↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナは、恋をした。―完璧な御曹司に振られたので、まず私のことを知ってもらうことにしました―   作者: たまご
高校編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/22

第6話 ルナは、約束を守ります

数日後、歴史の授業で班ごとの発表が行われた。


「それじゃあ、次。6班」


教師に呼ばれ、月たち4人は教壇の前へ並んだ。


スライドに合わせて担当の生徒が原稿を読み上げ、最後に西城茜がまとめを終えると、教室前方のタイマーは6分58秒を示していた。

月はその数字を確かめた。予定どおりだった。


「素晴らしい出来だ」


教師は満足そうに頷き、手元のレジュメを持ち上げた。


「今日の発表の中では、この班が一番よくできていた。資料も見やすいし、構成も分かりやすい。時間配分までほぼ完璧だな」


教室がざわめく中、教師は4人を順番に見た。


「この資料は、4人で分担して作ったのか?」


月が答えようとした、そのときだった。


「私がスライドを作りました」


茜が先に答え、少し照れたように笑った。


「昨日も遅くまで頑張って、徹夜しちゃいました」


月は茜を見た。

資料は先週には完成していた。昨日、修正を頼まれた覚えもない。


「私は構成を担当しました」

「私はレジュメを作りました」


ほかの2人も続けて答えると、教師は感心したように頷いた。


「そうか。3人で分担したんだな。よくまとまっている」


そして、最後に月へ尋ねた。


「朝比奈は、何を担当したんだ?」


「ルナは――」


「朝比奈さんには、細かいチェックを手伝ってもらいました」


月が答えるより先に、茜が笑顔で口を挟んだ。


「チェックか。そうか、細かいところを確認したんだな」


教師はそれ以上尋ねず、茜たちへ向き直った。


「西城を中心に、よく頑張った。次回の発表でも、みんなこのくらい分かりやすい資料を意識するように」


教室から拍手が起こった。


「西城さん、すごい」

「資料、めっちゃ見やすかったもんね」


茜は照れたように笑いながら、隣の2人にも礼を言っていた。


月はその横で、静かに立っていた。


スライドも、構成も、レジュメも、すべて月が作ったものだった。けれど、先生は茜たちが作ったと思っている。


「あの、先生――」


月が口を開きかけたとき、次の班を呼ぶ声が響いた。


教壇の前を離れながら、月はもう一度茜を見た。


どうして、自分が作った資料を茜が作ったことになっているのか、月には分からなかった。


*


昼休みになると、月は弁当を取り出した。 ふと机の上のメモ帳が目に入り、ページを開く。


『つけ回されるのは嫌』


一条先輩の後を追ってはいけない。観察もしてはいけない。

月はその一行を読み返してからメモ帳を閉じ、弁当袋へ手を入れた。


「……お箸がありません」


袋の底まで確認したが、いつも入っているはずの箸が見当たらない。


少し考えた末、月は弁当箱を持って食堂へ向かった。そこなら、箸をもらえるかもしれない。


昼休みの食堂は大勢の生徒で賑わっていた。


「すみません。お箸をいただけますか?」


カウンターの店員に尋ねると、割り箸を一膳渡してくれた。


「ありがとうございます!」


割り箸を受け取った月は、教室へ戻ろうと出口へ向かった。

けれど、その途中で足が止まった。


窓際のいつもの席に、凪がいる。今日も友人たちと昼食を食べていた。


今日は、一条先輩を見に来たわけではない。お箸をもらいに来ただけだ。


そう自分に言い聞かせながら、月は窓際から離れた空席に腰を下ろした。


教室へ戻ろうとしていたことは、いつの間にか頭から抜けていた。


弁当箱を開くと、白いご飯に卵焼き、ブロッコリー、ハンバーグが並んでいた。園長先生が毎朝作ってくれる弁当だった。


「いただきます」


手を合わせ、左手に弁当箱を持ったところで、誰かが月の肩へ強くぶつかった。

「……っ!」


身体が傾き、弁当箱が手から滑り落ちた。


ご飯もおかずも床へ散らばり、食堂のざわめきに紛れて乾いた音が響いた。


「あら」


振り返ると、上級生らしい女子生徒が四人立っていた。


その中の一人、長い黒髪を高い位置で結んだ女子生徒が、口元に手を当てる。


