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ルナは、恋をした。―完璧な御曹司に振られたので、まず私のことを知ってもらうことにしました―   作者: たまご
高校編

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19/22

第19話 ルナは、会いに行きます

それからしばらくして、月にとって高校生活初めての夏休みがやってきた。


朝早く起きる必要もない。

夏休みの宿題も、休みに入ってすぐにほとんど終わらせた。


施設では、いつもよりゆっくりと時間が流れていた。


そんな昼下がり。


「ルナ、夏休み嫌いです!」


月の声が大部屋に響いた。


「夏休みって普通、好きなもんだろ。俺は何もしなくていいから最高だけど」


隣のソファでは、湊が寝転がったまま漫画を読んでいた。


橘湊(たちばな みなと)。

月と同じ施設で育った、同い年の幼馴染だ。


普段は別の高校の寮で暮らしているが、夏休みに入り、数日前から施設へ戻ってきていた。


「だって夏休みは、一条先輩に会えません!」


漫画をめくっていた湊の手が止まった。


「誰だよ、一条先輩って」


「学校の先輩です」


「ふーん」


興味なさそうに、湊は再び漫画へ視線を落とした。


月はテーブルに頬杖をつく。


「もう十二日も会っていません」


「数えてんのかよ」


「もちろんです!」


そして、少し間を置いて。


「一条先輩に会いたいです」


湊の手が、また止まった。


「……待て。そいつって――」


「なになに?」


別の声が割り込んだ。


少し離れたところでスマートフォンを触っていた莉子が、にやにやしながらこちらを見ている。


桜田 莉子(さくらだ りこ)。

彼女もまた、月や湊と同じ施設で育った同い年の幼馴染だった。


「さっきから一条先輩、一条先輩って。だあれ? もしかして、月の好きな人? 」


「はい」


「え!?」


莉子の声が大部屋に響いた。


湊も月を見る。

漫画を持った手が止まった。


莉子はすぐに月のそばまでやってくる。


いつから好きなのか。

どんな人なのか。

矢継ぎ早に聞かれ、月は少し考えた。


「白くて、ふわふわしていて、ときどき光ります」


「……どういうこと?」


莉子が首を傾げる。

月も不思議そうに莉子を見る。


「白いです」


「いや、それは聞いたけど」


「ふわふわもしています」


「そうじゃなくて」


月はもう一度考えた。


「それから、あまり反応がありません。ルナが話しかけても、ほとんど返事をしてくれません」


莉子の表情が微妙になる。

そこへ月は、さらに付け足した。


「よく『気持ち悪い』とも言われます」


「え、ちょっと待って」


莉子の顔から笑みが消えた。


「あんたそれ大丈夫? またいじめられたりしてないよね?」


「されていません。一条先輩は、ルナが危ないときは助けてくれました!」


その言葉に、湊が身体を起こした。


「……いじめ?」


月が振り向く。


「お前、また何かあったのか?」


「前です。今はされていません」


「前って――」


「その話はあとで聞きなさいよ」


莉子が湊を遮る。


「今は一条先輩の話。一条先輩って二年? 三年?」


「二年生です」


「部活は?」


「テニス部です」


「へえ」


莉子の顔に、また楽しそうな笑みが戻った。


「ねえ、月。一条先輩に会いたい?」


「もちろんです」


即答だった。


莉子がニヤリとする。


「じゃあ、会いに行かない?」


月が顔を上げた。


「でも、学校は夏休みです」


「テニス部なら、大会とかあるんじゃない?」


「大会?」


月の表情が明るくなる。


けれど、すぐに少し考えた。


「でも、一条先輩には、つけ回すなと言われています」


「なにそれ。だって大会を見に行くだけでしょ?」


月が莉子を見る。


「それは、つけ回すことではありませんか?」


「違う違う。試合なんだから、普通に観客が見に行くものでしょ」


月は少し考えた。


公開されている試合を、観客として見る。


「……分かりました」


次の瞬間、勢いよく立ち上がった。


「ルナ大会に行きます!」


「待ちなさい。 どこで、いつあるか知ってるの?」


月が止まる。


「あ」


莉子が吹き出した。


「ルナ、分かりません」


「でしょうね」


そして、莉子が得意げにスマートフォンを持ち上げた。


「今は調べたら何でも出てくるんです〜」


白鳳学院の男子テニス部について調べ始めると、月はすぐ隣へ移動し、画面へ顔を寄せた。


「一条先輩はいますか?」


