ノワーレ、ダメだよ。あれわたしを狙ってる」

「なんでわかる」

「だって、また生えるよ、走って!」

「チュテレール、ニーナを守れ!」


 ノワーレはニーナを隣のチュテレールに乗せ、自分から離れさせた。ノワーレの目の前で、槍の根元が無気味に膨れ上がる。


「ノワーレ? だめだよ! わたしが狙われてる!」

「だからだ! ミゲル、ニーナを守れ! クラウナーは私の後ろで待機、足はアルタノッドに任せて手綱を下ろせ! フェリーチェ、ピエール、羽化するぞ! 刺突陣(エストック)!」


 第三小隊の応え。ノワーレが右手の礎石指輪《フォンタシオン・バーグ》を剣に変える間に、フェリーチェとピエールがノワーレの左右に散り剣を構える。

 膨れ上がった絶望の槍(グランギニョル)の根元から、犬型の災厄獣が溢れ出した。


 フェリーチェとピエールが真っ黒い犬どもに踊り掛かった。二人の刃が的確に犬どもの嘆石を一撃で貫く。ノワーレは二人の討ち漏らしを斬りつけ、ひと薙ぎで三匹を屠った。犬型はまだ弱い。本当に恐ろしいのは、狼や人を模してきたときだ。


「……根元に、まだ、なにか」


 ノワーレの背後で、クラウナーが震える声を上げた。


「……沖合の槍、一、二、四、五、七……連鎖羽化、なに……槍が、動く……?」


 犬どもを屠るノワーレの耳に、ニーナの悲鳴が遠く聞こえる。


「ノワーレ、陸じゃだめ、海底だ! 上を壊しても意味ないよ!」


 海底に槍の根元あることなどわかっている。だが、騎士は海には入れない。聖獣だけで行かせたところで槍は壊せない。だから防衛戦は持久戦なのだ。人類は、絶望の槍を壊せない。


「黙ってろニーナ!」


 もしかしたら救世主(ニーナ)であれば、海岸哨戒の時のように槍を破壊できるのかもしれない。しかし、この量を? 銀狼領付近の槍は九本、いま生えたのを加えれば十二本だ。ニーナは全部壊したがるだろう。だが、一本壊しただけで倒れたのだ。きっとニーナも無事ではいられない。


 自分は救世主の導き手だ。ニーナが無茶をするのなら、体を張ってでも止めなくてはならない。


 犬どもの後ろから、狼と人を混ぜたような四足歩行の獣が現れた。まだ槍は無気味な脈動を繰り返し、災厄獣が生まれる裂け目は黄金の血で濡れている。枯れる気配は一向にない。小隊三名でやれるだろうか。どこか援護を頼めそうな隊はあるか?


 どこかで騎士の悲鳴が上がった。クラウナーが喚く。


「槍が増える! 流氷が割れる!」


 クラウナーの叫びは、沖合の槍の周りの流氷を多く立ち上げた。聖紋を持つ声は聖歌でなくとも女神の権能を発揮できる。一瞬振り返ったノワーレの後ろでクラウナーは、アルタノッドの首にしがみついて震えている。


「西側……いや、全部だ。槍が生えてるとこにまた生える……」


 アルタノッドが嘶き、クラウナーを乗せたまま走り出した。ノワーレは敢えて追わず、聖獣が主人を守りたがるのに任せることにする。戦場では人間より聖獣のほうがよほど危機に敏感だ。


「チュテレール、ノワーレのとこに行って!」


 ニーナが遠くで喚いている。


「来るな! チュテレール、逃げろ! アルタノッドを追え!」


 ノワーレが吠えた時、沖合で更に悲鳴が上がった。騎士たちが動揺している。団長が一喝する声。どこかでジョルジオもユーリも戦っている。援護は頼めない。どんな災厄獣が羽化しようとも、ニーナとクラウナーを逃して、自分たちだけで戦わなくてはならない。


「ノワーレ!」


 ニーナの声と共に、ノワーレの真下、ガルディエーヌの足元の雪に亀裂が入った。ノワーレは自身の足元に、おぞましい黄金の光を見――


 ――危機警告 防衛ラインが突破されました。防衛率30%に減少中

 ――推奨行動 操作キャラクターを「ニーナ」へ変更し、ニーナの戦技IIを発動してください


 ニーナの右手がひとりでに上がった。左腕でチュテレールの首にしがみつきながら、ニーナの視界は海岸全域を見下ろしている。升目状に区切られた戦場に蠢く災厄獣の群れ。黄金に輝くいくつもの点。そのうちの一つが、ノワーレの真下から、今まさに、ノワーレを貫こうとしている。


 空が虹の色に光り、脳裏に火花が散った。


 ニーナは吠えたと思う。


 七色の輝きと共に、幾本もの氷の槍が空に現れ、海岸に光る禍々しい黄金を、その周囲の空虚の獣たちを、まとめて貫いた。


 ――防衛率 85%まで上昇

 ――災厄獣残数 12体

 ――災厄の槍(グランギニョル) 残存率70%

 ――危機脱却 災厄獣を倒し、防衛を継続してください。


 ニーナの頭に、誰ともわからぬ声が響いていた。ニーナはチュテレールにしがみついたまま動けない。目の奥に虹色に光がちらついて、前も碌に見えない。


「ニーナ!」


 ノワーレの声が聞こえた。隣にガルディエーヌが来る気配。ノワーレの腕に抱え起こされて、ニーナはまだちかちかする視界でノワーレを探す。海岸全域を見下ろす視点から、自分の目の前に意識を戻そうと努力する。


「ニーナ、無事か!」


 何度か瞬きをして、ようやくノワーレの顔が見えた。ノワーレの青い目が、焦りと混乱に満ちてニーナを見つめている。


「ノワーレ……?」


 勝手に口が動いた。ノワーレに頬を軽く叩かれて、ニーナは自分のものではないような気持ちで、頬をノワーレの掌に押し付けてみる。頬にノワーレの体温を探してみる。


「ニーナ……一体何を」

「わかんない……でも、もう大丈夫だと、思う」


 腕が勝手に動き、また空に氷の槍が生まれた。

 ニーナが腕を一振りすると、残った十二体の災厄獣が、全て氷の槍に貫かれた。それを、ニーナは空からの視界で見た。ノワーレに抱かれている自分の姿と共に。


「大丈夫……みんなを、守るよ」


 それが、自分の役割だ。

 だって、女神は、自分(ニーナ)をいま、動かした。

 みんなを守るために。

…………

mission11 完了


中規模防衛戦「銀狼領海岸防衛 Lv.1」

勝利A

部隊損耗率15%


報酬を計算しています……


ニーナのレベルが上がりました。

ノワーレのレベルが上がりました。

クラウナーのレベルが上がりました。


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