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ルナは、恋をした。―完璧な御曹司に振られたので、まず私のことを知ってもらうことにしました―   作者: たまご
高校編

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第5話 ルナは、追います

「おい」


突然、背後から声がした。


「……!」


驚いて振り返ると、目の前に一条凪が立っていた。


「バレバレなんだよ」


月は目を丸くし、廊下の先と凪を見比べた。つい先ほどまで、凪は友人たちと昇降口へ向かって歩いていたはずだった。


「あれ……? さっきまで、あそこにいたのに……」


凪は呆れたようにため息をつく。


「毎日毎日、いい加減にしろ」


「何をですか?」


「俺をつけ回してるだろ」


「つけ回していません」


月はすぐに否定した。


「ルナは一条先輩を知るために、見ています」


凪は黙ったまま、月を見た。


「それをつけ回してるって言うんだ」


「違います! ルナは一条先輩を知ろうとしているだけです!」


凪はそれ以上反論せず、月が隠れていた柱へ目を向けた。


月は柱の陰に身を寄せていたつもりだったが、廊下からは身体がほとんど見えていた。


「大体、もっと上手く隠れられないのか」


月も自分が立っていた場所を確かめた。


「では、次はもっと上手に隠れます!」


「そういうことじゃない」


「……では、場所の問題ですか?」


凪は答えず、月の胸元にあるメモ帳へ目を留めた。

気づいた月が、慌ててそれを抱え込む。


「……何だ、それは」


「これは観察記録です」


「一条先輩の動向を記録しているわけではありません」


凪の目が細くなった。


「……動向も書いてありますけど」


凪は無言で月の手からメモ帳を抜き取った。


「あっ!」


月が取り戻そうと手を伸ばすと、凪はそれを避け、月の届かない高さでページを開いた。


『月曜日・火曜日 テニス部』

『水曜日 17時20分ごろ迎えの車』

『昼休み 食堂』

『木曜日 16時10分ごろ下校』


細かな文字が、何ページにもわたって並んでいた。

凪が黙ってページをめくっていると、月がその手元を見上げた。


「一条先輩、まだ完成していません」


凪はメモ帳を閉じた。


「その記録、やめろ」


そのまま月の胸元へ押し返す。

メモ帳を受け取った月は、困ったように眉を寄せた。


「でも、ルナは一条先輩のことを、まだ何も分かりません」


自分の書いた記録へ目を落とす。


「分かるのは、行動だけです。好きな食べ物も、好きな色も、好きな本も、まだ知りません」


「知る必要ないだろ」


「ルナにはあります」


「俺にはない」


月が顔を上げると、凪は冷ややかな目を向けていた。


「何度も言うが、俺はあんたに知られたいと思ってない。知りたいとも思わない」


月はその言葉を、頭の中で一つずつ確かめた。


凪は、後を追われることも、自分の行動を記録されることも嫌なのだ。


それなら、やめなければならない。


「分かりました」


月は素直に頷くと、メモ帳を開いて新しい一行を書き加えた。


『つけ回されるのは嫌』


その文字を見た凪が、怪訝そうに眉をひそめる。


「忘れないように書きました」


月は顔を上げた。


「一条先輩が嫌なことは、しちゃいけないので」


凪はしばらく月を見ていたが、何も言わずに歩き出した。


「一条先輩!」


呼び止められた凪の足が止まる。


「教えてくれて、ありがとうございました」


返事はなかったが、月は嬉しそうに続けた。


「一条先輩が嫌なことを、一つ知れました」


凪はそのまま歩き出そうとした。


「あ、それから!」


再び声を張り上げる。


「ルナは、一条先輩が大好きです!」


凪の足がまた止まった。


肩越しに月を振り返ったものの、結局何も言わず、そのまま去っていっ

た。


月は遠ざかる背中を見送ってから、メモ帳に書き加えた一行を読み返し

た。


『つけ回されるのは嫌』


一条先輩が嫌がることは、してはいけない。


だから、明日からはもう後を追わない。

【高校編・全48話執筆済み】※第10話まで毎日更新/以降、毎週水・日更新


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