「ごめんなさぁい。気づかなかったわ」


そう言いながら、笑っていた。


「お弁当なんだ」


別の女子生徒が、床に落ちた食べ物を見下ろした。


「せっかく食堂があるのに」


「あ。でも、毎日ここで食べるのは大変よね」


女子生徒は料理の並ぶカウンターへ目を向け、月の弁当をもう一度見た。


「いろいろと」


小さな笑い声が重なった。


月は少し考えてから答えた。


「大変ではありません」


4人の笑い声が止まった。


「園長先生が毎朝作ってくれるので」


「……園長先生?」


「はい! ルナは施設で暮らしています」


女子生徒たちは顔を見合わせた。


「……へぇ」


「そうなんだ」


再び笑みを浮かべる4人を前に、月は椅子から立ち上がり、床へしゃがみ込んだ。


散らばったご飯やおかずを拾い集めていると、少し離れたところにハンバーグが一つ落ちているのが見えた。


月は手を伸ばした。


その指先が届きかけたときだった。


「あ」


ポニーテールの女子生徒の靴が、ハンバーグの上へ下ろされた。

柔らかな肉が押し潰され、崩れた断面から肉汁が滲み、ソースが床へ広がった。


「……っ!」


月の手が止まった。


「ハンバーグが……」


女子生徒は自分の靴底を見て、眉をひそめた。


「あら、嫌だ。靴が汚れちゃったじゃない」


「もう買い替えたら?」


「そうね」


別の女子生徒が、月へちらりと目を向けた。


「変なのがうつったら嫌だし」


4人が笑った。


その笑い声に混じる色には、黒が滲んでいた。


月は潰れたハンバーグを見つめた。

今朝、園長先生が作ってくれたものだった。いつもなら、甘酸っぱいソースの味がする。


けれど今は、靴に踏まれて形を失い、床に張りついていた。


月は伸ばしていた手を、ゆっくりと引き戻した。


「本当にごめんなさいね」


女子生徒たちは笑いながら立ち去っていった。


月は何も言わず、床に散らばったご飯粒やおかずを一つずつ拾い集め、

空になった弁当箱へ戻した。


もう、食べることはできなかった。


*


窓際で友人たちと昼食をとっていた凪も、月が食堂へ入ってきたことには気づいていた。

いつもなら真っ先に声をかけてくるはずが、今日は何も言わず、窓際から離れた席へ向かっていく。


凪はその背中を一度見送り、友人たちとの会話に戻った。


それから間もなく、少し離れたところで女子生徒たちの笑い声が上がった。


思わず声のするほうを見ると、月の席を女子生徒が囲んでいた。何を話しているのかまでは聞こえない。


「どうした?」


向かいに座っていた友人が尋ねた。


「……いや」


凪は短く答え、食事を続けた。

やがて昼食を終え、友人たちと席を立った頃には、女子生徒たちも月のそばを離れるところだった。


「あっ、一条くん!」


4人のうちの一人が凪に気づくと、ほかの女子生徒たちも慌てて髪や制服を整え始めた。


「一条くん、お疲れさま」


凪は軽く視線を向けただけで、その横を通り過ぎた。


「やっぱり、かっこいい……」


背後で浮き立った声が聞こえてくる。


食堂の出口へ向かう途中、凪は床にしゃがみ込んでいる月に気づいた。


周囲にはご飯粒が散らばり、月は床に落ちた卵焼きを拾い上げていた。


凪はその手元に一度目を向けたものの、声をかけることなく通り過ぎた。


月は、凪がすぐそばを通ったことにも気づかなかった。


*


放課後、月は中庭のベンチに座っていた。


鞄からメモ帳を取り出し、今日も何度か読み返した一行を確かめる。


『つけ回されるのは嫌』


今日は、一条先輩の後を追わなかった。観察もしなかった。

言われたことを、ちゃんと守ることができた。


満足してメモ帳を閉じようとしたときだった。


ぐぅぅぅ……。


静かな中庭に、お腹の鳴る音が響いたと同時に、月は自分のお腹へ手を当てた。


「……お腹がすきました」


今日の晩ご飯は何だろう。

園長先生のカレーかもしれない。それとも、魚の日かもしれない。


月はメモ帳を鞄へしまい、ベンチから立ち上がった。


「早く帰りましょう」


いつもより足早に校門を抜け、施設へ続く道を歩いていった。

【高校編・全48話執筆済み】※第10話まで毎日更新/以降、毎週水・日更新


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。