第九十六話 懺悔
毎日12時に投稿してます。
外伝である。『菊理姫様!お導きを』〜英雄の誕生〜もよろしくお願いします。
そちらは、毎日18時投稿します。
木々が擦れる音がする。
夏の湿った空気が流れる。
「お久しぶりですね。こちらに隠居したと聞きましたが、お元気でしたか?」
「櫻子さんもお久しぶりですね。僕は元気ですよ。妻も元気ですわ。」ヒロの父親。大輔が話す。
ご神犬が唸る。
私は、それを見逃さなかった。
「嫌ですよ。櫻子さんなんて!いつもなら櫻ちゃんってお話するはずですよねぇ?」そこで、私は神器に魔力を込める。
「やっぱり、すげぇや。すぐに見抜く。」大輔の声でドッペルゲンガーが笑うとーー。
また、私の姿になる。
先ほどなぎさが結ってくれたシニヨンもそっくりに
人々が次々に私の姿へ変化する。
あちこちに自分の顔があるのが気色悪い。
「わっ!殿下!どうしましょう!」なぎさが焦る。
「久海さんっ!」私は、久海さんの手を取る。
ギョッとする久海。
「なぎさ!」私は、なぎさの手を握る。
「ご神犬をつかんで!この人数とか無理!!」そう言うと空間移動魔法を発動させた。
ドサリと体が打ちつけられた。
地味に痛い…。
辺りを見渡す。咄嗟に速玉の大社の座標を思い出したけど…。
苔むした石畳の地面。真っ直ぐ伸びる杉林。
私は、スマホで現在地を確認した。
惜しい。
隣を見ると久海さんとなぎさが呻いている。
ご神犬もヘロヘロだ。
「あの?みなさん大丈夫でしょうか?」私がみなに声をかける。
「拙僧は、大丈夫です…。」
「殿下…。空間移動魔法は禁止されてませんか?」なぎさが頭を振りながら話す。
「基本は、禁止されてるけど命の危機を感じた時は、別だよ。全力で逃げなあかんやん…。三条さんみたいに上手じゃないでごめんね。」私が謝る。
「ははははっ」不意になぎさがクシャッとして笑う。
「どないしたの?」
「殿下…。いや、櫻子さんと会ったばかりのお顔で…。それで…。」なぎさが涙をポタポタと流す。
「あの時は…。心配かけたね…。」私は、なぎさの背中を摩る。
その様子を久海は、静かに見守っている。
「変にへばっちゃってあの時は、なぎさやヒロにも迷惑をかけたよね…。」
「そんな事ないです…。櫻子さん一人に辛い思いをさせてしまったんです…。」なぎさの目からとめどなく涙が流れる。
「そんな事ないよ。」そこで、どっさと仰向けになる。
せっかく、セットしてくれた髪型が台無しだ。
でも、なんか力が入らない。
「実は…。言われたんだ。アイツに…。前日にアイツに…食事に誘われていた…。」涙が溢れる。
「で…。そこで、ホテルに誘われていた。その時、あの時。私が誘いに乗っていたら…。小学校は…襲わなかったって…。」過去のどうしようもない選択を嘆く。
「それは、櫻子さんが悪いわけではないです!アイツは!櫻子さんを攫ってもテロを起こしました!」なぎさが私の手を取る。
暖かい。
「でも、今でも…。今でも…夢に出る。あの時、私がいなかったらあの子達は無事だったんじゃないかって…。」
怒号・悲しみ・戸惑い
そして、疑念の目を思い出す。
なぎさの手に力が入る。
「…ヒロがいなかったら私は死んでいた。」目の前に美しい青空が見える。
あの日の事を思いだす。
私は、魔石になりかけた。
「もし、私が、あの時…。魔石になっていたら…。あれほどの大規模なテロは起きなかったのだろうか…?魔法も秘匿されたままであっただろうか…。」
「それは、“傲慢”と言います。」久海が静かに言う。
「捨身飼虎のお話は知っていますか?」
「ブッタが、飢えた親子の虎のために自らの肉体を捧げたと言うお話ですか…?」確かそんな話だった気がする。
「さすが、櫻子さんです。ここでは、失礼して櫻子さん。で、よろしいでしょうか?」久海が私をそっと起こす。
起き上がるとなぎさの顔が見える。
泣いている。
泣いてもらっているのだろうか?
「確かに自己犠牲とは美しいです。でも、それは、己も他人も共に救われる自利利他の考えですね。今の櫻子さんは、自分を世界の中心に置いて物事を見ています。そんな、“自分が犠牲になったら”に聞こえます。それは、傲慢です。」
「櫻子さんが犠牲になって、寺田さんや田中さんは喜びましょうか?」久海が静かに言う。
私は、静かに涙を流しているなぎさを見る。
私は、返事ができなかった。
「櫻子さん。葉っぱが…」なぎさが私の髪の葉っぱを取ろうとする。
それを私は、止める。
「イタズラな葉っぱをこのままにしておいて…。ヒロにとってもらおう。」
私は、葉っぱのついた髪に触れた。
きっとヒロが取ってくれる。
ふわりと風が吹く。
髪に残った葉が、小さく揺れた。
私は、立ち上がる。
「久海さん。そうですね…。私もヒロやなぎさが犠牲になったら嫌です。だから、ここに来たんです。」
なぎさに手を向けてる。
なぎさも立ち上がる。
「行きましょう。運命の糸は、生きている者にしか紡げませんから。」
そう言って、私は苔むした石畳を歩いた。
竜胆が黒と白の縞模様の魔石を見ている。
紅葉「竜胆?」
竜胆「ヒロ死なないよね?」
紅葉「……。」
竜胆「ヒロが出ていく時、ロッキーならなんて言ったやろ?」竜胆の目から涙が溢れた。
下を向く紅葉。
楓「ヒロはママ上を一人にしやんよ…。」
楓「…。絶対。」




