第八十四話 聞き馴染みのない土地名と菊理姫様のかぎ針
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よろしくお願いします。
次にその男と出会ったのは、神辺に帰った時だ。
夜釣りをしようとヒロと海に来た時だった。
線路沿いの細く長い道を釣り道具をガラガラと引きづりながら歩く。
線路下の狭いトンネルに入り、中腹に来た頃だ。
ザッザッザッザッ
カタカタカタカタ
後ろから引きずった足音と車輪の音が聞こえる。
振り返る。
ヒョロリとした男が歩いてくる。髭、メガネ。
そして、ベビーカーに人形を乗せて歩いている。
何処かで見てたような。
私たちは、男を通すのに横に履ける。
「どうも。」ボソリと男が話す。
不思議な男だ。釣りの道具を持たずに何をしにここまで来たんだ?
トンネルを抜けて海に出た。
潮風が気持ちいい。
我々が、釣りの準備をする。
竿を出してリールからラインを出していると
「あのう?」と声をかけてくる。
驚いて振り向く。
「この辺で家族を見ませんでしたか?」男が尋ねる。
「は?家族?ファミリーの事ですか?それともノーブルの方の華族ですか?」何を言っているのかわからん男だ。私は、男に尋ね返す。
「ファミリーの方の家族です。いや、この辺りでね。とあるカップルが1組の不思議な家族に出会って不思議な体験をしてるんですわ。ここで、よう釣りをしてるならなんか知らんかなって。」
「知らんな。」ヒロが私達の間に割って入る。
「そうですか‥。」男がカラカラとベビーカーを押しながら立ち去る。
「なんやったんや。」そんな会話をしながら男を見送った。
最後にその男に出会ったのは、地下鉄をつなぐ地下街だった。
その日。私は、珍しく一人だった。
タクシーを拾えばよかったが、その時も何となく地下鉄に逃げ込んだ。
そう、本当に何となくだった。
シャッターで閉められた店が多い。
時々営業している店があり、ドラックストアや100札均一の店ぐらいしかない。
赤いタイルにレンガの柱を抜けた所に白い壁。
【街中アート】と絵が描かれてる。
そこに【神戸の歴史 明治 大正 昭和 】と文字が書かれている。
なんて書いているのだろう?
かんど?と読むのだろうか?
私は、先を進む。
その時、その店は現れた。
骨董店だろうか?
店先には、さまざまな物が積み上がっている。
壺、茶碗、鏡。
奥に続くほどに人形が置かれている。
そこに椅子に座らせられた人形が、一つ。
見覚えるがある着せ替え人形。
「いらっしゃい。」男が話かけてきた。
細身の中年男性。髭を蓄えて、度の厚いメガネ。
あの男だ。
「お前は、何者だ。」不気味な男に警戒心が高まる。
「この店の店主ですよ。最も、ここに置かれてる商品は全て呪物ですが。」男が不気味に言う。
そこに見覚えのあるハサミを見た。
「これは!」
「それは、菊理姫のハサミでね。菊理姫は、日本書紀にも一文しか出てない、謎が多い女神や。」
「日本書紀?」
「何や、お姉さん。歴史苦手で?日本書紀や。中学校なんかで、習ったやろ。まぁええ。」
そして、男が続けた。
「菊理姫は、人の縁を整える神さんや。それが、何の因果か縁をきる呪物を生み出してしもうたんや。このハサミは、縁を切るハサミ。良縁でも悪縁でも切ってまう。」
私は、自分の持っているハサミを確認する。
そっくりだ。
「お姉さん。服飾関係の人ですかい?」男が尋ねる。
「いや‥。私は‥。」
「それなら、これはどうですか?同じく菊理姫様の呪物や。」男が、大きなかぎ針を出してきた。
「これは、さっきのハサミと違って縁をくくるもんや。」
渡されたかぎ針をよく見てみる。菊の紋章が彫られていて蔦が絡まる細工がされている。黄金色に輝いていてとても美しい。
「これは、いくらだ?」
「5万円や。」
「円?これじゃあかんか?」
私が、5万札を取り出す。
「これは?まぁ、ええですよ。」
男は、金を受け取ると私にかぎ針を渡してきた。
かぎ針を手にして店を出る。
そうだ!名前を!そう思い振り返る。
そこには、もう店はなかった。
そうして、来た道を戻る。
絵を見る。
【神辺の歴史】と書かれていた。
予告。
外伝を書きます。
そちらの方もよろしくお願いします。




