第七十五話 優しい思い出が悲しみになる前に
毎日、朝と夕方の2回投稿にしたいと思います。
平日は、朝8時投稿。夕方5時投稿。
土日、祝日は、朝10時。昼の15時投稿にします。
ラビリンスの入り口には、無数の魔石が落ちていた。
安全管理の者が急いで拾い上げる。
無機質なただの魔石だが、元は人間の可能性がある。
一つ一つ小さな箱に収めて丁重に扱う。
僧侶達は、読経を続けている。
幻想的な洋館の前に線香の香りがふわりと匂う。
私は、メリーさんを探す。
彼女に聞けば、何かわかるはずだ。
「閣下!この男が発言したいと話しています。」上野は、一人の老人を連れてきた。
確か、この前の台風で山男を助けていなかったかな?
「御当主様、この様な姿で申し訳ありません。」井上と名乗った老人は、申し訳無さそうに話す。
「わしらが、いつもの様に館の見張り番をしておりました。影からいきなりアンデットが現れたと思うと仲間を次々に魔石に変えていき‥」そこで言葉が詰まる。
「メリーさんの制止も虚しく、アンデットが館に入りました。メリーさんは、緊急結界を張った後に組合に連絡をしました。その時、いきなり苦しみ始めて
ラスボスのなり代わりが始まったと言いラビリンスへーーー。」
「その話は、ホンマなん!」甲高い声が響く。
振り返ると山男が、ブルーの可愛らしい箱を持っていた。
その箱をぎゅっと抱えるともう一度大きな声で
「ホンマなん!?ラスボスのなり代わりが始まったって!」絶望の淵から叫ぶ彼の声が痛ましい。
「山男落ち着け。」私が、声をかけるや否や。
山男は、駆け出しラビリンスへ入る。
慌てて、私も後を追う。
その後にヒロも続く。
ラスボスのなり代わり。
ラスボスより強いモンスターがラスボスを倒すと勝ったモンスターがラスボスになる。
そして、ラスボスが倒され死ぬと管理人も一緒に消滅する。
つまり、メリーさんの消滅だ。
山男を追って館の扉を勢いよく開けてる。
廊下の脇に、館の清掃用に使われていたダンクリ会社のコンパクトカーが停められていた。
長い長い廊下が続いてる。
角を曲がり広場へ出たら、階段を登る。
屋敷を走りながら、8年前の凍結時代。
まだ私が、伝達者だった頃を思い出す。
「貴方が、新しい伝達者なの?」扇子で口元を隠し、私とヒロを値踏みするメリーさん。
「あちらの方は?」私が、物陰に隠れていた山男を見る。
「山男は、このラビリンスの魔物ではないわ!私の友達です!」パシっと扇子を閉じるメリーさん。その姿は、誇らしそうだった。
そして、友達と言われた当の本人の山男が物凄く驚いた顔をしていたのを昨日の事の様に思い出す。
次に山男会ったのは、それから一週間後
結界の確認にラビリンスに赴いた時だ。
山男とメリーさんがお茶会をしていた。
山男は、私を見ると花壇の影に隠れてしまった。
私は、物凄く申し訳ない気分になる。
「全く!隠れなくても良いのに!」メリーさんがプンスコしている。
ブルブル震えて動かない山男
「それより!櫻子!これを見なさい!」メリーさんは、目の前のアフタヌーンティーを見せる。
「可愛い!うさぎさんのマフィン!」私が思わず口元が綻ぶ。
「そうでしょう?これ、山男が作ったのよ。」山男が作ったのに何故かメリーさんが胸を張る。
「めっちゃ可愛い!マカロンもにゃんこや!私にゃんこ大好き。三匹飼ってる。」
そして、まだ、ただの猫だった。
楓達の写真を見せる。
そのあたりで山男もソワソワし始める。
「食べてええ?」私がメリーさんに聞く。
「え!?」見た目に合わない高い声が聞こえた。
「もちろん!」メリーさんが承諾する。
私は、猫のマカロンを口に入れる。
甘すぎず、マカロン・コックはねっとりしてない。私好みだ。
「美味しい!このマカロン私は、好きや。」感想を言う。
「おでが作ったんやで、気持ちわるくないんか?」やっと山男が私に話しかけてくれた。
「なんで?」
「おでは、山男なのに可愛い物が好きや。」
「それが、何があかんの?可愛い物好きって見た目関係あるん?」私が素直に言う。
山男の一つしかない目が大きく見開かれる。
「そう言ってくれたんは、2番目や!一番初めはメリーはん!」嬉しそうな山男。
そこから、大永事変が起きるまで、よく三人で可愛いものを愛でる会をしていた。
長い廊下を走り続ける。
メリーさんの館には、普段アンデットやモンスターがいるはずなのに今は、一体もいない。
ラスボスのなり代わりが起きているからだ。
山男の姿がどんどん小さくなっていく。
生身の人間では追いつけない。
「櫻!乗れ!」いつの間にかヒロがダンクリ会社のコンパクトカーに乗ってる。
私は、掃除用具が乗っている荷台へ乗ると息を整えて体力を回復する。
この程度なら息を整えるだけでいい。
山男は、どんどんと階段を登り最上階へいく。
最上階には魔法陣があり、そこからラスボスの間に転送される。
ラスボスの間は、最上階からしか行けない。
もう少しで最上階という時に車から異音がした。
「この車も限界や!ここからは走っていくで!」ヒロが声をかける。
私たちは、車を乗り捨てて最上階へ進む。
山男はもう見えてないが、それほど遅れはとってないだろう。
私たちが最上階の扉を開けると山男が転送されたばかりだった。
急いで、私たちもラスボスの間に行く。
そこには、夜刀が居た。
足元には、今にも消えそうなメリーさんの館の主人であるヴィクターが転がっている。
傍らには、顔が欠けたメリーさん。
山男は檻に入れられてる。
「真っ先に来るのが、俺の花嫁だと思ったのになんだよこの醜い化け物は!」そう言うと夜刀は、山男の入った檻に攻撃をする。
コトンとブルーの箱が落ちる。
中からは、ドールサイズのジャンパースカートが出てくる。
「何これ?」夜刀が拾い上げる。
「やめろ!それは、おでが作ったメリーはんの服や!」山男が懇願する。
「は?これ、お前が作ったん?キッショ!」夜刀は、山男の目の前で洋服をズタズタにした。
こぼれ話
昔々
少年A「うわぁ!すげー!」
少年達は屋敷を見上げる。
少年B「やめとこうや…。不気味やん。」
尻込みする少年B
少年C「なんや!こうちゃん怖いんか?」
茶化された少年Bが怒る。
少年B「怖ないもん!」
力強く言うが膝が笑ってる。
夏の暑い日差しの中
結界に綻びができていたのかメリーさんの館の前に少年達がいる。
そのかつての少年達はーーー。




