第九十七話 紫苑の悲恋
毎日12時に投稿してます。
外伝である。『菊理姫様!お導きを』〜英雄の誕生〜もよろしくお願いします。
そちらは、毎日18時投稿します。
ゴツゴツとした石畳を歩く。
800年ほど前からあるとされている石畳だ。不揃いなのが歴史を感じる。
私たちの前をご神犬がはっはっと息を切らしながら歩いてる。
「そう言えば、どうしてヒロの名前を知っていたのですか?」疑問に思った事を久海に話す。
「有名ですよ。氷結の麗人の心の氷を溶かすことが出来るたった一人の人物。田中大夢。貴方がたの関係は噂好きの冒険者に人気のお話ですね。」ははっと小さく話す久海。
「……なんて噂されているんです?」
「どんなのがあったのか拙僧も忘れましたが、皆口を揃えて“どうして結婚しないんだ”ですね。」
横でなぎさが首をブンブンと縦に振っていた。
「……そこですか…。」私が目を伏せる。
「ヒロが忌守なのは、ご存知で?」
「いえ。」
「華族学校にこんな昔話があります。ある所に神器持ちの令嬢とその神器の手入れを任されていた忌守がいた。二人は、恋人のように仲が良く。身分の違いも感じさせぬほどだった。そんな二人に嫉妬した一人の公爵が、令嬢の神器に細工して令嬢の魔力を抜き取ろうとした。魔力を抜き取られた令嬢は、仮死状態になり眠ってしまう。悲しんだ忌守は、ご令嬢を助けるために自分の力を使い果たし、
ーーーそして、一本だたらになってしまった。
目が覚めた令嬢は、一本だたらとなった恋人と気がつかず神器で討伐してしまう。
そして、真実を知った令嬢は自分の過ちと悲しみで思い草となり散っていった。
華族学校の七不思議の『紫苑の悲恋』です。華族学校では、10月に舞台となった思い草の前で告白すると悲恋で心を痛めた令嬢が恋を後押しするから成功する。そんな都市伝説があります。」私が話し終える。
「でも…それってお伽話ですよね。」なぎさが私の顔を見て言う。
「お伽話とは、元になる歴史がある。神器は神の加護がついている。その加護に長く当てられたら…。やはり、色々あると思う。」
「櫻子さんらしくないですね。“思う”だけで判断なされるなんて…。」久海が話す。
「資料がない以上判断出来ない…。でも…ヒロに危険な目にあってほしくないんです。出会った頃は、こんなにも私が一人の男性に感情移入するなんて思ってもいませんでしたから…。」私は、足元の石畳を見た。
「縁で人の心は変わります。それは、櫻子さんだけではないと思います。」久海が静かに話す。
「大夢さん…。なんで、一人で行っちゃったんやろ…。」なぎさがポツリと呟く。
「ホンマにね。」
「本当!櫻子さんと大夢さんって!似たもの夫婦ですよね!」ガッとなぎさが私の前に出た。
なぎさの剣幕に驚いて立ち止まる。
「なんでもかんでも一人で背負い込んで!肝心な時に周りに相談しないで!お祖父ちゃんも言ってました!櫻子さんも大夢さんも周りに頼らなすぎるって!」なぎさが私を指さして怒鳴る。
シゲ爺がそんな事言っていたのか…。
「でも、かよちゃんが来て。」
「また、櫻子さんが前みたいに笑うようになって!」
「大夢さんも安心して笑うようになって!」
「だから!二人は幸せになるんです!」なぎさの肩が震える。
「菊理姫様は!二人が幸せになるために150年前からかよちゃんを呼んだんです!そんな優しい神様が、大夢さんを一本だたらになんてしません!」そうして、大粒の涙を流す。
「ごめん。なぎさ…。」ありふれた言葉しか出てこない。
私は、言葉を失った…。
こんなにも心配をかけていたのか。
「ワン!」ご神犬が鳴く。
「櫻ちゃん!櫻ちゃんやん!」振り返る。
初老の男性が立っていた。大輔だ。
ご神犬も反応していない。今度は本物だろう。
「ご無沙汰しています!お父さん!ヒロが!」
「良かった!ヒロが、村長に捕まったんや!変な連中も来ている!助けてくれや!」
その言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いた。
間に合って。
その願いだけを胸に、私は石畳を蹴った。
こぼれ話
なぎさ「櫻子さんもそんなロマンチックな話知ってるんですね。」
櫻子「知ると言うかなんと言うか…。10月に嘘告が、増えるからなんでやろ?って思って調べたんや。そうしたら紫苑の悲恋の話が出てきて…。」
なぎさ「多分それ、嘘告ちゃいますよ…。」
へっ?と訳がわからん櫻子。
その様子を“どこまで、この人は鈍感系主人公なんやろう”と見つめるなぎさ。
そして、櫻子に恋心を抱き散っていった者たちに合掌する久海がいたのだった。