「今見てるって」


「まだですか?」


「ちょっと待ってってば」


急かし続ける月を横目に、湊が低く呟く。


「……嫌な予感しかしねえ」


ほどなくして、

白鳳学院男子テニス部が三日後に全国大会へ出場することが分かった。


出場選手の中には、一条凪の名前もある。

会場までは電車で一時間ほど。


画面にその名前を見つけた瞬間、月の顔が明るくなる。


「一条先輩!」


「声でかいって」


「ルナ、一条先輩に会えます!」


月は嬉しそうに笑った。


*


「俺まで変装する必要あったのかよ」


「あります」


「何で」


「三人とも変装した方が自然です」


「三人でこの格好してる方が不自然だろ」


全国高等学校テニス選手権大会当日。

観客席の端には、妙に怪しい三人組が並んでいた。


月は大きな帽子にサングラス。

莉子も帽子を目深に被り、サングラスをかけている。

その隣では、湊までサングラスをかけ、鼻の下には明らかに不自然な付け髭が貼られていた。


「……なんで俺だけ髭まであんだよ」


「その方がバレにくいから」


「誰にだよ」


「ていうか、俺まで来る必要あったのかよ」


「だって私たち方向音痴だし」


莉子が当然のように言う。


「月が言うならまだ分かるけど、お前スマホ持ってんだろ」


「だってGoogleマップ見ても、いつも変なところ行っちゃうんだもん」


「それもう才能だろ」


莉子が笑う。


「だから湊が必要だったの♡」


「帰りてえ」


月は二人の会話など聞いていなかった。

サングラス越しに、じっとコートを見つめている。


「一条先輩、まだいません」


そのとき、選手たちがコートへ姿を現した。


中でも、凪へ向けられる声は多かった。


「一条くん!」

「凪くーん!」

「頑張ってー!」

「かっこいい!」


月が勢いよく立ち上がった。


「一条先輩、頑張ってください!」


「ちょっと、月!」


莉子が慌てて月の腕を引く。


「何のために変装してるの!」


「莉子が、こっそり応援した方が面白いと言いました」


「それなのに名前叫んだら意味ないでしょ!」


月は少し考えた。


「……確かにそうです」


莉子は呆れながら、月の視線の先を追った。


「……え」


サングラスを少し下げる。

もう一度、コートを見る。


「待って」


月が莉子を見る。


「何ですか?」


「……人類の上澄みじゃん!」


「?」


莉子が勢いよく月を見る。


「一条先輩って、あの人なの!?」


「はい!」


「え、あんたと同じ高校だったの!?」


月は不思議そうに頷いた。


「はい。同じ学校です」


「なんで今まで言わなかったの!?」


「聞かれていませんでした」


「そこは言ってよ!」


莉子はもう一度コートを見る。


「SNSで見たことある。名前までは覚えてなかったけど……」


「一条先輩は有名なんですか?」


「うん。たまにSNSで写真が回ってくるの。『人類の上澄み』って」


月は首を傾げた。


「人類の上澄みとは、何ですか?」


「顔もいい、家もすごい、お金もある、頭もいい。生まれたときから全部持ってるような人ってこと」


月は少し考えた。


「一条先輩は、全部持っているんですね」


「まあ、そういう意味」


月の表情がぱっと明るくなる。


「やっぱり一条先輩はすごいです!」


莉子は再度、凪を見て呟いた。


「にしても、イケメンだわあ〜」


隣で聞いていた湊も、ようやくコートを見る。


「……そこまでか?」


莉子が振り返った。


「あんたの目の方が節穴じゃない!? 自分よりイケメンだからって嫉妬しないでくださーい」


「はあ!? 誰が嫉妬なんか――」


「湊」


月が真剣な顔で湊を見た。


「目、大丈夫ですか?」


「……」


「一条先輩は世界一かっこいいです!」


莉子が吹き出した。


湊は深く椅子へ座り直す。


「……帰りてえ」


やがて試合が始まった。


凪は序盤から相手を寄せつけなかった。

鋭いサーブで崩し、ラリーになっても主導権を渡さない。


ポイントが重なるたび、月は立ち上がって声援を送った。


最初こそそのたびに引き戻していた莉子も、試合が進むにつれてコートへ身を乗り出している。


いつの間にか、二人並んで凪を応援している。

湊だけが、隣で呆れた顔をしていた。


そして試合の途中。

凪がふと観客席を見た。


サングラス越しに、月と視線が重なる。

月は固まった。


「莉子」


「何?」


「ルナ、一条先輩と目が合いました……」

【高校編・全48話執筆済み】毎週水・日更新


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