第17話 ルナは、教えてもらいました
朝。
校舎へ向かって歩いていた凪の隣へ、月が小走りで追いついた。
「一条先輩」
「……」
「おはようございます!」
今日も返事はない。
それでも月は気にせず、凪の隣を歩く。
少しして。
「一条先輩」
月は再び呼んだ。
「何」
「好きな食べ物は何ですか?」
凪が月を見る。
「……急に何」
「知りたいからです」
「何で」
月は不思議そうに凪を見上げた。
「一条先輩が好きだからです」
「……」
あまりにも当然のように言われ、凪は前を向いた。
「前は、質問するなと言われました」
「じゃあ聞くな」
「でも、この前は『好きにしろ』と言いました」
「質問していいとは言ってない」
月は黙った。
少しして。
「……では、質問は駄目ですか?」
「……」
「駄目なら、しません」
凪は答えなかった。
月は待った。
「一条先輩?」
「……一個」
月の目が大きくなる。
「一日一個ですか?」
「今日だけ」
「分かりました」
月は嬉しそうに頷いた。
「好きな食べ物は何ですか?」
「……」
凪はしばらく答えなかった。
月は隣を歩きながら待つ。
「一条先輩?」
「……肉」
月の目が大きくなった。
「肉」
月はすぐに鞄からメモ帳を取り出す。
『好きな食べ物――肉』
少し考えて、月は顔を上げた。
「何の肉ですか?」
「一個って言っただろ」
月の手が止まった。
「……これは、二個目ですか?」
「二個目」
「分かりました」
月は素直にメモ帳を閉じた。
凪が横目で見る。
「おい」
「はい」
「それ、まだやってんの?」
「はい」
月は再びメモ帳を開き、ページを凪へ向けた。
「つけ回した記録はやめました」
そこには、
『つけ回されるのは嫌』
『危ないときは呼んでいい』
『話しかけるのは、好きにしろ』
そして、
『好きな食べ物――肉』
凪は数秒、それを見た。
「今は、一条先輩が教えてくれたことだけ書いています」
「……」
凪はメモ帳を見たまま、何も言わなかった。
「では、一条先輩。またあとで!」
月は小さく手を振り、自分の教室へ向かっていった。
「よ!凪!」
「おう」
友人は、少し先を歩いていく月の後ろ姿を見た。
それから、隣の凪を見る。
「お前、最近ルナちゃんに甘くない?」
「何が」
「前なら、あんなについてこられたらすぐ帰れって言ってただろ」
「……」
友人が、にやっと笑った。
「やっぱあれ?」
「何」
「あの事件でちょっと変わった?」
凪の眉が寄る。
「別に」
「へえ~」
「何だよ」
凪が横を見る。
「凪って~肉、好きなんだな!」
「見てたのかよ」
友人が笑う。
「で、なんで追い払わなくなったわけ?」
「追い払うのも面倒だから」
「ふーん」
友人は、まるで信じていないように笑った。
凪はそれ以上答えなかった。
【高校編・全48話執筆済み】毎週水・日更新




